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『明石焼きを語る』食いしん坊おやじさんの日記

食いしん坊おやじのレストランガイド

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食いしん坊おやじ (60代後半・男性・神奈川県) 認証済

日記詳細

◼︎明石焼き は何故出来たの??
江戸時代、日本髪に刺す かんざし の飾り玉は、高価なものは珊瑚や翡翠でしたが、江戸末期に"明石玉" と言う珊瑚の模造品が格安で出来るようになりました。
この明石玉が播州地域で作られ、明石玉の接着剤として玉子の白身が使われました。
明治の頃になって、残った玉子の黄身の有効利用を考て、明石焼き の様なものが焼かれ始めたのが起源の様です。

◼︎昭和の明石焼きと食いしん坊おやじ
昭和30~40年の頃には、今の様ITによる情報社会ではなかったので、
明石焼きは、明石市を中心に専門店があるだけで、その小さな地域だけでは、たこ焼き以上に明石焼きが食べられていました。
その頃の神戸の街中では、お好み焼き屋さんが大人気で、
喫茶店よりお好み焼き屋さんの方が多いと言われていました。
そして、お好み焼きによっては、お店の中でたこ焼きを焼いているお店がありました。
では当時のたこ焼きは、何処で売られていたか…??と考えると、
神戸では、市場の中にたこ焼き専門店があって、買物ついでに おやつ として食べられたり、
市内の神社などには、毎日たこ焼き屋さんの露店が出ていて、子供たちのお小遣いでも何とか買えるお値段で売られていました。
そんな時代では、手間とコストが掛かる明石焼きは、大衆お好み焼き屋さんでは焼かれていませんでした。
時折 明石焼き専門店がありましたが、当時の庶民のおやつとしては、お好み焼きや たこ焼きに押されて、いつしかお店が消えていたのを何度か見ていました。
しかし、大衆割烹店でお酒のあてに、大人向けにたこ焼きでは無くて、お味も上品な明石焼きを出すお店もありました。
食いしん坊おやじ も小学生の頃に、おやじの呑兵衛な弟さんに何故か大衆割烹屋さんに一緒に行った時、
叔父さんはお酒を楽しんでいて、退屈な私に明石焼きを食べさせてくれました。
お店のお品書きには、明石焼きではなくて「玉子焼き」と書かれていたと記憶しています。
初めて食べる玉子焼きは、フワフワで箸で持ち上げると崩れて食べづらく、
子供心に
何や〜〜 このたこ焼き、やらか過ぎて美味しくないなぁ…
ソースをつけて美味しくないし…??
何や…このお澄ましのお出汁???
こんなん、たこ焼きと違うは…
昭和40年頃の神戸の街中で、そんなことを思っておりました。

食いしん坊おやじ が東京に就職した昭和50年頃に、実家が明石に転居しましたので、年に数回明石市内を散策する様になりました。
また、まだ若かったお袋が美味しい明石焼き店を見つけて、何度か食べに連れて行ってくれました。
そこで、耳朶の様なフワフワの明石焼きを、ほんのり塩味の強目の昆布出汁に浸けて明石焼きを割って頂くと、美味しい、美味しい…
事に、食いしん坊おやじが目覚めました。
その時に食べた明石焼きは、昔ながらに卵の黄身を主体にした、
耳朶の様にフワフワで、しっとりとした明石焼き(玉子焼き)でした。
明石の人にとっては、蛸は昔から明石の名産なので、明石焼きをたこ焼きと呼びたかったのでしょうが、
既に大阪神戸では、カリカリでソースをペタペタのたこ焼きが幅を利かせていたので、たこ焼きとの差別化を図るために、あえて「玉子焼き」としたのではないでしょうかね…
この頃になっても、明石焼きは全国区、いや! 関西圏でも認知度はまだまだ低いものでしたが、知る人ぞ知る知る! と言った根強いファンが、明石周辺地区には 食いしん坊おやじ を含めておりました。

バブル期に入っても、
高級感のない明石焼きは、爆発的なヒットにはなりませんでしたが、
時折、大阪辺りからハイヤーを飛ばして、グルメ自慢で明石焼きを食べに来るバブル成金が出る様になり、
TVのグルメ番組でも、人気の出た関西芸人の若かりし頃の思い出の食べ物などで紹介されたりする事が増えてきました。
その後バブルが弾けると、リーズナブルで美味しい明石焼きが、関西圏で人気が出始めると、時代は既に平成になっていました。
また、人気が出始めたのに合わせてグルメはIT時代になり、
マスコミが煽るグルメ、マスコミが扇動するグルメから、
一般大衆や素人でもグルメ情報を発信出来る時代に変わって行きました。

そんな時代背景の中で、
徐々に外部から明石焼きを食べに来る人が増えて、明石焼きのお店も増えて来ました昭和50年頃、
明石駅前にある昔からの市場 魚棚=ウォンタナは、
早朝に明石港で取れた近海魚を売る魚屋さんが沢山ありました。
ハマチや寒鰤なども安くて、切り身にして売られているのも少しはありましたが、一本(一匹)買いが当たり前で、お魚を捌けない奥さんには、お魚を三枚に卸して売られていました。
そんな風情を眺めている足元をフッ!と気づくと、
生きた蛸が木箱からゆっくりと這い出して、市場のコンクールの床を這っている光景を何度か見ました。
お喋りが上手な我が家のお袋は、お店の方に
「ほら…おっちゃん!蛸が箱から逃げ出しとるで!
私が捕まえてやったんやから、マケときや…(^-^)」
と言うと、
おっちゃんも負けてなくて、
「よっしゃ! 塩揉みサービスしとくで〜〜」
と言って、昔の洗濯機の脱水機に蛸と塩をポン!と投げ込んで、
クルクル〜〜 ポン!
蛸の塩揉み完了!
な〜〜んて光景を楽しく眺めているのが昭和50年代でした。

暫くすると、
冷凍技術の進化や活魚運搬などの流通革命に、魚棚市場の鮮魚屋さんが押されて廃業が進みました。
気がつくと平成初期には、一時はシャッター街になりかけていた魚棚市場に、
救世主の1つに「明石焼き」がなっていました。
新鮮魚の市場のイメージを残しつつ魚棚は、
観光客誘致のために、長時間持ち運びが出来る海産物の乾物や焼き穴子などを売る、お土産商店街に変わっていました。
そして市場の中には、観光客のおやつとして、お手頃感とお安さ感のある明石焼きも人気が出て来て、
魚棚は、海産物の乾物屋さんと新規開店の明石焼き屋さんが大半になっていました。
外から観光でやって来る方には、古めかしい市場の中にあって、
元鮮魚屋さんを改装した、古めかしい新規明石焼きは、昔ながらの明石焼きさんに見えてしまうのは、仕方のない事でした。

しかし、本来の明石焼きは、
黄身じん粉で焼くとコストも時間も掛かるので、
大勢の観光客を待たせる様になってしまいました。
この長い待ち時間解消する対策と、コストを安くする目的が合わさって、
卵の白身も一緒に入れて焼く、観光客向けの明石焼きのお店が増えて来ました。
また、たこ焼きに慣れている観光客の方としては、
少し硬めの明石焼きは、すんなり馴染めて、それをお出汁に浸けて食べる!
これが明石焼きだ! 美味い! とITツールにアップすると、
蘊蓄ブームも手伝って、美味い! 美味い!の情報が沢山アップされる様になりました。

正当な(昔ながらの)明石焼きは、黄身主体で焼くので焼き上がりが黄色いを色をしています。
そして、卵の白身が入っていないので、焼いても固まり難くて、
焼く手間が掛かりますが、耳朶の様なフワフワ明石焼きが出来上がります。
この明石焼きは、蛸が入っているだけで下味は黄身を伸ばした出汁のお味だけなので、そのまま食べると物足りないお味に感じられると思います。
それを補うために、少し塩味を効かせた昆布出汁に、香り付けのアサツキを入れたお出汁の器の中に明石焼きを入れて、中で明石焼きを箸で割ってから頂くと、
上品な明石焼きのお味を、ほんのり塩味が引き締めてくれて、美味しく頂くことが出来ます。(o^^o)

白身が入っている明石焼きの色は、黄色が薄くて白っぽくて焼いた焦げ目も目立ちます。
また、白身が入ることで、焼き上がりが早いので待ち時間が少ないです。
そして、白身が入っている明石焼きは固まり易いので、焼くときにたこ焼きと同じ、先端が細長く尖った鉄の面打ちでクルクル回して焼いています。
一方、正当な(昔ながらの)明石焼きは、フワフワなので面打ち棒では持ち上げることができないので、明石焼きはクルクル回しません。
熱伝導率の良い銅製の明石焼き専用銅板に、生地を流し込むと表面を焦がさない様に弱火にして、銅板に触れた生地を少し太めの2本の菜箸で何度も何度も崩しながら全体を固めていきます。
ここを手抜きすると、表面が焦げたり、中の生地が固まらずに生焼けになってしまいます。
全体が均等に固まった時に、銅板の上に木製の板を伏せて、銅板と共にひっくり返して出来上がりです。
この後、生焼けだった明石焼きをお出汁の中で割ってしまうと、生地が流れ出てお出汁のお味が台無しになり大失敗となってしまいます。

遠方から来られる方には、
ここまで、見分けて明石焼きを食べられる必要まではありませんが、
昔の明石焼きを知っている、頭の固い昭和のおやじとしては、
せっかくなら、正当な(昔ながらの)明石焼きを楽しんで頂きたいと思って、
「明石焼きを語る」を書き綴りました。

末尾になりますが、
明石の地元には、昔からコストを下げるために卵の白身を入れて焼かれていた、
より庶民的な明石焼き屋さんが現在もあります。
ここでは、白身を入れた明石焼きを、より美味しく食べさせる工夫が昔から行われて来ています。
この明石焼きに郷愁を感じられる方々も沢山おられるはずです。
よって、同じ昔ながらの白身を入れた明石焼きと黄身主体の明石焼きは、個人の好みの違いであって、
食いしん坊おやじ の日記で、白身を入れた昔ながら明石焼きを決して否定するものでない事を、ご理解の上で読んで頂けます事を切に願います。
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