漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「揺れる気持ち」を表す四字熟語のうち、「不安・動揺」「優柔不断」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.不安・動揺
(1)暗雲低迷(あんうんていめい)
悪い状態が長く続き、向上のきざしが見えてこない前途不安な状況のこと。また、暗い雲が低くたれこめて晴れそうにないさま。
(2)一所不住(いっしょふじゅう)
一定の場所に住まず、各地を転々とすること。
特に諸国を行脚(あんぎゃ)して回る僧のことをいう言葉。
少しの間、心配すること。または、急に心配になること。
「一朝」はひと朝ということから、わずかな時間のたとえ。または、ある朝ということから、突然という意味。
(4)意馬心猿(いばしんえん)/心猿意馬(しんえんいば)
煩悩や情欲・妄念のために、心が混乱して落ち着かないたとえ。また、心に起こる欲望や心の乱れを押さえることができないたとえ。
心が、走り回る馬や騒ぎ立てる野猿のように落ち着かない意から。
仏教語。「意」は心。
(5)有耶無耶(うやむや)
はっきりしないさま。曖昧なさま。また、いいかげんなさま。あるかないか、はっきりしない意。
「耶」は疑問の助字。「有りや無しや」の意。
(6)応接不暇(おうせつふか)
物事が次から次へと起こって対応しきれないこと。また、訪問者が多くて、ひとりひとりに応対しかねること。非常に忙しいことのたとえ。
「応接(おうせつ)に暇(いとま)あらず」と訓読する。
(7)隔靴掻痒/隔靴掻癢(かっかそうよう)
痒(かゆ)いところに手が届かないように、はがゆくもどかしいこと。思うようにいかず、じれったいこと。物事の核心や急所に触れず、もどかしいこと。
靴を隔てて痒いところをかく意から。
「掻」はかく、ひっかく。「痒」はかゆい。
「靴(くつ)を隔(へだ)てて痒(かゆ)きを掻(か)く」と訓読する。
(8)挙棋不定(きょきふてい)
物事を行うのに一定の方針がないまま、その場その場で適当に処理するたとえ。また、物事を行うのになかなか決断できないことのたとえ。
本来は、碁石を手に持ち上げたものの、打つところがなかなか決まらない意。
「挙棋」は碁石をつまみ上げること。
「棋(き)を挙(あ)げて定(さだ)まらず」と訓読する。
(9)傾揺解弛/傾揺懈弛(けいようかいし)
気持ちが落ち着かず不安で、やるべきことがいい加減になること。
「傾揺」は不安で落ち着きがないこと。「解弛」は怠ること。
(10)後患無窮(こうかんむきゅう)
後になってわずらわしい問題が尽きることなく発生すること。
「無窮」は終わりがない、尽きないという意味。
(11)後顧之憂(こうこのうれい)
のちのちの心配のこと。
「後顧」は、後ろをふり返ること。「憂」は、心配・不安。後になってふり返るような心配の意から。
出典(『魏書』李沖)の「我をして、境(きょう)を出(い)だし、後顧の憂無からしむ」による。
(12)孤立無援(こりつむえん)/無援孤立(むえんこりつ)
頼るものがなく、ひとりぼっちで助けのないさま。
「無援」は助けがないこと。
(13)五里霧中(ごりむちゅう)
物事の様子や手掛かりがつかめず、方針や見込みが立たず困ること。また、そうした状態。五里にもわたる深い霧の中にいる意から。
事情などがはっきりしない中、手探りで何かをする意にも用いる。
「五里霧」は五里四方に立ち込める深い霧。
(14)左顧右眄(さこうべん)
周りを気にして、なかなか決断を下さないこと。他人の様子をうかがって、決断をためらうこと。左を見たり右を見たりする意から。
もとは、ゆったりと得意で余裕のある様子をいった語。
「顧」はかえりみる。「眄」は横目でちらりと見る。また、かえりみる。
(15)左右他言(さゆうたげん)
自分に都合の悪いことの話題をそらしてごまかすこと。
話題の答えに困ったり、答える必要がないと思う時の態度のこと。
「他言」は話題をそらすこと。
中国の戦国時代、孟子が斉の国の王にしっかりと国を治めていないことへの責任を指摘され、側近に話を逸らさせたという故事から。
(16)三心二意(さんしんじい)
気持ちが落ち着かず、いろいろと迷うこと。
または、人が別々の意見を主張していて、考えがまとまらないこと。
「意」は意志や意見のこと。
(17)思案投首(しあんなげくび)
首を前に傾け、深く考え込むこと。
(18)試行錯誤(しこうさくご)
新しい物事をするとき、試みと失敗を繰り返しながら次第に見通しを立てて、解決策や適切な方法を見いだしていくこと。
「試行」は試しに行うこと。「錯誤」は誤り・間違い。
(19)咨咀逡巡(しそしゅんじゅん)
いろいろと悩んで、物事を決められないこと。
「咨咀」はいろいろと思い悩むこと。「逡巡」は思い切りがつかずに迷うこと。
(20)周章狼狽(しゅうしょうろうばい)
大いにあわてること。非常にあわてうろたえること。
「周章」「狼狽」はともにあわてる意。
「狼」「狽」はともに伝説上の獣で、狼は前足が長くて後足が極端に短く、狽は前足が極端に短くて後足が長い。狽が狼の後ろに乗るようにして二頭は常に一緒に行動するとされ、離れると動けず倒れてしまうことから、うまくいかない意、あわてふためく意に用いる。
「周章」に「狼狽」を添えて意味を強調する。
(21)心煩意乱(しんはんいらん)
いらいらとして心が落ち着かないこと。
「心煩」は悩ますことが多く、苛立たしいこと。「意乱」は心が落ち着かないこと。
(22)東窺西望(とうきせいぼう)
あちこちを見回して、落ち着きのない様子。
「東窺」は東の方角をうかがうこと。「西望」は西の方角を遠望すること。
(23)左見右見(とみこうみ)
あっちを見たり、こっちを見たりすること。また、あちこち様子をうかがうこと。
2.優柔不断
(1)因循苟且(いんじゅんこうしょ)
昔からある習慣や方法に必要以上にこだわって改めることをせずに、その場その場でやり過ごすこと。
または、なかなか決断することができない曖昧な態度のこと。
「因循」は昔から続くやり方を変えずにこだわり続けること。
「苟且」は原因を解決せずに、その場だけ取り繕うこと。
(2)右顧左眄(うこさべん)/左眄右顧(さべんうこ)
右を見たり左を見たりして、ためらい迷うこと。また、まわりの情勢や周囲の思惑・意見を気にして、なかなか決断できないでいること。
「顧」は気にかけて振り返る、気になって見る意。「眄」は気にかけて流し目でちらりと見ること。
(3)狐疑逡巡/狐疑逡循(こぎしゅんじゅん)
きつねが疑い深いように、なかなか決心がつかず、ぐずぐずしていること。優柔不断なさま。
「逡巡」は後ずさりする、ためらいぐずぐずすること。
(4)首鼠両端(しゅそりょうたん)
ぐずぐずして、どちらか一方に決めかねているたとえ。また、形勢をうかがい、心を決めかねているたとえ。日和見(ひよりみ)。
穴から首だけ出したねずみが外をうかがって、両側をきょろきょろ見回している意から。
「首鼠」は「首施(しゅし)」に同じで、躊躇するさまともいう。「両端」はふた心の意。
(5)遅疑逡巡/遅疑逡循(ちぎしゅんじゅん)
ぐずぐずとして、いつまでも疑い、決断せずにためらうこと。
「遅疑」はいつまでも疑って決心できないこと。「逡巡」もためらう、しりごみする、ぐずぐずすること。
(6)躊躇逡巡(ちゅうちょしゅんじゅん)
ためらって前へ進まないこと。
「躊躇」は、ためらうさま。「逡巡」は、ぐずぐずとためらうさま。
(7)朝種暮穫(ちょうしゅぼかく)
朝に作物を植えて、暮れには収穫すること。期間の短いことから、方針が定まらないことをたとえる。また、慌ただしいさま。
(8)朝令暮改(ちょうれいぼかい)
命令や政令などが頻繁に変更されて、一定しないこと。朝出した命令が夕方にはもう改められるという意から。
「朝(あした)に令(れい)して暮(く)れに改(あらた)む」と訓読する。
(9)東扶西倒(とうふせいとう)
明確な考えがなく迷うこと。
または、物事を解決するためには悪い事情が重なって苦労すること。
東を助ければ西が倒れるという意味から。
(10)優柔不断(ゆうじゅうふだん)
ぐずぐずして、物事の決断がにぶいこと。また、そのさま。
「優柔」はぐずぐずしているさま。