最後に、1992年10月4日、引退直前のコーゼンによる、最後の重賞制覇の騎乗について。コ―ゼンはロンシャン競馬場の Ciga Prix du Rond-Point (ロンポワン賞)を、前年1991年のBCジュヴェナイルを圧勝して「セクレタリアトの再来」だと大騒ぎになったアラジ (Arazi) と勝利しました。4コーナーを回り、左前の緑の勝負服に進路を取られないよう「スッスッ」と手綱を動かして進路を確保し、すぐに手を元に戻す。そのままアラジが先頭に立つと、慌てることなく、そこから本格的に追い出しを開始。その際、追いながら手綱をスルスルと長めに持ち直し、じんわりと追い出しているところも本当に丁寧です。
G1レースではありませんが、 1991 Trusthouse Forte mile (1m, 約1600m, サンダウン競馬場) にも触れておきます。5頭立ての少頭数のレースです。コーゼンと共にGⅠを4勝することになるインザグルーヴ (In the groove) に騎乗して最後方からの競馬。少頭数のレースですが(だからこそ)、馬群は密集しています。直線に向いた後、前の馬と接触スレスレの位置で微妙に位置を変えながら我慢。そして、外に至後ろの馬が下がり切った瞬間に、スッと外へ完全に出してから追い出し、差し切って勝利しています。横に0.5頭分、外に出すところも含めて、コーゼンの姿勢も馬の姿勢も、全く乱れることが無い。手応えはあったはずなので、もっと大味な進路取りをしても勝てていたのでしょうが、そういったことは決してやらず、これ以上無理だろうというくらい繊細で緻密な進路取り、他馬との間合い取りを行っています。
以下の1982年のプリンスオブウェールズS(コーゼン22歳)では、騎乗馬の左臀部への鞭→左前の見せ鞭→左臀部への鞭→左前の見せ鞭・・・を残り200m付近からゴールまで淀みなく、一定のリズムで繰り返しています。そしてゴールインの瞬間に左前の見せ鞭が来るようにピッタリとタイミングを合わせて騎乗馬 (Kind Of Hush) を導き、最後に鼻差で差し切って勝利させています。