ブラジル・サンパウロ州のビーチ沿いに地盤沈下で傾いたタワマンが立ち並ぶエリアがある。サントス市の集計によると、市内の300棟以上が傾いているという。なぜ傾いてしまったのか。住民たちはどうしているのか。サンパウロ在住フォトグラファー兼ライターの仁尾帯刀さんが取材した――。
展望の美しい海岸沿いに立ち並ぶタワマン群
南米最大の港湾施設のあるサントス市は、ブラジル有数の商業都市サンパウロのベッドタウンだ。サンパウロまではバスやマイカーで約1時間半。住民に占めるマンション/アパート居住者の割合は63.45%とブラジルでもっとも高い。
大西洋を望む砂浜は、週末には缶ビール片手に日光浴を楽しむグループや子供連れなどの訪問者でにぎわう。この街は、コーヒー豆積み出し量世界ナンバーワンのサントス港のほか、ペレやネイマールといった一流サッカー選手が在籍した名門クラブのサントスFCでも知られている。
多くのマンションがはっきりと傾いている
サントスのビーチ沿いには1950~70年代の建設ラッシュで建てられた古い高級マンションが並ぶ。その時期に建てられた物件はおおむね10階建てから18階建てだ。
日本では一般的に20階建て以上で、高さ60メートルを超えるものを「タワマン(タワーマンション)」と呼ぶ。サントスのマンション群は、日本のタワマンよりやや小ぶりだが、所有者たちのステータスシンボルとしてビーチ沿いにそびえる姿は、日本のタワマンと同等の印象だ。
そんなマンション群を眺めると、ある違和感を覚える。どこまでも均一であるはずのマンションとマンションの狭間が、視線を上へとスライドさせるに従い、より広く、あるいはより狭くなっているのだ。事情を知らない人は「まさか!」と、一度こすった眼で見直したくなるに違いない。
実は、海岸沿いの多くの建物がてんでばらばらの方向に傾斜しているのだ。そして、驚くべきことに、この傾いたマンションでは住民が普通に生活しているのだ。