以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Amazon illegally interferes with an historic UK warehouse election」という記事を翻訳したものである。
Amazonはやりたいことなら何でもうまくこなす。それは、同社がやりたくないことにおいては非常に劣るということも意味する。たとえば、Amazon Primeへの登録は、いたって簡単だ。同社は、Primeに興味を持ってから登録完了までの道のりを、あらゆるUXデザイナーが羨むほどのスムーズな流れに仕立てている。
だが、Primeの退会はどうだろうか? まさに悪夢だ。サービスへの登録をこれほど簡単にできる会社が、退会をそれと同じくらい簡単にできないのはなぜだろうか。2つの可能性がある。1つは、Amazonの UX能力はランダムに発揮され、信じられないほどの高水準に達することもあれば、ありえないほど低水準なものが生み出さすこともあるという可能性。あるいは、同社は我々を去らせたくないだけ、という可能性だ。
この疑問を検討するために、Black Flagの「ローチモーテル」(訳注:日本で言えばゴキブリホイホイ)と比較をしてみよう。この製品は米国のデザインアイコンであり、抗しがたいほど芳しい(少なくともゴキブリにとっては)フェロモンが染み込んだ茶色の小さなダンボール箱だ。その強烈な匂いにより、家中のゴキブリがローチモーテルを簡単に見つけ、その中にホイホイと招待される。
しかし、ローチモーテルの内部は粘着剤で覆われている。ゴキブリが中に入ると、その脚や胴体が粘着剤に触れ、抜け出せなくなる。ゴキブリは自分の脚を引きちぎらない限り、出ていくことはできない。
ここでBlack Flagが間違いを犯した可能性を考えてみよう。もしかしたら、ゴキブリが入るのと同じくらい簡単に出ていけるようにしたかったのかもしれない。あり得ない、と思われるかもしれないが、そのとおりだ。推測する必要すらない。Black Flagのローチモーテルのキャッチフレーズにはこうある。「ゴキブリはチェックインするが、チェックアウトはしない」。
これは意図された設計であり、彼ら自身が言っていることからもわかる。
AmazonとPrimeの話に戻ろう。Primeへの登録をこれほど楽にしておきながら、退会するには途方もなく面倒な手続きが必要なのは、何かしらの見落としだったのだろうか? これも推測は不要だ。なぜならAmazonの幹部たちは、これを意図的な戦略として企てた大量の内部メモを残しているからだ。つまり、人々をだましてPrimeに登録させ、そこから抜け出す手段を隠したのだ。Primeはローチモーテルだ。ユーザはチェックインするが、チェックアウトはしない。
https://pluralistic.net/2023/09/03/big-tech-cant-stop-telling-on-itself/
Amazonに利益をもたらすのであれば、彼らはユーザフレンドリーであることに執着する。「情け容赦ない(relentless)」(ベゾスが初期に好んだ言葉)ほどだ。使いやすさを追求するあまり、同社は「ワンクリックチェックアウト」という、配送先住所とクレジットカード情報を保存する企業が、ワンクリックで商品を購入できるようにする陳腐なアイデアで特許まで取得したほどだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/1-Click#Patent
しかし、我々を邪魔することがAmazonに利益をもたらすのであれば、彼らはさらに情け容赦なく新たな嫌がらせを考案し、我々の行く手に意地悪な小さな地雷をばらまく。Amazonが自社倉庫での労働組合結成の動きにどう対処しているかを見てみよう。
Amazonの情け容赦ない組合つぶしは、実に多様な戦術に及ぶ。あるときは、組合結成者を中傷するメディア・ナラティブをでっちあげ、人種差別的な犬笛を吹いて、より良い待遇を求める労働者の信用を失墜させる。
https://www.theguardian.com/technology/2020/apr/02/amazon-chris-smalls-smart-articulate-leaked-memo
またあるときは、連邦機関と結託して、秘密投票の結果を上司に見られるのではないかと労働者を恐れさせ、報復を意識させるように仕向ける。
さらに、文化大革命スタイルの強制的な洗脳集会を開き、組合に賛成票を投じれば処罰されると違法に脅迫する。
https://www.nytimes.com/2023/01/31/business/economy/amazon-union-staten-island-nlrb.html
そして、倉庫労働者への連帯を表明したAmazonのテックワーカーを解雇する。
しかし、これらはいずれも、手間のかかる労働集約的な嫌がらせだ。ご存知のように、Amazonは自動化を好んでおり、それゆえ、組合つぶしも大部分が自動化されている。例えば、「公平」や「不満」といった言葉を含むメッセージを一切配信しない従業員用チャットアプリを作ったりしている。
https://pluralistic.net/2022/04/05/doubleplusrelentless/#quackspeak
またAmazonは、組合結成を試みた労働者グループ全体を解雇できるようにする、信じがたい企業の抜け道も考案している。Amazonのユニフォームを着て、Amazonのトラックを運転し、Amazonの荷物を配達し、目の動きに至るまでAmazonに監視されている労働者であっても、Amazonは彼らを直接の従業員ではないと主張しているのだ。この苦しい言い逃れにより、労働者が組合を結成しようとすれば、Amazonはその部門全体を簡単に切り捨てられるようになっている。
https://www.wired.com/story/his-drivers-unionized-then-amazon-tried-to-terminate-his-contract
Amazonの労働者には組合を結成したいだけの十分な理由がある。Amazonの倉庫は常に過酷な苦痛を生み続ける。朝の1時20分から11時50分までの10時間シフトの「メガサイクリング」は、通告も拒否権もなく労働者に押し付けられている。これは単なる夜勤ではない。子供の世話も、普通の生活も不可能にする夜勤だ。
さらにはジェフ・ベゾスの労働者の腎臓に戦争を仕掛けてもいる。Amazonの倉庫労働者とドライバーは、トイレ休憩をとると賃金が減額されるアルゴリズムに監視されているため、ペットボトルに小便をすることでもよく知られている。英国のコヴェントリーにあるAmazonの倉庫への道路には、倉庫の検査場に到着する前にドライバーが投げ捨てた、ドライバーの小便の入った密閉ボトルが散乱している。
いたずら好きのウーバー・バトラーが、コヴェントリーの道路脇に散らばる小便ボトルを回収してボトルに移し替え、「ビターレモン・リリース・エナジー」というエナジードリンクとしてAmazonで販売したところ、一時的にAmazonのベストセラー・エナジードリンクに輝いた。
https://pluralistic.net/2023/10/20/release-energy/#the-bitterest-lemon
(バトラーは、このいたずらを知らない人には瓶詰めの小便を実際に送っていないと誓っているが、ここで一旦立ち止まって考えてみよう。ジェフ・ベゾスほど我々の腎臓を嫌う男が、ペニス型のロケットを作って飛ばしているなんて、なんて奇妙なことか(訳注:参考記事))
バトラーはまた、Amazonが組合結成投票を前に、賛成票を希釈し、組合結成を阻止するためにAmazonが急遽雇った1000人の労働者にまぎれてコヴェントリーの倉庫に潜入した。ここでもAmazonは、その有名な選別能力を発揮して、すぐさまバトラーを発見して解雇したのだが、彼がドライバーの小便をビターレモンドリンクとしてAmazonで販売していることまでは気づけなかったようだ。
長い闘いの末、GMB組合が中央仲裁委員会で奮闘した結果、Amazonのコヴェントリーの倉庫労働者はようやく組合投票にこぎつけた。
そして予想通り、Amazonは再び、驚くべき使いやすさを実現する才能を発揮した。同社は、作業場全体を「ワンクリックで組合を脱退」QRコードで覆い尽くしたのだ。労働者が携帯電話でコードを読み取ってリンクをクリックすると、システムは自動的に労働者を組合から脱退させる書類を生成する。
これは完全に違法である。英国の法律では、雇用主が「労働者に対して、独立した労働組合の組合員にならないよう、その活動に参加しないよう、またはそのサービスを利用しないよう誘導することを唯一の、あるいは主な目的として従業員に申し出ることを禁止している」のだ。
さて、合法か違法かはともかく、これをAmazonの良識的な介入のように思われたかもしれない。労働者が職場の代表者を選ぶのが簡単になるならいいじゃないか。しかし、ワンクリックシステムはAmazonの違法な組合つぶしの半分に過ぎない。もう半分は、マネージャーが現場労働者を追い詰め、組合を辞めるよう命令し、脱退しなければ職場での報復をほのめかすことで行われている。
さらに、組合のある職場がどのようなものかについて嘘を吹き込まれる、「囚われの聴衆」ミーティングも開催されている。
繰り返しになるが、そのコントラストは極めて際立っている。組合を辞めるのなら、AmazonはそれをPrimeに加入するのと同じくらい簡単にしてくれる。しかし、組合に加入しようとすれば、AmazonはそれをPrimeを辞めるよりもさらに難しくする。つまり、従業員も客も、Amazonにとっては搾取すべき資源でしかない。我々自身の利益を犠牲にしてAmazonに最善の振る舞いをさせるために、従業員を騙すことにも、脅すことにも何の抵抗もないのだ。
法律事務所のFoxgloveは、Amazonのコヴェントリーの労働者5人を代理している。まさに神の仕事だ。
これらすべてが、労働者の権利に関して英国と米国の間で広がる乖離を浮き彫りにしている。バイデン政権下では、NLRB(全国労働関係委員会)のジェニファー・アブルッツォ顧問が、雇用主が組合選挙に干渉した場合、組合に自動的に承認を与えるという規則を公布した。
つまり、Amazonが今、米国でこうした戦術を試みれば、彼らの組合は即座に承認されることになる。アブルッツォは、米国の組合選挙に超高感度傾斜センサーを取り付けたのだ。もしベゾスや彼のお仲間の富裕層が、労働者の民主的権利のに少しでもくしゃみをしたら、彼らは自動的に負けるのだ。
(Image: Isabela.Zanella, CC BY-SA 4.0, modified)
Pluralistic: Amazon illegally interferes with an historic UK warehouse election (06 May 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: May 06, 2024
Translation: heatwave_p2p