議員秘書が語る「選挙余剰金」のすさまじい実態 現役3人が匿名回答「報告書はまったく違う」

✎ 1〜 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 6 ✎ 7
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

——本当は使ってはいけない相手に対し、飲食代として使ったと?

「そう」

——公選法で余剰金の処理が規定されていないことは知っているのでしょうか?

「知っている。お金がたくさんある事務所は政治団体にしっかり戻すことができるかもしれないが、うちはお金がない事務所。その中で、やりくりをしている。私も個人的に数百万の借金をした」

「(寄付を集める際に領収書を出さないお金も)ないとは言わない。100万円くらい(あった)。それも手元にはない。使っている。追及しないでほしいけど。(「投票依頼の趣旨?」)そういう感じ。(市町村の)議員というより、団体幹部のみなさんや社長のみなさんとか。10万円ほどの単位。参院選の場合、衆議院と違って(エリアも)広くお願いしないといけない。公明党に頼ってばかりいられない」

Z議員の秘書 公選法の“抜け穴”は「承知」

もう1人、現職秘書に取材できました。自民党のZ衆院議員に仕えています。Z議員は2014年選挙で数百万円の余剰金を出しており、その行き先は公開資料で確認できません。そして、取材チームの質問には、やはり「報告義務がない」などと答えています。

「会計担当は私ではないのでわからない部分もあるが、200万~300万円は議員に戻したと思う。議員も、今回の選挙だけでなく、政治資金管理団体に(自分が)寄付するなどいろいろな場面で、自分の資金を使っているので、一部返済という趣旨」

——選挙運動費用収支報告書上、余剰金はもっとあります。残りは?

「どこの事務所も同じだと思うが、選挙を助けてくれた人たちへのお礼に使った。現金は生々しいので飲食代を負担するとか。お店を用意して、支払いはあとで事務所が負担するようにしている。それと、選挙後の会合代とかに使った。(余剰金を政治団体に戻せば、その収支報告書の支出に記載しなければならないが、余剰金の使途は定められていないため、戻さずに使えば)報告書の支出欄に載せないで済む。使い勝手がいい。(公選法が余剰金の処理を定めていないことは)少なくとも私は知っていた。ある意味、抜け穴だと思う。でも公選法が変更されて、余剰金の処理方法が決まっても、なるべく領収書の要らないお金を集めて、同じことをすると思う」

元秘書の男性 「政治改革で使い道を透明にすればよかった」

X、Y、Zの3議員に仕える秘書たちが語った余剰金の実態。それらはすなわち、選挙運動費用収支報告書の内容は、選挙で使ったお金の動きとまったく合っていない、という事実です。永田町で有力政治家の秘書として長く働いてきた男性にも話を聞きました。

男性は取材に対し、選挙運動費用収支報告書に記載している金額よりも「実際はもっと(お金を)出している」と明言。そのうえで、報告書上は余剰金を含めて、収支を「プラスマイナスゼロで収めている」と話します。

「余剰金がゼロの人は、それなりに当選回数を重ねている人が多いのではないか。慣れている秘書がいるか、議員が選挙慣れしている。(余剰金が出ると問題視されることもあるので)ゼロにしておいたほうがいい。ゼロにするテクニックは(会計担当者や秘書が)それぞれで持っていると思う。使い切るためには、例えば、付き合いのある後援者に(物品などを)発注して、後で(収支を合わせることができる額の)請求書を出してもらう。私の経験から言えば、ゼロの人は(報告書の記載)以上に使っていると思う」

政治と金。この問題がなぜ、いつまでもくすぶるのでしょうか。政党助成金の制度や小選挙区制が導入された「政治改革」は1990年代、日本政治の大テーマでした。永田町を生き抜いてきた元秘書の男性はこう言いました。

「(かつての政治改革では)政治資金を小選挙区の話にすり替えてしまった。政治のお金をガラス張りにすればいいだけの話だった。どこから献金を受けたとか、使い道を透明にする法律(関連法の成立)ならよかったが、政治改革では、それを小選挙区の話にすり替えて、公費で政党助成をするという話にしてしまった。公費は、なくした方がすっきりすると思う。政治家は、自分でお金を集められる才覚がないとできないのではないか。人の話を吸い上げることができないといけない。話を聞いて、この人に寄付をしようと思わせられる人間でないと、いい政治はできない」

X、Y、Zの3議員の現職秘書もそろって、公選法の“抜け穴”を使って余剰金を使っていることを明かし、報告書の内容と実態が全く合致していないことを赤裸々に語っています。この問題をどう考えればいいのか。次回は、共同取材チームの一員でもある日本大学の岩井教授にじっくりと聞きます。

共同取材チームは、本間誠也、当銘寿夫、木野龍逸、宮本由貴子、伊澤理江、穐吉洋子ら(以上、Frontline Press)、岩井奉信、安野修右、山田尚武(以上、日本大学法学部)で構成しています。

Support by SlowNews

【2019年7月3日17時04分追記】初出時、公開資料から余剰金の行方を確認できない議員の数に誤りがあったので修正しました。

Frontline Press

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

この著者の記事一覧はこちら
日本大学・岩井研究室

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

日本大学法学部政治経済学科・岩井奉信教授の研究室。専門は現代日本政治。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事