雇用のセーフティネットから抜け落ちる恐れ

しかし、メリットばかりではない。デメリットや不都合な真実もある。

たとえば無断欠勤をすると、アプリの利用を無期限停止にする運用をしている事業者もあった。これに対し、11月、厚生労働省が求職の申し込みがあれば受理するという職業安定法に違反するとして改善を指導。このため事業者は停止の期間を無期限から「一定期間」に修正している。

また、冒頭でスポットワーカーは個人事業主ではなく、労働者であると言った。労働者には労災保険、雇用保険、健康保険や厚生年金などの社会保険のセーフティネットが用意されているが、実は労災保険は適用されるが、雇用保険や社会保険を適用していないスポットワーク事業者も多い。

失業給付を受けられる雇用保険は週20時間以上働くと加入義務が発生する。また、従業員51人以上の企業で働く場合、①週所定労働時間が20時間以上、②月額賃金8万8000円以上(年収106万円相当)などの加入要件があり、要件を満たせば社会保険に加入する義務が生じる。

しかし、同一の会社で週20時間、月額8万8000円に近くなるとシステム上、アラームで警告し、ブロックする仕組みにしている事業者もある。

実際にアプリ上に示される「労働条件通知書」には「労災保険の適用有り、雇用保険、健康保険及び厚生年金の適用無し」との記載もある。もし月額8万8000円未満でブロックされると、働き手は他のスポットワーク事業者で仕事を探し、実際は8万8000円を超える人もいるかもしれない。

こうした措置は言うまでもなく求人企業が支払うべき雇用保険や社会保険料などのコストを抑えるためであり、求人企業にとっては大きなメリットになる。

これではかつての日雇い労働者を使用する事業者と変わらない。社会保険についてスポットワーク協会は「スポットワークサービスおいては、労働者ごとに労働時間・勤務日数・賃金額等の制限が設定されている場合もあります」と制限があることを認めた上で「利用状況により加入条件を満たす可能性も否定できません」とし、適切な対応を呼びかけてはいる。

しかし制限を設けること自体、国の政策と逆行している。国は勤労者皆保険制度の構築を目指し、社会保険の適用拡大を推進している最中だ。

労働者なら誰でも老後の厚生年金を受給できるようにするため、12月10日に厚生労働省は社会保険加入要件の従業員規模と月額8万8000円の撤廃を決めたばかりである。国の方向性とは真逆である。

また、収入が年間30万円を超えると市区町村に給与支払い報告書の提出義務(地方税法317条)がある。働く会社1社の場合、提出するとしてもいくつかのスポットワーク事業者を通じて稼いだ収入についてはどうしているのかも疑問だ。

さらに正社員が副業する場合、本業と通算して法定労働時間の8時間を超えると1時間につき25%以上の割増賃金を支払わなければならない。実際に支払っている求人事業者があるのかも大いに疑問だ。

現時点ではスポットワークで働く人は“副業”が多く、先の調査ではスポットワークのみで働く人は0.6%にすぎない。それでも登録者数2500万人のうち15万人はいることになり、決して少ない数ではない。

それこそ日雇い労働者よろしく味を占め、今後スポットワーク専業者が増える可能性もある。そうなれば、スキマバイトならぬ雇用のセーフティネットから抜け落ちた“スキマビジネス”になりかねない。

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