内容を詳しく知らずとも、「ドラッカー」と聞けば「マネジメントの権威」という印象を持つ人は多いでしょう。
自ら「社会生態学者」と名乗り、経営の現場を訪ね歩き、資本主義社会や企業経営のエッセンスを抽出し、多くの著作で伝えてきました。
没後20年以上となる今もなお、世界中でたくさんの読者に支持されています。
難しい経済学の抽象論を机の上でふりかざすのでなく、丹念な聞き取り取材によって、経済活動の「ナマ」の情報を分析してきた点で、ドラッカーの研究成果は起業家やビジネスマンに対して、実践的な指針を示す独自の魅力があるのです。
また、ドラッカーは日本通・知日家でもあり、日本の経済や文化に対する提言も行っていました。
ドラッカーの遺した言葉から、あなたの未来が開ける企業経営の指針を学んでみませんか。
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目次
ドラッカーの名言12選
数多くの人気著書を持つドラッカーは、組織経営やマネジメントに役立てられるような名言を多数残しています。
ビジネス論としてはもちろん、人生論にも読める、ドラッカーの名言を12選紹介します。
ドラッカーの名言1「企業」とは?
・「企業の目的は顧客の創造である。したがって、企業は二つの、ただ二つだけの企業家的な機能をもつ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす」(『マネジメント』より)[1]
ドラッカーの愛好者にとっては、有名なフレーズでしょう。
産業革命・機械文明の恩恵が世の中に行きわたっても、大衆は貧しいままなのが現実でした。
つまり「経済至上主義は、人々を幸せにしない」。これが若きドラッカーの問題意識でした。
ここから来るのは「組織社会」であり、組織運営が上手ければ、組織に所属し、組織に貢献する人々の物的・精神的な豊かさも得られると考えました。
その組織運営のノウハウこそ、まさに「マネジメント」です。
会社が収益を上げ続けて長く存続するかどうかは、経営者・管理職がマネジメントを身につけ、運用できていることが鍵となります。
企業という組織をマネジメントすることが、企業活動の存続に繋がるのですが、顧客を獲得し続けられなければ利潤を上げられません。
顧客を獲得するのに必要なことが、マーケティングとイノベーションだというのです。
たとえば、ユニクロを展開するファーストリテイリングが、インナー(下着)を再定義し、機能性とファッション性を両立させた「ヒートテック」や「エアリズム」などの大ヒット商品を生み出したのも、既存の常識を塗り替えるイノベーションと、世間で普遍的に求められている服を提供するマーケティングを融合させたからこそです。
そのファーストリテイリングの経営理念第1条に掲げられているのが、まさに「顧客を創造する経営」であり、ドラッカーの説を明確に意識しています。
では、イノベーションとマーケティングとは、具体的にどのような概念なのでしょうか。
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ドラッカーの名言2「革新」とは?
・「企業家はイノベーションを行う。イノベーションは企業家に特有の道具である。イノベーションは、富を創造する力を資源に与える。それどころか、イノベーションが資源を創造する」(『イノベーションと企業家精神』より)[2]
イノベーション(innovation)は「技術革新」と訳されます。では、企業という組織にとって、革新的なものとは何でしょうか。
なんとなく「斬新で、クリエイティブで、画期的で……」のようなイメージを抱きがちですが、ドラッカーはこれらの点には触れない「3つの心得」を挙げています。
1つは「集中すること」。つまり、複数の異なる分野に精力を分散するのでなく、ひとつの物事への献身的持続的努力が必要だと説きます。
2つめは「強みを基盤とすること」。つまり、自らの能力を最も活かせる場を探し、その対象への価値を心底信じられる相性も必要だといいます。
3つめが「世の中を大きく変える物であること」。つまり、独りよがりの新しさや珍しさでなく、社会から求められ、需要がある市場志向であるべきと位置づけます。
たとえば、富士フイルムはデジタルカメラやスマートフォンの普及で、カメラ用フィルムの需要が激減し、窮地に陥りました。
しかし、フィルム部門を大幅に縮小しながら、長年のフィルム製造で培ってきた技術を活かして、強みを発揮できる化粧品部門へ新規参入し、集中的に注力しました。
そうして、既存の化粧品メーカーには作れない画期的な商品を生み出し、美しくありたい女性の普遍的な需要に応え、V字回復を果たしたのです。
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ドラッカーの名言3「マーケティング」とは?
・「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」(『マネジメント』より)
企業が存続する上で、売上げを作り続ける営業部門の存在価値は大きいのですが、ドラッカーに言わせれば、言葉巧みなセールストークを駆使して商品やサービスを売り込むのは、本来の意味での「顧客の創造」ではない……との結論になりえます。
無理な売り込みや頻繁なPRをしない状態でも、買ってくれる人がいる状態こそが、マーケティングであり、顧客の創造なのです。
とはいえ、営業担当者が人脈を構築し、長い歳月を掛けて信頼を得ることを、ドラッカーが否定しているわけではありません。
マーケティングとは、顧客満足度を徹底して引き上げ、いい噂を客が他人へ流すことで、「客が客を呼ぶ」状態を創り上げることです。
つまり、マーケティングを営業部門だけでは完結しない、もっと広い全社的な取り組みだとドラッカーは位置づけています。
感動的なほど顧客満足を徹底している企業として有名なのが、東京ディズニーリゾートを展開するオリエンタルランドです。
顧客が日常を忘れる「夢の国」を演出するために、俗世間で目に入るものや、世間のネガティブな要素を連想させるものなどを、顧客から徹底的に感じさせないよう配慮しています。
このように帰ってから他人に話したくなるほど、感動的な体験がマーケティングに繋がるのです。
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ドラッカーの名言4「日本」とは?
・「こんにち、最も困難な試練に直面している先進国が、この半世紀間、社会として最もよく機能してきた日本である」(『明日を支配するもの』より)[3]
親日家だったドラッカーですが、学者としてのドラッカーは日本を決してひいき目に見ることなく、冷静かつ客観的な視点から分析しています。
日本人としても、母国の文化や言語化されていない空気感などを客観的に知ることができる点で、意義があります。
かつて、ドラッカーは、日本の終身雇用制や年功序列などのしくみを高く評価していました。
経済至上主義が行き着くところまで行ってしまうと、貧しい人々が増えてしまうだけなので、ひとりひとりが組織に貢献することを通じて、皆が豊かになっていく「組織主義」を説いていたからです。
「人の絆」がマネジメントの本質だと位置づけていたドラッカーにとって、日本の終身雇用は、その組織主義と合致しているように感じられたのでしょう。
リストラや解雇の恐怖を最小限に抑え、従業員にのびのびと働かせるしくみを絶賛していました。
しかし、日本企業の終身雇用制はバブル景気とともにほとんど崩壊してしまいました。
日本の経済に余裕があった時代だからこそ、終身雇用を一般化できたのであって、経済成長や会社の収益構造に余裕がなくなれば、維持するのは困難なのです。
そのような事情もあってか、ドラッカーは著書『明日を支配するもの』の中で、本業と同じぐらい真剣に働く副業やボランティアに取り組む「パラレルキャリア」を提唱しています。
本業が安泰でない時代なので、副業も本格化させ、もしものリスクに備えるべきだとの提言です。
パラレルキャリアは終身雇用と一部矛盾することもあり、ドラッカーの一貫しない主張が批判されることもあります。
しかし、企業の雰囲気を現場で徹底して調べているからこそ、時代の雰囲気の変化を鋭敏に掴むことができるのです。その点では希有な学者といえるでしょう。
ドラッカーの名言5「マネジメント」とは?
「マネジメントとは、人にかかわるものである。その機能は人が共同して成果をあげることを可能とし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである」(『マネジメント』より)
この言葉は、マネジメントの中心に人間を置き、個人の強みを活かしながら、組織全体の成果を最大化することの重要性を強調しています。
ドラッカーは、人間の尊厳を重視し、各個人が自らの強みを用いて世の中に貢献する創造的な存在になることを目指しました。
効果的なマネジメントは、チームメンバーの強みを引き出し、弱みを補完し合うことで、全体としての成果を高めます。
これは単なる業務管理ではなく、人々の潜在能力を最大限に引き出すテクニックともいえるでしょう。
さらに、この考え方は、組織内のコミュニケーションやチームワークの重要性も示唆しています。
互いの強みを理解し、貢献に焦点を当てることで、より生産的な人間関係が構築され、弱みがカバーされて組織全体の成果向上につながるのです。
ドラッカーの名言6「成果」とは?
「人が何かを成し遂げるのは、強みによってのみである。弱みはいくら強化しても平凡になることさえ疑わしい。強みに集中し、卓越した成果をあげよ」(『マネジメント』より)
成果を上げるためには自身や組織の強みに焦点を当てることが重要であると説いた言葉です。
ドラッカーは、弱点の改善に時間を費やすよりも、既存の強みを伸ばすことが成功への近道だとしています。
強みに集中することで、個人は自らの潜在能力を最大限に引き出し、組織は競争優位性を確立できます。
これは単なる業務改善ではなく、卓越性を追求する戦略的アプローチです。
ドラッカーの経営哲学において、強みへの集中は単なる選択肢ではなく、成功への必須条件です。
この原則を実践することで、個人も組織も、平凡を超えた卓越した成果を達成できるでしょう。
ドラッカーの名言7「強み」とは?
「知っている仕事はやさしい。そのため、自らの知識や能力には特別の意味はなく、誰もがもっているに違いないと錯覚する。逆に、自らに難しいもの、不得手なものが大きく見える。」(『創造する経営者』より)
私たちは、得意なことや熟練した技能は、自然に行えるがゆえにその価値を見落としがちです。
能力を当たり前だと考え、誰もが同じように持っているはずだと錯覚してしまう傾向があることをドラッカーは指摘しています。
一方で、苦手なことや新しい挑戦は困難に感じられ、自身の能力不足を強調してしまいます。この認識の歪みが、自己の真の強みを見逃す原因となっています。
ドラッカーは、この名言を通じて、個人や組織が自己の強みを正確に認識し、それを活かすことの重要性を説いています。
自身の能力を客観的に評価することで、当たり前だと思っていた技能こそが、実は貴重な強みである可能性に気づけるでしょう。
それこそが、成功への第一歩となるのです。
ドラッカーの名言8「組織」とは?
「人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。人とは費用であり、脅威である。しかし人はこれらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。」(『創造する経営者』より)
ドラッカーは、組織の目的を、個々の強みを最大限に活用し、生産性に結びつけることにあるとしています。
同時に、避けられない弱点を最小限に抑え、その影響を中和することも重要であると説きます。
これは、個人の潜在能力を組織の成功に結びつける戦略的アプローチで、個人の尊厳を重視し、それぞれの独自の才能や能力を認識し、活かすことの重要性を示しています。
ドラッカーの名言9「人」とは?
「マネジメントのほとんどがあらゆる資源のうち、人が最も活用されず能力も開発されていないことを知っている。だが、現実には、人のマネジメントに関するアプローチのほとんどが、人を資源としてではなく、問題、雑事、費用として扱っている。」(『マネジメント』より)
ドラッカーは、この言葉によって組織における人材活用の現状と理想との間にギャップがあることを指摘しています。
人こそが最も価値ある資源であるにもかかわらず、実際の経営現場では人材を単なるコストや問題の源として扱う傾向があることを批判しているのです。
つまり、多くの組織が人材の潜在能力を十分に活かしきれていない現実があります。
人材を「問題」や「雑事」として扱うのではなく、組織の成功に不可欠な「資源」として認識し、育成することが重要です。
ドラッカーの名言10「健全な組織」とは?
「仕事の上の人間関係は、尊敬に基礎をおかなければならない。これに対し心理的支配は、根本において人をばかにしている。マネジメント(管理職)のみが健康で、他のものは全て弱いとする。」(『マネジメント』より)
この言葉は、健全な職場環境の基盤が相互尊重にあることを強調しています。
ドラッカーは、真の生産性と成功は、組織のすべてのメンバーの価値を認め、尊重することから生まれると説いているのです。
一方で、心理的支配や上からの押し付けは、部下の能力や潜在力を軽視し、組織全体の成長を阻害すると警告しています。
管理職だけが正しいという考え方は、他の従業員の貢献を無視し、組織の多様性と創造性を損なう危険性があるでしょう。
効果的なマネジメントは、すべての従業員の強みを認識し、活用することです。
組織内の信頼関係を築いて個々の能力を最大限に引き出すことが、重要といえるでしょう。
ドラッカーの名言11「マネージャー」とは?
「マネージャーの役割は、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。オーケストラの指揮者のように、リーダーの行動、ビジョン、指導力を通じて各メンバーを統合し、創造的なものとして活かすことである。」(『マネジメント』より)
マネージャーの役割は、単なる資源の管理や個々の能力の足し算ではなく、組織全体の相乗効果を生み出すことにあると強調した言葉です。
ドラッカーは、マネージャーをオーケストラの指揮者に例えて、個々のメンバーの能力を統合し、より大きな成果を生み出す創造的なプロセスとしてマネジメントを捉えています。
効果的なマネジメントは、リーダーの行動、明確なビジョン、そして適切な指導力を通じて、チームメンバーの強みを最大限に引き出し、組織全体としての価値を高めることを目指します。
ドラッカーの名言12「変化」とは?
「あらゆる仕事が原理に基づいている。企業家精神もまた原理に基づく。企業家精神の原理とは変化を当然のこと、健全なこととすることである。」(『イノベーションと企業家精神』より)
変化には心理的抵抗が伴いますが、変化を「当然のこと」「健全なこと」と捉えることは、イノベーションの基盤となります。
この姿勢は、新たな機会を見出し、リスクを最小化する方法ともいえるでしょう。
企業家精神は、単なるひらめきや運に頼るものではありません。企業家精神には、体系的で組織的な取り組みが必要です。
この原理を理解し実践することで、個人も組織も変化の中で成長し、イノベーションを生み出す力を養うことができるでしょう。
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まとめ ドラッカーの名言
ドラッカーの名言は、現代であっても決して古びていません。最後に12の名言を振り返っておきましょう。
- 「企業の目的は顧客の創造である。したがって、企業は二つの、ただ二つだけの企業家的な機能をもつ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす」
- 「企業家はイノベーションを行う。イノベーションは企業家に特有の道具である。イノベーションは、富を創造する力を資源に与える。それどころか、イノベーションが資源を創造する」
- 「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」
- 「こんにち、最も困難な試練に直面している先進国が、この半世紀間、社会として最もよく機能してきた日本である」
- 「マネジメントとは、人にかかわるものである。その機能は人が共同して成果をあげることを可能とし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである」
- 「人が何かを成し遂げるのは、強みによってのみである。弱みはいくら強化しても平凡になることさえ疑わしい。強みに集中し、卓越した成果をあげよ」
- 「知っている仕事はやさしい。そのため、自らの知識や能力には特別の意味はなく、誰もがもっているに違いないと錯覚する。逆に、自らに難しいもの、不得手なものが大きく見える。」
- 「人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。人とは費用であり、脅威である。しかし人はこれらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。」
- 「マネジメントのほとんどがあらゆる資源のうち、人が最も活用されず能力も開発されていないことを知っている。だが、現実には、人のマネジメントに関するアプローチのほとんどが、人を資源としてではなく、問題、雑事、費用として扱っている。」
- 「仕事の上の人間関係は、尊敬に基礎をおかなければならない。これに対し心理的支配は、根本において人をばかにしている。マネジメント(管理職)のみが健康で、他のものは全て弱いとする。」
- 「マネージャーの役割は、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。オーケストラの指揮者のように、リーダーの行動、ビジョン、指導力を通じて各メンバーを統合し、創造的なものとして活かすことである。」
- 「あらゆる仕事が原理に基づいている。企業家精神もまた原理に基づく。企業家精神の原理とは変化を当然のこと、健全なこととすることである。」
ビジネスシーンでの現場取材から人々の営みを見つめ、人間心理と経済社会の本質を言い当てる人の言葉だからでしょう。
国が違っても、経営のエッセンスにはほとんど違いがありません。
世の中の常識や思い込みと正面から向き合い、挑戦し続けたドラッカーの言葉は、これからも人々から注目され続けることでしょう。
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参照
[1]『マネジメント』ピーター・ドラッカー ダイヤモンド社 p.20
[2]『ドラッカー 時代を超える言葉』上田惇生 ダイヤモンド社 p.72
[3]『ドラッカー 時代を超える言葉』上田惇生 ダイヤモンド社 p.238