品格ある空間と人柄端正な味に心奪われる『喫茶室 風景』【片貝】
赤茶色の空間にステンドグラスのランプが優美さを添え、ぜいたくな一枚ガラスの窓からはたっぷり光が差し込む。「店ができた頃は田んぼの中の一軒家で、赤城山の裾野まで見えたんですよ」と、おっとり話すのは店主の新井節子さんだ。今は車が行き交う街道となったが、常連さんは「隙間から今も見えますよ」と、特等席に腰を下ろす。
一時期お休みしていたが、2018年に復活。腹ごしらえにいいのが、まろやかなコクをまとうナポリタン、そして一風変わったタマゴサンドだ。ベーコンやタマネギなど具だくさんの和風玉子焼きタイプで郷愁をそそる。
もう一つの名物がプリン ア・ラ・モード。娘の山田恵さんとともに付きっきりで3時間、湯煎にかけたプリンがむっちりなめらか。フルーツのカットの仕方、クリームの絞り方、ガラスの器も繊細で端正。見ほれてしまう。
『喫茶室 風景』店舗詳細
緑と木調が織りなす空間は心から和む街のサロン『並木 珈琲館』【高崎】
ロッヂ風情は「大工さん任せ」と、店主の並木征行さんは笑うが、ママの優子さんが丹精した植栽が天井から下がり、鉄製ランプの灯りを受け止める。その下で並木さんが、御荷鉾(みかぼ)山系の名水でやわらかな口当たりのコーヒーを淹れてくれる。お供にはアイスコーヒーから作るコーヒーゼリーを。自家製ガムシロップをかけると、すっきりした甘みの奥から苦味がほんのり。
実は、食事目当ての客も多い。「うちは全部手作り」と話すだけあって、オムライスのケチャップは、トマト缶にソースや醤油、みりんなどを加えた深みのある旨味で、思わず唸(うな)る。
テーブル席から1段高いカウンター席では、日々常連客が顔を並べ、店主夫妻と談笑する時間を楽しんでいく。「2人の人間性とお店の雰囲気がマッチしているのよねえ」と、しみじみ呟くのはその中のご婦人。納得です。
『並木 珈琲館』店舗詳細
自家焙煎コーヒーと個性派パフェの魔力『新木珈琲店』【前橋】
コーヒーの香りに包まれた店内の、カウンター奥には100脚のカップが並び、間接照明が灯(とも)るうっとり落ち着いた風情だ。長い年月を思わせるが、開店は2014年。店主の新木信幸さんは、自身が通った喫茶店が閉じることを知り、ほぼそのまま引き継いだ。
自慢は、独学で焙煎を学んだコーヒー。「昔ながらの味を」と、ブラジルやコロンビア、グァテマラをブレンドし、丁寧にハンドドリップ。すすれば芳しい香りに心がほどけるよう。
客の目当ては他にも。「マンゴーパフェが食べたい」とのリクエストに応えたのが、マンゴーバナナパフェだ。マンゴーで咲かせたバラの花がゴージャス。グラスの中には果肉、ヨーグルトサワーアイス、ソフトがたっぷりで、レモンシロップのさっぱりした甘みが後を引く。パフェをつつきながら皆にんまり、頬をゆるめる姿も印象的だ。
『新木珈琲店』店舗詳細
取材・文=林 さゆり 撮影=山出高士
『散歩の達人』2024年10月号より