落合陽一氏「ピクシーダスト上場廃止に関する声明」の“耐えられない軽さ”

――最初に伝えるべきは、影響を被った「個人株主に対する配慮」だったのではないだろうか?

2024年12月26日、NewsPicksから1本の動画が公開された。
落合陽一氏が率いるピクシーダストテクノロジーズの上場廃止に迫るものであった。

NewsPicksは同氏と懇意にしており、報じないだろうと予見されていた。
その内容は瞬く間に拡散され、当編集部もその取材の緻密さ、ジャーナリズムには身震いさせられた。

そして、この動画の公開を受けて、先ほど落合陽一氏が、ピクシーダストテクノロジーズ社(以下「PXDT」)の非上場化(上場廃止)に関する声明を自身で発信した。
上場廃止の情報公開から、64日経って、ようやく出された声明だった。

その内容を読んだとき、多くの株主や関係者が感じたのは「なぜここまで説明を避けていたにも関わらず、謝意や謝罪が一切ないのか」という疑問ではないだろうか。
以下では、主に「株主との関係」という観点から、この声明の問題点を論じたい。

落合陽一氏の全文は下記より確認が可能である。

1.非上場化手続きに求められる最低限の説明責任

まず大前提として、非上場化(上場廃止)を決定した企業は、投資家に対して理由や背景、今後の影響などを十分に説明する義務がある。
もちろん法令上、すべての情報をリアルタイムで開示できない場合もあるが、少なくとも「方針」と「想定される株主への影響」 はできるだけ明確に語るのが、主体となる法人だけでなく上場企業の代表としての基本的な姿勢だろう。

落合氏の声明では「SEC登録が継続しているから詳細を述べられない」「誹謗中傷はやめてほしい」といった強めの注意喚起に重点が置かれ、株主・投資家に対する誠実な説明 がほぼ読み取れない。
事業上・法令上の事情から口をつぐむ必要があったとしても、そうした説明責任を果たそうとする“意欲”が文章から感じられないのは非常に残念な声明であった。

また、フェア・ディスクロージャーを盾に「何も言えない」などと言っているが、上場廃止に関してのお知らせや、周知は当然発信が出来るはずで、FDルールがあったから何も言えなかったという筋違いの主張自体が株主軽視であるといっても過言ではないだろう。

2.「法令遵守のため沈黙」という盾は正当か

上場廃止前後の微妙な時期において、企業が株価への影響を考慮して発信を制限するのは理解できる。しかし、単に「法令遵守だから言えない」という姿勢だけでは、投資家の不信感をかえって高めてしまう。

本来は「発言を差し控える」理由とともに、少なくともどこまでなら言及できるのかを示す努力が必要である。「SECに登録されたままであるため発言を控える」と強調する一方で、現在までに決まっているスケジュールや手続きの大枠を再度整理することくらいは可能なはずだ。

当然、「発言しないリスク」と「発言することによるリスク」を慎重に測った上での判断はあるだろう。しかし、実際の声明では、投資家の疑問や不安に応える努力よりも、ひたすら「こちらからは話せない」というスタンスが強調されている。こうした姿勢は“法令遵守”を盾にした情報隠しではないかとの批判も否めない。

3.「誹謗中傷」抑止の呼びかけが目立ち、株主への配慮が見えない

今回の声明に最も違和感を覚えるのは、株主や投資家への配慮や感謝、あるいは謝罪が一切見当たらない ことだ。非上場化(上場廃止)は株主にとって資産の流動性低下など、さまざまな不利益をもたらし得る大きなイベントである。

通常は、上場企業が非上場化を決める際、少なくとも「これまでのご支援への感謝の言葉」や「突然の決定で不安を与えることへのお詫び」などが添えられるケースが多い。ところが、落合氏の声明では「誹謗中傷をやめてほしい」「名誉毀損にあたる行為は控えてほしい」という抑止的なメッセージが目立ち、いかに株主に配慮しているか、彼らの権利をどう考えているか は全く触れられていない。

これでは、株主や投資家としては「自分たちは大切にされていない」「一方的に“黙っていてくれ”と言われているだけ」と感じても無理はないだろう。

4.企業ガバナンス・IR上の不安

非上場化という重大な局面で、このように「誹謗中傷の自粛要請」だけが先行し、株主の心理や関心にほぼ触れない声明が発されると、今後の企業ガバナンス にも不安が生じる。上場廃止後、PXDTがどのようなコーポレートガバナンス体制を敷き、ステークホルダーとコミュニケーションしていくのかが不透明だからだ。

上場企業であれば、一定のディスクロージャー義務や株主総会での説明責任が課される。非上場企業になった後は、法的な情報開示義務は大幅に減少し、経営陣が一方的に情報をコントロールしやすくなる。

今回のようなコミュニケーション姿勢が続くのであれば透明性の確保や利益相反の回避がどの程度担保されるのか は疑問が残る。

ガバナンス強化や真摯なIRによって企業価値を高めようとする姿勢が見えないまま、「誹謗中傷」に焦点を当てている点は、投資家のみならず広く社会からの信頼を損なう恐れがある。

5.結論:株主軽視と受け取られても仕方ない「軽さ」

今回の落合陽一氏による声明は、事実関係の指摘として一部正しい面(「SECへの登録が継続する」「法的制限で情報を先行開示できない場合がある」など)もある。しかし、株主へ向けた“最低限の言葉”――つまり、感謝やお詫びを含むコミュニケーションがほとんど見られない のは大きな問題だ。

企業が法令遵守を理由に口を閉ざすのはある程度やむを得ないとしても、それを株主対応の不備を正当化する材料にしてはならない。誹謗中傷が横行しているのであれば、むしろ正確な情報開示や誠実な説明を行うことで、誤った風説を払拭する努力が求められるはずである。

残念ながら、この声明からは「支えてきた株主を大切にしている」というメッセージがほとんど伝わってこない。投資家や市場からは“株主軽視”と受け取られても仕方のない、あまりに軽い言葉ではないか――そう感じざるを得ないのが正直なところだ。

今後、PXDTが非上場企業としてどのような経営姿勢を示し、株主・投資家はもちろん、社会との信頼関係を保っていくのか。それを見極めるためにも、まずは真摯な対話と開示努力が不可欠である。

今回の声明では「まずはじめに伝えること」として誹謗中傷をやめて欲しいと自己保身に近い声明で始まっている。まず伝えるべきは、損害を被った株主への謝意ではなかっただろうか。

そこに本当の意味での個人株主に対する「誠意」や「責任感」がない限り、今回の声明は個人株主に対する「耐えられない軽さ」を感じざるを得ないのである。

NewsPicks動画をまだ見ていない方はぜひ。

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