マネージャーの皆さん、チームの成果が中々上がらなくて困っていませんか?
もしかしたら、チームの成果が上がらない理由は「働きアリの法則」によるかもしれません。
働きアリの法則は、自然界における働きアリの行動特性を示した法則ですが、人間社会においても当てはまる部分が多くあります。
働きアリの法則を活かしたマネジメントを実践することで、チームの成果が向上するかもしれません。
そこで本記事では、マネージャー向けに働きアリの法則について解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
「働きアリの法則」とは?
「働きアリのうち、よく働く2割のアリが、8割の食料を集めてくる」。
もともとは、働きアリを観察して得た生物学の法則なのですが、これが人間社会にも似ていることから、ビジネス書でもよく取り上げられます。
例えば、こんな具合です。
一般的に、組織の構成比は、
・「上位20%(会社を引っ張る20%のリーダー)」
・「中位60%(会社を支える60%の人材)」
・「下位20%(上の80%にもたれかかっている20%)」
に分かれる(2-6-2の法則)というのが通説です。
[1]「2-6-2」の下位20%は宝!下の2割を切らないと、なぜ、10年以上離職率ほぼゼロになるのか?(ダイヤモンドオンライン)https://diamond.jp/articles/-/124994
では、できる社員のトップの人たちは、一体どんな行動をしているのでしょうか。
その行動をできない社員が「真似すること」で全員が生産性をあげることは、可能なのでしょうか。
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働きアリの法則は北海道大学の研究で証明
働きアリの法則における有名な研究として、北海道大学大学院農学研究員の長谷川英祐准教授らがまとめた『働くアリだけのグループにしても働かない個体が現れることを証明』が挙げられます。
働きアリは個体によって「仕事に対する姿勢」が異なるのですが、そこからちゃんと働くアリだけでグループを作っても、その中で「働かないアリ」が出ることが判明したのです。
この研究成果から、長谷川英祐准教授らは「常に働かない個体がいることに有利性があると考えられる」と結論づけました。
パレートの法則との違いとは
働きアリの法則に似た言葉として、パレートの法則が挙げられます。
パレートの法則は、イタリアの経済学者ビルフレッド・パレートが1896年に発見した理論で、「集団の上位20%が全体の80%を生み出す」という法則のことです。
ビジネスにおいては「全従業員の20%が業績の80%を生み出す」というように用いられます。
働きアリの法則とパレートの法則の違いは比率です。
働きアリの法則は「2:6:2」ですが、パレートの法則は「2:8」となっています。
ただしどちらの法則も「ごく少数の要素が全体を大きく動かしている」という点で、よく似ています。
働きアリの法則と人間社会との関係性
ここでは、働きアリの法則と人間社会との関係性について、以下のポイントで解説していきます。
- パフォーマンスの偏り
- 環境によって役割が変わる
- 働かない2割が余裕を生み出す
- 格差が生じる原因にもなる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
パフォーマンスの偏り
働きアリの法則から学べることとして、どんな企業においても、従業員ごとにパフォーマンスの偏りが生じる点が挙げられます。
働きアリの法則では、ハイパフォーマーが2割、ミドルパフォーマーが6割、ローパフォーマーが2割存在すると考えられています。
つまり、どんな企業やチームでも、従業員によるパフォーマンスの偏りは、必ず存在するということです。
この考え方が正しいのであれば、チーム全体のパフォーマンスを均一化するのは、間違ったアプローチだと言えるでしょう。
環境によって役割が変わる
また、長谷川准教授らの研究によれば、働くアリだけ抽出しても、その中で働かないアリが登場することが明らかになっています。
これはつまり、チームAではハイパフォーマーだった人材が、チームBに異動したときにローパフォーマーになってしまうことがあり得るということです。
また、チームからローパフォーマーを排除しても、またチーム内にローパフォーマーが登場することも考えられます。
環境によってパフォーマンスが大きく変わることを理解しておけば、人材配置にも役立てることができるでしょう。
働かない2割が余裕を生み出す
人間は、常に100%の力を発揮することはできません。
1日の中で集中する時間もあれば、リラックスする時間もあるはずです。
チームや組織の活動でも同じことが言えます。
あらかじめ余裕を残しておくことで、いざとなったときに100%の力を発揮することができるのです。
つまり、働かない2割はチームにとっての余裕や遊び心の役割があるのです。
働かない2割が存在するからこそ、火事場の馬鹿力が発揮されたり、普段では思い付かないようなアイディアが生まれたりします。
働かない2割も、チームにとって必要な存在なのです。
格差が生じる原因にもなる
働きアリの法則やパレートの法則が正しいのであれば、優秀な人材とそうでない人材で格差が生じます。
実際、資本主義が成熟化した現代社会は、超格差社会とも言える状況です。
働きアリの法則では、どんなに環境を変えても必ず格差が生じることが指摘されています。
そう考えると、重要になってくるのは、格差を防ぐことではなく、再分配の仕組みを構築することではないでしょうか?
お金に限らず、スキルやチャンスなど、あらゆるものを再分配することが、これからのチーム作りで必要不可欠になるかもしれません。
働きアリの法則を社員教育に活かす方法
働きアリの法則を社員教育に活かす方法としては、以下の5つが挙げられます。
- 上位2割にストレッチ目標を設定する
- 上位2割のスキルを共有する仕組みを作る
- 中位6割を伸ばす研修を積極的に実施する
- 下位2割に対しては1on1でサポートする
- 働きアリの法則を踏まえたタスク分配を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
方法1.上位2割にストレッチ目標を設定する
働きアリの法則を社員教育に活かす方法として挙げられるのが「上位2割に対してストレッチ目標を設定すること」です。
上位2割の優秀な人材は、通常の業務では満足できず、やりがいのある仕事を求める傾向があります。
また、自分自身でPDCAサイクルを回しながら成長できるので、均一化された業務内容ではやりがいを感じません。
そこで上位2割の従業員に対しては、ストレッチ目標を設定します。
ストレッチ目標とは、「今の実力では、少し無理をしなければ達成できない目標」のことです。
ストレッチ目標を達成するには、これまでとは異なるスキルややり方が求められるので、上位2割の従業員でもやりがいを感じられるはずです。
方法2.上位2割のスキルを共有する仕組みを作る
また、上位2割の従業員が持つ優れた能力を、チーム全体で共有する仕組みを作っておきましょう。
上位2割の従業員は、自分なりのコツや仕事術を身に付けていることが多いです。
それを全体に共有すれば、チーム全体で生産性が向上する可能性があります。
ソフトウェア開発の世界では、スーパーエンジニアと呼ばれる優秀なエンジニアが、通常の何十倍ものパフォーマンスを発揮していることが珍しくありません。
そのメソッドをチームに共有できることで、チーム全体の業績が何倍も上がる可能性があります。
このように、上位2割のスキルを共有することで、チーム全体が底上げされます。
方法3.中位6割を伸ばす研修を積極的に実施する
働きアリの法則によれば、全体の約6割がミドルパフォーマーだと考えられています。
そのため、社内研修のような大人数向けの人材教育は、中位6割の従業員をターゲットにするのがいいでしょう。
中位6割の従業員は、上位2割ほど優秀ではないかもしれませんが、適切な人材教育を積み重ねることで、確実に成長していく層です。
工数が少ないセミナーやeラーニング制度を充実させて、中位6割の従業員を包括的に教育しましょう。
ただし、一口に中位6割と言っても、従業員によって適性が異なる点には注意が必要です。
方法4.下位2割に対しては1on1でサポートする
下位2割の従業員に対しては、1on1でサポートするのがいいでしょう。
上位2割や中位6割の人材は、研修制度を用意することで自主的に成長できる可能性が高いです。
一方で下位2割の人材は、何かしらの原因から、思う通りに成長できない可能性があります。
そこで上司が1on1でサポートすることで、下位2割の人材が抱える課題や解決策を明確にするのです。
「自分の適性がわかっていない」「労働意欲が低下している」「スキルが身につかない」など、パフォーマンスが上がらない理由が少しでもわかれば、それに対して解決策を提示できるようになります。
下位2割の従業員と対話を重ねて、課題を抽出しましょう。
方法5.働きアリの法則を踏まえたタスク分配を行う
働きアリの法則を社員教育に活かす方法として、働きアリの法則を踏まえたタスク分配を実施することが挙げられます。
具体的には以下の通りです。
- トップ層には難易度の高いタスクや、権限を与えてリーダーシップを任せる
- 中間層にはスキルを磨けるタスクを任せる
- 下位層には難易度の低いタスクを任せながら、スキルアップの機会を作る
働きアリの法則が正しければ、従業員によってパフォーマンスに差が生じるため、それぞれの従業員に合った難易度のタスクを割り振るようにします。
この方法であれば、全体でバランスを取りながら、チーム全体で成長することが可能です。
働きアリの法則を活用する上での注意点
働きアリの法則をマネジメントで活用する際の注意点は以下の5つです。
- 下位2割を排除しても意味がない
- 下位2割が必要だと考える
- 格差を強調しないようにする
- 中位6割を放置しすぎない
- 上位2割にインセンティブ報酬を用意する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
注意点1.下位2割を排除しても意味がない
働きアリの法則を活用する上での注意点として、下位2割を排除しても意味がないことが挙げられます。
上位2割、中位6割、下位2割であれば、「下位2割を異動させればいいじゃないか?」と思うかもしれません。
しかし、先ほど触れたように上位2割だけでチームを作っても、その中でまた下位2割が誕生します。
チームの生産性を向上させたいのであれば、下位2割を排除するのではなく、チーム全体の底上げを第一に考えましょう。
注意点2.下位2割が必要だと考える
チーム全体のパフォーマンスを上げるには「下位2割が必要」と考えるマインド転換が必要です。
下位2割の人材は、いざとなったときに活躍できる「バックアップ人材」の役割があります。
また、下位2割の人材がチーム内に存在することで、チーム全体に「余裕」が生まれ、それが生産性向上やクリエイティブなアイデアに繋がることもあるはずです。
そのため、下位2割の人材を排除するのではなく、どのようにすれば下位2割の人材が活きるのかを考えた方が、結果としてチーム全体のパフォーマンスが向上します。
注意点3.格差を強調しないようにする
働きアリの法則によれば、チーム内の人材は上位2割・中位6割・下位2割に分けられるので、チーム内でどうしても格差が生じてしまいます。
仮に、チーム内の格差が強くなりすぎると、上位2割の人材が天狗になったり、下位2割の人材のモチベーションが落ちたりすることになりかねません。
そのため、マネージャーはチーム内の格差を強調しないように努める必要があります。
具体的には以下の施策が考えられるでしょう。
- 過度な成果主義の撤廃
- チーム全体の目標をしっかり共有する
- 個々の役割を評価する
チームが一丸となる雰囲気作りが求められます。
注意点4.中位6割を放置しすぎない
働きアリの法則では、上位2割と下位2割が注目されがちです。
しかしよく考えてみれば、マジョリティは6割の中位層となります。
上位と下位に注目しすぎて中位6割の人材を放置してしまうと、チーム全体の成長機会を見失ってしまう可能性があります。
中位6割の層がチームの土台になるため、しっかりとした人材教育を実施する必要があるでしょう。
そのためにも上位・中位・下位で連携できるようにしておくことが大切です。
中位6割は、上位層からアドバイスを受けたり、逆に下位層をサポートしたりすることで、チームメンバーとして成長することができます。
注意点5.上位2割にインセンティブ報酬を用意する
チームの業績の大部分を担う上位2割の人材には、業績と連動したインセンティブ報酬を用意するのがいいでしょう。
もし、チーム全体で報酬を同水準にしてしまうと、上位2割の人材が待遇に不満を感じて、離職したり労働意欲が低下したりする可能性があります。
そこでインセンティブ報酬を用意することで、結果を出すほど待遇が良くなる環境を上位2割の人材に提供できるようになります。
それに加えて、中位層や下位層の人材のモチベーション向上も期待できるでしょう。
上位2割の人材のモチベーションを向上させるために、一定のインセンティブ報酬は欠かせません。
働きアリの法則を活かした事例
ここでは、以下の3つの「働きアリの法則を活かした事例」を紹介していきます。
- 教育現場での学習成果向上
- 営業チームの成果最大化
- プロジェクトの優先づけ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
事例1.教育現場での学習成果向上
働きアリの法則を活かした事例として、教育現場での学習効果向上が挙げられます。
現在、教育現場ではパーソナライズドされたカリキュラムが注目を集めるようになっています。
具体的には以下の通りです。
- 独学で十分な上位2割の層は自由に勉強させる
- ある程度理解力がある中位6割の層はeラーニングなどで指導する
- 理解力が乏しい下位2割の層はマンツーマンで指導する
この仕組みであれば、少人数の教師陣で多くの生徒の学習効果を高めることが可能になります。
事例2.営業チームの成果最大化
働きアリの法則を活かした事例として、営業チームの成果最大化も挙げられます。
営業の現場においても「上位2割のトップ営業マンが売上の大部分を占める」ということがよくあります。
このような状況下では以下のような施策を取り入れることで、チーム全体の業績を向上させます。
- トップ営業マンのノウハウをチーム全体で共有する
- トップ営業マンには重要案件を任せる
- 駆け出し営業マンは研修やアシスタントから始める
このように、営業スキルや業績に応じて適切なタスクを割り振り、チーム全体でノウハウを共有することで、営業チームの成果が最大化されます。
事例3.プロジェクトの優先づけ
受託案件のプロジェクトの優先づけでも働きアリの法則が応用可能です。
例えば、ソフトウェア開発会社の場合、売上の大部分が20%のクライアントに由来していることがあります。
この場合、20%のクライアントに対して優先的にリソースを投下することで、利益率が改善される可能性があります。
一方で、売上に大きく貢献しないクライアントの案件や難易度の低い案件は、新入社員の経験の場として活用することも可能です。
ソフトウェア開発に限らず、働きアリの法則は、プロジェクトやタスクの優先づけでも活用できます。
まとめ 働きアリの法則を理解した上で、マネジメントをしよう
本記事では働きアリの法則について解説してきました。
働きアリの法則は、働きアリの集団が「上位層20%」「中位層60%」「下位層20%」に分類される法則を指します。
働きアリの世界では上位層だけで集団を作っても、その中で下位層が形成されることから、この「2:6:2」の構成比が、働きアリの組織構成の基準になっているようです。
そして、これと同じ現象が人間社会でも当てはまることがあります。
この「働きアリの法則」の視点から、マネジメントのやり方を変えてみていいかもしれません。
参考
[1]「2-6-2」の下位20%は宝!下の2割を切らないと、なぜ、10年以上離職率ほぼゼロになるのか?(ダイヤモンドオンライン)https://diamond.jp/articles/-/124994