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パラ水泳に期待の新星! 中学1年生になったばかりの山田龍芽(S6)

パラ水泳に期待の新星! 中学1年生になったばかりの山田龍芽(S6)

4月10日〜12日に静岡県富士水泳場で開催された「パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡2025」。今大会、18歳以下のユースカテゴリーに日本チームは13名の選手が出場した。その中で、キラリと輝いたのが、中学1年になったばかりの山田龍芽(S6クラス)だ。自身初めての国際大会に挑んだ山田は、50mバタフライ、200m個人メドレー、400m自由形に出場2012年7月、神奈川県に生まれた山田は、2歳で悪性リンパ腫を発症し車いす生活となった。抗がん治療を完了させて5歳から水泳をスタート。横浜にある障害者スポーツ文化センター“横浜ラポール”での体験会で初めて車いすを降りて水の中に入った。「もう、すごく楽しかった! いつもは車いすに座っているけど、プールに入ったら体を思い切り伸ばせる、自由に動ける。それが、楽しかったんです」水に慣れ、少しずつ泳ぎを覚えるようになるとすぐに競技大会に出場することに。「幼稚園の年長組の時に、健常者の大会に出場したんです。そうしたら、その時のレースで健常者の子どもを追い抜いて泳いだんですよ」。そう語るのは、母の清香さんだ。そこから本格的に水泳に取り組みたいと紹介してもらったのが、パラ水泳の名門クラブ「宮前ドルフィン」の稗田律子コーチだ。現在は、1回2時間、週3回のトレーニング時にコーチが横浜ラポールに来て指導する。小学1年からパラ水泳の日本選手権にも出場しているが、国際大会は今回が初めて。初日の50mバタフライで48秒60、2日目の200m個人メドレーで3分39秒64、3日目にはもっとも得意とする400m自由形で6分00秒62という記録を残した。「最初の50mバタフライの時は、もう心臓バクバクで緊張はいつもの倍くらいありました。スタートの時には、失格になってはいけないということだけに集中して思い切り飛び込んだらうまくいって、あ、これはオレ、いけんじゃね、って思った。全部のレースで自己ベストが出ました!」と、初めての国際大会での成果を喜んだ。好記録が出せたことについては、今年1月に今大会出場が決まってから取り組んできたターンの改善が要因と、自己分析している。「コーチからターンがよくなれば、あと2秒はタイムを上げられる、と教えてもらっていました」。とくに400mではターンの質がタイムに直結する。また、レース展開では「体力には自信があります。200mまでの前半から飛ばして、300mで少しだけ休みながら最後の400mでスパートをかける。それもうまくできました」一方で、400m自由形では6分を切りたかったので、少しだけ悔しさが残る。「育成のコーチから5分45秒を切れば、来年愛知で開催されるアジアパラの特別強化選手に選出される可能性があるということを聞いていたので。今後、そのタイムを早く出して、強化選手の一人に選ばれることが目標です」普段は、水泳だけでなく車いすテニスやチェアスキーなども楽しむが、競技としては水泳に「全集中!」している。「来年のアジアパラ、その先のパラリンピックに出場したいです!」。今大会出場したユース世代選手たちの未来に、期待したい。大会期間中、隣接する体育館ではボッチャやビームライフル、手のひらバレーなどのスポーツを楽しめた。山田(右)は応援に来てくれた水泳仲間の村田哲さんと一緒に手のひらバレーに挑戦。2分間で200回ネットを超えるパスを成功させた!取材・文/宮崎恵理 写真/吉村もと

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NHK「ぐるっとニッポン ぼちぼち旅」に瀬立モニカ(パラカヌー)が出演!

NHK「ぐるっとニッポン ぼちぼち旅」に瀬立モニカ(パラカヌー)が出演!

NHKで放映されている「ぐるっとニッポン ぼちぼち旅」は、車いすで全国の絶景を巡る新感覚の旅番組。その4月28日(月)~5月2日(金)の回にパラカヌーの瀬立モニカと西明美コーチが出演する。旅の舞台は鹿児島県。雄大な桜島を一周する。フェリーに乗りデッキで出会った子どもたちと一緒に桜島に上陸。そして、真っ青な海を望む人気の足湯、めったにお目にかかれない雪化粧の桜島、車いすに装着したハンドサイクルで走り抜ける「スーパーマグマロード」、夕陽でオレンジ色に染まる山肌などの絶景をめぐる。また、桜島大根をふんだんに使ったスペシャルランチ、名物の椿油が隠し味の絶品ちゃんぽん、港で作ってもらったとれたての「うに丼」などグルメも満喫。さらには、大根畑で重さ15キロの大物を収穫したり、小舟で渡った人口わずか2人の小島でアコウの巨木を探検したりと、旅先ならではの冒険も!放送は15分×全5回。ゆったりのんびりペースで、日本の“美しさ”をじっくり味わう“ぼちぼち旅”で知らなかったニッポンを再発見する。ぜひご覧ください。【放送予定】NHK BS 4月28日(月)~5月2日(金) 午前7:45~8:00NHK BSP4K 4月21日(月)~4月25日(金) 午前7:45~8:00
日本で初めて開催された「パラ水泳ワールドシリーズ」

日本で初めて開催された「パラ水泳ワールドシリーズ」

4月10日〜12日、静岡県富士水泳場で「パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡2025」が開催された。ワールドシリーズは、世界パラ水泳連盟(WPS)が主催する国際大会のシリーズ戦。今年は、2月のオーストラリアを皮切りに、10月のペルーまで8大会が開催される。パラリンピックや世界選手権出場のための記録が認定されるほか、国際クラス分けも実施され、育成世代の選手の登竜門的な存在でもある。そして、富士・静岡大会は、日本で初めて開催されるワールドシリーズだ。ワールドシリーズの特徴は、パラリンピックや世界選手権と異なるポイントシステムで競技が行われること。パラリンピック、世界選手権は、選手は属するクラスごとに競技・表彰が行われるが、ポイントシステムでは異なるクラスの選手が同じレースを競い、WPSが定めるポイントシステムの計算式によって順位が決められるというもの。冬季パラスポーツのアルペンスキーやノルディックスキーで採用されている係数システムに相当すると考えれば、わかりやすい。普段は、同じクラスの選手と競い合うが、このシリーズでは異なるクラスの選手と競い合うことになる。日本でのポイントシステムによる競技大会も、今回が初めてだ。大会は、予選ヒートが行われ、そのタイムから1〜8位がA決勝、9〜16位がB決勝に進出。さらに、U-18の選手によるY(ユース)決勝が実施される。ユースの選手の予選順位がA決勝に入れば、Y決勝ではなくA決勝に進出できる。パラリンピックとは異なる、ポイントシステムで競技が行われた。パラリンピックでは選手は属するクラスごとに競技・表彰が行われるが、ポイントシステムでは異なるクラスの選手が同じレースを競い、WPSが定めるポイントシステムの計算式によって順位が決められる山口尚秀が男子100m平泳ぎ(SB14)で世界新記録!2023年3月に自身が出した1分02秒75の世界記録を2年越しに更新し、1分02秒64で優勝した山口尚秀「前半、もっと突っ込んでいきたかったのですが、力が出せず、でも、後半にペースを取り戻すことができました」とレースを振り返った山口(中央)ハイライトは、大会初日にいきなり飛び出した。男子100m平泳のA決勝に出場した、SB14クラスの山口尚秀が、1分02秒64で世界新記録を樹立し優勝した。「決勝前、スタート時刻が遅れてコールルームで長く待たされてしまい、気持ちが落ちたままスタートしました。展開としては、前半、もっと突っ込んでいきたかったのですが、力が出せず、でも、後半にペースを取り戻すことができました」と、語った。これまでの世界記録は山口が2023年3月に、同じ静岡県富士水泳場で出した1分02秒75。2年越しとなる記録更新だった。男子400m自由形Y決勝で4分18秒16と予選よりも10秒以上もタイムを短縮して優勝した川渕大耀(S9)。今年シンガポールで行われる世界選手権出場の派遣基準記録(21歳以下)を突破して出場権をゲットした一方、ユース世代の選手の中で活躍が光ったのが、17歳高校生の川渕大耀(S9クラス)だ。昨年、パリパラリンピックに初出場し、S9クラス男子400m自由形で7位に入賞。得意とする同種目が大会最終日の12日に行われた。予選では4分29秒59のタイムで、全体12位のタイムだったが、Y決勝では4分18秒16と、予選よりも10秒以上もタイムを短縮して優勝。今年シンガポールで行われる世界選手権出場のための派遣基準記録(21歳以下)を突破したことで、世界選手権への切符を手にした。「予選では、決勝のために抑えて泳いだことでタイムを伸ばせず、A決勝に進めなかった。チームメイトのみんなが“一緒にシンガポールに行きたい、行こう!”と応援してくれたことで、最後の最後まで折れずに泳げました」と、喜びを爆発させた。世界新記録を樹立した山口、21歳以下の派遣記録を突破した川渕のほか、パリパラリンピックで金メダルを獲得し今大会に出場した鈴木孝幸、木村敬一、また、今大会で派遣基準記録を突破した窪田幸太、辻内彩野、石浦智美、西田杏と、田中映伍(21歳以下)が、世界選手権の出場を決めた。取材・文/宮崎恵理 写真/吉村もと
大阪駅直結。うめきた広場で男女のブラインドサッカー国際大会が5月に開催!

大阪駅直結。うめきた広場で男女のブラインドサッカー国際大会が5月に開催!

5月18日〜25日、ブラインドサッカーの国際大会『ダイセル ブラインドサッカーウィークinうめきた』が、大阪・グランフロント大阪のうめきた広場で開催される。昨年、男子の同大会がオープンしがばかりのうめきた広場で開催され話題を集めたが、今年は男子だけでなく女子カテゴリーの国際大会も同時開催される。その大事な組み合わせ抽選会が、4月9日に行われた。今大会の特徴は、IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)公認のハイレベルな国際大会であること。男子カテゴリーは、世界ランキング8位以内の国のみが出場できるエリートカップで、これはIBSAが新設した大会だ。アルゼンチン(1位)、タイ(6位)、コロンビア(8位)、そして日本(3位)が出場する。一方、今回日本での公式戦として初開催となるワールドグランプリ女子大会には、日本(1位)のほか、イングランド(4位)、アルゼンチン(5位)、オーストラリア(国際大会初出場のためランキングなし)の4カ国が対戦する。大会は、男女とも総当たりの予選ラウンドを戦い、その結果により1位と4位、2位と3位による準決勝、そして3位決定戦、決勝が行われる。世界同時配信での抽選の結果、男子の初戦はコロンビア、女子の初戦はアルゼンチンと対戦することが決まった。男子のカードは、昨夏パリパラリンピックの予選ラウンド初戦のカードと同じ。この時には前半にコロンビアに先制され、そのまま敗北を喫した。1年後の今年、新たなチーム編成で、リベンジを図る。女子は、パラリンピック種目採用を目指しての重要な国際大会の一つになる。アルゼンチンとは、世界選手権のほか、さいたまノーマライゼーションカップなどでこれまでに何度も対戦経験はあるが、IBSA公式戦ということで、両国ともさらに力が入った戦いを見せるはずだ。男子主将の川村怜は「昨年の同大会は、たくさんの人が足を止めてプレーに応援を送ってくれた。素晴らしい体験でした。個人的にも(出身地である)大阪での開催は、とても嬉しい。ブラインドサッカーの魅力を、プレーで発信したい」と語る。また、女子主将の若杉遥は「2023年の世界選手権では、決勝でアルゼンチンに1−2で敗れました。今大会はリベンジマッチ、まずは初戦で1勝し、優勝を目指したい」と、意欲を見せた。大阪・梅田駅前のうめきた広場が、ブラインドサッカー一色に包まれる1週間。ロサンゼルスパラリンピックに向けた日本と、世界のブラインドサッカーの醍醐味を体感してほしい。大会詳細は、以下、ご参照を。https://blindfootballweek.b-soccer.jp文・写真/宮崎恵理
大きくバージョンアップして開催された「BOCCIA JAPAN CUP 2025」

大きくバージョンアップして開催された「BOCCIA JAPAN CUP 2025」

4月5日~6日、東京体育館でボッチャのインクルーシブ大会である「BOCCIA JAPAN CUP 2025」が開催された。TOKYO CUPからJAPAN CUPに名称が変わり、大きくバージョンアップした大会となった。全国の地区予選を勝ち抜いたチームのほか、日本代表チームの火の玉ジャパンメンバーをはじめとする招待チーム全48チームが集結。5日は12グループに分かれて予選ラウンドが行われ、その結果から16チームが翌6日に決勝トーナメントを戦った。この大会は、障がいのある人もない人も参加可能で、ボッチャを愛する人がチームを結成して出場できることが大きな特徴。年齢も、性別も、競技歴も関係なく出場でき、テクニックと戦術、戦略を駆使して勝ち進むというまことにインクルーシブな大会である。各チーム3人が出場するチーム戦で、一人2投ずつ全6投で1エンド、予選ラウンドから準決勝までは1試合2エンド、3位決定戦と決勝のみ4エンドで競われる。今回の目玉は、なんといっても、昨年パリパラリンピックのボッチャ個人種目BC2で金メダルを獲得したタイのワラウット・セーンアンパ選手率いるタイ代表チームが参戦すること。また、東京2020パラリンピックの同種目で金メダルに輝いた杉村英孝選手、パリ大会銅メダルの廣瀬隆喜選手ら、火の玉ジャパンのメンバーもチームRED、BLUEと2組が参戦した。一方、オリンピックの柔道で活躍したオリンピアンチーム、今年行われるデフリンピックでメダル獲得が期待されるデフバレーボールのスタッフによるチーム、オリンピック、パラリンピックの競泳選手によるオリパラチーム、パラ卓球チームなどもボッチャに挑戦した。パラ卓球チームも参戦。予選敗退するも、イベントを楽しみ、決勝トーナメントを食い入るように観戦していた多様性に満ち満ちた48チームの中で、今大会目を引いたのが、新潟カップを勝ち抜いて初出場したチーム「ゆでたまご」。高校2年生の小島惺那選手、1年の咲音選手姉妹と、同じく1年の春日桜佳キャプテンによる高校生チームだ。予選ラウンドでは2勝1敗で決勝トーナメントに進出。準々決勝では火の玉ジャパンBLUE(BC3クラス、BC4クラス)を2−1で下して準決勝へ。その準決勝でタイ代表と対戦し惜しくも0−3で敗れ、3位決定戦でわくわくわらっぴーに3位を献上したものの、キャプテンの春日選手は、今大会のMVPに輝いた。準決勝でタイ代表チームと対戦したゆでたまご火の玉ジャパンBLUEとの対戦では、1エンド目にゆでたまごが1−0でリード。2エンド最後にBC3ベテランの有田正行選手がジャックボールの上にボールを乗せて同点とした。セカンドボールの位置を審判が測定し、ゆでたまごに軍配が上がったのだった。会場からは大きな拍手が沸き起こっていた。もともと、地元・十日町で小学生のスポーツチャンバラを楽しんでいたが、コロナ禍でできなくなり、そこから指導者の福原芳昭氏がボッチャを広めて、週3回の練習を重ねて今大会の出場を果たしたという。「1カ月くらい前からやっと6ボックス(ボッチャコート)で練習できるようになりました。もっと前からやっていたら、もっといい成績だったかも」(小島・姉)「ボッチャ始めてすぐに地元の大会とかに出場するようになって、どんどんおもしろくなっていきました」(小島・妹)「十日町では、すごくボッチャ、人気があります。多分、新潟県で一番ボッチャやっている人が多いと思います」(春日)ちなみに、「ゆでたまご」というチーム名は、ボッチャの大会に出場するようになってチーム名を考えるときに、仲間の一人が「ああ、ゆでたまごが食べたいなあ」と言ったひと言で決まったのだとか。ユニークさではピカイチで、3人とも気に入っている。「JAPAN CUPは、去年優勝して今年2位になった川崎ボッチャーレとか、すごくかっこいいチーム名ばかり。来年はもしかしたら、チーム名を変更するかも」来年には、緊張しないように、さらに集中力と体力をつけて、もっと上の成績を目指すと語る。ゆでたまごの面々。左から小島惺那、春日桜佳、小島咲音の各選手ゆでたまごのキャプテン・春日桜佳選手は大会MVPに輝いた 優勝したタイ代表チームのセーンアンパ選手は、3年前にも1度、今大会に出場した経験があるが、その時は予選敗退だった。「タイには、この大会のように健常者と障がい者が一緒に競い合うような大会はありません。日本のボッチャ人気と、レベルの高さにすごく驚いています」優勝したタイ代表チーム決勝で惜しくもタイ代表チームに敗れた昨年チャンピオンの川崎ボッチャーレ、キャプテンの鶴井純一朗選手は、「パリパラリンピックの金メダリストと対戦できるのはすごく光栄でした。正直、ものすごく強くて、これまでみたことのない世界を見せてもらいました」と、語った。2位の川崎ボッチャーレ3位のわくわくわらっぴー来年には、誰もが頂点を目指せるボッチャ個人戦の最高峰大会となるBOCCIA GRAND PRIXが開催予定だ。どの選手も今から楽しみにしていると語る。ボッチャは、ますます熱くなる!文・写真/宮崎恵理
新スローガンは「挑め未来!」。ロサンゼルス2028パラリンピックを目指し、日本パラ陸上の新体制が発足

新スローガンは「挑め未来!」。ロサンゼルス2028パラリンピックを目指し、日本パラ陸上の新体制が発足

3月27日(木)、日本パラ陸上競技連盟の「中期計画・強化方針」記者会見が行われた。登壇したのは、日本パラ陸上競技連盟会長・増田明美氏、今年から専務理事に就任した杉本敦男氏、同じく新たに強化委員長に就任した鈴木徹氏、知的障害クラスのハイパフォーマンスディレクター・奥松美恵子氏の4名。2028年に開催されるロサンゼルスパラリンピックに向けた中期計画と強化方針と、連盟の新スローガンおよびロゴが発表された。連盟の主な活動目的は「障がい者が陸上競技を通じ、元気で、生き生きする共生社会の実現」であり、その過程としてロサンゼルスパラリンピックでの目標達成を目指している。今回、新たに強化委員長に就任した鈴木氏は、2000年シドニー大会から2021年東京大会まで走り高跳びやリレーに出場。パラリンピアンの強化委員長誕生は初めてだ。長年の経験を活かし、強化委員長という立場で後進をサポートしていくという。「パラ陸上の日本チームは、東京大会では金メダル2個を含む全11個のメダルを獲得しましたが、昨年のパリ大会では金メダル0、総数9個に終わりました。3年後のロサンゼルス大会では、金メダルを含め全13個以上のメダル獲得を目指します」(鈴木氏)そのための方策として、ゴールドメダルターゲット選手や、メダル獲得が期待される注目選手への包括的なサポートとともに、現在、一般の陸上競技で活躍している障がいを持つ選手を含めた即戦力選手の発掘や育成、そして競技力向上のための環境を整えていくとのこと。映像分析や心理・栄養サポートなど、選手の競技力向上を後押しするチームとしての環境整備はもちろんだが、例えば日本で国際グランプリ大会開催する、また、ガイドランナーの増員や子育てアスリートたちの支援など、支えるスタッフの強化や育成にも力を注いてくそうだ。知的障がいクラスは、2012年のロンドン大会からパラリンピックに出場しているが、日本はまだメダルを獲得していない。ロサンゼルス大会では、悲願のメダル獲得を目指して、400m、1500m、走り幅跳びで活躍が期待される若手選手を中心に強化を図っていく旨が発表された。今回の活動スローガンは、パラ陸上に携わる選手をはじめ、広く関係者から公募した。3月3日から23日までの20日間に124もの応募があり、その中から選ばれたのは、脳性麻痺クラスの坂口美果選手による「挑め未来!」だ。シンプルで力強い言葉とロゴが、今後パラ陸上競技のさまざまなシーンで見られることになる。新しく専務理事に就任した杉本敦男氏は、2024年3月まではコーヒーメーカーや暖房器具などの家電メーカーであるデロンギ・ジャパン株式会社の代表取締役社長だった。もともとサッカーやホッケーに親しみ、40代でフルマラソンを始めたスポーツマンでもある。社会貢献としてパラ陸上競技に興味を持ち、連盟の専務理事に就任した。「昨年、神戸で開催された世界パラ陸上競技選手権をライブで見て、本当に感動しました。スポーツはワクワクするじゃないですか。そのワクワク、感動をどう伝えていくか、広めていくか。パラ陸上競技のブランディングや、どういう人が興味を持って応援してくれるかというマーケティングなどで力を尽くしていきたいと思っています」(杉本氏)今年4月26日~27日には愛媛県で日本選手権、6月7日~8日には宮城県でジャパンパラ陸上競技大会が開催される。新しい体制で一丸となってロサンゼルスパラリンピックを目指す日本パラ陸上競技連盟の第一歩に、期待しよう。文・写真/宮崎恵理
車いすカーリング混合ダブルスの小川亜紀、中島洋治が世界選手権優勝! ミラノ・コルティナ2026パラリンピックの内定第一号に!

車いすカーリング混合ダブルスの小川亜紀、中島洋治が世界選手権優勝! ミラノ・コルティナ2026パラリンピックの内定第一号に!

イギリス・スティーブンストンで開催されていた「世界車いすカーリング混合ダブルス選手権」。3月16日に決勝が行われ、小川亜希、中島洋治組が優勝した。日本勢の車いすカーリングでの世界選手権優勝は初。来年のミラノ・コルティナ冬季パラリンピックの出場枠も獲得し、49歳の小川と、16日に61歳となった中島が日本勢の代表内定第1号となった。金メダルを携えた小川・中島が、凱旋帰国し、羽田空港で緊急記者会見が行われた。小川、中島組は、決勝でスコットランドのペアに11対2で完勝。「予選ラウンドでは2勝2敗、それでも最後まで諦めることはありませんでした。まだ(金メダルの)実感は湧きません」(中島)。「中島さんの”神”のようなスーパーショットで優勝にたどり着きました」(小川)小川・中島組は、2010年バンクーバー大会でパラリンピック出場を経験している。混合ダブルスは、ミラノ・コルティナ大会の新種目。2022年の世界選手権に向けて新たに混合ダブルスにも取り組み、今回の金メダルを勝ち取った。「混合ダブルスは、ドローショットの精度が決め手になる。その精度を磨いてきたことが今回の結果に繋がった」(中島)。「最初の一投も大事ですが、ショットのバリエーションがないと展開に対応できない。残り1年、さらにショットの精度を高めたい」(小川)ミラノ・コルティナパラリンピックに向けて、さらなる高みを目指す。文・写真/宮崎恵理
車いすバスケ女子の国際大会「大阪カップ」で広がる温かな交流

車いすバスケ女子の国際大会「大阪カップ」で広がる温かな交流

寄稿:早川忠宏(Sports PR Japan株式会社)「オージー! オージー!」。Asueアリーナ大阪(大阪市中央体育館)の高いスタンドから子どもたちの声援がオーストラリアの選手たちに降り注ぐ。「2025国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会(通称・大阪カップ)」の初日に当たる2月14日、日本代表とオーストラリア代表が対戦した開幕戦のスタンドには活気があった。カナダ代表、タイ代表も加えた4チームで争う、日本国内唯一の女子車いすバスケットボール国際大会である。2000年シドニーパラリンピックで車いすバスケットボール日本選手団総監督を務めていた高橋明氏(当時、大阪市障害者福祉・スポーツ協会職員)らが、その人脈を生かして、2003年に男子大会として始まり、2007年から女子大会となった。20年以上続いている。国際親善の輪を広げる学校交流大会名にある「国際親善」は、代表チーム同士のことだけを指しているわけではない。子どもたちが海外の選手を応援する温かい雰囲気に包まれている。長年にわたり、開幕前の2日間に出場チームの選手が大阪市内8区の小中学校、計8校を訪問して交流を深めている。そこで触れ合った選手たちのプレーを見つめていた。金曜日のこの日は小中高と事業所を合わせて27団体からの2276人を含む、3144人が来場。入場は無料で、土日には一般来場者も多く、3日間で前年比微増の8086人を集めた。試合の合間には、コート横のチャレンジコーナーで車いすに乗ってシュートを打つ体験もでき、肢体不自由のある小中高生が各国の代表選手から特別レッスンを受ける時間もあった。試合を終えたオーストラリア代表のシェリー・マセソン選手は「ここに来てプレーできることがすごくうれしいです。それはやっぱり、子どもたちの応援が非常にたくさんあることです」と大きな笑顔を見せた。取り残される人をつくらないMCこの雰囲気づくりの中心にいるのが、音楽・タレント活動も行っている場内MCの「たつを」さん。「まじめでかっこよくではなく、わっと盛り上げるタイプのMCを探していたようで声をかけられました」。2020年から担当している。この日は、子どもたち以上に目立っていた引率の先生をいじって、スタンドを沸かせた。プロのバスケットボールチームでの経験は長く、大阪エベッサで10年、今もBリーグのアルバルク東京で試合会場を盛り上げる。「車いすバスケは競技としておもしろいもの。ハンディキャップがある方がやる、というイメージは絶対に与えたくないので、表現にはすごく気を使っています」。Bリーグが今ほど人気がなかった時代を知っているだけに、車いすバスケットボールを初めて見る人がいることを考慮し、前半は細かく何が起きたかやルールを伝える。また、国際親善という主旨を踏まえ、日本戦でも日本の守備を「ディフェンス!」と声を出して応援するのではなく、敢えて相手チームを応援する形にしている。タイムアウトなどで間が空くと、場内スクリーンには配布されたハリセンを鳴らす応援を促す動画が流れた。立っている人も車いすに乗っている人も並んでいて、振り付けは簡単だ。「取り残される人をつくりたくなかったんですよ」とたつをさんは言う。「スタッフの方の温かいエネルギーを、僕も感じているし、選手にも伝わっているでしょう」と、やさしく笑った。場内MCをつとめたたつをさん長年障がい者スポーツを取材してきた山口一朗氏が大会事務局長にこの大会は、一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟(JWBF)、社会福祉法人大阪市障害者福祉・スポーツ協会、大阪市の三者が主催している。事務局長を務めるのは、同協会の障がい者スポーツ振興部スポーツ振興室長の山口一朗氏。毎日新聞の記者として「パラスポーツ」という言葉も一般的でなかった1990年代から、この分野に情熱を注いできた。昨年7月に、取材先でもあった同協会に転職。前回の大阪カップでは事務局次長を務め、今回初めて事務局長となった。「学校交流は、選手も子どもたちも本当に楽しみにしている特別な時間」と語る。大阪市は24区あり、例年、4カ国の選手たちを8区の8つの小中学校に振り分けて訪問している。今回、希望する学校は二十数校に及んだが、この地域親善交流会を主催する大阪市があらかじめ設けた選考基準に基づき、8校を選んだ。タイ代表は13日朝に到着したにもかかわらず、そのまま午後には学校訪問を実施。同行した山口氏は、「初めて障がいのある人に触れる子どもたちも多い。キラキラした目で見つめ、こちらも胸が熱くなった」と振り返る。スタンドでは多くの小中学生が応援山口氏がパラスポーツに関心を持ち始めたのは、1993年から4年間勤務した毎日新聞奈良支局で障がい福祉施設「たんぽぽの家」が拠点となって開いていた音楽・アートイベントを度々取材したのがきっかけだった。ある時、音楽イベントの中心人物に、「障がい者のスポーツもあるんですか」と問いかけたところ、障がい者野球チームを紹介された。その後、自身も激しい腰痛で日常生活に支障をきたす経験をし、「体の不自由な人々にとって、世の中はどれほど大変なのか」と痛感。記者として「ペンの力で変えられないか」と模索するようになった。長野冬季パラリンピックを前に、大阪から東京や横浜へ足を運び、パラスポーツ関係者への取材を行ったこともある。1998年、大阪運動部に所属していた際、歌手の桑名正博さんが健常者も参加できる車いすバスケットボールチームを結成したことを記事にした。この時、大阪市長居障害者スポーツセンターの高橋明氏と出会い、以降も新聞がパラスポーツを取り上げる機会が少ない時代に、何度も連絡を取り合い、記事を執筆してきた。20年以上続くこの大会の歴史の重みも感じている。「日本代表女子の強化として、大事な大会。今回はロサンゼルス・パラリンピックを視野に、日本の若手が多く出場し、オーストラリアやカナダの若手と直接プレーした」また、選手たちにとっても、子どもたちとの交流は大きな意味を持つ。毎日新聞社オリンピック・パラリンピック室にいた時に、英国代表のロビン・ラブ選手が「子どもたちは言葉が通じなくても笑って、一生懸命応援してくれる」などとオンライン取材で語っていたことを思い出す。昨年、大阪カップに英国代表が出場した際、立場の変わった山口氏は関西国際空港でラブ選手と対面。「ナイストゥ・シー・ユー・アゲイン(また会えてうれしいです)」と声をかけると、相手も覚えていてくれたことに驚いた。タイムアウト中の日本女子代表チーム大会存続への課題と展望事務局長の立場としては、大会を継続することこそが、最も重要だと考えている。そのため、運営は自前のスタッフを中心に行い、費用を抑える工夫をしてきた。今大会も、JWBFの分担金や個人からの寄付などを除き、約2500万円の運営費の大部分をスポンサーの支援で賄った。しかし、物価や人件費の高騰が続く中、財源確保は大きな課題となる。現在は、新規スポンサーの開拓に加え、助成金や補助金を活用したいと取り組み始めている。さらに、もう一つの大きな課題が会場問題だ。2027年から2028年には、長年使用してきた施設が大規模改修に入る予定であり、新たな会場を確保しなければならない。車いすに対応した観客席付きのスポーツ施設を見つけるのは容易ではないが、選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることが不可欠だ。大阪カップの注目度はある程度あるが、単なる一大会にとどまらず、これを契機に他の車いすバスケットボール大会や障がい者スポーツセンターへの関心が広がることを期待している。「(事務局次長から事務局長に)立場が変わったせいかもしれませんが、今年の大会は昨年よりも賑やかだったと感じました」と山口氏。この活気を絶やさぬよう、今回の反省を活かし、来年の大会準備は5月ごろから本格的にスタートする予定だ。写真/Sports PR Japan株式会社
デフサッカー男子、国立競技場で初マッチ。デフリンピックの金メダル目指し、JFLクリアソン新宿と強化試合

デフサッカー男子、国立競技場で初マッチ。デフリンピックの金メダル目指し、JFLクリアソン新宿と強化試合

4月2日、サッカーの聖地、国立競技場で歴史的な一戦が開催される。聴覚障がいのある選手によるデフサッカーの日本男子代表が、日本フットボールリーグ(JFL)のクリアソン新宿とエキシビジョンマッチを戦うのだ。この試合は、今年11月に日本で初開催されるデフアスリートの祭典「東京2025デフリンピック」に向けた、デフサッカー日本男子代表の強化と大会機運醸成などを目的に行われる。日本デフサッカーにとって「聖地」での試合は史上初となる。日本代表の世界ランキングは6位(2025年1月時点)だが、2023年には19カ国が参加して行われた「第4回ろう者サッカー世界選手権」で初めて決勝に進出した。ウクライナに1-2で敗れたが、準優勝はチーム史上最高の順位だ。東京デフリンピックではその上、つまり初の世界王者を目指している。東京デフリンピックのサッカー競技は、男女ともJビレッジ(福島県)で実施される。「デフ」とは英語の「deaf」で、きこえない人、きこえにくい人を意味する。デフサッカーの基本的なルールは11人制サッカーと同じだが、プレー中は補聴器など支援機器の使用は禁止されていることから、「音のないサッカー」という愛称で呼ばれる。選手はそれぞれのきこえ方でプレーするため、主審は笛だけでなく、フラッグ(手旗)も併用して視覚的にも合図する点が大きな特徴だ。国際試合ではさらに、両ゴール裏にも一人ずつ審判員が配置され、合計5人のフラッグを持った審判員が多方向からプレーの停止などの情報を選手に伝える工夫をしている。選手同士やベンチとのコミュニケーションには、手話やジェスチャー、アイコンタクトなどを駆使する。監督は戦術ボードを使って指示を与えることもあるという。練習の積み重ねによって培ったチームワークで、連係プレーやセットプレーなどを巧みに実行し、ゴールを狙う。歴史的一戦に向け意気込み1月28日行われたエキシビションマッチ開催会見に出席した、左からデフサッカー男子日本代表の古島啓太副主将、松元卓巳主将、吉田匡良監督、クリアソン新宿の北嶋秀朗監督、須藤岳晟主将、丸山和大代表取締役CEO1月28日には、エキシビションマッチ開催の記者会見が国立競技場で行われ、デフサッカー男子日本代表を率いる吉田匡良監督が大会開催の経緯を説明した。昨年5月の監督就任以来、競技に真摯に取り組む選手たちの姿を目の当たりにし、「選手一人ひとりからパワーを感じました。選手たちをもっと日の当たるところに出させてあげたいという思いを強くしました」そこで、面識のあったクリアソン新宿の丸山和大代表取締役CEOに相談したところ、同チームの北嶋秀朗監督も快諾。今回のエキシビションマッチ開催が実現したという。吉田監督は、「国立といえばサッカーの聖地。ここで試合ができることは、本当に幸せです。デフリンピックの認知度はまだまだです。試合に来てもらえれば、健聴者と何も変わらない、『本当に耳がきこえないの?』と思ってもらえるパフォーマンスが見られるはずです」と力強く語った。日本代表の松元卓巳主将は、「僕は日本代表が19年目。以前は代表の練習といえども、学校の校庭や土の公園でやっていたので、サッカーの聖地で試合ができることは夢の夢でした。支えてくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです。11月のデフリンピックで世界一を目指して日の丸を背負うので、どこが相手でも負けていい試合はありません。ガチンコで試合ができればと思っています」と意気込んだ。古島啓太副主将は、「デフサッカーの知名度はまだまだなので、この試合を通じて盛り上げられるように頑張りたいです。JFLというカテゴリーのチームと試合をするのは初めてですが、世界一を目指す上で勝たないといけないと思う。結果にこだわってやっていきたいです」と力を込めた。対戦相手のクリアソン新宿は、国立競技場のある新宿区を本拠とするクラブチームだ。「クリアソン」はポルトガル語で「創造」意味し、「サッカーを通じて世の中に感動を創造し続ける存在でありたい」をミッションに掲げている。北嶋監督は、「僕らも本気で戦って、デフリンピックで優勝してもらえるような一つの力になれればという思いもある。対戦をとても楽しみにしています」と話した。須藤岳晟主将は、「本気で戦うことでお互いに学びがあると思う。勝利に向けて戦っていきたいです」と熱戦を誓った。なお、観戦チケットは2月10日に販売が開始された。全席自由で、前売り券は大人2500円、高校生は1500円、中学生以下は無料となっている。「観客1万人」を目指しており、エキシビションマッチのほか、デフスポーツ体験ブースなど会場イベントもさまざま予定されている。憧れの聖地でデフサッカーの魅力も伝えたい男子日本代表と、その思いを受け止め真っ向勝負を誓うクリアソン新宿。注目の一戦は4月2日午後7時にキックオフだ。熱戦が期待される。▼観戦チケット(イーサイト公式サイト)URL: https://eplus.jp/japanfootballlive20250402/取材・文/星野恭子写真提供/日本ろう者サッカー協会
車いすバスケットボール「第50代王者」決定戦が1月31日開幕!

車いすバスケットボール「第50代王者」決定戦が1月31日開幕!

車いすバスケットボールのクラブチーム日本一決定戦、「天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権大会」が1月31日から2月2日まで3日間にわたり、東京体育館(東京都渋谷区)で開催される。今大会は、1970年に7チームが参加した第1回大会から数え、50回目の節目となることから、例年の8チームから16チームに倍増して開催される。この16チームは全66チームがエントリーし、全国10ブロック別に行われた1次予選会の各優勝チームと、東日本・西日本エリア別の2次予選会でそれぞれ3位までに入った6チームだ。常連チームだけでなく、北海道から沖縄まで全国各地からチームが集い、頂点目指して激突する。見どころは多い。まず、東京パラリンピックでも活躍した鳥海連志や古澤拓也など実力者を多数擁し、大会連覇中の神奈川VANGUARDS(関東ブロック)が3連覇を達成するかが注目される。もちろん、他の15チームにも頂点に立つチャンスは平等にあり、どの試合も見逃せない。また、この天皇杯はパラリンピックなどの国際ルールとは異なり、男女混成で、障がいの有無に関わらず出場できる点が特徴だ。選手はそれぞれ、障がいの有無や程度に応じて「クラス」に分けられ、それを「持ち点」としてチームが構成される。公平性を考慮しながら、それぞれの強みを生かしたパラスポーツならではの、インクルーシブな試合であることも醍醐味だ。さて、開幕1週間となった1月24日には記者会見が開かれ、出場16チームから3チームの代表選手3名が登壇し、大会の目標や意気込みなどを語った。冒頭写真左から、竹内厚志(ワールドバスケットボールクラブ)、丸山弘毅(神奈川VANGUARDS)、北風大雅(埼玉ライオンズ)。神奈川VANGUARDSで、前回大会MVPにも選ばれた丸山弘毅は、「チームとして、神奈川らしいバスケを4試合貫き、3連覇を達成したい。そのために、3ポイント(シュート)とインサイドを使ったプレーなどオフェンス力を強化してきた。個人としても1年間、それに取り組んできた。1回戦からいいパフォーマンスをして、3連覇に貢献したい」と力を込めた。西日本第2次予選会で優勝し出場権をつかんだワールドバスケットボールクラブ(東海北陸)の竹内厚志キャプテンは、「チームも1985年創立の40周年になる。4連覇していた時代もあるが、ここ20年以上優勝から離れているので、もう1度、強いワールドを取り戻したい。『ワールドという名は日本一でなく、世界一を目標に名付けた』と聞いている。(今大会で)通過点となる日本一になり、もっと上を目指したい」と意気込む。チームの選手数は昨年から5割増しの12人に増強した。率いる竹内は、「1点でも多く取るなど勝つためにやるべきことを全うしたい」と個人の目標も口にした。東日本第2次予選会優勝チームの埼玉ライオンズ(関東)から北風大雅キャプテンも登壇した。ライオンズは昨年大会で、決勝戦の試合終了間際まで王者VANGUARDSをリードしていたが、逆転されての2位。「すごく悔しかった。チームは昨年から2選手が抜け、新たに2選手が入った。全員で基礎に立ち返ってフィジカル強化に取り組み、どのチームよりも走ってきた。それが自信になり、力になっている。(今大会で)しっかり発揮して、チーム初の日本一を取りたい。個人としてはキャプテンとしてパッションを常に出し、チームにエネルギーを与えられるよう全力でプレーしたい」と、決意を新たにしていた。参加数が16チームに増えたことについては、「全国各地のチームを一堂に見てもらう機会になる」(丸山)といったポジティブな受け止めとともに、頂点に立つには3日間で最高4試合に勝ち続けなければならないため、「試合数が増えるのは楽しみだが、きつい。総力戦で頑張らないといけない」(竹内)と気を引き締める声も。さらに、「1回戦は普段あまり対戦機会のないチームが相手。情報が少なく、難しい試合になる」(北風)など、例年とは違う大会であり、特別な緊張感があることを伺わせた。「チーム内から一人、『注目してほしい選手』を挙げるとしたら?」という質問に対しては、チームそれぞれの雰囲気を感じさせる答えが返ってきた。丸山は、「前田柊キャプテン」を挙げた。競技歴は5年とチームでは最も浅いが、クラス1.5のローポインターながらスピードがあり、攻守にわたってハイポインターを活かすプレーでチームへの貢献度が高いという。丸山は、「スタッツに残らないが、得点シーン以外のところで活躍してくれる。彼がいることで、チームの武器であるトランジションバスケが成り立っている」と話した。竹内が挙げたのは、競技歴約40年で日本代表歴もあるベテランの大島朋彦(クラス4.0)だ。高さを生かしたディフェンスを強みとし、特に相手選手の後方からボールだけをさっと奪うプレーが得意だという。熊が川で鮭を狩る姿に似ていることから、「チームでは、『鮭狩り』と呼んでいる。そのプレーが出るとチームも盛り上がる。その瞬間を見てほしい」と、笑顔でアピールした。北風は、チームで唯一の女子選手、財満いずみ(クラス1.0W)を挙げた。パリパラリンピック女子日本代表でも活躍した選手だが、「男子の中に混ざって出るのはハードだと思う。でも、一人で男性のハイポインターを止める守備力がある。また、ハーフコートオフェンスでもインサイドにカットインするプレーが上手い」と紹介。シューターを陰でアシストする財満の「忍者のような動きにも注目してほしい」と話した。年に1度の頂上決戦。その「第50代王者」となり、歴史に名を刻むはどのチームか? 1月31日の開幕に向け、現在、観戦チケットが好評発売中。また、1回戦から決勝戦まで全16試合がYoutube配信されることも決定した。車いすバスケットボール史に残る見逃せない戦いをぜひ!<天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権大会>・2025年1月31日(金)~2月2日・東京体育館(東京都渋谷区)▼試合日程・組み合わせhttps://jwbf.gr.jp/news/998▼チケット販売情報https://jwbf.gr.jp/news/1032▼Youtube配信https://www.youtube.com/@jwbf日本車いすバスケットボール連盟公式YouTubeチャンネルで、全16試合を映像配信2月2日の決勝戦には、楽曲を制作したアーティスト、GASHIMA from WHITE JAMがハーフタイムショーに出演!▼主な会場イベント・チーム・選手紹介コーナー・チームグッズ販売ブース(7チーム)・50回記念大会Tシャツ販売(数量限定)・車いすバスケットボール体験会/3x3体験会文/星野恭子
車いすで「信越トレイル」に挑戦!

車いすで「信越トレイル」に挑戦!

ヒッポキャンプ(アウトドア用車いす)で110㎞を踏破する前人未到の大プロジェクト車いすで山に登る。考えただけで、かなりの苦難が伴うことは想像に難くない。それなのに車いすで全長110㎞、標高差1893mの信越トレイルに挑戦しようというのが小林博子さん。前代未聞の壮大な挑戦をしようと思ったのはなぜか。2023年7月に試走で信越トレイルを訪れた小林さんを取材した。(この記事は「パラスポーツマガジンvol13(2023年9月27日発売)」に掲載の記事を一部加筆修正したものです)5年をかけて完全踏破を計画「信越トレイル」という長野と新潟の県境、開田山脈から苗場山麓エリアへ続くトレイルがある。長野県の斑尾山山頂からブナの森を抜け、日本古来の文化が残る秋山郷を通り、新潟県の苗場山山頂の高層湿原へと至る、全長110キロのロングトレイルだ。頂上を目指す登山とは異なり、尾根や渓谷、里山を歩いて楽しむことを目的に作られた。山頂を目指さないとはいえ、最高地点の標高は2145メートルにもなり、急斜面はもとより鎖場もある。この日本屈指のロングトレイルに、アウトドア車いすの「ヒッポキャンプ」で5年をかけて全線踏破にチャレンジしようというのが、40歳で事故により頸髄を損傷し手足に障がいがある小林博子さんだ。2023年7月4日、小林さんが本番前に信越トレイルの試走を行った。ヒッポキャンプでうまく通ることができたのか。長野県の斑尾山の北側、信越トレイルのセクション2で取材した。ヒッポキャンプは、フランス製のアウトドア用車いす。軽量かつ耐久性の高い素材で作られ、前輪に幅広の一輪を採用した3輪タイプ。操縦者用のディスクブレーキも搭載され基本は3人で介助する登りたい気持ちを大切にジャスト ワン トレイル小林さんが信越トレイルをヒッポキャンプで踏破しようと思ったきっかけは、52歳のときにデンマークのエグモント ホイスコーレに留学したことだという(2019年8月〜12月)。エグモント ホイスコーレンとは、特別な支援が必要な障がい者でも健常者と一緒に、スポーツ、アート、福祉などの科目を学ぶことができる寄宿舎型学校のひとつ。全生徒の3分の1が障がい者だという。「アウトドアスポーツが好きで、若い頃からダイビングやキャンプを楽しんでいましたが、けがをしてからは諦めていました。しかし、エグモントに留学して、自分がやりたいという気持ちさえあれば仲間に頼んで一緒に楽しく遊べるというのがわかったんです。帰国して1年ぐらい経った頃、エグモントで一緒だった女の子が、女性だけのグループで登山をした映像で見て、すごくカッコよかったので、自分もやりたいと思ったんです」そこで小林さんが目指したのはロングトレイルの走破。一緒に活動してくれる仲間は、エグモントで知り合った人たちに声をかけた。そして運よく、ヒッポキャンプを使ったプログラムを実施している「なべくら高原森の家」と信越トレイル事務局が協力してくれることになった。中央がこのプロジェクトの発起人の小林博子さん。小林さんを取り囲むのが今回のプロジェクト「just one trail」のメンバー。向かって左手前から時計回りに、平田さん、藤山さん、小泉さん、大田さん、石川さん。最後列は左から「なべくら高原 森の家」の小林さん、青木さん、信越トレイルクラブ事務局の鈴木さん、佐藤さん小林さんは、以前は信越トレイルのことには詳しくはなかったが、このトレイルを構想したものの全線が開通するのを見ることなく病で亡くなった加藤則芳さんの「歩きながら自然に触れ生き方を学ぶ」という理念に共感し、このプロジェクトを通してみんなに伝えたいと思うようになったという。初参加のメンバーにヒッポキャンプの扱い方をレクチャーする「森の家」の青木さん(右)。障がい者が自然の中で楽しむための専門的な知識を有するユニバーサル・フィールド・コンシェルジュでもある今回、ヒッポキャンプに初めて触れる小泉さん(左)、藤山さん(右)、石川さん(中)は、出発前に扱い方の練習今回試走したのは、信越トレイルのセクション2、赤池〜沼の原湿原の間の赤池ブナ林トレイル。距離はおよそ2キロ弱で比較的歩きやすいセクションだ。赤池の南側の尾根上に作られた赤池ブナ林トレイルは、名前の通りブナ林の中を通り、豊かな自然を堪能できる。休憩時に森林浴を満喫するメンバーたち 登りや下りでは介助者がハーネスを通してヒッポキャンプを支えなければならない。気を抜くと落ちてしまう比較的容易なセクションであるとはいえ、沼の原湿原の手前には急な下りがある。ヒッポキャンプを支えるには、メンバー、スタッフみんなで息を合わせることが非常に重要 沢にかかる橋を渡る際は5人でヒッポを支え、信越トレイルと森の家のスタッフが左右をサポート木道を避けエスケープルートに向かう際、小林さんを引きずりながら運ぶ。木道が狭いことは信越トレイルのスタッフにより事前にわかっていたが、本番前のトレイルの下調べの重要性を痛感スマートフォン用「スーパー地形」アプリで計測した、赤池から沼ノ原湿原までの試走の軌跡。上のグラフは軌跡の高低差を表している試走を終えて、最大の問題点は、ヒッポキャンプの車輪の幅より木道の幅が狭いこと。これでは単純に押して進むことは困難だ。森の家の青木さんによると、使用する車いすの機種の変更も視野に入れて対策を検討したいということだった。歩くのが容易なトレイルでも、ヒッポキャンプの場合、かなりの労力が必要になるのがわかった。また、ヒッポキャンプの扱いに慣れるのはもちろん、自然を楽しみながら歩くことの大切さを再認識した。小林さん自身の課題もあった。「体をしっかり固定しないと押す人がバランスを取るのがむずかしくなってしまうので、体幹ベルトを2本持って行きました。それでズレはないのだけれど、加齢もあり体幹が弱くなっているので横揺れに弱かった。本番に向けて体幹を強くするリハビリもしていけたらと思いました」5年で達成予定というこの壮大なプロジェクト。はたしてどんな試練が待ち受けているのだろうか。取材・写真/辻野 聡  取材協力/なべくら高原・森の家、NPO 法人 信越トレイルクラブ事務局
「つなげる」「育てる」をコンセプトに、車いすバスケ「MATSUNAGA CUP 2024」開催!

「つなげる」「育てる」をコンセプトに、車いすバスケ「MATSUNAGA CUP 2024」開催!

9月21日~22日、岐阜県大垣市で「MATSUNAGA CUP 2024」が開催された。この大会は、岐阜県障害者スポーツ協会と車いすメーカーの株式会社松永製作所の共催で、2022年から行われている。第3回目となる今年は、全国から35名のジュニアが参加。2日間にわたる濃密な時間を、思い切り楽しんだ。大会初日は、車いすバスケ体験会や車いすでのタイムトライアルなどのアクティビティ、大会に協賛する味の素株式会社による栄養講座が行われた後、パリパラリンピックの車いすバスケ競技に出場した日本代表選手を含む女子トップ選手たちに、車いすバスケの基礎を教えてもらうという、とても贅沢なプログラム。トップ選手のアドバイスがまるで魔法のくすりのように効いて、あっという間にうまくなる選手も見られた。2日目はお待ちかねのフレンドリーマッチ。選手は4つのチームに分かれ、午前中は総当たりの予選リーグが行われた。各チームにはトップ選手とコーチが入ってサポート。ゲーム前にシュート、パス、チェアワークなどをチームごとに練習した後、4分×4クォーターのゲームに臨んだ。ジュニアとトップ選手・コーチらが気持ちを一つにして試合に臨んだ選手たちはチーム力が同じ程度になるよう、各チームに振り分けられたのだが、びっくりしたのは、初めてチームを組んだとは思えないほどチームワークが良いことだ。ゲームの進め方をみんなが理解して動いている、と言ってもいいだろう。ボールを奪い仲間にパスをしてシュートチャンスを作る選手、そのパスからゴールを狙う選手と、各自の役割がうまく調和し、ずっと一緒に練習してきたんじゃないかと思わせるようなプレーが随所に見られた。初めて一緒にプレーするチームメイトにもかかわらず、息の合ったプレーが随所に見られた車いすバスケ女子日本代表でキャプテンを務める北田千尋選手(右から2人目)のアドバイスを熱心に聞くチームイエローの選手たち午後はトップ選手によるエキシビションマッチに続き、予選リーグの結果を受け3位決定戦と決勝戦が行われた。決勝を戦ったチームレッドとグリーンは、予選では6対6の引き分けと五分の戦いだったが、決勝戦でも実力伯仲の大接戦が繰り広げられ、試合は延長までもつれこんだ。結果、チームレッドの勝利となったが、観客を魅了する白熱したゲームに、大きな歓声と拍手がおくられて会場は一体となった。エキシビションは女子トップ選手による紅白戦。パラリンピックでも見せたスピーディで正確なプレーが目の前で披露され、参加したジュニアの目はくぎ付け!決勝戦のチームレッド対チームグリーンは、延長までもつれる大激戦に!「つなげる」と「育てる」をコンセプトに、障がいをもった子どもたちにスポーツを始める機会だけでなく、スポーツを楽しむ機会を提供したいという想いから始まった「MATSUNAGA CUP」。スポーツを始めた子どもたちとトップ選手、コーチが同じチームとなり、同じコートでスポーツをすることを通じて目標を持ち、スポーツを“続けたい”と思える大会を目指しているという。そのコンセプト通り、ジュニアたちは思いっきり体を動かして車いすバスケを楽しみ、選手・コーチが楽しさを伝え、引き出し、運営や演出・協賛社が大会を盛り上げ、支え、会場にいる者全員がハッピーな気持ちになれる大会だった。何よりも、参加したジュニアたちの生き生きした動きとキラキラした目は、スポーツの楽しさを存分に表していた。こうした”一生ものの体験”が、もっと増えていくことを期待したい。見事に優勝したチームレッド2位のチームグリーン3位のチームブルー4位のチームイエロー大会MVPの選手を中央にベスト5に選ばれたジュニアたち文・写真/編集部
【パラリンピック現地レポート】車いすテニス・上地結衣が2冠。「デフロートとの1戦1戦で、女子車いすテニスのレベルを向上させている、という感覚を互いに共有していると思う」

【パラリンピック現地レポート】車いすテニス・上地結衣が2冠。「デフロートとの1戦1戦で、女子車いすテニスのレベルを向上させている、という感覚を互いに共有していると思う」

日本は、車いすテニスの王国といえる。とくに、男子は、世界的レジェンドの国枝慎吾が引退したが、代わって華々しくデビューを飾った小田凱人が、栄光の軌跡を追いかけている。一方、女子はなんといっても、オランダが圧倒的な強さで車いすテニス界を牽引している。車いすテニスが1992年のバルセロナ大会からパラリンピックの正式競技となって以来、オランダは東京2020パラリンピックまで8大会で、シングルス、ダブルスともに金メダルを獲得してきた。どの国も、立ちはだかるオランダの牙城を崩したことがないのだ。精度の高い攻撃と相手のミスでダブルスを制した上地結衣/田中愛美組第3セットのマッチタイブレークを10対8で逃げ切り、3時間もの激闘の末に上地結衣/田中愛美組が女子ダブルスに日本初の金メダルをもたらした田中がアニク・フォン・クートの足を止めるショットをきっちり打っったことで、上地は数少ないチャンスでウイナーを狙うことができたオランダの猛攻がを受けながらも粘り強く返球を繰り返した田中愛美。見事な戦いぶりだった9月5日、ローランギャロスで行われた女子ダブルス決勝で対戦したのは、オランダのディーデ・デフロート/アニク・フォン・クート組と、日本の上地結衣/田中愛美組だ。デフロートとフォン・クートはシングルス世界ランキング1位、3位。一方の上地は同2位、田中は12位。オランダペアの方が格上であることは一目瞭然だ。しかし、この日行われた女子ダブルスを制して女王の座を掴んだのは、上地/田中組だった。日本の女子車いすテニス初の金メダルである。ダブルス決勝の第1セットは、オランダペアが6対4で勝ち取っている。第2セットは6対5からのタイブレークをオランダ3ポイントに抑えて日本が逆転した。女子ダブルスは、長いストローク戦になりがちだ。田中にオランダの猛攻が集中する中、田中は粘り強く返球を繰り返した。上地は、ゲーム後半にデフロートがダブルフォルトを連発するなど調子を落としてきたことを見逃さず、デフロートにダメージを与えるようなショットを打つタイミングを見計らっていた。「安易にディーデ(・デフロート)に返球すれば、それがチャンスになってしまうリスクがありました。田中がストレートのスライスでアニク(・フォン・クート)の足を止めるショットをきっちり打っていてくれたので、私は数少ないチャンスでウイナーを狙うことができました」(上地)精度の高い攻撃を繰り返す日本に対し、デフロートがダブルフォルトを重ねて自ら崩れる場面も見られた。そして、第3セットのマッチタイブレーク(10ポイント先取)を10対8で逃げ切り、3時間もの激闘の末に日本が優勝を決めたのだった。デフロートには東京パラから3年間未勝利も、直前の大会でストレート勝ちしたことが生きた7月に行われたブリティッシュオープン決勝でデフロートにストレート勝ちしたことが、いい材料になったと上地は言う「カモン!」苦しいラリーが続く場面でウイナーを決めると、握りこぶしを固く振り上げて叫ぶ上地。そして、大声援が上地の声をかき消すように何度も響き渡った勝利の瞬間から涙が止まらなかった上地。パラリンピック2冠は国枝慎吾もなしえなかった快挙だローランギャロスを埋め尽くした大観衆が上地をスタンディングオベーションで称えた翌6日には、女子シングルス決勝が行われた。この決勝を戦ったのも、上地とデフロートだ。上地とデフロートのパラリンピックでの顔合わせは、2016年リオ大会の3位決定戦、前回東京大会の決勝に続く3回目である。リオ大会では上地が勝ちきり銅メダル。4年後の東京大会決勝ではデフロートに軍配があがり、上地は銀メダルに涙をのんだ。6日、ローランギャロスのセンターコートであるコートフィリップ・シャトリエには、スタンドの上まで観客が詰めかけていた。第1セット、4対4からディーデが連続してゲームを勝ち取り、上地は4対6で落とした。続く第2セットでは、上地が得意とするバックハンドの強烈なショットだけでなく、スライスのドロップショットをピンポイントで打ち込むなどの攻撃が冴え渡った。また、デフロートは、第2セットに入ってからサービスのミスを連発し、9つものダブルフォルトで失点。上地が6対3でこのセットを奪い返した。ファイナルセットの出だしは、目の覚めるようなデフロートのリターンで1ゲーム目を0点に抑えられたが、上地もリターンエースを叩き込んでブレイクする。「カモン!」苦しいラリーが続く場面でウイナーを決めると、握りこぶしを固く振り上げ、上地が叫ぶ。大声援が上地の声をかき消すように、何度も響き渡った。「必ずしもリターン1本でいけるというわけではありませんでしたが、ディーデのサーブが崩れてきたことで、サーブを入れにいくような傾向も見えていました。自分のリターンのクロスに自信を持っていたので、最後までやり切ることができました」上地5対4で迎えたファイナルセットのゴールドメダルマッチポイント、サーブはデフロートだった。いったんはパワフルなクロスへのウイナーでしのいだデフロートは、ファーストサービスをネットにひっかけ、セカンドサービスがラインをオーバー。デフロートのダブルフォルトで、上地の今大会2個目となるシングルスの金メダルが決まったのだった。東京大会の決勝で敗北を喫した頃から、3年間、グランドスラムなどのトーナメントでも上地はデフロートに1勝もあげることができずにいた。しかし、今大会直前の7月に行われたブリティッシュオープンの決勝で、上地はデフロートにストレートで勝利を挙げた。「クレーと芝というサーフェスの違いがあるので、勝利したプレーの全てが、今日の決勝に生きた、というわけではありません。でも、あの時の試合から、自分のサーブからのコース配分や相手に自分の立ち位置の変化を見せて翻弄させることができた。また、あの試合からディーデのフォアハンドを狙うことを意識して、今大会に臨めました。イギリスでのチャレンジがいい材料になりました」「強いオランダをしっかり叩いた結衣ちゃんのことを本当に尊敬しています」(国枝慎吾)銀メダルのデフロート(左)と銅メダルのフォン・クート(右)というオランダの2人を従え、真ん中に立った上地。難攻不落だったオランダの牙城を世界で初めて崩した東京大会以降、第1シードのデフロートをどう打ち負かすか、ということは上地にとっても、目の前の大きな試練だった。1年前から引退した国枝氏に指導を仰ぎ、何度もアドバイスを受けてきた。国枝氏は語る。「デフロートの弱点を攻め続けること、結衣ちゃんの強みを活かすこと。正直、体格差もあり、障がいも重い。だからこそ、より高いテクニックで試合運びをする必要がある。この1年間、結衣ちゃんのレベルが非常に向上していたからこそ、手に入れることができた勝利でした」2004年のアテネ大会以来、パラリンピックやグランドスラムで誰も成し遂げられないような勝ち星を積み上げてきた国枝氏が言う。「女子車いすテニスのパラリンピックでは、ずっとオランダがシングルスもダブルスも金、銀を独占してきた。結衣ちゃんは東京大会のシングルスで銀メダル、今大会で金メダルを獲得したことで、オランダの歴史を崩壊させたんです。強いオランダをしっかり叩いた彼女のことを、本当に尊敬しています」日本チームは、今年4月から映像分析による戦略を徹底させてきた。上地も、分析チームから伝えられる膨大なデータを頭に叩き込み、それをプレーにつなげている。上地は、これまで自分自身が経験してきたライバル選手の傾向と、映像分析によるデータをイメージの中で一致させて、それを実際のプレーで体現してきたのだ。サービスの配分やリターン、ストロークの狙いどころやショットの質を大きく向上させてきたことで、今回の勝利を引き寄せたのだ。表彰台の一番高いところで、上地は金メダルにそっと口づけをした。「今日、自分が勝つことができたけれども、ディーデに対するリスペクトは変わりません。リオ大会で私たち2人のストーリーが始まりました。私が、彼女の競技人生に火をつけたと自負していますし、そこから今度は彼女に追い越され、追いかける立場になったけれども、東京大会で彼女が金メダルを取った時、本当に嬉しかった。今も、彼女との1戦1戦で、女子車いすテニスのレベルを向上させている、という感覚を互いに共有していると思う」晴れやかな笑顔で、上地が語る。「今日は、勝つことができた。何より、自分の全てを出し切りました。彼女との戦いは続いていきますが、ほかの選手にも必ずチャンスがある。挑戦してほしいと思っています」日本の、世界の女子車いすテニスの新たな1ページを開いた上地。次なるゲームで、さらに次元を超えていくことを、誰よりも心待ちにしているのだ。取材・文/宮崎恵理 写真/吉村もと

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