コンテナとは、船や鉄道などの輸送に使われる容器、入れ物のこと。サイズは普及しているもので20ftと40ftが主流であり、大型トレーラー車両がけん引していたり、鉄道の貨物輸送などに使われている12ftと31ftサイズを大型車両が輸送しているのを見かけたことがある人も多いことでしょう。
コンテナは世界中の輸送で使用されることから、強度が高く、過酷な環境にも耐え、しかも容易に移動させることができるのです。そのため、このコンテナを住まい、ホテル、店舗などとして活用するケースが増えてきました。例えば、2022年に開催されたFIFAワールドカップカタール大会ではコンテナを建材として積み上げてスタジアムとしたり、ホテルとしても活用されていました。コロナ禍では臨時の医療拠点になったこともあるといい、多用途かつ多目的に使うことができるのです。
「コンテナは日本のみならず世界中で使われていて、港で積荷を降ろし、帰りに荷物を載せる必要がない場合は現地で売り払うのです。そのため、各国で中古コンテナ市場が形成されています。日本でもコンテナは手ごろな価格帯で販売されて、フリマアプリやオークションでも取引されています。こうした中古コンテナを入手し、内外装を施して住居や店舗、ホテルなどに改造して活用しているのです。コンテナを連結したり、多層構造にすることもできますし、インテリアの自由度も高く、フルカスタムで世界に一つだけのコンテナハウスやショップがつくれるんですよ」と話すのは日本コンテナハウス建築協会の菅原修一さん。
なるほど、コンテナハウスのメリットをまとめると、
(1)躯体が頑丈
(2)価格が手ごろ
(3)内装の自由度が高い
(4)工期が短くて済む
(5)移動ができる
(6)不要になったら撤去、売却、再利用ができる
という点にあるようです。世界中で建築資材が高騰しているなか、こうしてみると人気が出るのは当たり前、といえます。
さまざまなメリットがあるコンテナハウスですが、(6)不要になったら解体、売却できるため、「使い捨てにならない」という面でもすぐれています。
「コンテナは先ほど紹介したように各国で利用されているため、使い終わっても廃棄とはなりません。使い捨てなんてもうカッコ悪いし、時代に合わない。場所や用途に合わせて長く使っていく時代です。コンテナの耐用年数は一概にはいえませんが60年~70年は使用できるでしょう。もちろん、海沿いなどの環境条件やメンテナンスなどによって異なってきますが、少なくとも40年~50年は使用できると思います」とのこと。
持続可能なまちづくりや開発は、今や避けては通れない課題です。必要なときに、必要に応じて住まいや店舗、医療施設、学校を建設することも可能です。
コンテナの移動性、構造強度が強いことを利用し、「コンテナに建設資材や物資を積んで、現地に行って、住宅や学校、医療施設をつくることも可能です。基礎は現地で施工し、コンテナはそのまま躯体として活用、積んでいった窓や建材を使って建物をつくるのです。離島は、建築物を建てようとすると資材の輸送費、人材の移動費などの関係で建設コストが高くなりますが、これなら容易につくることが可能です。さらに、離島防衛、国土強靭化にも役立つんですよ。日本だけでなく世界の災害発生時や紛争地帯、アフリカなどの援助にも活用されています」と菅原さん。
日本では、東日本大震災のときもコンテナハウスは仮設住宅として活躍しました。現在では、トイレやお風呂もついたものを道の駅などに設置しておき、災害発生時は被災者を受け入れる、または被災地まで出向き、仮設住宅として使うという計画もあるといいます。
災害発生時に建設される仮設住宅は、一定程度の敷地が必要で、設置・解体廃棄にもコスト、工期がかかり、そのコストは1棟500万とも600万ともいわれています。コンテナハウスであれば、平時は宿泊施設などとして活用しながら、非常市は仮設住宅になるのであれば無駄もなく、解体、廃棄する必要がありません。地震だけでなく、台風、水害などの自然災害が多発している今、こうした備えは全国各地で普及していくことでしょう。
また、日本の喫緊の課題でもある空き家活用にも、コンテナハウスは役立つ、といいます。
「今、築100年、200年の立派な古民家が日本各地で空き家になっていますが、現在の建築基準を満たそうとすると、耐震性や断熱性などの改修費用が高くなることから、初期費用が高く、利活用の妨げになっています。そこでコンテナハウスと木造住宅の混構造のリノベを提案しています。コンテナにトイレとバス、寝室をもうけて寝室部分とします。木造は、ダイニングや共用部分とするとよいでしょう。ホテルでも自宅でも、なにかあっても耐火性、耐震性も高いのでシェルターになりますし、命を守ることができます」
こうして聞いてみると、用途は限りなくありますし、繰り返し使えます。太陽光発電と蓄電池、下水は浄化槽、空気中の水蒸気を飲み水になどの技術と組み合わせることで、容易にオフグリッド住宅にもなることでしょう。安全性、汎用性が高く、持続可能というあらゆる意味で、21世紀の住まいのスタンダードにもなりそう、そんな気すらしてきます。
「国際海上コンテナは世界中で使われているので、国際的に規格化したISOという規格で統一されています。ただし、住居や店舗など、固定した建築物として使う場合は、ISO規格+日本の建築基準法に適合したJIS規格に適合した『建築専用コンテナ』でないといけません。違いは複数ありますが、大きくは使用している鋼材と構法が異なります。そのため、価格ばかりに目を奪われ、何も知らないで中古コンテナを購入、建築すると違法建築になることもあるんです。現に私の元には、『行政から違法建築といわれた』という相談が増えています」と菅原さん。
また、海上輸送コンテナはパネル構造でつくられているため、窓やドアを設置するために開口部を設けると強度が大きく損なわれてしまうことも。建築基準法を満たした建築コンテナはラーメン構造であるためこうした問題は発生しませんが、コンテナハウスを手掛ける業者がそもそもこうした建築法規を知らないケースもあるため、注意が必要だといいます。
あわせて、注意したいのが住み心地/使い心地に直結する、断熱や遮熱、気密性です。
「コンテナハウスは北海道から沖縄まで日本全国で使われており、建築基準法を基にきちんと設計・施工すれば住居として冬暖かく、夏も快適に過ごせることがわかっています。ただ、コンテナそのものは壁が1.6mm~2.0mmの鉄板ですぐに熱を通してしまうため、建物内部に断熱材を施工するほか、気密性も高めないといけません。単純に断熱材が入っていればOKではなく、発泡ウレタン吹き付け、ロックウール、グラスウールなど、どのような材料が使われているか、またその厚み、施工精度が非常に重要になります。きちんと施工されていないと、コンテナ壁鋼板と内装仕上げ下地材の空気層が結露してしまってそこからカビが生えてきた……というトラブルも発生しています」(菅原さん)
気密性も同様、どれだけ頑丈なコンテナであっても開口部などから空気が漏れてしまっては意味がありません。コンテナハウスでは、土地の条件、内装の意匠性にもよりますが1棟で700~800万円ほどが目安で、建築法令の理解や施工の精度も含めて、コンテナハウスを扱う業者を選んでほしいとのこと。
カッコよくて、快適、時代にもあったコンテナハウス。自然災害や離島、空き家問題への活用など、日本の住宅問題をまるっと解決する「コンテナ」の活用方法を聞くたび、筆者はワクワクがとまりませんでした。何より、ひとり1コンテナで、家賃や住宅ローンに縛られず、のびのび暮らせる未来がきたら、楽しいですよね。住宅はコンパクトで、もっと自由度の高いものへ。コンテナハウスにもっと光があたる日も近い気がします。