経済大不振に焦る中国は台湾侵攻に突っ込むのか 伝説のエコノミストが語るアジアの2大リスク

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――台湾に話を戻します。ロシアのウクライナ侵攻は台湾の地位をどう変えましたか。

西側の政策の優先順位が抜本的に変わり台湾には有利になった。冷戦終結後の30年はイデオロギーより経済が優先されてきたが、ロシアのプーチン大統領はその甘い夢を吹き飛ばした。力による現状変更を試みる独裁者に宥和政策をとってはならないという、第2次世界大戦で西側が得た教訓が復活している。

2022年秋にはドイツ空軍の戦闘機が東アジアに飛来して、日本の自衛隊や韓国、オーストラリアの空軍と共同演習をしている。戦後に日本と並んで平和主義に徹してきたドイツにとっては劇的な変化だ。ちょっと前までは「ドイツのビジネスパーソンが3人集まると中国の話になる」というジョークがあるほど、ドイツは対中重視だった。

そのドイツが大きく姿勢を転換したのは、ウクライナと同様の事態が台湾をめぐって起きうるという危機感ゆえだ。これだけ大きな変化が西側で起きているのをみて「だいぶ想定とは違う」と中国も思っているはずだ。

変わったのは中国であって台湾ではない

――台湾と中国の経済関係はどう変わっていきますか。

香港での一国二制度の形骸化や強硬なゼロコロナ政策、最近の反スパイ法改正などをみて、台湾社会での中国への見方は大きく変わった。既存のビジネスは続けても、新しい投資には慎重になるのではないか。台湾の経済界に「商売のために大陸との関係を改善しよう」という声がないわけではないが、多くはない。   

変わったのは中国であって台湾ではない。鄧小平の開放路線のままなら、もっと多くの人が中国との経済関係を拡大しようと言っていたと思う。

――台湾経済の長期的な発展の見通しは。

いわゆる伝統的な経済は数十年にわたり進展がない。台北の町中は30年前と変わらず雑然としたままだ。しかし新竹のサイエンスパークなどに行くと、先進国の最先端の生活だ。めちゃくちゃに強いハイテクとそれ以外の産業で経済が二極化しているが、取り残された人の生活が苦しいかと言えばそうでもない。たとえば医療費は安く、デジタル化の恩恵でアクセスもしやすい。庶民の生活はかなり手厚く守られている。

ハイテク業界の人たちはアメリカとのパイプの太さに自信を持っている。新しいテクノロジーが出てきてもすぐ対応できるということだ。台湾のハイテク業界の競争力の低下はあまり心配していない。

――アメリカとの政治的な関係は。

かつてアメリカは「中国もやがては民主的になるだろうから、(統一するかどうかは)その後に当事者同士で話し合え」という態度だった。だから2000年に台湾で初めて民主的な政権交代を実現した陳水扁時代にも、アメリカは中国に気を使って台湾には非常に冷たかった。「何十年もかけて民主主義を確立したのに」と台湾人は失望した。

いまアメリカの要人が台湾訪問に熱心なのはその反省からだが、結果的に中国との緊張を高める面もある。

蔡英文総統は外交をそうとう慎重にやっている。台湾側から火をつけるようなことは一切していない。むこうに変な理由を与えないようにしている。

――日本企業の「台湾有事」リスクへの見方は。

中国にとっても武力侵攻は合理的でないから台湾有事の可能性は高くない。しかし万が一のための準備はしておくべきだ。駐在員などがどうやったら大陸から退避できるか、そのときに誰が頼りになるかを危機管理として考えておく必要がある。中国と貿易するのはいいが、新規の投資は慎重に考えたほうがいいのではないか。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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