【BiSH】Episode78 モモコグミカンパニー「絶対に清掃員1人1人が必要なんです」
"楽器を持たないパンクバンド”BiSHが、“メジャー3.5th”アルバム『LETTERS』を7月22日にリリースする。もともとシングルの発売を予定していたが、コロナ禍の現状を踏まえ、追加で新曲を制作してアルバムへと発展させた。また、7月8日には全27曲収録の自身初となるベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』を緊急発売。同作は、全国のCDショップ、及びCDショップの運営するECサイトのみで販売され、販売元であるエイベックス、及びWACKの収益全額は、BiSHがかつてワンマンや自主企画を開催した全国のライヴハウスに寄付される。そんなBiSHの12周目となる個別インタヴューがスタート。第2回はモモコグミカンパニーに話を訊いた。
BiSH、全7曲収録メジャー3.5thアルバム『LETTERS』ハイレゾ配信中!(歌詞ブックレット付き)
INTERVIEW : モモコグミカンパニー
クラウドファンディングのエッセイ本での寄稿や、このインタビューの文章を読むと、モモコグミカンパニーの言葉で救われる人は多いだろうなと思う。彼女の言葉の魅力は日増しに上がっていて、このインタビューの文字起こしされた言葉の羅列を見て感嘆したんだ。ペンは武器だ。モモコの言葉は、BiSHの巨大な武器だ!
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 大橋祐希
自分を好きになることは自分の周りの人のことも好きになるってこと
──2月末の無観客ライヴ以降、BiSHは様々なプロジェクトの延期・中止が続きました。振り返ってみてどんな時期でしたか。
モモコグミカンパニー(以下、モモコ) : BiSHを客観的に見ることができた期間でしたね。いままではライヴ映像を見ても自分のこととして見てしまっていたんですけど、改めてNHKツアーや昔の映像を見直してみたら、私的感情を抜きにして新鮮に見ることができて。自分以外の目線で見ることでBiSHの違う良さに気付けたというか、いいグループだなと励まされたんですよね。最近海外の人たちがBiSHを好きって言ってくれることが増えてきていて、その理由がわかった気がします。
──どんな理由だと思いましたか?
モモコ : たとえば、メンバーが作詞・作曲・振り付けをしたとか、そういうことを知らなくても楽しめるライヴだなって思いました。そういうことを抜きにしても伝わってくる、言葉が通じなくても楽しめるなって。
──外に出られず、メンバーとも会えなかった時期はどんなことをして過ごしていましたか。
モモコ : クラウドファンディングのエッセイ本を集中して書いていました。基本的に1人でいるのが好きなタイプなので、家にいてもあんまりストレスを感じないんですよね。テレビを付けるとコロナ関連のニュースが多すぎて気が滅入ってしまうと思ったのでそんなに見ないようにして、本を読んだり映画を見たり。心細くなって落ち込みそうにもなったけど、落ち込みすぎずに過ごせたかなと思います。私、自粛期間中に目標を立てたんですよ。
──目標?
モモコ : 自分の中の棘をなくしてもっと生きやすい自分になりたくて、「自分の中の嫌な部分をなくすこと」と「自分のことをもうちょっと好きになること」を決めて。自粛期間中はずっと1人でいるから、自分のことを嫌だと思ったままだと本当に耐えきれないなと思ったんです。
──なるほど。どうやって自分のことを好きになっていったんですか?
モモコ : エッセイ本を書いていたことも大きいのかなと思うんですけど、自分を好きになることは自分の周りの人のことも好きになるってことだと思っていて。だから「あのとき、あの人がこういう言葉くれたな」とか思い出していくと、自分のことも嫌いなままではいられないなって思ったんです。
──周囲からの言葉は良いものだけではないですよね。
モモコ : ネットの意見の中にはちょっと嫌だなって思うこともあるし、誰かの評価が気になっていた時期もあったんです。それに振り回されそうにもなるけど、「自分はどう思っているのか」というのが軸にあれば振り回されずに済むから、自分のことをちゃんと認識して受け入れていくことが大切なのかなって。自分はこれでいいんだと思えたら折れない心が保てるのかなって思うので。特にBiSHの中だとリンリンとあっちゃんには「自分はこれでいいんだ」というものをすごく感じますね。羨ましくて憧れます。
「BiSHのおうちはどこ?」って言われたらライヴハウスだって私は思う
──6月頭からはクラウドファンディングでエッセイの出版プロジェクトが始まりました。これはいつ頃企画が立ち上がったんですか?
モモコ : 確か5月くらいですね。こういうことを書きたいなっていうのは前からネタ程度に書いていたので、それを肉付けして形にしていくっていう作業をしています。クラウドファンディングではあるんですけど、過程も楽しんでもらえる本の予約販売って感じがします。
──いい企画ですよね。
モモコ : 1冊目の『目をあわせるということ』を出したときは私と編集の方の一対一でコツコツやっていたんですけど、その過程にいろんな人を巻き込んで、作り上げていくワクワク感も共有できたら素晴らしいなと思ったのでこういうかたちになりました。会話がしたかったんですよね。「私はファンの人をこう見ています」って伝えたくて。
──会話をしたいと思ったのは何故なのでしょうか。
モモコ : ファンの方から心の内を書いたファンレターをよくいただくんですけど、自分の声は文字にしないと届かないなって思ったんです。あと自粛期間中に感じたのが、このメンバーの中でモモコグミカンパニーを選ぶ人ってちょっと変だなって(笑)。ライヴ映像を見ても分かりやすくないというか、私だったらこのメンバーの中でモモコグミカンパニーを選ばないかなって思ったから、選ぶのはどういう人なんだろうっていうのが気になって。
──モモコグミカンパニーを応援してくれる人ってどんな人が多いと思いますか?
モモコ : 一概には言えないですけど、私の人間としての感情を気にしてくださっている方が多いですね。あと考えごとが好きな人が多いかもしれないです。似た者同士なんですかね(笑)。
──ベスト・アルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』が出ると聞いたときはどう思いましたか。
モモコ : BiSHはいろんなライヴハウスで育ってきたし、それぞれの場所に恩と思い出が沢山あって。BiSHの出来事で思い出すのは大抵ライヴハウスとかその楽屋だったりするんです。育ててくれた親と言っても過言ではないというか、「BiSHのおうちはどこ?」って言われたらライヴハウスだって私は思うので、このベストアルバムを通してライヴハウスに恩返しができるのならすごくありがたいです。
BiSHの5年分の思い出を振り返って初心に戻ってみた感じの曲
──『LETTERS』はどんな作品になりましたか。
モモコ : 全曲心から好きです。今回もみんなそれぞれ歌詞を書いて提出したんですけど、離れた場所で書いたものなのに言いたいことは一緒だと感じることが多くて嬉しかったです。アユニが作詞した「スーパーヒーローミュージック」で「この小さな惑星の隅っこで僕らは生きてるんだ」って歌詞があるんですけど、私も「地球」とか「惑星系」の言葉を使っていたり、「自分ってちっぽけだけどなんでもできるはずだ、楽しみたい」みたいな歌詞を書いていて。アユニも同じ気持ちだったのかなと思えて嬉しかったです。
──惑星や地球を意識したのも、それこそ新型コロナウイルスが世界中に広がったことが影響しているんでしょうか。
モモコ : 自粛期間中、おうちにいるときにみんなが共通して見えるものは空しかないと思って。だからそういう言葉が出てきたのかなって思いますね。
──『LETTERS』の中でもとりわけ好きな曲はありますか?
モモコ : 「I'm waiting for my dawn」ですね。このアルバムの中で一番と言っていいほど好きで、コロナ期間中にザワザワしていた気持ちを落ち着けてくれた曲です。多分ですけど、BiSHの5年分の思い出を振り返って初心に戻ってみた感じの曲だと思うんですよね。「サラバかな」の歌詞を引用したりしているし、チッチが「「生きてる心地〜これからも共に」の部分は最初からいるメンバーのアイナとモモコに歌ってほしい」と言ってくれたりしたので、やっぱり考えていることが一緒なのかなって。
──チッチがアイナとモモコに歌ってほしいって言ったんですか。
モモコ : この曲のデモを聴いて、最初のWACKの事務所があった道玄坂のラブホ街の坂を思い出したんですよね。あのとき初めてここでみんなに会ったなってことを考えた曲で。私も「初心に戻って感謝を伝えてみんなと一緒にいたい」という思いをこの曲から感じて、そういう歌詞を書いて送ったので、一緒なんだなと思いました。
──自身が作詞した「ぶち抜け」はどんな曲になりましたか。
モモコ : 「ぶち抜け」に関してはいままでの作詞とは違って、事前に「ドラマ「浦安鉄筋家族」の主人公である浦安のお父さん・大沢木大鉄の目線で歌詞を書く」というテーマがあったんです。大鉄さんはサラリーマンで、タバコをフカフカ吸ってダメダメなお父さんだけど、なんだかんだいいお父さんって感じだったので書きやすかったです。ある程度縛りがある歌詞を書くのも面白いですね。BiSHと重ね合わせると、浦安のお父さんの立ち位置は渡辺さんかな。
──『LETTERS』は粒揃いの7曲が集まったアルバムになりましたね。
モモコ : この期間でしか作れなかったものだし、ここまで無駄な時間じゃなかったんだなと思います。ライヴがなくなって家でどんよりしている時間も、何もしないでいる時間も、このアルバムが消化してくれているというか。何もできなかった期間もちゃんとBiSHのためになっているなって。何もできなくても、生きているだけでいいんじゃないかって思いますね。
──アルバムのタイトルしかり、表題曲「LETTERS」も清掃員への強いメッセージが込められていると思いますが、ファンに会えないことをどう感じていますか。
モモコ : ファンの人たちとはこれまで当たり前のようにツアーやインストアライヴで会っていたけど、いまも「忘れていないよ」ということを伝えたいと思っていて。だから曲を通しての生存確認というか、元気でいてと励ましたくなる気持ちがあります。本当に、ファンの人ありきでBiSHがあるんです。BiSHがBiSHであるために、モモコグミカンパニーがモモコグミカンパニーであるために、絶対に清掃員1人1人が必要なんですよ。あなたがいなかったらBiSHじゃないって言えるぐらい必要な存在なので、どんな死にたいようなことがあってもまだ生きていてほしいなと思います。
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RELEASE INFORMATION
BiSH、全7曲収録メジャー3.5thアルバム『LETTERS』ハイレゾ配信中!(歌詞ブックレット付き)
BiSH初のベストアルバム
BiSH / FOR LiVE -BiSH BEST-(読み:フォーリヴ)
発売日:2020年7月8日(水)
https://www.bish.tokyo/news/detail.php?id=1083695
PROFILE
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなる楽器を持たないパンク・バンド。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。ツアーは全公演即日完売。1stシングルはオリコン・ウィークリーチャートで10位を獲得するなど異例の快進撃を続けている。