笠原一輝のユビキタス情報局
なぜ日本のMicrosoft 365 Personalは高いのか? 個人/法人で買うべきOfficeをアドバイス
2020年4月2日 06:00
Microsoftが日本で展開しているサブスクリプション型Office 365 Soloの名称が「Microsoft 365 Personal」に変更され、4月21日(米国時間)に合わせて国内でも提供がはじまる(日本ではMicrosoft 365 PersonalがOffice 365 Soloの後継として同価格帯で展開、商用利用可参照)。
この新しくなるOffice製品に関して、読者からの反応で多かったのは、「いろいろあってどれを買って良いかよくわからない」、「米国では月額700円程度のOffice 365 Personalがなぜ日本では月額1,284円なのか」という2つだった。本記事ではその2つの疑問に答えるために、できるだけわかりやすくOfficeライセンスの現状についてまとめてみた。
「Microsoftアカウント」、「職場および学校アカウント」という2つのアカウントが存在するMicrosoftのID
現在Microsoft Officeを買おうとすると、じつにさまざまな選択肢がある。こういう仕事をしている筆者でも「全部の選択肢を過不足なく言え!」と詰め寄られても、「あの製品はまだあったんだっけ……」と自信がなくなってくるほどだ。
まずは、順を追ってそれぞれにどういう製品があるのかを説明していきたい。
昔はMicrosoft Officeと言えば、デスクトップアプリだけだったが、現在ではWebサービスとして利用できるブラウザ版、Android OSやiOSといったモバイルOSで利用できるモバイルアプリ版がある。わかりやすくするために、それらを利用できる「ライセンス」の権利を買う、あるいは無償で利用できるものを「Microsoft Office製品」と定義しておきたい。
Microsoft Office製品を利用するためには、必ずMicrosoftアカウントなどのIDが必要になる。ここがややこしいのだが、Microsoftが提供しているIDには大きく2つの種類がある。1つが一般消費者向けとなる「Microsoftアカウント」、もう1つが「職場および学校アカウント」だ。同じMicrosoftのアカウントではあるが、利用できるサービスがまったく異なる。
前者のMicrosoftアカウントは、Windows 10へのログイン、個人向けのOffice/OneDrive/Skypeなどが利用可能で、「xxxx@outlook.com」といったMicrosoftが提供するドメインのメールアドレスなどがアカウント名として利用できる。
そして後者の「職場および学校アカウント」は、Windows 10へのログイン、企業向けのOffice/OneDrive for Business/Skype for Business/Teamsなどが利用できるアカウントで、「xxxx@onmicrosoft.com」などのMicrosoftのオンラインサービス用ドメインや、企業自身のドメインを利用したメールアドレスなどをアカウント名として利用できる。
重要なことは、この個人向けの「Microsoftアカウント」と「職場および学校アカウント」で提供されるサービスは、それぞれ独立したサービス空間として提供されているということだ。
一般消費者向けのOfficeを「職場および学校アカウント」に紐づけることはできないし、逆に法人向けのOfficeを個人の「Microsoftアカウント」に紐づけることはできない。
同じように、OneDrive/Skypeにログインするには「Microsoftアカウント」が必要だし、OneDrive for Business/Skype for Business/Teamsにログインするには「職場および学校アカウント」が必要になる。
Microsoftアカウントには個人向けOfficeが、職場および学校アカウントには法人向けに契約されたOfficeが提供される
そして、この「Microsoftアカウント」と「職場および学校アカウント」では、提供されるOfficeの契約が異なっている。
前者の「Microsoftアカウント」に対して提供されるのは、一般消費者向けのOfficeサブスクリプションと永続ライセンスで、PCにバンドルされているPIPC(Pre Install PC)ライセンスである。後者の「職場および学校アカウント」に対して提供されるのは、法人向けのOfficeサブスクリプションになる。
Microsoft 365 Personal | Office Home & Business 2019 | Office Personal 2019 | Office Home & Business 2019 | Office Personal 2019 | |
---|---|---|---|---|---|
ライセンス形態 | サブスクリプション | 永続型ライセンス | 永続型ライセンス | PIPC | PIPC |
インストール台数 | 無制限(ログインは5台まで) | 2台(Windows/mac) | 2台(Windows) | バンドルされたPCのみ | バンドルされたPCのみ |
アプリ | Word Excel PowerPoint Outlook Publisher Access OneNote | Word Excel PowerPoint Outlook | Word Excel Outlook | Word Excel PowerPoint Outlook | Word Excel Outlook |
価格(Microsoft Store、税込み) | 月額1,285円 | 38,274円 | 32,874円 | PCの価格に含まれる | PCの価格に含まれる |
電子メール容量 | 50GB | 15GB | 15GB | 15GB | 15GB |
OneDrive容量 | 1TB | 5GB | 5GB | 5GB | 5GB |
Skype無料通話 | 60分 | - | - | - | - |
【お詫びと訂正】初出時に、Office Personal 2019のインストール台数にmacを含めておりましたが、Windowsのみとなります。お詫びして訂正させていただきます。
前者のMicrosoftアカウントに対して提供されるのは、今回発表された「Microsoft 365 Personal」(4月21日まではOffice 365 Solo)というサブスクリプションと、永続型のライセンスとして販売される「Office Home & Business 2019」、「Office Personal 2019」、さらにはそのPIPC版となる。
なお、PIPC版というのは、PCにバンドル販売されて提供されるライセンスのことで、バンドルされているPCと組み合わせてのみ利用できるという制限はあるが、それ以外は永続版ライセンスと同じだ。
厳密に言うと、これ以外にもWord、Excel、PowerPoint単体や、Visio 2019などOfficeのスイートには含まれないOfficeアプリの永続型ライセンスも販売されており、それらを利用するのもMicrosoftアカウントとの組み合わせというかたちを採る。
これらのOfficeは「個人向けOffice」や「一般消費者向けOffice」などと呼ばれるが、日本だけの特別な扱いとして後述する「商用利用権」という商用利用が可能な形態になっている。したがって、個人向けとされているが、法人も利用可能であるのが日本のOfficeライセンスの特徴の1つとなっている。
Microsoft 365 Business Standard(Office 365 Business Premium) | Microsoft 365 Business Premium(Microsoft 365 Business) | Microsoft 365 Enterprise E3 | Microsoft 365 Enterprise E5 | |
---|---|---|---|---|
ライセンス形態 | サブスクリプション | サブスクリプション | サブスクリプション | サブスクリプション |
デスクトップアプリ | 5台 | 5台 | 5台 | 5台 |
モバイルアプリ | 最大5台(スマホ/タブレットそれぞれに) | 最大5台(スマホ/タブレットそれぞれに) | 最大5台(スマホ/タブレットそれぞれに) | 最大5台(スマホ/タブレットそれぞれに) |
アプリ | Word Excel PowerPoint Outlook Publisher Access OneNote | Word Excel PowerPoint Outlook Publisher Access OneNote | Word Excel PowerPoint Outlook Publisher Access OneNote | Word Excel PowerPoint Outlook Publisher Access OneNote |
価格(参考価格、税別) | 月額1,360円 | 月額2,180円 | (MSサイトには価格掲示なし) | (MSサイトには価格掲示なし) |
電子メール容量 | 50GB | 50GB | 100GB | 100GB |
OneDrive容量 | 1TB | 1TB | 無制限(5ユーザー以上の場合) | 無制限(5ユーザー以上の場合) |
拡張セキュリティ | - | ○ | △ | ○ |
MDM | - | ○ | ○ | ○ |
これに対して「職場および学校アカウント」では、基本的にサブスクリプション型のライセンスのみ提供されている。法人向けのOffice 365/Microsoft 365を契約し、従業員などに展開できる。
大きく言って、個人事業主から中小企業までを対象にした「Business」と大企業を対象にした「Enterprise」に分かれており、事業の規模などに応じて選べるようになっている。このほかにも教育向けや非営利団体向けなどもあるが、今回の記事の趣旨とは外れるため今回は取り上げない。
個人向けではOffice 365 Soloが「Microsoft 365 Personal」へとブランドが変更されたことからもわかるように、基本的にはOffice 365の後継として「Microsoft 365」が位置づけられている。
しかし、上の表を見ていただければわかるように、法人向けのOfficeではOffice 365とMicrosoft 365が併存している。
これは、法人向けではOffice 365の機能に加えて、法人向けWindows 10の利用権(ProからBusinessおよびEnterpriseへのアップグレード)と、セキュリティやデバイス管理機能などを追加したものをMicrosoft 365として展開しているためだ。
ただし、4月22日からは法人向けのOffice 365も「Microsoft 365」へとブランド名が変更される予定で、今後はよりわかりやすいかたちになる。
日本の個人向けOfficeは「商用利用権」がついてくる。日本市場の特殊事情が要因
日本のOfficeライセンスを語る上で非常にややこしいのは、「商用利用権」の問題だ。商用利用権とは、そのソフトウェアを利用して利益を生むような商業活動に使ってよいかどうかに関する権利となる。
企業内でPCをビジネスに使っている場合はもちろん該当するし、個人であっても筆者のように個人事業に使っている場合も該当。そしてオフィスワーカーが持ち帰ってきた仕事を自分の私物PCで行なう場合も該当する。
とくに日本では、個人事業主やオフィスワーカーによる持ち帰りの仕事を、私物のPCでこなしていることが少なくなく、一般消費者向けのPCがそうした用途に使われているという現状がある。このため、Microsoftは日本だけは例外的に「Microsoftアカウント」に紐づく個人向けOfficeも商用利用権をつけているのだ。
だが、これは日本だけが特別で、日本以外の市場ではそうではない。たとえば、米国市場では個人向けのMicrosoft 365 Family(自分を含めて6ユーザーまで利用)、Microsoft 365 Personal(1人でのみ利用可能)のいずれも商用利用が認められていない。ここが大きな違いなのだ。商用利用権がバンドルされている日本のMicrosoft 365 Personal(現在のOffice 365 Solo)が米国のMicrosoft 365 Personalに比べるとやや高めの価格に設定されてしまうのはこのためだ。
Microsoft 365 Family(米国) | Microsoft 365 Personal(米国) | Microsoft 365 Personal(日本) | |
---|---|---|---|
価格 | 月額9.99ドル(約1,079円) | 月額6.99ドル(約755円) | 月額1,284円 |
利用できるユーザー数 | 6(同居の家族) | 本人のみ | 本人のみ |
デバイス | 無制限(ログインは5台まで) | 無制限(ログインは5台まで) | 無制限(ログインは5台まで) |
商用利用 | × | × | ○ |
これは本当に難しい問題で、企業や個人事業主などが、ビジネス向けのPCをオンラインで買うのではなく、家電量販店などで買ってきて使うことのほうが多いという日本市場の現状を考えると妥当と言える。
シンプルに個人向けは「商用利用禁止」としてしまうのが一番簡単だが、その影響は小さいどころか大混乱になることは目に見えている。そして、Microsoft 365 Familyを日本で展開できないのも同じ理由だろう。Personalのほうは商用利用権があるのに、Familyのほうはないということになってしまうからだ。
なお、よくSurfaceシリーズに付属しているPIPC版Officeについて、「必要ないから値段を下げてくれ」という声もあるが、じつはそれもこの「商用利用権」問題が根っこにある。
すでにOffice 365 SoloやOffice 365 Businessなどを契約しているユーザーや個人事業主にとっては、確かにバンドル版のOfficeは必要ない。しかしながら、市場を調査するとわかるのだが、量販店などの小売流通におけるPIPCのバンドル率はじつに90%を超えているため、ユーザーのニーズを考えればPCメーカーがPIPC版をバンドルするというのはまっとうな判断だ。
問題はすでにサブスクリプションを契約しているユーザーにとって選択肢がないではないか、というところだ。じつはSurfaceシリーズ以外のPCは、オンラインなどで法人向けのPCを購入できるし、個人向けのPCであってもCTO(購入時のカスタマイズ)でPIPCライセンスを外して購入できるので何も問題になっていない。
ところがSurfaceシリーズでは、法人向けの製品はなぜか個人には販売しないというスタンスを取っており、MicrosoftのWebサイトでは販売されていない。厳密に言うと、個人事業主でも登録できる法人向けのサービスなどを経由して購入できないわけではないのだがハードルは高くなる。
したがって問題は、Microsoftが法人向けPCを個人に積極的に売っていないという点にあり、PIPCがバンドルされているか、いないかが問題ではないのだ。なので、Microsofにはぜひとも法人向けのSurfaceを、Webサイトなどでより買いやすくしてほしいと思う。それで問題は解決する。法人向けのOffice 365は個人でも契約できるのに、法人向けのSurfaceは個人では買えないというのは論理矛盾と言える。
一般の個人ユーザーならPIPCを選ぼう。台数が多い人や個人事業主、法人はサブスクリプションがおすすめ
最後に、ユーザーが結局どのOfficeを選べばいいのか、ユースケースごとに筆者がまとめてみたので参考にしてほしい。
(1)個人ユーザーやホームユーザーで、とりあえずPCでOfficeが使えれば良い、バージョンは問わない
PCの購入サイクルが5年程度のユーザーであれば、PIPC版OfficeがバンドルされたPCを買うのがいいだろう。このときに作るのは「Microsoftアカウント」になる。また、家庭内で複数のユーザーが使うというPCでも、PIPC版OfficeがバンドルされたPCがおすすめだ。
(2)PCの所有台数が多いユーザー(本誌の読者のようなユーザー)、最新版のOfficeが必要
PCの台数が複数台あるようなユーザーは、今回発表されたMicrosoft 365 Personalのようなサブスクリプション型をすすめたい。Microsoft 365 Personalはインストール台数に制限がなく、同時に5台まで利用できる。
(3)個人事業主、小規模の企業
個人事業主やユーザー数が10人に満たず、PCの管理はユーザーそれぞれが行なっている場合は非常に微妙で、Microsoftアカウントで利用できる個人向けOffice(Microsoft 365/永続型ライセンス/PIPCライセンス)でも良いし、法人向けのMicrosoft 365にしておくというのも1つの考え方だろう。
個人的には顧客のデータ保護という観点からも、法人向けのMicrosoft 365にしておくの良いと思う。価格的にもMicrosoft 365 Businessなどのビジネス向けのサブスクリプションが良いはずだ。
(4) ITの管理者がいるような企業
IT管理者がいるような規模の企業であれば、法人向けサブスクリプションで決定だろう。Microsoft 365 Businessを選ぶか、Microsoft 365 Enterpriseを選ぶかは、純粋に会社の規模(Businessは300名の従業員まで)で決めればよいと思う。
以上、今回の記事がこれからPCを買うユーザーや、テレワーク/リモートワーク向けにOfficeのライセンスを買おうと考えているユーザーなど、イマイチOffice製品の全体が理解できないという方のお役に立てれば幸いだ。