小学生時代…学校側とも町会とも仲良しだった錆兎さんの数々の個性的な提案で、俺達の小学校は随分と変わったらしい。
錆兎さんは息子の俺が卒業するのと同時に3年間続けた小学校のPTA会長を卒業したんだけど、今度はすでに地域の中学校でPTA会長をしていた宇髄さんにスカウトされて、俺が1年に入学するのと一緒に今度は中学校のPTA会長をすることになった。
もちろん小学校の頃と違って一緒に登校ということはないけれど、錆兎さんが学校と関わりを持っていてくれると思うと、なんとなく安心する。
そして安心したのは俺だけじゃないらしい。
学校と一緒になって荒れた学校を立て直したPTA会長を知っている同級生のお母さん達も同様に、錆兎さんがまた会長になってくれて嬉しいと言っていると、クラスメート達から聞いていた。
ともかく、俺は小学生から中学生になっていて、真新しいブレザーとシャツの制服に袖を通して学校へ通っている。
とはいっても、小学校時代のクラスメートの4分の3くらいは同じ中学だから、小学校の時ほどのドキドキ感もなく、なんなら1,2年、3,4年、5,6年と3回あったクラス替え全部で同じクラスだった不死川君はなぜか2クラスだった小学校から3クラスに増えた中学校でもまた、同じクラスだった。
それでもうちの小学校ともう一校の小学校が一緒になった中学では半数くらいは知らない顔だけど、知っている顔も多いので普通に困る事はない。
そんな中学生生活にもだいぶ慣れた頃、俺が慣れたということは、他はもっと慣れて来たらしい。
体育の前の休み時間に教室で着替えていると、教室の隅の方で数人の男子が大声で盛り上がっていた。
なんだろう?と目を向ければ、何故か
「おめえは見ねえでもいいっ」
と、不死川君が止める。
それになんだか子ども扱いされている気がしてムッとして、俺の腕をつかむ不死川君の手を振り払うと
「何か面白いもの?」
と男子たちの方へ駆け寄った。
それは違う小学校から来た男子の集団だったけど、
「おう、お前もみる?」
と突然乱入した俺に嫌な顔をすることなく、親しみに満ちた声をかけてきてくれる。
そうして少し場所を開けてくれて、彼らが騒いでいる元の乗っている机が見えるようにしてくれた。
それは一冊の本…というか、漫画だった。
「これさ、うちのクラスの白井由衣に似てね?」
一人が親し気に声をかけつつ肩に手をおいて言う。
そう言われても俺は何と言っていいかわからず、固まってしまった。
だってそれはいわゆるエロ漫画というやつで、男女の絡みがモロに描かれているシーンだったのだ。
ドキドキした…。
でも俺の脳内に残ったのは、男女のポーズと表情で…普通なら真っ先に凝視するんだろう女性の体にはあまり目がいかなかった。
そういうことをして、こういう表情になるような感じがあるんだ…と、具体的な描写よりそんな描かれない内面を想像して脳内で色々がグルグル回った。
どのくらい固まってたんだろう。
俺にとっては長く感じたけど、たぶんそんなに長い時間ではなかったんだと思う。
「すと~っぷ!教師に見つかったらヤバいだろうがァ!
そういうのは時間ある時に隠れて見やがれ!」
そこですぐに不死川君がそう言ってストップをかけて、さらに
「お前もバレたら一蓮托生なんだから、やめておけェ!」
と、まず俺をそこから引きはがす。
その男子の集団は
「お前、過保護かよっ!」
とブーイングしたり笑ったりしていたけど、不死川君は
「こいつは小学校からのダチってだけじゃなくて、俺が数学教わってる師匠の息子なんだよっ。
一緒に教師に突き出されたら数学極めて高給取りになるっつ~俺の輝かしい未来が終わっちまうだろうがァ」
とおどけた様子で返す。
そう、以前なら殴ったり怒鳴ったりしていたのに、不死川君はずいぶん変わった。
なんというか…からかいとかを真正面から受け止めるんじゃなくて、軽くかわすことを覚えた感じだ。
俺達は大人から見たら子どもかもしれないけど…完全に子どもではなくなってきたのかもしれない。
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