トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談し、ロシアとウクライナの戦争終結に向けて米ロが直ちに交渉を始めることで合意した。約3年間にわたる戦争が終結に向かうか注視したい。
米紙ニューヨーク・タイムズの2024年10月の報道によると、米当局はロシア軍の死者が11万5千人、負傷者は50万人に上ると推計している。ウクライナ側では5万7500人以上が死亡し、25万人が負傷したとみている。
トランプ氏は「大勢の死を防ぎたいとの考えで一致した」とし、問題解決へ緊密な協力をプーチン氏と約束したと自身の交流サイト(SNS)に投稿した。
国連人権高等弁務官代理のナダ・アルナシフ氏はロシアのウクライナ侵攻によって、1万2300人以上の民間人が死亡したと明らかにした。これ以上、無益な戦闘による犠牲者を出してはならない。今もなお死と隣り合わせで生活している一般市民のことを思えば、戦争終結の交渉開始に希望をつなげたい。
ただ、気になるのはトランプ氏が、南部クリミア半島がロシアに併合された14年以前のウクライナ領土を全て回復できる可能性について「低い」と語っていることだ。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟も「現実的だとは思わない」とも述べている。
ウクライナ国内でNATO加盟を求める動きがあったとはいえ、この戦争は明らかにロシアによる侵略戦争である。それにもかかわらず、トランプ氏は米メディアにウクライナが「いつかロシアになるかもしれない」と語るなどロシア寄りとも取れる発言を繰り返してきた。
トランプ氏が侵攻を受ける側のウクライナに譲歩を迫るとの見方は根強い。ロシアの侵略行為を国際社会は容認していないのである。
トランプ政権は支援の見返りとしてウクライナに鉱物資源を要求するなど、自国優先の動きが際立つ。ウクライナを無視した交渉を進めれば、戦争終結に向けた交渉は暗礁に乗り上げる可能性もある。
パレスチナ自治区ガザの停戦を巡っては、周辺国に必要な根回しをせずにガザ所有構想を突如として表明し、関係国の混乱と反発を招いた。領土を奪われたウクライナの惨状を度外視し、プーチン氏の意向を優先するようなことはあってはならない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「欧州はロシアの本格的な占領の危機に直面している」と警告している。かつてソ連軍の侵攻を受けたポーランドなど近隣国にとって、ロシアは脅威であり続ける。
トランプ氏は2期目初のプーチン氏との対面会談をサウジアラビアで開く可能性があることを明らかにした。戦争終結の機会を逃すべきではない。ウクライナや欧州各国の意向も尊重しながら、交渉に臨んでほしい。