Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

病院経営の改善や医療現場の業務変革に向け、多くの医療機関が医療DX推進に取り組んでいる。その一方で、現状の医療情報システムには標準化されていないデータの分散化や、システムやデータの連携が困難でデータ利活用が進まないといった課題がある。そういった課題に応えるべく、インターシステムズジャパンはデロイト トーマツ コンサルティング(以下デロイト トーマツ)と協業。デロイト トーマツは、InterSystems IRIS for Health™を基盤に医療情報統合プラットフォームサービスを開発した。オンラインで開催された「第5回InterSystems 医療×ITセミナー」において、新たな医療情報統合プラットフォームサービスが医療機関の変革にどのような効果をもたらすのかが紹介された。

医療現場に求められる医療DX政策への対応

電子カルテや医療情報システムの普及、医療機器のIoT化などにより、利用可能な医療データは大幅に増加している。一方で、医療データの多くは標準化されておらず、様々なデータ形式でサイロ化された医療情報システムに散在している。そのため、データを十分に活用できておらず、複雑なオペレーションに起因する業務効率の低下など多くの問題が生じている。こうした課題を解決するためにデロイト トーマツは、インターシステムズジャパンと協業し、医療情報統合プラットフォームサービス「HospitalLake」の提供を開始した。その基盤とコンサルティングサービスを統合した「Hospital Managed Service」により、医療機関の変革を総合的に支援していく。

セミナーの冒頭挨拶でインターシステムズジャパンの林雅音氏は、「デロイトトーマツグループ様とは長年にわたり、医療機関のDXや近代化に対するコンサルテーションとテクノロジーの組み合わせで協業してきました。今回さらに同社が上流コンサルティングからITソリューションまで提供する新たなビジネスモデルを推進することになりました」と経緯を説明。インターシステムズのデータプラットフォーム「InterSystems IRIS for Health™」を基盤にしたHospitalLakeをクラウド上に構築。同時にHospital Managed Serviceを提供することにより、データを効果的に利用したワークフローの改革、業務効率化など医療DXの推進が期待できるとした。

林氏に続き、デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社の大久保優氏が、欧米における医療データとテクノロジーの活用状況と日本の医療機関に求められる今後の対応について解説、提言した。

医療情報の利活用は、質の高い医療サービスの提供、あるいは医学研究の推進、革新的な医薬品・医療機器の創出に寄与できる貴重な社会資源である。しかし、医療機関にとって、データ提供に関するインセンティブがない。あるいは他の医療機関や研究・開発で利用する機会が限定されており、データを標準化するメリットが少ないといった課題がある。「欧米各国では医療情報連携基盤がすでに運用されており、基盤を活用したAI開発やリアルタイム解析などが非常に進んでいます。一部の国では診療報酬上でインセンティブ制度を整備することによって、基盤整備とデータ提供を推進しています」(大久保氏)

米国は、2011年に開始されたMeaningful Use政策を皮切りにEHR(電子健康記録)の普及により、データ取得と共有、医療現場のプロセス効率化、総合的医療の向上を目指した。その過程で医療機関へのインセンティブを付与。「その結果、2014年にはEHRの普及率は95%超を達成。2016年以降はMACRA法という法律を適用し、データを量ではなく質に転換すべく、インセンティブ制度の導入を進めてきました」(大久保氏)。一方、EHRの普及とともに全米で100を超える医療情報連携ネットワークが存在し、多くの組織は複数のネットワークに参加する必要があり、相互にデータ共有できていないという課題が生じた。その解決のために現在、国の認定(実際は委託機関が認定)を受けた医療情報連携ネットワークがHL7 FHIRで相互接続し、患者情報や医療機関を連携するという取り組みを進めている。

EUにおける医療データ利活用の取り組みは、欧州ヘルスデータスペース(EHDS)構想と呼ばれるEU法が成立間近で、一次利用と二次利用の両方の促進が進められている。「EHDSの目的は、患者が自身の電子ヘルスデータをコントロールすることを保証するとともに、研究者、イノベーター、政策立案者などが電子ヘルスデータにアクセスをして適切に利用できるようにすることです」(大久保氏)。現在、一次利用インフラ(MyHealth@EU)と二次利用インフラ(HealthData@EU)が構築され、前者は2025年までに25カ国が順次参加予定で、後者は各国のヘルスデータインフラや欧州疾病予防管理センターなど16組織がコンソーシアムを組成してパイロットプロジェクトを実施中だという。

一方、日本は政府主導の医療DX推進の一環として、全国医療情報プラットフォームの構築を進めている。医療機関、介護施設、公衆衛生機関、自治体が互いにデータを共有・活用するプラットフォームであり、その中で医療情報基盤の1つとして電子カルテ情報共有サービスが計画されている。診療情報提供書や退院サマリーなど3文書と、疾病名やアレルギー情報などの6情報をHL7 FHIR形式で収集して参照もしくは取得ができるような仕組みで、2025年中に本格稼働を予定している。大久保氏は、こうした日本の取り組みと海外諸国のデータ利活用の動向を踏まえ、今後医療機関に求められる対応について提言した。

「3文書6情報の共有化からスタートし、データ連携や標準化が国主導で進んでいくため、医療機関は医療情報連携を前提にした準備やデータ利活用を進めていくことが必要です。準備が後手に回ると、享受できるサービスなどに差が生じる可能性があります。その結果、職員の働き方や患者への価値提供、経営管理や生産性においても格差が広がるおそれがあります」(大久保氏)

コンサルティングサービスと
医療情報統合プラットフォームが医療DXを支援

次に登壇したデロイト トーマツ コンサルティング の北原雄高氏と宮越弘樹氏が、HospitalLakeを含む医療機関の変革、DXを総合的に支援するHospital Managed Serviceを紹介した。

医療機関における変革の難しさの要因としては、全体変革を起こすためのリソース不足が挙げられると北原氏は指摘。多くの医療機関ではCIO(最高情報責任者)が不在であり、組織としてのIT構想が存在しない、財務戦略とIT投資の分断、部門や職種をまたがるガバナンス不在、業務プロセス変革やチェンジマネジメントの専門家の不在といった課題である。変革を支援するコンサルティングファームも、構想プランニングは行うものの実現手段を持っていないと指摘されることがあったという。また、ソリューションが多様化・変化する中でテクノロジーの見極めが難しく、複数のソリューションを統合するプレイヤーが不在という問題もある。「こうした課題に対する我々のアプローチが、Hospital Managed Serviceです」(北原氏)

このHospital Managed Serviceを通じて同社が提供する価値は、次の4点だとした。

  • ①サービスとテクノロジーの融合によって、従来のコンサルティングファームでは難しかった「実現・運用」まで伴走
  • ②ソリューションありきではなく、病院が実現したい姿を基に病院主導の変革プロジェクトを推進
  • ③システム間連携、情報連携・統合を実現するHospitalLakeによって迅速かつ柔軟なソリューション実装を支援し、医療機関のワークフロー変革を実行
  • ④HospitalLakeを軸に様々なソリューションプロバイダーとのテクノロジーエコシステムを構築

Hospital Managed Service

医療機関のパートナーとして、変革を実現するために必要なサービス群を、Hospital Managed Serviceとして提供

具体的なコンサルティングサービスとして、医療DX構想策定、CIOなどの人材育成・派遣、財務・資金調達計画支援といった戦略・経営資源領域、実際のワークフロー再構築、データマネジメント、サイバーセキュリティなどの運用領域の支援を行う。それにInterSystems IRIS for Health™とHospitalLakeによる情報統合基盤、その基盤上で運用するDX推進のためのアプリケーション群を統合したパッケージとして提供していくという。

「DXを推進する上で何をテーマに取り組むのか、限られた財務資源をどこに投下するのかというのは重要な視点です。医療機関のパートナーとしてビジョンとゴールを共有しながら、注力テーマを絞り込み、段階的に取り組んでいきます。変革をイメージしながら、理想のワークフローをデザインし、実現に向けたITグランドデザインからソリューションの導入・構築、運用までを一貫して支援します」(北原氏)

新しいワークフローから解決策をデザインする工程において重要な点は、「その順序を間違えないこと」と指摘する。医療現場では様々な職種が関係していることから、問題意識が統一されていないケースがある。職種間で何がプロセス上の問題なのか、目指すべきゴールは何かといったところを共有し、共通理解の上で解決策を検討することが重要とし、「一見遠回りに思えるアプローチが、DXにおいて非常に重要だと考えています」と述べた。

こうしてデザインされた新たなワークフローや分析ソリューションを構築・運用する際の基盤となるのが、クラウド上に構築されるHospitalLakeである。同プラットフォーム開発の背景には、業務変革・効率化のための様々なソリューションが多くのベンダーから提供されている。そのため、導入において電子カルテや部門システムなどと効果的に連携する難しさがある。「ソリューションの導入検討が長期化したり、導入コストが膨らんだりして思い描いたワークフローを実現できない場合があります。また、導入するアプリケーションのデータの断片化が発生して利活用が進まないといった問題もあります」(宮越氏)と指摘。そうした課題に対してHospitalLakeは、病院情報システムと変革のためのソリューションの連携・統合、データの連携・統合を果たす役割があると説明した。

クラウド情報統合基盤であるHospitalLakeは、(1)API連携基盤、(2)統合データ基盤、(3)管理機能で構成されている。電子カルテや部門システムなどの各システムとソリューションをリアルタイムに連携・統合(API連携基盤)、様々なデータを収集し、正規化されたデータモデルで蓄積(統合データ基盤)、継続的な変革や改善に必要なAPIやデータを管理するといった機能要素である。

実際の運用上の特徴としては、デトロイト トーマツのクラウド環境に構築されたHospitalLakeを同社のプラットフォーム管理チームがすべて管理するサービスが付随していること。「最新技術やセキュリティ対応などの業務を我々のチームが担い、医療機関はソリューションを活用したワークフロー改革に注力できるよう役割分担を提案していきます」(宮越氏)。また、HospitalLakeでは各ベンダーから提供される専門的なソリューションをAPI連携やデータ連携統合でき、医療機関にとっては個別にソリューションを導入する際のハードルを下げることが可能な点が挙げられる。

最後に宮越氏は、Hospital Managed ServiceとHospitalLakeは現在初期バージョンであり、今後ソリューションの機能を含め充実・進化させると述べ、「AI技術の活用においてデロイトグローバルでは様々な取り組みがなされており、今後HospitalLakeへの実装も計画しております」とした。さらなる進化にも期待が集まる。