これまでウェブライターとして危ない橋は渡らぬように心がけてきたが、今回ばかりは自らその禁を破ることになるかもしれない。何の話かと言えば、2025年2月24日にエースコックから新発売された「目を閉じればあの味 いわゆるフライドチキン味まぜそば」についてである。
「あの味」がする「まぜそば」とのことだが、親切にも赤と白のラインが縦に入ったパッケージデザインによって、「どの味」なのかは容易に察せられる。より正確に言えば某巨大フライドチキンチェーンを強烈に想起させられる。
具体的な名称を出すと世界の均衡が崩れるような気がするので控えておくが、ともかく危険な匂いが漂ってやまない商品である。しかし同時に、どうしようもなくその味を確かめてみたい欲求にも駆られてしまう。
そういうわけで、最終的に辛抱が効かなくなった筆者は、気付いた時にはすでに本商品を購入していた。価格は税抜308円だった。
ウェブライターとして初めて渡る危ない橋が紅白に彩られているとは思いもしなかったが、レビューに至った背景には、筆者が某巨大フライドチキンチェーンをこよなく愛しているということも大いに関係している。
本当に「あの味」を再現できているなら由々しき事態である。期待とスリルが織りなす妙な興奮とともに、件(くだん)のまぜそばと相対した。
何回見ても、やはりエッジの効いたデザインである。「味はすぐに思い出せる」と考えて本物の「あのフライドチキン」を用意することはしなかったのだが、「この場にあのフライドチキンがいたら気まずい空気だっただろう」と、人類史上初の憂慮を抱いてしまうくらいである。
とはいえ、中身はいたって普通のカップ麺で、調理方法にも変わった点はない。熱湯を注いで5分待ったあと、香味油、かやく入りシーズニングの順に投入していく。
そして出来上がったまぜそばを、筆者は気付いた時にはすでに口にしていた。何故なら「あのフライドチキン」を彷彿とさせるスパイシーな匂いが漂っていたからで、冒頭で判明した通り堪え性のない筆者にとって、それは強烈なまでに艶めかしい手招きに他ならなかった。
が、しかし結論から書くと、招かれた先に「あのフライドチキン」そのものが待ち構えていたかと言えば、残念ながら答えは否である。ただ、だからといって筆者がひどく落胆したかと言えば、それも否である。
まず口にした瞬間、匂いをそっくり反映したような香辛料の味わいが炸裂する。次いで広がる油っこさも鶏の旨味も実に「らしく」、いわゆる最初の口当たりの部分ではかなり「あのフライドチキン」感が高い。
ところが段々と噛むほどに、「あのフライドチキン」独特の濃厚な塩辛さには欠けていることに気付く。飲み込んだあとに残るのは、パンチの抑えられた、まろやかさを伴った後味だ。
残念でないわけではないが、しかしあくまでこの商品はフライドチキンではなく まぜそば であって、そう考えると全体的なバランスとしては良好であるとも言える。スパイシーで油っこく、そこへ味の濃さまで加わった場合、ややヘビーすぎる仕上がりになりうる。
常軌を逸することに全霊を賭した商品かと思いきや、意外にも理性的な一面を見せてくれたというわけだ。この「理性」をどう受け取るかが評価の分岐点となるだろう。
改めて筆者の総括を書くなら、「あのフライドチキンそっくりではないが、あのフライドチキンが好きな人は高確率で気に入る」といった具合だ。微妙に裏切られつつも、気に入ってしまったのだから潔く受け入れる。心地良く「してやられた」、そんな気分だ。
手を出したことを後悔はしていない。筆者と同じく興味の湧いた方は、ぜひこの危うくも魅力的な商品に挑んでみてほしい。「目を閉じればあの味」かどうかは、この際少々を目をつぶって。
参考リンク:エースコック 商品ページ
執筆:西本大紀
Photo:RocketNews24.