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【スクープ証言】「日本人のヤクザもいた」「警官のふりでかけ子」 中国人詐欺組織の日本人が明かす「東南アジア犯罪拠点の日常」

ミャンマーの詐欺拠点で働かされていたとみられる日本人少年2人が保護されたことで、日本社会に衝撃が走っている。一体、何が起こっているのか。海外に増殖する中国人を中心とした犯罪ネットワークを追う長期連載「世界を覆う中国『灰色産業』」の番外編として、緊急レポートする。
                   伊藤喜之(ドバイ在住ライター)

タイとミャンマー国境地帯に広がる特殊詐欺拠点について報じるTBS

「特技生かせる仕事」などと誘い出され…

ミャンマー東部にある中国系詐欺拠点から相次いで日本人らが保護されている。隣接するタイの警察や日本政府などが明らかにしたところでは、保護された日本人はこれまでに7人に上り、うち2人は宮城県と愛知県の17歳と16歳の男子高校生だった。

宮城県の高校生はオンラインゲームで知り合った男(29)に家出を促され、愛知県の高校生もインターネットで知り合った男に「海外で特技を生かせる仕事」があると誘われて、いずれもタイ経由でミャンマーに越境していた、と報道されている。

こうした中国系詐欺拠点が存在するのは、ミャンマーだけに限らない。東南アジアではフィリピン、カンボジア、タイ、ラオス、マレーシアにも多く、南アジアではパキスタン、スリランカ、中東ではアラブ首長国連邦などにも拠点があることが分かっている。

ミャンマーの情勢変化によって、現在はミャンマーの拠点からカンボジア側に逃れようとしている中国系グループも多いとの報道もある。2月22日には、カンボジア北西部ポイペトでカンボジア警察がタイ警察の協力を得て詐欺拠点を摘発し、215人の外国人が見つかった。今後も摘発の流れは国をまたがり、拡大する可能性がある。

中国系の詐欺組織になぜ日本人が組み込まれているのか。多くの人が疑問に思うところだろう。私は1年以上かけて中国系の詐欺グループを追いかけ、その実態をSlowNewsで連載をしている。

この取材の中で、こうした詐欺拠点で働く日本人や、日本からの人材斡旋に関与する中国人業者から証言を得た。

証言した一人は、関東出身の日本人、A氏=20代=だ。A氏はミャンマーではない、東南アジア某国の中国人詐欺グループで半年以上働いていた。そこに行き着いた経緯は明かせない条件だったが、取材当時、詐欺拠点の内部から数時間の電話取材に応じた。

2時間で詐欺マニュアル覚えて”実践”

「都市部にある中国人が管理する施設にいます。中国人がボスで、下に幾つもチームが分かれている『会社』です。私がいるのは日本人チームで、日本人が15〜20人ほど。管理者として2〜3人の中国人が同じオフィスにいて、中国人からの指示を伝えるため通訳をする日本人もいます」

A氏によると、パスポートは会社に預ける必要があり、平日は基本的に外出できない。ただ、週末は許可を取れば外出して自由にショッピングモールに買い物に行ったり、カジノに行ったりして遊ぶこともできるのだという。

A氏が担当していたのは、日本の警察のふりをして日本人に電話する「かけ子」だった。詐欺拠点に入ってまもなく、日本語で作成された詐欺マニュアルを覚えるよう言われ、2時間ほどかけて読み込んで覚えると、すぐに電話をかけるように指示されたという。

警察官をかたる詐欺は、日本でここ数年、被害が急増している手口だ。

警察庁は2月6日、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺による2024年の被害総額が1989億5千万円で過去最悪になった、と発表した。

警察庁が発表した詐欺被害額に関する朝日新聞の報道

手口別では、誰かになりすます「オレオレ詐欺」が前年比で7割近く増加し、中でも警察官になりすました手口が増えていると報告されている。国際電話による発信は4万8805件で、前年の3.5倍だったという。

「捜査の専用口座に送金を」

ミャンマーの詐欺拠点から保護された愛知県の男子高校生も、A氏と同じ警察官をかたる詐欺に加担していた。

2月19日付の朝日新聞によると、高校生は愛知県警の聴取に「現地で警察官などをかたる詐欺に加担させられた」と答えている。また、高校生は拠点には「8人くらいの日本人が同じ仕事をしていた」とも話している。

警察をかたる詐欺は基本的に3人一組で実行される。A氏は、実際に自身が関与していた詐欺の実際の手口として次の一例を挙げた。「百貨店」、「警察」、「検察」の組み合わせだ。

まず、中国人側で入手した日本企業の顧客リストなどを渡され、日本人チームで電話をかける。

最初に百貨店の社員のふりをして「あなたのクレジットカードが不正に利用されている」と説明し、その後、警察役のメンバーに電話を転送する。警察役は「不正利用で、あなたを捜査している」と告げて相手を焦らせる。

濡れ衣を晴らそうとする相手の心理を突いて個人情報などを聞き出し、最後は検事役のメンバーに電話を転送。「犯罪に使用されたものか確認が必要なので、一度、捜査の専用口座に送金してください」と言葉巧みに指定口座に送金させる、というものだ。

警察官をかたる特殊詐欺への警戒を呼び掛ける警察庁の広報用チラシ

送金時にはインターネットバンクを利用させ、発覚しやすい銀行やコンビニなどのATMの利用は基本的に避けさせる。

ロマンス詐欺や投資詐欺と違って、警察をかたる詐欺では、SNSアプリは偽の逮捕状などを送るために使用するものの、メインは通話。そのため、内輪では「電話商材」と呼んでいるという。

A氏は複数の詐欺グループでかけ子として働いた経験がある。細かな詐欺の文言などは詐欺グループごとに修正が加えられているケースが多いとしながらも、「3人一組でやる基本的なところは大半の組織で同じやり方をしている」と説明した。

つまり、愛知県警に「8人くらいの日本人がいた」という高校生の証言は、3人一組の計3班(高校生+8人)で電話詐欺を実行していたことを意味している可能性がある。

中国人組織の管理下が楽?

では、中国人詐欺グループで働く日本人にはどのような背景を持つ人々が集まっているのか。

A氏は「私がいる会社では、かけ子の日本人の多くは20代から50代。『おじいさん』のような人もいます」と説明した。「日本人同士は休憩時間とかにしゃべることはよくあるが、あまりお互いに自分の経歴を話したりはしない」としながらも、こう続けた。

「日本の暴力団から送り出されてくる日本人もいます」

A氏は日本の指定暴力団の名称を具体的に口にした。

一時期、日本の暴力団に所属するという複数の人物が同じ詐欺グループ内で、同じようにかけ子として働いていたという。ヤクザでも扱いは基本的に他のメンバーと同じで、平日は基本的に外出禁止で、週末のみ外出が許されていたという。

なぜ、日本の暴力団関係者が中国人組織の管理下で働くのか。A氏は、こう説明した。

「海外では、詐欺グループを運営するためには、拠点をつくったり、地元の警察と関係を築いて摘発を免れるための賄賂を渡したりと、多くのコストや手間が必要になる。運営者側になれば摘発された場合のリスクも高いので、(日本の暴力団側としても)中国人に任せた方が楽という発想があると聞いています」

準暴力団「チャイニーズドラゴン」の関与の可能性を報じるTBS

ミャンマーの詐欺拠点では、戦後、日本に帰国した中国残留日本人の2世が中心となって組織した反社会的勢力で、日本の警察が準暴力団に指定する「チャイニーズドラゴン(通称チャイドラ)」が詐欺拠点の管理者側として関与していることをタイ当局が把握している、との報道も出ている。

私は昨年、日本から東南アジアに日本人のかけ子を送り出す日本在住の中国人斡旋業者にライターの身分を伏せた形で、接触した。その業者は「ホームレスの若者(日本人)を捕まえて、パスポートを取らせて(海外の拠点に)連れて行った」などと話していた。

日本在住の中国人や中国系の勢力が人材斡旋に関与しているのは間違いなく、A氏の証言からは、日本の暴力団の組織的な関与もうかがえた。

かけ子の心理状態もマネジメント

一方、この中国人斡旋業者は私に「大使館とかに通報されたら困るから、最近は(求人段階から)あらかじめ『これは詐欺だ』と正直に言って勧誘している」とも証言していた。

A氏も次のように説明した。

「私のいる中国人グループでは、たとえ売り上げが悪くても、電気ショックとか暴行などの体罰はない。SNSを使う詐欺と違って、電話をかける詐欺では、かけ子の声におびえがあったりすると困るからです。結構、合理的に考えられている」

中国人詐欺グループの中には、毎朝、ヒットソングを歌わせて、かけ子たちのモチベーションを高めているグループもある。彼らの心理状態も巧みにマネジメントしながら、あくまでビジネスライクに詐欺犯罪を遂行している実態が見えてくる。

また、A氏によると、報酬は詐欺の「売り上げ」に応じた歩合制が基本。毎月もらえる額には波があるが、A氏の場合、少なくとも200万〜300万円程度の月給を受け取っているという。

報酬は詐欺グループやかけ子個人でも異なるというが、当初は意に沿わない形で詐欺に加担させられたとしても、次第に「その気にさせられる」ケースも多いという。

こうした証言を踏まえると、現地の詐欺拠点にいる日本人は確かにパスポートは取り上げられている可能性は高いと言えるが、最近報道されているような「強制労働」や「監禁」の状態にあるケースばかりなのかどうか疑念が生じてくる。

ミャンマー東部のミャワディにある詐欺拠点で集団暴行を受ける中国人男性の様子だとして、2月17日に中国人のSNSグループに投稿された動画から

救出されるのは「被害者」なのか

ミャンマー東部の詐欺拠点では、「約1万人の外国人(中国人含む)が監禁状態で詐欺に加担されている」と報道され、捜索を通じて1~2月に7千人以上を保護したことをタイ当局が明らかにしている。しかし、保護された人がすべて本当に「被害者」と言えるかは疑わしいと言えるだろう。

一連のミャンマー情勢の急変は、1月初旬に中国人俳優の王星氏が誘拐される事件が発生し、中国やタイなどで大きな騒動に発展したことが発端だ。

その頃から、詐欺グループ側は摘発される可能性が高まっていることは十分に予見できたと言え、自由意志で働いていたメンバーも「意に反して働かされていた『被害者』として保護されるため」に救助要請を出している可能性もあると考えられる。

保護された日本人らはタイ当局から日本の警察当局に移送されて事情聴取を受ける。未成年の場合は危機管理の価値判断がまだ難しいとも考えられ、強制的に働かされた可能性が高いと思われる。

一方で、一定の社会経験を有する成人の場合では、警察は、彼らが本当に「被害者」だったのか、一人ひとりの状況や経緯を十分に確認することが必要になるだろう。

伊藤喜之さんによるスクープ連載「中国灰色産業」、第1回はこちら。

「中国灰色産業」、連載はこちらから