個人的に注目していた「紀州のドンファン」殺人事件疑惑だけど、昨日、和歌山地裁で須藤被告に無罪判決が出た。
個人的には、裁判員裁判で「五分五分」だと思っていたので、無罪判決が出ても驚きはない。しかし、判決内容を見ると、やはり検察の完敗である。
普通なら検察が控訴するところだが、ちょっとどうなるかわからないと思う。そのぐらい、こてんぱんにやられた判決である。
死亡した野崎氏の死因は覚醒剤で間違いないのだけど、これを須藤被告が飲ませて殺害したというのが検察のストーリーであった。実際に、須藤被告に覚醒剤を売った売人まで証人に呼んだのである。ところが、この「須藤被告が覚醒剤を入手した」という点すらも事実認定からは外れてしまっている。簡単に言えば「売人の言うことは、信用なんかできない」ということである。この売人が、覚醒剤を売った罪になるところを、なぜか起訴猶予になったりして検事に「須藤被告に売ったと証言すれば起訴は勘弁してやる」と言われた可能性だってあるじゃないかと思われたか。ま、いずれにしても裁判員の「普通の市民感覚」からすると、売人風情の証言には「信用する価値なし」となってしまった。そうすると、野崎氏が「なんらかの方法で」(もちろん須藤被告が買ってきたものかもしれないが)覚醒剤を「容量を間違えて」(野崎氏には覚醒剤の使用履歴は見つかっていない)飲んでしまい亡くなったという事故の可能性を排除できない、となってしまった。
検察のストーリーでは「野崎氏は、覚醒剤を使用した履歴がない人なので、須藤被告に飲まされたとしか考えられない」というストーリーは「ふだん使わないからこそ、初めて使用して容量を間違えた」とも見えてしまうのだ。
何もかも、つまりは「須藤被告が野崎氏に覚醒剤を飲ませた」という検察ストーリーを支える直接証拠がなく、さらに解剖所見で「事故または自殺」を排除できなかったことで、有罪立証が行き詰まってしまった。
事件の真相はともあれ。これで、判決が確定してしまうと、一事不再理の原則により、須藤被告は無罪になる。今後、なんらかの新証拠が発見されても、基本的には再審はされない。このへんは、再度捜査をやり直して、、、と思っている一般人が多いが、判決が確定したら「やりなおし」はない。もっとも、この人は別件の詐欺事件ですでに3000万円を詐取した有罪が確定しており、未決勾留期間を差し引いても来年の11月まではオツトメの身である。
検察が控訴すれば、さらに拘置所暮らしが続くと思いますが、刑務所に行くよりは拘置所のほうがまだしも快適なので(苦笑)いっそ来年の11月まで控訴審の裁判をやるほうが本人にとっては得策かもしれない。拘置所内でも確定囚は未決囚と違って対応は厳しいですが、それでも、刑務所よりはマシなのである。
いずれにしても。
第一審で裁判員が一致して「証拠不十分」の審決を出したことは極めて重くて、このままだと控訴は厳しい可能性だってある。さらに新証拠を積み上げないときついのではないか。
疑問なのは、こんな「ゆるゆる」の状態で、よく検事は起訴したな、ということ。状況証拠の積み上げで、あとは推認でいけると思ったとしたら、あまりに浅い考えであった。裁判員という「ふつうの市民」を納得させられなかったことに、大きな問題点がある。
今まで、おおむね裁判員裁判は検察有利で、量刑も重めに判断されることが多かったから、舐めてかかった可能性もある。
担当検事は、猛反省すべきだろうと思います。