『ふれる。』岡田麿里インタビュー 幸せには犠牲が伴う、だからこそ諦めたくない
2024.10.26
「梅田サイファー論」をはじめ、ジャンル不定カルチャー誌『アレ』にて日本語ラップ論考を執筆している猿川西瓜氏による寄稿。
「Creepy Nutsの世界的ヒットは、なぜ“日本語ラップの偉業”として語られないのか?」という問いを契機とする、リリックから読み解くR-指定論。
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この記事の制作者たち
そもそもR-指定は、どのようなデビューを果たしたのか。
R-指定がはじめて全国区にその名を轟かせたのは、「楽曲」によるものではない。R-指定がKOPERUやDJドイケン(現KennyDoes)らと組んでいたコッペパン、関西のクルー・TinyTitanBox、もしくはソロアルバムが全国的なヒットをしてファンの心を捉えたというのではない。
R-指定自身を世間に知らしめたのは、まずはそのフリースタイルバトルにおける圧倒的な強さであったように思う。
2015年9月30日からテレビ朝日系列で始まった番組『フリースタイルダンジョン』で、挑戦者を阻むモンスターの一人として出演。
その時の紹介で使われた二つ名は「浪速のTOO SHY SHY BOY」という小室哲哉プロデュース、観月ありさの楽曲タイトルをサンプリングしたものであった。「SHY BOY」の名の通り、R-指定は非常に腰が低く、丁寧で、決して尊大な態度を取らない好青年だ──マイクを握らない限り。
謙虚で優しげな彼が、ステージに上がった途端、イカついバトルの猛者たちを次々に圧倒していく。UMB(ULTIMATE MC BATTLE)3連覇を知らない視聴者もお茶の間も、ずば抜けた強さを見せつけるR-指定を、驚きと賞賛をもって迎えた。
事実上すべてのバトルMCの頂点を決める大会であった時代のUMBをR-指定が3連覇した頃は、現在のように大会が乱立していなかった。出場者は地元を代表し、命がけですべてを背負って挑んでいた。
目次
- 曰く「呪いは解けた」。にも関わらず、なぜR-指定は戦い続けるのか?
- 「寄り添うな、俺に。寄り添ったり、共感したり、手を差し伸べたりするな」
- マイメンとの握手やファンからの応援までも──「キングオブディス」の孤独
- R-指定は、一体何を拒絶し続けているのか?
- ヒップホップのテーゼである「自分らしさ」への懐疑
- 「全て歌詞に出来れば良い」のか? Creepy Nutsの評価を難しくし、評論家の口を塞ぐ理由
- 「誰も彼もが敵に見える」という強い猜疑心
- 12年前、ライバルであるチプルソのライブで目撃したR-指定の後ろ姿
- R-指定というラッパーの多面的魅力と、「残酷さ」の正体
- リリックの「防波堤」の内側を覗けない、底知れない不気味さ
- 胸の奥に居着いてる「バケモン」──R-指定論の終わりに
今のように瞬時に情報が全国津々を駆け巡り、誰でもいつでも楽曲を配信できて誰かに聴いてもらえるような時代の遥か以前。シーンに認知されるのは今以上に簡単ではなく、手段も限られていた。
MCバトルでその名をあげてのし上がるために、ラッパーたちは命を削ってきた。
この辞められないゲームのことを、Creepy Nutsはラジオで「呪い」と述べている。M-1グランプリ2020(2020.12.22 #139)の回で、DJ松永は「M-1に負けたあの悔しさっていうのはさ、たぶんM-1じゃないと晴らせないじゃん」と述べている。また、番組中ではこのようなやりとりがある。
松永 マヂカルラブリーの村上さんがさ、「ほんといいですよね、優勝して終わった人たち」って言うじゃん。これはほんとに呪いにかかった人たちだからこその言葉だよね。
R ほんま呪いよな。
松永 みんなやめるためにやってるってとこもあると思う。
R もちろんそうや。
松永 やっぱ終われないんだよね、勝てないと。で、あれ呪い解けるのって優勝した人だけなんだよな。
R 優勝する。唯一、それしかないのよな。
そして松永は「俺らは奇跡的に呪いが解けたわけじゃん、2人とも」「でももう一生出たくないじゃん」と続ける。(『HIPHOPとラジオ Creepy Nutsのオールナイトニッポン読本』より)
R-指定がラップスキルを磨き合うヒップホップクルー・梅田サイファーも、梅田の歩道橋というストリート──正確にはストリートと都市のあいだのエアスポットのような歩道橋という、駅から都市へ/都市から駅へ、「ここ」から「向こう」へ行くための境界線上──から出てきた集団である。
R-指定が成し遂げてきた「バトルを勝ち上がって名声を掴む」ことを「ヒップホップではない」もしくは「間違っている」と否定することはできないだろう。
また、CreepyNutsのラジオでは、ゲストとして般若やZeebra、ZORN、BAD HOPらを招き、お互いに認め合って交流を重ねている。レジェンドたちやアウトロー出身のラッパーにも認められ、しっかりと同世代や先人達の文脈を踏まえ、それを愛し、アーティスト同士リスペクトをしあう関係性を築いている。
R-指定には、大阪の厳しいバトルシーンとさらに狭き門であるUMBを制覇した実力があり、レジェンドに認められてリスペクトしあう関係性もある。また、「合法的トビ方ノススメ」をはじめ、メジャーデビューを果たして楽曲のヒットも成し遂げている。
松永とR-指定はそれぞれで頂点を極めた人間で、この功績は誰にも否定されることはない。
彼らの言葉を借りるなら、とうに「呪いは解けている」のだ。
それでもなお、R-指定が今もなお批評家やヘッズと対決し続け、disを辞めないこと、その終わらない戦いと執拗さを、前編で引用したような、尊敬するラッパーから形容された「残酷」と捉えることができるのではないかと筆者は考える。
あるいは、アンチがどれほど怒り狂っても、とっくに声が届かない場所までR-指定はたどり着いたのに、「まだ戦い続ける必要はあるのだろうか?」と問うべきか──。
もう一つ、筆者が非常に重要だと考えるラジオでのエピソードがある。「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0」2020年6月2日放送の回で、大喜利番組「IPPONグランプリ」にゲスト出演したことが話題となった。
そこでR-指定がスベってしまったのを、松永が哀れむような目で見ていたことに対して、R-指定の語った話が興味深い。
「IPPONグランプリ」では芸人たちの大喜利の合間に、観覧ゲストに無茶ぶりをすることがある。
R-指定自身は渋々ながら、その無茶ぶりを「最高のレベルに達していた場を、観覧のゲストがスベることで、一回、空気をリセットする」ための箸休めだということも理解した上で大喜利に答え、当然スベってしまう(放送ではR-指定の回答は全カットされている)。納得ずくながらも、本人曰く「骨の髄からスベった」あと、喫煙所にこもったR-指定はなかなかそこから出てこなかったという。
R-指定はこう振り返る。「俺、何が嫌やったかって、スベったあとに、不安やからぱって松永さんの方を見たんですよね。松永さんがすごい哀れむような目で俺を見てた、それが傷つく」と語り、喫煙所では全身の力が抜けてライターの火がつけられなかったことを話している。
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