悪質な広告を駆逐し良質な広告を増やすには?「良い広告」の5つの基準
2025.03.02
「戦極MCBATTLE 第36章 東北公演2025 at 仙台PIT」はアルバムで言うなら隠れた名盤だった。ただし、“隠れた名盤”は名盤として誰かが語り継がなければならない。
出演MC視点で語れる、ラッパー・ハハノシキュウによる全試合解説。
Photo by Akahoshi Miroku
クリエイター
この記事の制作者たち
今その先を越えて 今までを越えていくGAGLE「千代 -SENDAI-」
この文章の終わりは「?」で締め括られる。
あなただったらそのクエスチョンになんと答えるだろうか?
僕は正直、笑ってしまったし、まあ、それも悪くないな、と思った。
ハハノシキュウ
とにかく近頃はクエスチョン(問題)がやたら多い。
例えば「この記事を2/22の『凱旋MC battle GOLDEN TAG at O-EAST』よりも前に書き上げられなかったのか?」とか。
バトルの現場で「気まずい人と同じ楽屋にならないように配慮してくれてますよね?」とか。
これから僕は戦極36章の話をするわけだけど、この記事が上がる頃には余熱すら残っていないだろうと思う。
それくらい世の中のタイム感は早い。
そのタイム感の中で淘汰されないように残ることをしたい。おそらく僕だけではなく多くの人がそう思っているはずだ。
しかしながら、良いニュースよりも悪いニュースの方が残りやすい。
「そうならないようにみんなで気をつけようよ」なんて綺麗事を言っても、そんな綺麗事を批判する声の方が大きく広まったりする。
だから、当然だけど商売人になるならその現象に沿ったことをやらないといけなくなる。良質なものより、話題性のあるものを選ぶしかない。どうして話題性のあるものが商売に必要なのかと言うと、世の中に下水道のように配置されたアルゴリズムやAIが自動的にそれを広めるからだ。
そして、商売人でなくても承認欲求を持っている人のほとんどがそのことに気付いていて、やむを得ず自分の表現のこだわりよりアルゴリズムに重きを置いてしまっている。むしろ、アルゴリズムを意識して発信するのは一つの常識と呼んでも差し支えないのかもしれない。逆にどんなに良質で優れたものでも、アルゴリズムに乗らなかったら存在すら怪しくなってしまう。
だから、僕の文章も商売という意味ならこの「無料で読める部分」で誰かを批判したり、あえて間違った言い方を印象的に残したり、全く「的を得ていない」批判を嫌味な文体で書いた方が広まりやすいし(正しくは「的を射て」だよといちいち言ってくる人を含めて)数字になるだろう。
今こうして書いている文章はそうならないように気を付けてはいるが、無意識に書いてしまった何かが誰かの逆鱗に触れたりして炎上する可能性だってゼロではない。(本当に)
じゃあ、誰の逆鱗にも触れなかったものにあなたはどうやって触ればいいのだろうか?
目次
- 戦極36章がなぜ“隠れた名盤”だったのか、誰かが解説する必要がある
- 「今年の主人公」を決定づけた、戦極MCBATTLE 第36章 東北公演2025
- 1回戦第1試合 ミメイ vs しぇん
- 2回戦第2試合 DOTAMA vs DARK
- 1回戦第3試合 SIMON JAP vs バチスタ
- 1回戦第4試合目 陽 vs Rude-α
- 1回戦第5試合目 MOL53 vs 左流
- 1回戦第6試合目 ala vivere luce vs SATORU
- 1回戦第7試合目 RunLine vs しーじん
- 1回戦第8試合目 呂布カルマ vs デストロイ海沼
- 1回戦第9試合目 JAG-ME vs HUNGER
- 1回戦第10試合目 T@NPOPO vs ハハノシキュウ
- 1回戦第11試合目 狺-TARØET vs Sitissy luvit
- 1回戦第12試合 NAIKA MC vs トンボの股間
- 波乱のない、2回戦の組み合わせ決め
- 2回戦第1試合 NAIKA MC vs MOL53
- 2回戦第2試合 HUNGER vs DARK
- 2回戦第3試合 ハハノシキュウ vs しーじん
- 2回戦第4試合 呂布カルマ vs Sitissy luvit
- シード戦(ベスト8)第1試合 SIMON JAP vs NAIKA MC
- シード戦(ベスト8)第2試合 SATORU vs HUNGER
- シード戦(ベスト8)第3試合 Rude-α vs ハハノシキュウ
- シード戦(ベスト8)第4試合 しぇん vs Sitissy luvit
- 準決勝第1試合 SIMON JAP vs SATORU
- 準決勝第2試合 Rude-α vs Sitissy luvit
- 決勝戦 SIMON JAP vs Sitissy luvit
- 僕は正直、笑ってしまったし、まあ、それも悪くないな、と思った
“名盤”という言葉を今の若い人は理解できるのだろうか。
正直、若い人にとってのアルバムという位置付けが、自分にはもう想像できない。
「一番好きなアルバムは?」という質問に「アルバムで音楽を聴いたことがない」と言われても「まあ、仕方ないよね」としか返せない。
僕ですら「アルバムで聴こう」と新譜を再生しても途中で脱線してしまうことの方が多い。それでもたまに最後まで通して耳を持っていかれる時があるからやめられないのだけど。
“名盤”というのはアルバム全体を通してのクオリティの高い作品のことを指しているが、言葉だけで定義できるほど簡単なニュアンスではない。
例えば、1曲単位で聴いたらそんなに好きじゃない曲も、アルバムで通して聴いたら名曲に聴こえたりとか、そもそも途中で脱線せずに最後まで通して聴けてしまえる引力が存在していたりとか、最後の曲を聴き終わった後に多大なカタルシスを感じられたりとか、様々な言い方が出来る。
僕個人として“名盤”について語る時によく言うのは「なんかグルーヴ感がある」という表現だったりする。
曖昧で非常に他人と共有しにくい言い方だと思うが、僕の中では「そうとしか言えない」のである。
今回、戦極36章が仙台PITで行われたが、これを一言で説明しろと言われたら、どうしても“名盤”という表現になってしまう。
しかも、名盤は名盤でも“隠れた名盤”というやつだ。
アルゴリズムに乗りにくい、数字として残りにくい、けれども“隠れた名盤”であると。
つまり、僕なりの言い方に置き換えると「なんかグルーヴ感のある」大会だったのだ。
神大会と呼ぶには言い過ぎな感じもするし「こういうのでいいんだよ」という表現では凡庸な感じもする。
だからと言って映画みたいな大団円に至る感じでもない。
やっぱり音楽で例えたくなる。
全体を通して独特の気持ちいいグルーヴ感があったとしか言えないのだ。
グルーヴ感がある。そして途切れない。
そんな大会だった。
ただ“隠れた名盤”だと認識されるためには“隠れてしまわないように”広める人間がいないといけない。
だから、僕はこの記事を書かないといけないのだ。
同時にこれは2025年度のMCバトル業界の方向性というか「今年の主人公」を決定付ける日だったと僕は思う。
戦極MCBATTLE 第36章 東北公演2025 at 仙台PIT■BATTLE
01.DOTAMA
02.呂布カルマ
03.Sitissy luvit
04.デストロイ海沼
05.ミメイ
06.NAIKA MC
07.陽
08.MOL53
09.しぇん
10.左流
11.ハハノシキュウ
12.JAG-ME
13.トンボの股間
14.DARK
15.SATORU
16.SIMON JAP
17.しーじん
18.T@NPOPO
19.RunLine
20.ala vivere luce
21.狺 TARØET
22.Rude-α
23.バチスタ
24.HUNGER■GUEST LIVE
般若■司会
MAKA■DJ
DJ YANATAKE/DJ chaka
同じ手の形が何度も続いた。
一呼吸では終わらなかったジャンケンのブレスで、ミメイがしぇんに「後攻やっていいですよ」と促したところから今大会は始まった。
「1回戦から飛ばしにきた、地元のベテラン溶かしに来た」
「生まれは日本のアイランド、準備はいいか? 今から始まんぞ」
そんなミメイからの安定した開会宣言。
1試合目の先攻最初のライムは、お客さんとお互いの熱気を確認し合う作業でもある。(NAIKAさんがこれを担うパターンが非常に多い)
対するしぇんは地元仙台を背負った上で、どこかで見たことのある試合展開が繰り広げられる。
ついこの間のKOKでの、lonelowとミメイの試合である。
「現場主義 vs バトルMC」のような構図のつくり方である。
ミメイが「またこのパターンかよ」とクレーム処理のように、うんざり感をお客さんに見せないように接客していく。
はっきり言って相手の言葉やその場その場でしか生まれないものを拾って一瞬で料理するスキルという点ではミメイが勝っている。
僕はこれをさらに「タネも仕掛けもありません」と強調しながらキックしていくことを「手品」と呼んでいる。
この「手品」が今大会、もしくは今年のバトルシーンに象徴したキーワードになると僕は予見している。(あくまで「手品」というのは僕が勝手に考えた言い方で、実際は「即興力」とか他の言い方で広まっていくと思うけど)
持っているバトルの能力値的にミメイ優勢と思われた試合だが、空気的にはしぇん優勢で試合が終わる。
「カッケー俺の地元で、ダッセーHIPHOPはさせねぇぞコラ」
この一言にそうなった理由が集約されている。
しかしながら経験上、戦極のお客さんはここでミメイに手を挙げるだろうと僕は思った。
僕は仙台PITを訪れるのが3度目だが、意外と地元贔屓の空気がない場所だなと思ったのを覚えている。
判定は延長だった。
「意外」と「妥当」という2つの感情が同時に流れ込んでくる。
先攻後攻が入れ替わって、後攻がミメイ。
まあ、普通にミメイくんが勝つでしょ、と僕は思っていた。
延長後の後攻というのは普通の後攻よりアドバンテージが高い、「手品」に秀でている人間ならなおさらである。
ところが、しぇんは地元に根を張っている上、キャリアが長く言葉も軽くない、という事実が観客にしっかり伝わっていた。
こうなった要因があるとすれば、ミメイがしぇんについて説明をし過ぎたからだと僕は思う。
丁寧に「仙台レペゼンのしぇん」をプレゼンしていたのだ。
lonelowくんには悪いが、この場面では役者が違った。彼がKOKで持っていなかったものをしぇんは持っていた。
UMBのような泥臭さを前面に出して、しぇんがミメイを下した。
DARKはMU-TONと同郷の福島のMC。
「東北公演」という今大会の分類で言えば地元枠である。
「俺はバトルMCって言われることを嫌だとは思わねぇ、全てに誇りを持ってやってるぜ」
先攻のDOTAMAが1試合目のミメイからバトンを引き継いだような角度で試合に入る。
同時に、その切り口は非常に鮮度の高い即興であることが提示されている。
後攻のDARKから発せられたのは従来の彼の泥臭いスタンスとは若干異なるものだった。
「シャブ抜きのMU-TONみたいな人がここにいるけど」
次のバースでDOTAMAが形容した通り、同郷のMU-TONを思わせる歌心を滲ませたラップだったのだ。
DOTAMAがDARKのフロウを一朝一夕でコピーしたりして、受けた攻撃は借金が残らないように丁寧に返していくが、お客さん目線では「少し切れ味が足りない」ように感じたと言える。
ここ最近では珍しくDARKの渋いスタイルに歓声が集まった。
そういうバイアスがあったという感じでもなく自然にそうなったとしか言えない。
よくある「こいつはヒップホップじゃねぇ」みたいなアングラ正義の空気だったわけでもなく、DARKのフロウをもっと聴きたいと思わせる空気だった。
強いて言えば、DARKはDARKで、しぇんからバトンを繋いでいたのかもしれない。
DARKの勝利。
バチスタのバックボーンを僕はよくわかっていないのだけど「SIMON JAPを見てラップを始めた」という告白により、戦いの方向性が見えた試合だった。
「初期衝動、だって親を超えんのが親孝行」
基本的にこの手の戦いでは、リスペクトされた側が少し日和ってしまったところにストレートをぶち込まれることが多い。
「そんなんで俺に影響受けたとかやめてくんねぇかな」
その点、SIMON JAPはそんな優しさを一切見せずに跳ね除ける。
「お前をWarugaki Gymに呼んだのは、ど素人だから鍛えてやるためだよ」
バチスタが韻を畳み掛けるも、それがただの音像として消えていくのに対し、日本語が一字一句乗っかってるSIMON JAPのライムに戦局が傾いた。
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