ツイッターで「ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを歩むなら、SIer はおすすめできない」と発言している方に対して、現役 SIer 社員が反論していて、ちょっとした騒ぎになっていた。
10 年間 SIer で働いた経験がある人間として、SIer で「ソフトウェアエンジニア」のキャリアを積めるかどうかについて見解を示したい。
頼むからプログラミング好きな高学歴の人は下手なネームバリューを気にしてSIerに行かないでくれ。まずSIerの研修が簡単すぎてつまらんと思うし、自分の方がプログラミングや技術分かるのに年収同じなのかって絶望するわけで。ほぼ転職する未来が待ってるんだから、最初から候補にも入れない方が良い。
— サカモト@エンジニアキャリア論 (@sakamoto_582) December 15, 2022
やはり何故かSIer叩きをしていると勘違いしてる人が大勢いるけど
— サカモト@エンジニアキャリア論 (@sakamoto_582) December 16, 2022
“SIerに行くな!”ではなく“コーディングが好きでソフトウェアエンジニアの職につきたい人はSIerに行くな(システムエンジニアになるな)”って話なのに😂どこで行き違いが発生したんだろう。
しかし今になって思い返すと何故SIerの方々はマジョリティの進路でもないのに、わざわざSIerにはプログラミング好きも行くべきみたいな論調を強めていたんだろうか?昨日の話だとコーディングしたい優秀層をテンションしたいからあえてそういう枠を設けてるみたいな話だったけど。
— サカモト@エンジニアキャリア論 (@sakamoto_582) December 17, 2022
結論、ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアを積みたいのであれば、SIer は全くおすすめできない。
SIer で求められるのはソフトウェア開発ではなく、プロジェクトマネジメントや予算の管理、報告や調整などのソフトスキルばかりだからだ。
コードを書いていると「サボっている」「遊んでいる」「仕事していない」と見なされる文化が SIer にはある。
スーツを着て会議するのが彼らの「価値ある仕事」なのだ。
このように書くと、現役 SIer 社員で、SIer に誇りを持っている人間は反論したくなるだろう。
「SIer でも技術に強い人はいる!」
「SIer でも最新技術に触れることができる!」
「R&D をやってる部署もある!」
などだ。
純粋にプログラミングだけをしたいのなら確かに大手SIerは向かないだろう。
— ヤマダ (@yamada_sier) December 15, 2022
そうではなくソフトウェアアーキテクチャをその道のスター選手と一緒の環境で学び、エバンジェリストとして開発へ伝えていきたい、R&Dとして社内外へアピールできる成果物を作りたいという人には大いに大手SIerを勧めたい。 https://t.co/AoiFUu4xbO
「ソフトウェアアーキテクチャをその道のスター選手と一緒の環境で学び」とあるが、これがいかにも SIer の中の人、といった感じだ。
学ぶだけならオライリーでも読めばいい。世界的なスター選手の知恵の結晶が詰まっている。
大手 SIer 社員にとって、技術はお勉強するものであって、使うものではないのだ。なぜなら技術を使うのは彼らではなく、彼らの「下」にいる協力会社の社員だからだ。
大手 SIer 社員の大半は、雑多な技術領域の用語を表面上理解しているだけであって、自ら使うわけではない。
SIer でエバンジェリスト的な仕事に就ける確率は極めて低く、500 人に 1 人程度であろうと思われる。
ごく小さな確率に賭けて、「SIer でもスターエンジニアになれるんだ」と夢見るのはやめた方がいい。
大手 SIer では、新卒の学生をどの部署に配置させるかを決めるのは人事部である。
人事次第で、キャリアに全く役に立たないレガシー部署に配属されることもある。
部署ガチャの運ゲーに人生を委ねてはいけない。
生殺与奪の権を他人に握らせるな!
大手 SIer の社員は Job Description がない世界の住人なので、仕事を通じてスキルを獲得し、そのスキルを持って転職市場に売り込んでいく、というキャリアを想像できていない。
「身につけたいスキル・持っているスキルで仕事ができる会社を選ぶ」という感覚がないからだ。
そもそも自分がどんなスキルを売り込んでいけるかなど、考えてすらいないだろう。
新卒で入社した会社にずっといるならば、昇進面接以外で職務経歴を書くこともない。
Job Description がある世界で生きている人間にとって、「業務で身につくスキル」を部署ガチャで回すなどありえないことなのだ。
キャリアは主体的に選んでいかなければならない。
私が所属していた大手 SIer では「アプリケーションエンジニア」と「テクニカルエンジニア」という区分で採用が分けられていた。
ソフトウェアエンジニアとして職務経歴書に書けるような経験を積めるのは、「テクニカルエンジニア」のごく一部であった。
10,000 人の「エンジニア」がいたとして、業務中にソフトウェアエンジニアとしてウェブ系企業にアピールできる経験を積めるのは多くて 300 人程度だった。
それ以外の部署での仕事は基本的に、外注管理やプロジェクトマネジメント、偉い人への報告や資料作成である。
新卒で SIer に入り、転職活動すらしたことがない人間は一生気付かないままだと思うが、これらの経験はウェブ系の「ソフトウェアエンジニア」としてはほぼ評価されない。
もちろん、「プロジェクトマネージャー職」で応募すれば歓迎してくれるが、SIer 用語でいう「手を動かせる人」としては素人扱いされてしまうのだ。
これが SIer の現実である。
このような現実を指摘すると、SIer の中の人は怒る。プライドが高い上に、世間知らずだからだ。
会社で「協力会社」を使う立場にいるから、なんか偉くなったつもりになっているのだ。
サッカーでずっと監督しているような人間が、選手よりもサッカーがうまいわけがない。
役割が違うのだ。
SIer 社員に期待される役割は「監督」である。プレイヤーではない。
シュートは打てない。走れない。手も動かせない。
というより、ベンチにいるのにひたすらボールを蹴ろうとする監督は邪魔だし異常者だろう。
認めよう。
SIer 社員のロールはマネージャーなのだ。
ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアアップは期待できないし、する必要もない。
張り合う意味もないのだ。プロジェクトマネージャーとして評価されるんだからいいじゃないか。
SIer は年収が高いからいいじゃないか
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SIer の年収はけっこう高い。NRI の場合は 30 代半ばで 1200 万だという。アクセンチュアはもっと高い。
NTT データでも 800〜900 万くらいはいくだろう。
入社すれば年収が上がっていく年功序列の会社で、平均よりずいぶん高い年収をもらい、会社名を誇りに生きている SIer 社員よ。
それでいいじゃないか。贅沢言うな。
スキルなくても、年収 1000 万もらえるならいいじゃないか。
SIer 社員として生きていくのに、スキルアップなんて必要ない。
スキルなどなくても、標準化された手順に従ってプロジェクトをマネジメントしていけば、仕事は回るからだ。
人間関係の調整だって立派な仕事だ。
どの会社でも一人では仕事は回せないし、世界はコードで回っているわけではない。
SIer は雇用リスクも低い。
会社が傾かない限りはクビにもならない。
それがいいじゃないか。
大手 SIer 社員のほとんどの人には、社外で使えるスキルは身につかない。
SIer の中にずっといると、「自分にスキルが何もない」ことにも気付けない。
外から隔離された世界で、自社の標準化の枠の中でソフトウェア開発をしているからだ。
というより、標準化を逸脱するには相当の勇気と覚悟と根気強い説得が必要となる。
偉い人は自分が知らない技術に対して首を縦に振らないし、偉い人に承認をもらわないとプロジェクトは進められない。
「標準的なプロセス」以外で仕事を進めると、全責任が降り掛かってくる。
大手 SIer の文化は基本的には責任回避・減点主義だ(口ではどこもチャレンジを奨励している風に言うが、外に出ると、あんなものは何の奨励でもないと気付く)
SIer の中の「最新」は世間の 10 年遅れであることに、SIer の社員は気付いていない。
気付ける環境にないので、仕方がない。未だに Subversion と CVS の世界で生きてる。
でも、それでいいじゃないか。全然幸せだよ。
会社にしがみついて、そこそこの年収をもらって、生きていきなよ。
周りからは「いい会社」って言われてるよ。それでいいじゃないか。
「自分たちが技術的にも優れてる」なんて胸を張るなよ。
外部の声にいちいちムキになって反応するから、ボロが出るんだよ。世間知らずが露呈するんだよ。
ソフトウェアエンジニアとしては、理系の新卒大学生とほぼ変わらない程度の価値しかないのが SIer のベテランの現実だ。
それでいいんだ。
儲かってるからいいじゃないか。
年収こそが正義だ。クビにならない会社で、誰もが知ってる会社で、多少の不満を持ちながらも、いつも通りの仕事をこなせばいい。
プロジェクトリードの経験は評価されるから、そっちで頑張ればいい。
SIer 社員でも「プロマネ職」としてはそこそこ重宝される。転職したことない人にはわからないだろうけど、メガベンチャーだろうと「プロマネ職」なら普通に書類が通る。
アジャイル経験があればなおよい。
プロマネ経験はコンサル会社にもアピールできる。それでいいじゃないか。マッキンゼー、BCG、名だたるコンサル企業が SIer 出身を欲しがってる。
ソフトウェアエンジニアとして張り合おうとするから馬鹿に見えるんだよ。
大手 SIer の社員は、プロジェクトマネージャーとして生きる覚悟を決めなさい。ソフトウェア開発してるつもりになるんじゃないよ。
もし君が 20 代で、どうしても手を動かしたいなら、早めに転職しなさい。
プロマネやらないなら、最初は年収が下がる。
年収を下げてでもやりたいことをやればいい。人生は年収が全てではないし、逆転の目は十分にあるんだ。
1〜2 年、手を動かせば転職市場では引く手数多になる。本当だ。1 年、低い年収で辛抱してみなさい。
君がもし 30 代、40 代で、今くすぶっているなら。明日会社に行くのが嫌なら、早めに転職しなさい。
人生は何歳からだってやり直せるとは言うけれど、やり直すなら早い方がいい。人生で一番若いのは今日なんだ。
ウェブの世界で君を待ってる。
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最後に、もし SIer で「保守・運用」を担当しているなら、今すぐに「職務経歴」を書いてみたほうがいい。
驚くほどスカスカになるはずだ。ずっと同じことばかりやっているからだ。
私は大手 SIer のレガシーシステムの保守・運用はこの世で最もやりがいのない仕事だと確信している。
最悪のブルシットジョブだ。
24 時間 365 日の運用担当はものすごく辛いが、スキルは全く身につかない。転職市場でも評価につながらない。
エンハンス案件を一生懸命こなしても、5 年も経てば業務知識も含めて新しい学びは無くなっているだろう。
空っぽの職務経歴だ。
しかしだ。
転職して 1 年、保守・運用担当をやっていたときくらいの根性で頑張ると、4 枚の紙に書き切れないほどの経験が積める。
それだけでも転職する意味はある。SIer でくすぶっているなら、転職したらいい。
本気で年収を上げていきたいなら、ウェブの人とソフトウェア開発スキルで張り合わずにプロマネを極めなさい。
どこの会社もプロジェクトマネージャーを欲しがっている。
SIer 出身のベテランのソフトウェアエンジニアはあまり需要がないが、SIer 出身のベテランのプロジェクトマネージャーはものすごく必要とされている。
できるなら、プロダクトマネージャーもやってみなさい。マネジメントに関してなら、SIer でも多少のキャリアの柔軟性がある(一方で、ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを積める可能性は極めて低い)
職務経歴書を意識して業務をこなし、プロマネとして、メガベンチャーかコンサルティング会社に転職しなさい。
もし今、仕事が楽しくなくて吐きそうだったら、以下の私の経験を覚えておいてほしい。
私は転職して初めて、本当に人生で初めて、「仕事が楽しい」という感覚を知った。そう、楽しい仕事もあるんだよ。
SIer にいた頃は、15 時頃の暇な会議中に時計を見て、「早く夜にならねえかな」と 1 秒 1 秒時計の針を数えていた。
18 時頃にもう一度時計を見て、「誰も帰らないから帰れない。なんで誰も帰らねえんだよ」とうんざりしたものだ。
19 時から平気で打ち合わせを入れてくる上司を見て吐き気がした。
「いいから帰ろうよ、意味もない資料作りを一生懸命やって何になるんだよ。誰のための資料だよ」
時間が経つのが異常に長く感じた。死んだように生きていた。
意識が高かった学生時代と現状のギャップに愕然としていた。
自分にも会社にも嫌気が差していた。くだらない人生に吐き気がした。
ネフェルピトーを倒したゴンのように、「もうここで終わってもいい」と思っていたが、自分のありったけをぶつけて転職する勇気がなかった。
落とされるのが怖かった。やりがいが無いながらも「いわゆるエリート」として働いてきた自分を否定されたくなかった。
そんな私が勇気を出して一歩を踏み出し、転職して初めて、「仕事が楽しい」という感覚を知った。
コードを書いていると、いつの間にか夜になっていた。在宅勤務で夜中まで作業しても何も辛くなかった。好きな仕事だったから。
昨日の自分より今日の自分が成長している感触があった。幸せだった。
SIer で毎日つまらなくてうんざりしている人がいたら、覚えておいてほしい。
自分が好きな仕事をすれば、仕事は楽しい。仕事"でも"楽しい。
会社が嫌にならない。会社"でも"嫌じゃない。
1 度でいい。
「仕事が楽しいかも」という感覚を経験してみてほしい。
過去の自分に伝えたいし、過去の自分のような人がいたら伝わってほしい。
そして、好きで楽しいことを仕事にすれば、不思議とスキルはついてくるんだ。
休日もプライベートも関係なく、遊びがスキルアップにつながるんだから。
「好きなことで生きていく」は YouTuber だけのものじゃない。私達だって、好きなことで生きていっていいんだ。
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