5回
2022/03 訪問
季節の移ろいを感じて
この月二回目の『江戸町すぎもと』さん。平和寿司時代から、7年ほど通っています。
誠実で実直な杉本親方、快活で愉快な女将さん、かなり個性的(?)な弟子の戎(えびす)生太郎さんが回す、アットホームで楽しい空間です。
前回の訪問から1か月も経っていませんが、移ろいゆく季節に合わせ、少しずつ食材も変わっていきます。
そうした時の流れの一刹那を切り取り、手間暇かけた仕事で素材の良さを活かすところが、鮨の醍醐味というもの。
こうした季節の感じ方こそ最高の贅沢ですね。
さて、毎度のことながら基本情報として。
『江戸町すぎもと』さんの前身は、嘗て同じ桑名市の益世地区で100年以上に亘り親しまれた『平和寿司』さん。その四代目に当たる杉本大輔親方は、元々は街場スタイルであったこちらを高級志向に転じられ、ミシュラン一つ星獲得にまで羽翼を伸ばさせました。
今はなき津市の名店『東京大寿司』さんで修業された親方は、同じ桑名市内でも他の追随を許さない腕前で、名古屋は勿論、関西や関東からみえるお客も少なくありません。
ここ数年は更にブラッシュアップされ、鮨酢は赤酢(美濃三年酢、三ツ判山吹)と米酢(白菊)をブレンドされ、酢飯には岐阜のはつしもを用いられています。
鮪も全国的に有名な仲卸『やま幸』さんから直接、良質なものを仕入れられており、加えて地の物や全国から選りすぐられたタネを使用されています。
無論、酢飯やタネの温度帯にも気を付けられている、至極真っ当な鮨店さんです。
さて、お馴染みの能書きはさておき、今回いただいたものをば。
■田酒 純米吟醸 百四拾 華想い100%
▷蛤の酒蒸し
言わずもがな、すぎもとさんのシグニチャー的な一品。
一つはそのまま、もう一つは酢橘を搾って。
これからの時季、どんどん美味しくなる桑名の地蛤。
▶︎本鮪 中とろ(やま幸/延縄/那智勝浦/134kg)
脂は程良く、酸味と香りのある、春らしい鮪。
▶︎真鯛(三重県鳥羽産)
ほんのりとした旨味と香り。
柔らかくもしっかりとした脱水。
皮目の食感もまた良好。
▶︎鰹(三重県尾鷲産)
名古屋で5本/日ほどしか出回らない、尾鷲産の鰹。
塩×藁焼き×浅葱&生姜ペースト。
燻した香りと鰹本来の香り、酸味、塩味、
ともにこの時季らしいサッパリとした味わい。
▷蛍烏賊の餡掛け茶碗蒸し
蛍烏賊は富山産。
濃厚な味噌を孕んだ蛍烏賊は、やはり兵庫産とは別格のコクと旨味。
■東北泉 雄町 辛口純米
▶︎本鮪 大とろ(やま幸/延縄/那智勝浦/134kg)
拗すぎない程度にしっかりめの脂。
じんわりとした甘みが、口いっぱいに蕩けるように広がる。
▶︎〆鰯(千葉県銚子産)
さっぱりとした〆具合。
ジューシーで柔らかな身質。
香りも良く、後味すっきり。
▶︎富山海老(北海道増毛産)
いつも以上に大振り&身厚な印象。
ねっとりぷりぷりなテクスチャーと、
深みのある甘さが堪らない。
▶︎春子(兵庫県淡路島産)
昆布〆。身質はしっとりとして柔らかだが、決して水っぽさは感じない。
やや固めな皮目の食感と嫋やかな香り。
▶︎針魚(愛知県篠島産)
やはり針魚と貝類は三河湾が至高。
程良い弾力があり、針魚らしい香りと上品な旨味。
▶︎小鰭(熊本県天草産)
小鰭の旨味と香りをしっかりと感じる〆具合。
いつ来てもブレがなく、杉本親方の技術力の高さが垣間見られる一貫。
▷味噌汁
定番の牡丹海老の頭を入れた麦味噌の味噌汁。
シャキッとした玉葱の食感と甘味、牡丹海老の香り高い出汁が美味しい。
▶︎本鮪 赤身 漬け(やま幸/延縄/那智勝浦/134kg)
滑らかでしっとりとしたテクスチャー。
赤身らしい酸味が口腔内に広がり、
旨味と香りの余韻は実に官能的。
▶︎稲荷寿司
女将さんが大女将から受け継いだ仕事。
沁み入るような郷愁のある味わい。
ジューシーな甘みが懐かしい。
▷出汁巻玉子
定番の出来立て出汁巻玉子。
アツアツうまうま!
▶︎煮蛤(三重県桑名産) ※追加
現代的な軽めの火入れで、足はプリップリの弾力。
噛み締めるとじんわりとした旨味たっぷりのエキスが溢れ出し、多幸感に包まれる。
ツメはさらりと淡めだが、蛤の琥珀酸がしっかりと溶け込んでいる。
■田光 純米酒 槽搾り
▶︎干瓢巻き ※追加
お約束の〆。やや淡めの濃度だが、やはり美味い。
■抹茶
裏千家で学ばれたお弟子さんが点ててくださいます。
今回も大変楽しく過ごすことが出来ました。
この日は最近あちらこちらのお鮨屋さんに随伴させていただいているEさんをお誘いしたのですが、ご満悦いただけたようで良かったです。
美味しかったです。ご馳走さまでした。
2022/05/13 更新
2022/03 訪問
グルメモンスター襲来
この日はグルメモンスターの呼び声高い、有名インフルエンサーのTさんをお迎えし、ほぼ毎月通っている『江戸町 すぎもと』さんへ。移転以来、初めてのランチ訪問です。
移転前から鮨米の銘柄(はつしも)、鮨酢を赤酢(美濃三年酢&三ツ判山吹)と米酢(三ツ判・白菊)のブレンドに変えられるなど、更なるブラッシュアップが期待されるお鮨屋さん。
街場的な内装から一転、移転後はスタイリッシュな設えになったが、今なおアットホームな雰囲気は変わらず、誠実なお人柄の親方や女将さんが好印象ですね。
以外、この日いただいたもの。
▷桑名産 蛤の酒蒸し 酢橘
こちらの定番。一つはそのまま、もう一つは酢橘を絞って。
ぷっくりとした良質な蛤で、琥珀酸の豊かでジューシーな旨味は、桑名の地蛤ならではの味わい。
■日高見 純米 山田錦 魚ラベル
▶︎本鮪 中とろ(やま幸/一本釣り/三崎/226.0kg)
この時期にかなり大きな鮪。脂の乗りもさることながら、酸のニュアンスも仄かに感じることができる。
酢飯の温度帯も高めで素晴らしい。
▶︎鰯
千葉県銚子産。軽く〆。旬である梅雨時期からは外れるが、豊富なプランクトンを餌に脂の乗りはさすがのポテンシャル。軽めに利いた酸も抜群の塩梅。
▶︎春子
兵庫県淡路産。すぎもと(=平和寿司)さんでは珍しいカスゴ。昆布〆。皮目の食感とほんのりとした旨味、柔らかな身質が、春らしい嫋やかさを奏でている。
▶︎鮃
愛知県師崎産。しっかりめのきめ細やかな身質。
繊細な旨味と香り。
▶︎蛍烏賊の餡掛け茶碗蒸し
蛍烏賊は富山産。すぎもとさん定番の餡掛け茶碗蒸し。
この日はプリっとして滋味深い蛍烏賊。
トロリとして温かい餡が蛍烏賊に絡んで美味しい。
■石取 大吟醸
▶︎本鮪 大とろ(やま幸/三崎/一本釣り/226kg)
美しい霜降りのサシ。このサイズでもしつこさは皆無で、じんわりと奥深く、それでいてサラッとした脂。
▶︎牡丹海老
北海道増毛町産。いわゆる富山海老の一大産地。
大振りでねっとりとした甘みで、食べ応えあり。
▷白魚 小丼
地元桑名産。朝獲れかな。浅葱&生姜ペーストと白胡麻を添えて。
ぴちぴちとした生らしい食感で、仄か苦味がまた良いアクセントに。
▶︎小鰭
熊本県天草産。佐賀や千葉と並ぶ一大産地。
やま幸の鮪や、松阪牛の夕桜巻きが目立っているが、すぎもとさんの小鰭は〆具合が最高で、個人的にはかなり好み。
噛み締める旨味にはまさしく〝喉が鳴る〟。
▶︎墨烏賊
愛知県師崎産。塩と酢橘で。バツン!とした墨烏賊らしい歯触り。
塩味と酸味が付加されることで、甘味が増し、さっぱりとした後味。
▶︎本鮪 赤身 漬け(やま幸/三崎/一本釣り/226kg)
すぎもとさんでは珍しい、湯霜の漬け。江戸前の古典的仕事。
圧巻の身厚。漬けの塩梅は良好で、旨味と香りが冴え渡る。美味い!
▷味噌汁
握りでいただいた牡丹海老の頭を使用した、麦味噌の味噌汁。
刻み葱と玉葱入りで、一味唐辛子がアクセント。
■雨後の月 十三夜 特別純米酒 おりがらみ
▷出汁巻玉子
出来立てアツアツの出汁巻玉子!
鮨屋といえばケラ玉(厚焼玉子や薄焼玉子)だけど、こちらの定番は平和寿司時代から、この出来立ての出汁巻。何処か懐かしさを感じる、甘くて素朴な味付け。
江戸前の正統派ではなくとも、これは文句の付けようがない美味しさ。
▶︎鰺 ※追加
愛知県師崎産。浅葱&生姜ペースト(小笹寿しの岡田周三親方が考案、全国に広がる)を使用。
産卵期前で餌をガッツリ食べた鰺。脂の乗りも香りも良好。
▶︎白甘鯛 ※追加
山口県産。炙り+塩。シラカワの炙りは割と珍しいかも。
洗練された香りと、上品な甘味が膨らみ、美味い。
▶︎干瓢巻き
〆はもちろん干瓢巻きで。
すぎもとさんの細巻きは若干フォルムにムラを感じるが、味はやはり美味しい。
濃度は穏やかの甘めの干瓢で、やや硬めなのが好印象。
山葵の具合もなかなか好み。海苔の香りもgood!
■抹茶
裏千家で学んだ弟子の戎(えびす)さんが立てたお抹茶。
結構なお手前でした(知ったかぶり)。
この日も楽しく和やかに、美味しいお鮨に舌鼓を打ちました。
お誘いしたTさんも大変喜んでくださり、次の予約も入れられたほど。通っている身からしても嬉しいですね。
今回も大変美味しかったです。ご馳走さまでした。
2022/04/30 更新
2022/01 訪問
今年の鮨始めは『江戸町 すぎもと』にて
昨年十二月、百年以上の歴史を刻んだ『平和寿司』の屋号を改め、同じ桑名の春日神社・青銅の鳥居前に移転オープンした、『江戸町 すぎもと』さん。
今回は令和四年の鮨始めと銘打って、途轍もないレベルの食通であるT氏をお招きしてのディナー訪問。
図らずも相識のご常連とも同席し、親方正面のカウンターで三人並び、杉本親方の仕事に舌鼓を打った。
移転前、特に何も変える予定はないと仰っていた親方だが、今回の訪問では、平和寿司時代では数年来見たことのなかったタネも使われており、今後の更なる躍進がより楽しみとなった。
さて、以下にこの日いただいたものと、その詳細を記す。
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□明鏡止水 純米大吟醸 寿来
▷桑名産 蛤の酒蒸し 酢橘
こちらの定番。一つはそのまま、もう一つは酢橘を絞って。
▷篠島産 虎河豚と鮟肝の玉葱ポン酢 一味唐辛子 浅葱
プリップリの鉄刺が鮟肝とよく絡み、ポン酢の酸味とマッチ。炙った身皮も香ばしく、弾力があって美味しい。
▷日間賀島産 茹で蛸 塩
浅めの火入れでコリッとした食感。旨味と香りは穏やか。
▷葦切鮫の鱶鰭の餡掛け茶碗蒸し 芽葱 花穂紫蘇ほか
大きな鱶鰭が入っており贅沢。
▷長崎県産 筋鰹の藁焼き 浅葱&生姜ペースト
鮮烈な香りと酸味でもっちり。藁で燻した風味も良い。
▷くちこ
間違いない酒泥棒。ちびちびといただく。
▷山口県産 黒鮑と白甘鯛の酒蒸し 大根
上品な味わい。肉厚な鮑のむっちり感と白甘鯛の柔らかで仄かな甘み。
□十四代 純米吟醸 樽垂れ 本生 原酒
▷篠島産 虎河豚の唐揚げ 檸檬
しっかりとした身質。ビールがほしくなる。
□簸上正宗 大吟醸 玉鋼 斗瓶囲い
▷網走産 釣りキンキと鱈の白子の焼き物 酢橘
白子のクリーミーさとキンキの脂と塩味が合わさり美味しい。
▶︎大間産 本鮪 中とろ 延縄 110kg やま幸
柔らかな口当たり。香りと酸味は穏やかでしっかりめの脂。
▶︎銚子産 鰯 酢&塩〆
軽めの〆具合。香りが良く、脂の乗りもなかなか。
▶︎山口県産 赤貝
こちらでは珍しい赤貝。今年は山口県産が秀逸。
香りがよく程良い硬さ。
▷赤貝 紐
コリコリとして美味しい。紐きゅうで食べたかった。
▶︎大間産 本鮪 大とろ はがし 延縄 110kg やま幸
はがしは手間のかかる仕事を要する。とろけるような食感ながらもたつきがなく、サラッとした脂。
▶︎増毛町産 牡丹海老
ねっとりあまうま。
▶︎針魚 昆布〆
つるりとした舌触りで針魚らしい風味が良い。昆布の塩梅も程よい。
▶︎師崎産 鮃 縁側乗せ
縁側の弾力と脂が合わさり、旨味もしっかりと感じる。
▶︎夕桜巻き 松阪牛三角バラ 梅肉 大蒜 大葉 朧昆布
間違いない一品。親方の修業先の仕事。
▶︎天草産 小鰭 酢〆
こちらの小鰭の〆具合がかなり好み。
パサつきもなく香りがとても良い。
▶︎大間産 本鮪 赤身 漬け 延縄 110kg やま幸
やや軽めの漬けか。旨味と鉄の酸がいずれもしっかりとあり、しなやかなテクスチャー。
▶︎師崎産 鯵 浅葱&生姜ペースト
脂の乗りはややしっかりめながら、香りもよくさっぱり。
▶︎北海道産 ばふん雲丹 手巻き 小川商店
海苔は坂井海苔店のもの。言わずもがな美味しい。
▶︎銚子産 金目鯛 炙り 塩
脂の甘みが塩で引き立つ。炙った皮目の香りもよく、じんわりと滴る脂がジューシー。
□MASUIZUMI 純米原酒 SUPECIAL 2016
▶︎ねぎとろたく 細巻き
とろの甘みと海苔の香り、沢庵の甘塩っぱさとパリポリ感が素晴らしい組み合わせ。
▶︎稲荷寿司
先代の大女将から当代の女将さんに伝えられた仕事。
素朴な甘みの立った味わいで懐かしさを感じる。
▷牡丹海老の頭入り 味噌汁 葱 玉葱 一味唐辛子
いつもの定番。
▷出汁巻玉子
出来立てアツアツ。鮨屋では厚焼き玉子が一番だが、こちらでは別。
個人的には鮨屋巡り原点の味。
□上喜元 からくち 特別純米
(追加)
▶︎答志島産 とろ鰆 二枚づけ 炙り 塩
最近トレンドの答志島とろ鰆。これも間違いないやつ。
▶︎対馬産 煮穴子 炙り 塩
こちらでは久しぶりにいただいた穴子。ふんわりとした食感で馥郁たる香りとジューシーな脂の甘みがよく、山葵が効果的なアクセントになっている。
▶︎干瓢巻き
しっかりめの食感で適度な甘みの干瓢。海苔の風味も良い。お約束の〆。
■自家製プリン
お弟子さんの手作り。パティシエを思わせる美味しさ。
□抹茶
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以上でコース¥22,000に酒と追加分合わせて¥36,000ほど。
なかなかの高額で少し驚いてしまったが、やはり十四代が効いていたのだろう。
誤解なきように申せば、提供時には女将さんからきちんと確認も得ているため、これは仕方あるまい。
いずれにせよ内容としては大満足だし、食通のご両人とご一緒できたのも大変楽しかった。
今後も懐事情を考慮しつつ、調子に乗って高級酒を頼まないようにしながら、通わせていただこうと思う。笑
ご馳走さまでした。
2022/03/06 更新
2021/12 訪問
三重屈指の鮨店が屋号を改め再スタート!
大正8年創業、100年以上にわたり桑名市矢田で愛され、一昨年にはミシュラン一つ星も獲得した名店『平和寿司』さんが、このたび屋号を改め、同じ桑名市の江戸町に移転されると伺ったのが、ちょうど昨年の今時分だったでしょうか。
同店で四代目を務められたのが、今年49歳を迎えられた杉本大輔親方。いまはなき津市の『東京大寿司』さんで修業を積まれたのち、ご実家である『平和寿司』さんに戻られたとの由。先代の頃まではいわゆる街場の鮨店さんだったようですが、杉本親方が四代目を継承されてからは、ハイクオリティーなスタイルに転じられ、それでいて肩肘を張らないアットホームな空気感を味わえるお店でした。
以前は酢飯に県内のブランド米「結びの神」を使われ、酢は米酢のみを用いられていましたが、ここ数年は、酢飯を「はつしも」に変えられ、酢も米酢と赤酢をブレンドされたり、また御修業先のスペシャリテであった夕桜巻き(松阪牛を用いた創作鮨)を取り入れられたり、国内随一の仲卸『やま幸』さんから鮪を仕入れられたりと、年々進化と研鑽を積み重ねての今日に至ります。
さて、今回新たに移転された場所は、最寄りの桑名駅から徒歩15分ほどの江戸町25番地。千年以上の歴史を誇る伊勢国桑名の総鎮守にして、日本一やかましい石取祭でも有名な、春日神社(桑名宗社)の有形文化財・青銅鳥居のまさに真横です。
この地はかつて、東海道五十三次の42番目の宿場町として栄え、近くには宮宿(熱田宿)と桑名宿を航路で結んでいた、伊勢国一の鳥居が聳え立つ「七里の渡し」があり、文豪・泉鏡花の小説にも描かれた『歌行燈』さんや『船津屋』さん、さらには有名な『柿安 料亭本店』さんや、蛤料理の『日の出』さんも軒を連ねています。
また、その一帯は花街としても名高く、いまなおその片鱗を感じられる建物や、芸妓さんの置屋があったりと、ノスタルジックな雰囲気も味わうことが出来るので、来店前に散策してみても良いかも知れません。
閑話休題、そんな歴史深い街並みが息づくこの地に、先日移転オープンしたのが、こちら『江戸町すぎもと』さんです。
100年以上続いた暖簾を畳まれ、ミシュランの一つ星も返上されたのですから、杉本親方の心意気たるや軒昂にして揚々、並々ならぬ御覚悟があってのことと拝察します。
この日は予め女将さんからお話を頂き、常連ばかりの席を賜ることと相成りました。
いやはや期待が高まりますね。
さて、一から建てられた新店舗の外観は、黒を基調としたモダンでスタイリッシュな設えです。
屋号の彫られた木曽檜の表札と、ローマ字で書かれた真鍮古美仕上げのバックライト看板は、多気郡の『nijiiro originalproducts&antiques』さんが製作を手掛けられたとか。
玄関と店内には、業者さんや常連客からの胡蝶蘭や花輪が飾らせています。
内装は雅趣漂う数寄屋造り。仄かに香る立派なカウンターには、樹齢400年の木曽檜を用いています。
いやはやこの辺り実にお見事でしたね。
前述のように、酢飯には岐阜の「はつしも」を使い、赤酢は同じく岐阜の『内堀醸造』さんの熟成ものと、三ツ判山吹、米酢は同じくミツカンの白菊を使用。人肌前後の温度でほんのりと香りが立ち、やや硬めに炊かれています。酸と塩は少し控えめでマイルドな印象。無論、鮨種の温度にもしっかり気を遣われているご様子。
コースは昼が¥7,700、夜が¥22,000となっています。
それではこの日いただいたものと、その感想を書き連ねてまいります。
□醸し人九平次 純米大吟醸 彼の地 2020
マスカットや苺を彷彿とさせる、フルーティーで異国情緒漂う味わい。甘味と酸味が立ちつつもしっかりと纏まりがあります。
▷蛤の酒蒸し
平和寿司さんの頃からの定番。先ずはこれからのスタートになります。
正真正銘、桑名産の大和蛤。
プリっとした身質です。一つはそのまま、もう一つは酢橘を搾って。
▷関鯖のお造り
大分の豊後水道で獲れた関鯖。しっかりとした身質ながらも上品な脂があり、香りも申し分ありません。
美しい隠し包丁で食感の違いも楽しめます。
▷茶碗蒸し
葦切鮫の鱶鰭を用いた餡掛け茶碗蒸し。暖まりますね。
深みのあるお出汁。中にはなかなか大きめの鱶鰭が入っています。
□田光 純米吟醸 初しぼり 無濾過生酒 神の穂
新酒の時季ですね。まろみとフレッシュさを感じつつ、芳醇な旨味あり。飲みやすいお酒です。
▷迷い鰹の藁焼き
富山湾・氷見の迷い鰹。脂の乗りが凄い!!
藁焼きの香りも堪りません。丁度良い塩加減、浅葱とおろし生姜を合わせた薬味がアクセントになっていてよき。酒泥棒ですね〜。
▷黒鮑の碗物
茨城県産の黒鮑。また丁度良い柔らかさ。
具材は他に銀杏と白菜。餡のようになっており、上品で滋味豊かなお出汁が身に染みます。
□竹葉 能登純米
甘酸っぱくフルーティーな香りが豊かなお酒。
▷ばちこ
海鼠の卵巣。三河湾のものだったか、一体何匹分だよ!というレベルの巨大なサイズ。
絶妙な塩味。凝縮された旨味と香りが格別で、お酒がかなり進みます。
▷キンキと鮟肝の煮付け
キンキは網走の一本釣りのもので、鮟肝は余市産。
まろやかな鮟肝は臭み皆無で、柔らかな身質のキンキとベストマッチ。煮汁も出汁が効いていて素晴らしかったですね。
▷鱈の白子ポン酢
クリーミーで良質な白子です。こちらの玉葱ポン酢はかなり美味しく、白子によく合っていました。
□黒龍 大吟醸 龍
とても口当たりがよく、口腔内でまろみと芳醇な香りが膨らみます。酸味は控えめで主張しすぎない余韻。
ここからは握り。
▶︎本鮪 中とろ
大間産、延縄のやま幸の229kgの大きな鮪です。
やはり冬の大間で尚且つこのサイズ、脂の乗りが別格ですね。
▷ガリ
酸味の立った甘さ控えめのキリッとしたガリ。
▶︎〆鯖 三枚づけ
八戸産。やや酸を強く感じる〆具合ですが、滑らかな食感で、香りと脂も抜群ですね。美味い!
▷迷い鰹の藁焼き(サービス)
この日は3名の団体客が連絡なしのキャンセル!という出禁になっても仕方のない失態をされたので、そのお零れを。
こちらは粗めの塩でいただきました。これもまた旨し。
▶︎真鯛
鳥羽産。こちらの真鯛は平和寿司時代からいつも鳥羽のものなので、拘りがあるよう。
やはり繊細で柔らかな身質で、上品な香りです。
▶︎牡丹海老
北海道増毛町のもの。酢橘で。ねっとりとしたなかにプリっとした食感。甘味が強くさっぱりとした味わい。
▶︎ばふん雲丹
カネキの厚岸産?かな?のばふん雲丹。坂井海苔店さんから逆輸入(?)の海苔を使用。甘味が強くほんのりとしたほろ苦さ。やはり美味いですね。
▶︎本鮪 大とろ
やま幸の大間産、延縄の229kg。筋まで蕩ける官能的な味わい。口腔内にじんわりと広がる甘味にやられました。
▶︎鯵
師崎産。浅葱とおろし生姜の薬味で。香りが良くさっぱりとした印象ながら、浜田のどんちっち鯵にも負けない脂のポテンシャル。
□Dom. Jean Jacques Confuron Côte de Nuits Villages Les Vignottes
ここで赤ワイン。横文字、洋酒はてんで門外漢ですが、華やかな甘い香りで、渋みも強すぎず滑らかな印象。
▶︎夕桜巻き
杉本親方の御修業先である、今はなき『東京大寿司』さんのスペシャリテ。
松阪牛の三角バラ、梅肉、にんにく、大葉などを酢飯と共に朧昆布で巻いた逸品。
サシの美しい肉質で、濃厚な旨味と脂が堪りません。薬味が効いていて拗さはなく、さっぱりとした後味です。
▶︎本鮪 赤身 漬け
中とろ、大とろと同じく、やま幸の大間産、延縄の229kgのもの。
強すぎない漬け加減で、酸味と香り、旨味のバランスが秀逸。
▶︎剣先烏賊
対馬産。塩と酢橘で。包丁仕事で硬すぎず、それでいて剣先烏賊らしい食感も楽しめます。
ほんのりとした甘味もよき。
▶︎小鰭
天草産。キツすぎず絶妙な〆具合。旨味が立ちつつパサつきなく柔らか。
□黒龍 大吟醸 龍
先程と同じものですが、美味しいので良いですね(笑)。
▶︎ねぎとろたく
言わずもがなの美味さ。海苔の香りもよく、とろの甘味と沢庵の食感のバランスも素晴らしいです。
▶︎稲荷寿司
移転前には見掛けることのなかったお稲荷さん。前回の『平和寿司』訪問時、移転したら始めるというお話しを親方から仄聞していましたが、何と大女将から女将さんに伝授された仕事だとか。
蓋し先代や大女将の時代は、『平和寿司』さんも大衆向けの街場寿司。最近は大阪の『鮨 三心』さんや、名古屋の『鮨 旬美西川』さんなど、高級鮨店でも少しずつ再評価されているようですが、このタイミングでの稲荷寿司の導入には驚きです。
先述の「夕桜巻き」然り、いま東海地方で最も注目されている新店でありながら、決して慢心することなく、こうした粋な計らいをされる『江戸町すぎもと』さんには、改めて敬服いたします。
何よりこちらに長く通っているお客にとって、勇退されて久しい大女将の片鱗を感じられるのは、どこか懐かしくもあり、嬉しいところ。
▷出汁巻玉子
アツアツの出来立て。江戸前厨の筆者ですが、こちらの玉子焼きはかなり好き。
甘く素朴な味わいで和みます。裏方のお弟子さんが焼いて下さいました。
▷牡丹海老の頭の味噌汁
平和寿司さんからの定番です。麦味噌を使用。
牡丹海老の旨味に富んだお出汁に、やや辛めで小気味の良いシャキッとした食感の玉葱がアクセントに。
▷鰤(追加)
言わずと知れた氷見の寒鰤。この脂の乗りは格別です!堪りませんね〜
▷干瓢巻き(追加)
甘味が立ちしっかりめの食感の干瓢。海苔とのバランスも良いですね。美味しい。
▷出汁巻玉子(サービス)
先述のようにお零れで(笑)
▷自家製シナモンアイス
シナモン好きの筆者も大満足の香り。
□抹茶
お弟子さんの点ててくれたお抹茶。結構なお手前でした。
以上、いただいたものです。
いやはやいつになく長文となってしまいました(笑)。
『江戸町 すぎもと』さん、やはり更なるレベルアップを感じました。
それでいて、タネのケースは年季のある平和寿司時代からのものを大切に使われていたり、御修業時代の仕事を取り入れられたりと、親方や女将さんの人柄の良さ、謙虚さを改めて痛感いたしました。
6年以上通っていた『平和寿司』さんの新たな門出。
今後も通わせていただきます。
美味しかったです。
ご馳走さまでした!
2021/12/16 更新
だいぶ時差投稿。
この日は常連様の貴重なお誘いを頂いて訪問。
グルメな方々と6名での食事会。ランチタイムにディナーコースの内容でご提供いただいた。
終始楽しく過ごすことができ、幹事の主さんや同席者の皆さん、親方や女将さんに感謝。
✔︎蛤の酒蒸し
こちらの名刺代わりの一品。
一つはそのままで、もう一つは
酢橘を搾って。
プリップリの弾力で、噛むと同時に
溢れんばかりのジューシーな旨味。
無論、出汁までバッチリいただいた。
✔︎真子鰈(まこがれい)の薄造り
愛知県師崎産。自家製玉葱ポン酢で。
柔らかな身質で淡白な味わい。
コリッとした縁側も堪らない。
まさに刺身の王様の異名に相応しい。
✔︎蛍烏賊の餡掛け茶碗蒸し
濃厚な蛍烏賊のワタが印象的。
✔︎初鰹のたたき
三重県尾鷲産。たっぷりのアオサとともに。
常連さんの所有する田んぼで穫れた藁で
燻しており、とても香りが良い。
色みを見ればわかるように、
大変ポテンシャルの高い鰹で、この日は
名古屋の市場でも数えるほどしか入って
いなかったという貴重なもの。
✔︎黒鮑の肝ソース&酢飯
山口県産。定番の提供方法ながら、
鮑の柔らかさが絶妙で、磯の香りと
濃厚なコクを感じる。
✔︎平貝の磯辺焼き
愛知県篠島産。香り高い海苔の風味と、
身厚な平貝のシャクシャクとした食感が
最高。お酒が進む。
やはりこの地方の貝類は良質。
✔︎鮪のカマ焼き
言わずもがな貴重な鮪のカマ。
しかもやま幸が卸した、銚子の
263.4kg(延縄漁)の個体。
なかなか巡り逢えない機会。
焼いて剝(す)き身を取り分けて。
全く臭みがなく、旨味が強い。
身が締まりすぎず柔らか。
合わせて提供された桑名産の筍は
これまた常連さんの所有する山(!)
で穫れたもの。優しい甘みがあって
シャキシャキとした食感。
ここから握り。
✔︎本鮪 中とろ
千葉県銚子産。延縄漁の263.4kgの個体。
さっぱりとした脂で酸と鉄の香りあり。
やや滑らかなテクスチャー。
すぎもとさんはいつも中とろからスタート。
✔︎鳥貝
愛知県形原産。かなりの大振り。
香りがよく、嫋やかな食感。
噛む度にジューシーな貝らしい
甘みが溢れ出てくる。
✔︎金目鯛
千葉県銚子産。スチコンにて火入れ。
蕩けんばかりの脂の甘み。それでいて
嫌みがなく、ぷりっと柔らかな身質。
✔︎本鮪 大とろ 蛇腹
千葉県銚子産。延縄漁の263.4kgの個体。
大型であり、きめ細かなサシを見て判る通り、
じわりと広がる上品な甘みと旨味がある。
✔︎鯵
島根県浜田産。脂質10%超のどんちっち鰺。
浅葱&おろし生姜のペーストを添えて。
鮮烈な香りが先行し、その他力強い脂の甘みと
鰺本来の旨味が迸る。
✔︎夕桜巻き
松阪牛の三角バラ、大葉、大蒜、梅肉、
酢飯を朧昆布で巻いた創作鮨。
杉本親方の修業先『東京大寿司』の仕事。
江戸前では反則というか邪道ではあるが、
三角バラのジューシーでまろやかな甘み、
大蒜によるアクセント、大葉と梅肉による
さっぱりとした風味が渾然一体となり、
理屈抜きで美味しい。
✔︎小鰭
佐賀県太良町産。いつもながら好みの〆具合。
凝縮された旨味と香りで、この時季でもとても
美味しくいただけて嬉しい。
✔︎牡丹海老
北海道増毛産。正式名称は富山海老。
かなり肉厚でむっちりとした身質。
咀嚼するとねっとりと蕩け、恍惚の
甘みが口いっぱいに広がっていく。
✔︎本鮪 赤身 漬け
千葉県銚子産。延縄漁の263.4kgの個体。
くっきりとした酸味と香りで、漬けによる
旨味の付加も絶妙。
✔︎煮蛤
三重県桑名産。プリっとした力強い
食感を残した今めかしい火入れで、
噛み締めるとジューシーな琥珀酸の
エキスが炸裂。桑名の蛤は日本一。
✔︎とろたく手巻き
千葉県銚子産。延縄漁の263.4kgの個体。
沢庵漬と刻んだ葱を混ぜて。海苔はご存じ、
坂井海苔店の桑名産のものを逆輸入(?)。
パリッと噛んだ瞬間、海苔の風味が広がり、
とろの甘みに満ち溢れる。沢庵のポリポリと
した食感もアクセントに。
✔︎味噌汁
こちらでは定番の牡丹海老(富山海老)の
頭入り。味噌は麦味噌だと思われる。
玉葱の食感と甘みがアクセントとなって
おり、海老の風味が程良く利いている。
✔︎出汁巻玉子
ケラ玉がなくても満足できる、数少ない
こちらのアツアツな出来立て出汁巻玉子。
郷愁を感じる甘みで、何処かホッとする。
七年前から折に触れては通い、いつしか
ミシュラン獲得の有名店になったものの、
アットホームな空気感は未だ変わらず。
その象徴とも言える、懐かしの玉子焼き。
✔︎稲荷寿司
今や定番化しつつある、女将さんの稲荷寿司。
勇退された大女将から引き継いだ仕事らしく、
嘗ての街場時代を彷彿とさせる、懐かしい味わい。
ジューシーで甘みが強く、胡麻の風味がまたいい。
✔︎〆鰯(追加)
大阪湾産。旬の走りの入梅鰯。
既に脂の乗りは申し分なく、
軽めの酢〆と相俟って乳化的
テイストに。香りも良かった。
✔︎ばふん雲丹手巻き
ご存じ小川商店のばふん雲丹。
濃厚な甘みと冴え渡る磯の香り。
海苔の風味もパリッとした食感も
バッチリで、間違いない美味さ。
✔︎墨烏賊(追加)
愛知県師崎産。塩で。サクッとした
墨烏賊らしい食感を残しており好み。
一見、塩が多く振られているように
思ったが、食べてみると丁度良く、
ほんのりとした甘みを感じた。
✔︎干瓢巻き(追加)
酢飯少なめでしっかりと干瓢が詰まって
いて好み。やや濃い目に炊かれた甘みの
立った干瓢。山葵をキリッと利かせて。
✔︎自家製焼きプリン
弟子の戎生太郎さんの作られた焼きプリン。
香ばしくて程良い甘さでさっぱりと。
✔︎抹茶
弟子の戎生太郎さんが点てた抹茶。