三菱ふそうは、トラックの電動化の可能性をいち早く世に知らしめたパイオニアだ。2017年、国内初の量産電気トラック(EVトラック)として発表した『eCanter』は、登場以来、世界各国の物流に大きなインパクトを与え続けている。さまざまな国、地域の物流現場からの声を汲み取り、さらに進化した新型モデルが2023年3月に登場。ラインアップや航続距離を拡大、先進安全装備を充実させるなどで、より多くの企業やユーザーにフィットしたクルマ選びができるようになった。
ドライバーの労働環境改善に向けたさまざまな取り組みに端を発する「物流2024年問題」をはじめ、“運ぶ”環境が変わりつつある今、三菱ふそうが描く物流の新時代とは。EVトラック『eCanter』を通して、その姿にせまる。
三菱ふそうの電気トラック『eCanter』◆長年にわたる三菱ふそうの電気トラック開発
EV化の潮流は世界的なムーブメントとなり、各自動車メーカーは新型EVの開発を急ぐ。乗用車、とくに欧米メーカーが中心となり、これまでEV普及の課題であった航続距離を大幅に向上させ、エンジン車やハイブリッド車と同等の走行性能を持つEVも続々と登場している。日本では2023年、約2万7000台のEVが販売(参照:日本自動車工業会、日本自動車輸入組合)され、2024年はさらに増加することが見込まれている。ただ、全体の477万台(2023年)と比べるとわずか0.6%で、まだまだ一般普及へのハードルは高そうだ。
大きな要因は、やはり航続距離、そして価格とのバランスだ。航続距離を伸ばすためにはバッテリー容量を増やす必要があり、現時点ではこのバッテリー価格が高いため、車両自体もエンジン車と比べると高くなる傾向にある。また、全国に約2万1000件ある外部の急速充電器などが利用できるのもEVの特徴だが、EVのメリットを最大限活かすには自宅での充電が基本のため、集合住宅に住むユーザーにとっては敬遠の対象となってしまうことも。
こうした乗用EVの課題がある一方で、EV普及に向けて期待されているのが商用車、つまりトラックやバスだ。商用車は、あらかじめ決められたルートを走行することが多いため、1日あたりの走行距離が決まっている。その距離を1日走れるだけのバッテリー容量があれば十分であるほか、営業拠点で夜間充電をおこなえば、外部の充電に頼ることなく活動ができる。また、街の物流や人流を支えるため縦横無尽に走る商用車がEV化されCO2排出がゼロになることで、環境改善にも大きく貢献することができる。
商用車の電動化、EV化の可能性にいち早く目をつけて長年に渡り研究開発を進めてきたのが三菱ふそうだ。
三菱ふそうの電気トラック『eCanter』三菱ふそうの電気トラック開発の歴史は古く、1990年代にまで遡る。初めてコンセプトカーの形として登場したのが1995年、そして満を持して『キャンター エコ ハイブリッド』として量産されたのが2006年だ。「環境性能」「経済性能」「安全性能+α」をコンセプトとした「キャンター エコ ハイブリッド」は、従来のディーゼルトラックと比べ大幅な燃費改善、CO2排出低減を実現し、小型トラックの新たな可能性を見せた。
小型トラックのEV化に早くから目をつけていた三菱ふそうは、2010年に初めて電気トラックの「Canter E-CELL」を発表。日本では実証実験としてNEXCO中日本の高速道路維持管理用車両などに導入。トラックとEVの親和性を、実際の現場で使用しながら高めてきた。
そして現場からの要望や社会課題を踏まえ、世に送り出した量産電気トラックの第一号が2017年の『eCanter』だ。「電気トラックを中心としたeモビリティ全体で、輸送の未来を変えたい」という思いに賛同した企業や自治体が積極的に導入し、年々販売を拡大、2023年に登場した新型も含めると日本のみで約1200台を販売、日本を含む全世界では約3000台以上の『eCanter』が街の物流を支えている。累計走行距離で1200万km以上、地球を250周以上走る計算になるという。
◆28型式ものバリエーション、用途で選べる新型『eCanter』
『eCanter』は28型式ものバリエーションを揃える現在販売されている新型『eCanter』は、シャシラインアップの大幅な拡大と多様なビジネスケースに対応した航続距離を実現しているのが大きな魅力だ。モーターを後軸に統合した三菱ふそう独自開発の電動アクスルを採用することで、ドライブトレインをコンパクトな構造にすることが可能となり、従来モデルでは1型式だったシャシ展開が一気に28型式まで拡大している。
キャブのバリエーションは「標準キャブ」「ワイドキャブ」「EX拡張キャブ」の3種、ホイールベースは2500mmから4750mmまでの5種、そして平ボデーからバン/ウイング、冷凍バン、ゴミ収集車、ダンプなど幅広く架装にも対応する。「EX拡張キャブ」は中型トラックの『ファイター』と同等のサイズで、より広い用途を電気トラックでまかなうことができるようになった。
モーターを使った動力取り出し装置(ePTO)も新開発し、ダンプやキャリアカー、ゴミ収集車などでは電気トラックらしく、作業中の騒音を大幅に低減したことで環境にやさしいトラックを実現している。
モーターを使った動力取り出し装置(ePTO)も新開発した。ボディサイズに応じて3つのバッテリータイプを用意するのも『eCanter』の大きな特徴だ。41kWhのバッテリーを搭載する「Sサイズ」、82kWhの「Mサイズ」、そして124kWhの「Lサイズ」をラインアップ。それぞれ航続距離は「Sサイズ」の標準キャブが116km、「Mサイズ」が同236km、「Lサイズ」のワイドキャブが324kmを実現(※)。普通充電だけでなく急速充電にも対応している。
※航続距離は一充電当たりの走行距離で、国土交通省審査値です。60km/h走行、半積載、平ボディの場合。実際の走行距離は気候、実際の走行環境や運転方法に応じて大きく異なります。
新型『eCanter』では寒冷時の使用にも対応した新機能を搭載したのも大きなポイントだ。エンジン車と異なり熱を発しないEVは、車内を温めるのに不得手で、エアコンの使用は電力の消費=航続距離の減少にもつながる。そこで、ステアリングヒーターとシートヒーターをオプションで設定し、必要な箇所だけを温める省電力機能を追加したほか、電力消費を抑えながらウィンドシールドの曇りを除去するウィンドシールドヒーターもオプションで追加。さらに、寒冷時のバッテリー電力を確保するため、事業所などでの充電中に、事前に稼働開始時刻をタイマー予約することで万全の状態で稼働開始できる「バッテリープレコンディショニング」機能も標準搭載。幅広い地域で電気トラックを快適に使えるようになったのは大きなメリットだ。
◆静かでパワフル!『eCanter』の機能と走り
三菱ふそうの電気トラック『eCanter』トラックドライバーの時間外労働をなくし、労働環境の改善を図るため施行された改正改善基準は、同時に輸送能力の不足という問題=「物流2024年問題」を抱えることになった。配送の需要は年々大きくなる一方で、ある調査によると、不足する輸送能力は何も対策しなければ2030年には34.1%、輸送トン数で9.4億トンにものぼる試算だという。トラックドライバー不足の解決に向けてさまざまな事業者が取り組む中、メーカーが提案することの一つが、快適でストレスのないトラックをドライバーに提供することだ。
新型『eCanter』は充実した装備はもちろん、走りにおいても、扱いやすく疲れにくい、運転することや働くことが楽しくなるようなクルマづくりがおこなわれている。
走行性能面では、「Sサイズ」バッテリー搭載車のスペックが最高出力150ps、最大トルク430Nm、「M/Lサイズ」が175ps、430Nmとなっており、ディーゼルエンジンと比べても力強いEVならではのトルクがスムーズな走りを生み出している。
実際に運転すると、始動時から走行中まで、エンジン車のトラックのような振動や音が全くなく、とにかく静かであることに驚く。この静粛性は、長時間の運転時の疲れの軽減に大いに貢献するはずだ。
新型『eCanter』のシャシ。バッテリー容量によって3タイプを用意する。またEVならではの特徴として、重量物であるバッテリーが車体の下に置かれているため低重心化され、荷物を積んだ状態でも地面に吸い付くような安定した走りを実現する。ふらつきが少なくなるため、運転に自信がない人でも『eCanter』は直進時にはまっすぐ、右左折時でも思った通りに曲がってくれるので、安心して走行することができる。
EVならでは、という面では「回生ブレーキ」にも注目だ。走行中にアクセルペダルを放すことでモーターが発電する力を使って強力なブレーキ力を得るもので、積極的に回生ブレーキを使うことで充電をおこない、電費の向上にもつながる。パドルシフトで回生の強さを「回生なし」から「強回生」まで4段階に調整することができるので、交通の流れが良い時は回生なし、渋滞などでストップ&ゴーが多いような時は強回生にするなどで効率の良い走りができる。回生を強めれば右足のペダル操作だけで加減速の調整ができるため、疲労軽減にも貢献する。
また安心・安全機能では、被害軽減ブレーキ機能を有する左折巻き込み防止機能「アクティブ・サイドガード・アシスト1.0」、衝突被害軽減ブレーキ「アクティブ・ブレーキ・アシスト5」を標準装備。運転注意力の低下を警告するドライバー注意監視システム「アクティブ・アテンション・アシスト」もオプションで搭載するなど、安全サポートが強化されているのも、日々運転するドライバーには嬉しい。
トラックでは珍しいオレンジ色をアクセントにしたインテリアは、ダッシュボードと一体化したデザインの乗降グリップや、ステアリングホイール上のボタンでメニュー操作可能な10インチ液晶メーター、画面のタッチ操作が可能なセンターディスプレイなど、高いデザイン性と実用性を両立。1日の長い時間を車内で過ごすドライバーに向けた、親しみやすく快適な車内を作り上げている。
三菱ふそうの電気トラック『eCanter』のインテリア◆ユーザーのEVシフトをサポートする「FUSOグリーンリース」
そんな『eCanter』だが、そもそもEVの導入に対し初期費用やメンテナンスに対する不安を感じるユーザーもいるだろう。三菱ふそうではそうした顧客の「EVシフト」をサポートする専用リース商品「FUSOグリーンリース」を用意している。
「FUSOグリーンリース」では『eCanter』の車両本体はもちろん、メンテナンスサービスや、充電器の設置など、EVトラックの導入・運用に必要な要素をパッケージ化することで、コストを一本化できるだけでなく、面倒な手続き等もカットすることができる。自治体などへの補助金の申請などもおこなってくれるため、日々の業務で忙しい事業者にとっては「時短」のメリットも大きそうだ。
また、サービスに含まれるコネクテッドサービス「Truckonnect(R)(トラックコネクト)」では、バッテリー容量の低下をお知らせする機能や、電力料金の安い時間帯を積極的にタイマー利用できる機能なども用意されている。
三菱ふそうの公式サイトでは、好みに応じた『eCanter』の仕様を自由にウェブ上で試作できる「FUSOコンフィギュレーター」を公開している。サイズや仕様などをシミュレーションしながら、導入を検討してみてはいかがだろうか。
*「Truckonnect(R)」は三菱ふそうトラック・バス株式会社の登録商標です。
◆バッテリー交換式や自動運転も、より身近になるEVトラック
京都でおこなったバッテリー交換式EVトラックの公道実証実験の様子。新型『eCanter』は、さまざまな企業や自治体で広く使われながら、日々進化を続けている。
2024年8月~11月には、ヤマト運輸、Ample社と、京都でバッテリー交換式EVトラックの公道実証実験をおこなった。電気が少なくなったバッテリーそのものを充電されたバッテリーに交換することで、充電にかかる時間を大幅に短縮できるもので、バッテリー交換式EVトラックの実現は航続距離にとらわれない運用やさらなる用途拡大が見込まれている。
また作業者を自動追尾する『eCanter』をベースにしたEVごみ収集車のコンセプトモデルも開発し、神奈川県川崎市での実証実験も実施している。こうした次世代に向けたトラックの新たな可能性を見せてくれるのも、新型『eCanter』の高いポテンシャルあってこそ。そして使う人や周囲の環境の声に寄り添い続ける三菱ふそうの想いがあってこそだといえる。ドライバーとトラックとの付き合い方、そして働き方も大きく変わろうとしている。
暮らしを支える“パートナー”として電気トラックは今、すでに身近なものとなった。「当たり前」になる時代も、もうすぐそこまで来ている。
作業者を自動追尾するごみ収集車のコンセプトモデル「eCanter SensorCollect」三菱ふそう『eCanter』公式サイトはこちら