2019/07/04 17:15
2019年4月2日に発売された書籍「I LIKE YOU 忌野清志郎」 (河出書房新社)の発売記念トークイベントが5月31日(金)と6月1日(土)の2日間にわたって開催された。
その模様を、僭越ながら私、編者の岡本貴之自らざっくりとセルフレポートさせていただきます。今回は、ザ50回転ズをゲストに迎え、鈴木淳史さん(ライター、ABCラジオ『よなよな・・・』木曜「なにわ筋カルチャーBOYZ」パーソナリティー)のMCのもと行われた6月1日(土) 『ロフトプラスワンウェスト 語ろう!俺たちのキヨシロー』編の模様をどうぞ。
鈴木さんとは初対面ではあるものの、共通の友人がいたりプロレス知識が豊富だったりということで、開演前から楽屋でプロレストークを繰り広げてしまった(というか筆者が一方的にプロレスを語っていた)。登壇してみると、ありがたいことに70名以上の方が来場してくださったようで大盛況。忌野清志郎の偉大さを実感しつつ、まずは鈴木さんと共に登壇してオープニングのトークへ。OTOTOYの「たまらんニュース」で清志郎ニュースを取り上げていたことや、連載を始めたきっかけ、書籍が刊行されるまでの流れを中心に話をさせてもらった。
20分ほどして、いよいよザ50回転ズの3人、ダニーさん、ドリーさん、ボギーさん(以下・敬称略)が大きな拍手の中、「新世界ブルース」に乗せてステージに登場! なんと、ダニーはタイマーズのゼリー風のヘルメット姿。「白いヘルメットに、ネットで見つけたゼリーのヘルメットの画像をカラーコピーして貼って今朝作ったんですよ!」と最初からテンションMAXのダニーにお客さんも爆笑しつつ拍手喝采。
改めてトークをスタートする上で念のため、失礼ながら3人は全員清志郎が大好きなのか?という質問を投げかけてみた。するとダニーは「はっきり言って、日本に生まれてロックンロールをプレイしているバンドマンが、清志郎の音楽を聴かずしてここまで来るというのが、そもそも不可能なんですよ!」と熱弁。書籍については、「仕事してきた人、ファンとして聴いてきた人、若い世代の人が載っていて、非常に良い本だと思いますので是非買ってください!」とアピールしてくれた。書籍に出ている黒猫チェルシーの渡辺大知はダニーのいとこということで、「なんであいつの方が売れとんねん! こっちはヘルメットまで作っとんのに!」と荒ぶりつつ、しっかり読んだそうで、「ミュージシャンとして見てる部分があったり単純ないちファンとして見ているところもあると思いました。それと、彼にとっても遠い存在だからこそ“清志郎”って言ってるんですよね。清志郎さんとか忌野さん、じゃないですもん」と、お互いに熱狂的なファンであることを明らかにした。
ザ50回転ズは結成前からドリーの部屋でRCサクセションのレコードを聴いて語り合っていたそうで、3人とも清志郎関連の7インチEPやLP、CDをたくさん持参してくれた。ちなみにダニーはLP『不死身のタイマーズ』が人生で初めて買ったLPレコードだそうで、TOPPI(三宅伸治と似た人物)と共演した際にサインをしてもらったとのこと。さらにライヴビデオ『不死身のタイマーズ』も持参してくれたので、まずは「タイマーズのテーマ」の映像をみんなで見ることに。
「延々観れる!」ものの、その後は無音で流しつつ、トークを行うことに。ダニーは「お前の股ぐら」を当時付き合っていた女の子に聴かせたせいですぐに別れてしまった、というエピソードも披露。鈴木さんがチョイスした「イツミさん」を聴きながら、「当時の報道があった中でこういう曲を歌うリスクもあると思うんですよ」(鈴木)「賛否両論ある曲だと思うけど、お客さんがどう思うかも含めて作品だと思う」(ダニー)と語るなど、みんな曲ごとの思い入れがすごい。すっかり「完全に学生時代に先輩の部屋で“これヤバいで!”って言いながら聴いてる感じ」(鈴木)となってイベントは進む。
もともと、3人の中で一番清志郎が好きだったのはドリーということだが、実際に聴いたのはRC解散後しばらくしてからだそうで、「色んな人のインタビューに出てくるRCサクセションが気になっていて、ギンギンのロックンロールバンドかと思っていたら、1stアルバムを聴いてみたら思っていたのと全然違った。けど、それはそれで感動して。こんなにアコースティックで破壊力のある曲ができるんだ!?って」(ドリー)。
フォーク時代からの変遷について語りつつ、7インチ盤の「雨あがりの夜空に」をかけた後にドリーが選んだのはアルバム『OK』に収録された「お墓」。3人編成時代のRCのライヴでこの曲を聴いてた人の中には、レゲエタッチのアレンジがあまり評価していない人もいるが、ドリーはこのアレンジも大好きとのこと。「お墓というタイトルだけを聴くとさみしい気がするんだけど、すごくユーモアがあるなと思う。自分の愛が死んでしまったこの街に僕の心のお墓が建っているんだよっていう歌詞が大好きです」(ドリー)。「最後に一行、お墓という言葉が出てくるだけなんだよね!」(ダニー)。
曲間には、もし清志郎が今日ゲストで来ていたら…という話からボギーと筆者の間に清志郎さんが着席している体で「もし清志郎さんに直接質問できるとしたら?」(鈴木)「(被せ気味に)好きな食べもの!」(ダニー)等、ただのファンっぷりを見せていた。3人とも、あまりに好きすぎて会いたくないという気持ちがあるそうで、清志郎とはフェスで同じ日に一緒になったものの、あえて接触することはなかったそうだ。会えたとしても、音楽的な話はできそうもないとのこと。ダニーは「ロックファンとしてアンタッチャブルな気高き存在と思っているから。でも、本の中で有賀幹夫さんがすごく良いことをおっしゃっていて、“崇拝したくない”という気持ちもまたわかるんです。同じミュージシャンやから。そんなことをしているよりも、自分たちの音楽で勝負せいって、清志郎さんは言ってくれそうな気がします。それに、清志郎さんもそうだったんじゃないかと思う。ミック・ジャガーに会ったときも、自分のアイドルに会えているんだけど、「俺も負けてへんで!」という気持ちはあったと思うし、ミュージシャンはそう思わなあかんと思う」と、ミュージシャンであり音楽ファンでもある複雑な心情を語ってくれた。
ボギーの選んだ1曲はタイマーズの「デイ・ドリーム・ビリーバー」。「20年近く前、3人でバンドを組むか組まないかの頃に、みんなでタイマーズの映像を見て、パンクバンドとかロックンロールバンドとか音楽の方向性と関係なく、こういうことをやっている人たちがいるんだということを知って、ザ50回転ズの方向性を決めたようなところがあるんですよ。面白いことをやっている人たちがいるということを勉強させてもらったというか」
一曲丸々聴いた後に「こんなグッドメロディにほぼオリジナルのような歌詞を乗せていて。(夜のヒットスタジオで)「FM東京」を歌ったあとに、こんな良い歌を歌われたら、誰も文句言えないじゃないですか」とボギー。ここでダニーが「スネアの音がめちゃくちゃ良いんですよ!」と、サビに差し掛かるスネアのフレーズをひたすらレコードで何度もリピートして聴くカオスなコーナーに。「これはタムなのかスネアなのか?」「フレーズは“タタッ”なのか“タドンッ”なのか?“左スタートのタドンッなのか、右スタートのタドンッなのか?”など、延々と「先輩の部屋でレコードを聴きながら議論が白熱する」状態が続き、「なんなんすかこの死ぬほど楽しい会は!?」(鈴木)と、ただただ楽しい盛り上がりぶりに。ちなみに筆者がドラムの杉山章二丸さんから「この曲のレコーディングで煮詰まってたら清志郎さんがポルシェの助手席に乗せてくれて「頑張ったらこういう車が買えるから」と言われた」と聞いたことを話すと、女性のお客さんから「何の話やねん!」と激しくツッコミが。失礼しました! ここでいったん休憩へ。
後半は、筆者の選ぶ一曲としてLOVE JETSのアルバム『ちんぐろ』から「POP PEOPLE POP」をかけてもらった。「この曲は何のジャンルか決めるのが難しいですよね」とダニー。この作品がリリースされたときにドリーとボギーは「この調子だとヒップホップをやってもおかしくないな」と話していたという。「次のステップは何かと思っていたら、ソウルに回帰した『KING』に行ったんで、不思議な我が道を行く人だなって」(ダニー)。「ちょっとその要素は加えたりしたけど、本格的なヒップホップにはいかなかったですよね」(鈴木)「本の中にもありましたけど、清志郎さんって日本語のイントネーションを変えずに歌にするじゃないですか。だから、あまりにも現代的にヒップホップをやるとたぶん清志郎さんのあの感じにはならないと思うんですよ」(ドリー)と分析した。
「君が僕を知ってる」を聴いた後に、野音のロックンロールショーでエレファントカシマシの宮本浩次がこの曲を歌ったことが話題に上ると「日本語でロックバンドをやっていたら、どう考えても忌野清志郎は避けて通れない。そう考えると、宮本さんが歌うのも当然だし、著名な方がいっぱい影響を受けていると思う」とダニー。そんなダニーが選曲したのが最近CMで流れていたカバー「STAND BY ME」(7インチ「E-JAN」のB面から)。
「ロックミュージシャンで政治的なことを発信した最初の人は誰かといったらジョン・レノンだし、これは想像ですけど、清志郎さんはジョン・レノンに遠からずシンパシーを感じて、自分の音楽に反映させていったんじゃないかと思うんですよ。政治的なことを70年代にジョン・レノンが、日本で80年代に清志郎が歌ってきたという戦いの歴史がある中で、90年代以降には「いや、そんな難しいことやめようぜ! 楽しくやろう! 俺たちはそれより身近なこと歌おうぜ!」っていう時代があったと思うんです。サンフランシスコ界隈のメロディックパンクとか」と語り、自分たちの世代にとって、“反体制のロック”というのは、形骸化している部分もあるというダニー。
「自分たちの音楽は、エンターテイメントに特化して、ただただ来てくれた人に楽しんでもらいたいという思いがあるんですよ。それは言い換えれば、清志郎みたいに心の底から真のメッセージを発信することを、ある意味では避けてるのかもしれない。でも、「逆の意味での影響がある」っていうことを言いたいんですよ。だって清志郎が好きやから、清志郎がやったとおりに自分たちがやってどうするのって思う。俺たちには俺たちの戦い方があると思うんですよ。だから清志郎という高すぎるハードルを、越えるんじゃなくて、俺たちはくぐって行こうと思う(笑)」と最後にはユーモアを交えつつ、アーティストとしての心境を語るダニーの話をお客さんも出演者もじっと聴き入っていた。
その後も、「すべてはALRIGHT (YA BABY)」、「トランジスタ・ラジオ」「いい事ばかりはありゃしない」等を聴いてから、最後は記念撮影を行い、出演者紹介の最後には「今日来てくれていたであろう、忌野清志郎さんです!」と、清志郎への拍手も贈られて、約3時間にわたり大いに盛り上がったトークイベントは終了した。みんなでただひたすら大好きな清志郎の曲を聴きながらおしゃべりするという、幸せな時間だったと共に、日本のロック・アーティストにとって忌野清志郎がいかに特別な存在であるかを改めて感じることができる有意義なイベントだったと思う。お越しいただいたみなさん、ダニーさん、ドリーさん、ボギーさん、鈴木さん、ロフトプラスワンウェストのスタッフのみなさん、楽しいイベントをどうもありがとうございました!
文:岡本貴之
写真:ゆうばひかり