ライブハウスはミュージシャンを育てない。なぜなら! [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]
ここだけの話ですが、私は「週刊金正日」おっと間違えた「週刊金曜日」様の御給金だけでは生活が成り立たないので「夜のお仕事」をしています。
いやいや、ホストになれるほどの容貌も愛想もありませんのでミュージシャンをしております。はい某即興演奏バンドで電気低音ギタアを弾いております。都内あっちこっちのいわゆるライブハウスで演奏しております。ご興味おありの方は是非マイスペご覧くださいって誌面私物化してる場合じゃなくて、ええとですね、つまりワタクシ自分も演奏者であるくせに、自分のことは完全にタナに上げてプロの皆様をエラソーに批評してけつかるのでございます。誠にメンボクない。
で最近よく演奏先のライブハウス経営者orブッキング担当者の方からよく聞くのが若いバンドに関する嘆き。「最近の若いバンドは出演当日まで下見にも来ん。けしからん」「『デモ音源を持って店においで』と誘っても『音源はmyspaceで聞いてください』『連絡はメールでお願いします』とぬかしよる。ふざけとる」てな話です。
まあおっちゃんがパンクバンドで暴れていた80年代、すでにライブハウスのおっさんどもは「オレの若いころはP、ハウエバー最近の若いモンはQ」とかボヤいておりましたので、原始時代からよくある老人の若者コキオロシ話なのかと思いきや、そうでもない。確かに若いバンドのギグを見ると何だか変だ。なんせ客がいない。いや、決して下手なバンドじゃないんですよ。なのにガラガラの客席に向かって大音量で黙々と演奏、対バンの演奏も聞かず、内輪だけで談笑、せっかく仲間をつくって知らない音楽を吸収する好機だってえのに、下戸の公務員みたいに直帰しちゃう。何じゃこりゃ。
でも、わたしゃ自分も出演する側なんで、彼らの気持ちも分かる。みなさん、日本のライブハウス独特の制度で「チケットノルマ」って知ってます?東京圏じゃ、平日夜、駆け出しバンド3つまとめてライブでも、入場料(『チャージ』っていいます)2000円前後が相場です。まずこれが高い。駅から遠い、まともなドリンクや食べ物も出ないハコがほとんどですぜ。フツー2000円ありゃ映画でも見ますわな。来てくれる方が奇特よ。
そして、バンドには「ノルマ」が課せられる。「チケット20枚売れ」=「客を呼ぶ努力はバンドが負担せよ」=「客の多寡にかかわらずバンドあたり4万円は店がいただく」。つまり身もフタもなく言ってしまえば「店がミュージシャンからカネを取る」って仕組みですね。
チャージバックつうてバンドとカネ分ける例もよくあるけど、アンプとかドラムの『機材使用料』(店に備え付けのアンプやドラムを使うと1000円くらい払わされる)取ったり、ひでえ店になると『JASRAC料』とかぼったくるんだな。
これを当たり前だと思っちゃいかん!わたしゃニューヨークでも「bar」(日本のライブハウスに相当)で何度か演奏しましたが、お店が出演者に「出演料」を払いこそすれ、出演者からカネを取るなんてありえない。まったく逆です。
これ、いろんな条件の違いでこうなる。米国のハコは百席はある。面積が日本の倍くらい広い。だから店を区切って「ライブハウス部分」と「レストラン・バー部分」に分けてしまえる。つまり客の飲食で店におカネが入るわけですな。レストラン・バーなら客が回転するので効率もいいが、日本のライブハウスは客が回転しません。
おまけに東京圏でライブハウスやりゃ、賃貸料だけで月50万〜100万はするし(六本木のはずれで30席くらいの小さなハコが賃料40万円代だった)、照明だ音響だモギリだとレストランにゃいらん人間を雇って人件費は発生するわで、店は出演者に金銭ノルマを課して商売にするわけです。あるライブハウス経営者が「ウチはミュージシャンが客で、客はまあ客だけど何だろうムニャムニャ」とか言ってました、そういえば。ははは。
つまり実もフタもなく言っちゃえば、日本の「ライブハウス」はミュージシャンからカネを取って経営しているってことさ〜。おっとっと。「ミュージシャンから搾取している」なんて左翼チックなことは言いませんぜ旦那。
ミュージシャンにすりゃ、演奏すればするほどおカネが出て行くので、どんどんビンボーになるっちゅう仕組みですな。そんな環境でミュージシャンが育つわけないじゃん。あほらし。演奏すればするほど金銭も入るから「プロ」になっていくってもんじゃねーの? 当然、欧米じゃそう。国際水準で見りゃ、日本の「ライブハウス」ってのは奇形なのだよ。
へ?じゃあミュージシャンが客呼ぶように努力すりゃあいいじゃねえかって?馬鹿かねあんた。ミュージシャンの仕事はいい音楽を作ることであって、客を動員するのは仕事じゃない。そんなことは店の仕事だろうが。サボってモウケようとしなさんな、ライブハウス経営者のおっちゃんどもよ。
考えてもみてよ。どこの世界に「客を呼ぶことはウチの仕事じゃない」なんてぬかすレストランや食堂がありますかね。
んで、元に戻って。もしやと思って若いミュージシャンに聞いてみると、やっぱりそうだ!彼らにとって「ライブハウス」は「レンタルホール」と同じなんですね!
「おカネはちゃんと払ったでしょ?後はお店なんて関係ないじゃん」。そういう発想なんですな。そりゃレンタルホールの経営者や共演者とオトモダチになろうなんて思わんわ。まして説教される義務なんてないな。あははは。そりゃ正しい。
はははは。「ライブハウス」の経営者諸兄、ついに正体を見破られましたね。
みなさんがもしミュージシャンに、不動産賃料を払うリスクを負わせて自分たちはそのリスクから逃げているなら、「おれたちはミュージシャンを育てている」「音楽シーンをつくっている」なんてエラソーなことぬかすのはただちにやめて「ウチはレンタルホールです」って言いなさい。胸を張って言えばいいじゃないですか。ええかっこしなさんな。ミュージシャンからカネ取ってい集客の責任負わせている限り、あなたたちの経営実態は「レンタルホール」よ。実際。
てなわけで、今夜もジャパン各地でガラガラのライブハウスに轟音が響き、でも誰も損せず、ますます才能は埋もれ、ライブは人々の生活から遠のいていくのでありました。
(追記)2010年5月12日になってこんなメールが来た。
「益々ご隆盛のこととお慶び申し上げます。
突然のメール申し訳ございません。
(会社名)productionの(差出人名)と申します。
この度、弊社では下記の日程で、イベントを開催する事になり、貴殿にはご出演をお願いいたしたくご通知いたしました。
過去に多数のSOLD OUTの実績や、現在メジャーシーンでご活躍のアーティストも多数ご参加頂いているイベントです。
詳しくは、下記日程及び出演規約をご覧の上、いずれか1つの日程のみでもご検討頂ければ幸いです。
つきましては、お気軽にお問い合わせいただきますようお願いいたします。
取り急ぎ、イベントご出演のお願いまで。
6/13渋谷HEAVY SICK(ノルマ10枚)
6/27高円寺Club ROOTS(ノルマ12枚)
7/25渋谷HEAVY SICK(ノルマ14枚)
7/30新宿SUN FACE(ノルマ13枚)
8/22渋谷HEAVY SICK(ノルマ23枚)
8/29高円寺Club ROOTS(ノルマ26枚)
全日程チケット前売:1500円前後」
とこういうイベント会社というかプロモーション会社もメールをばらまいて営業しているわけだ。一枚=1500円と仮定します。最安値の渋谷HEAVY SICKでもノルマ10枚=15,000円、最高値の高円寺Club ROOTSだとノルマ26枚=45,000円を要求している。
この意味するところは「カネを前払いせよ。そうすればライブやらせてやる」ということです。
おわかりと思いますが、このカネをバンドから取ってしまえば、ライブハウスもプロモーション会社もまったく懐が痛みません。損するリスクがまったくないのです。
ぼくがライブハウス経営者なら、家賃や人件費を合計して、一回あたりのノルマ額を計算してバンドに割り振ります。家でテレビでも見て、バイトのブッキングマネージャーに店を任せておけば、毎月定収入が入る。なんてラクな商売でしょう。
バンドは、ライブすればするほど、15,000〜45,000円という高額のライブ出演料を請求され、演奏すればするほどカネがいる。そして集客の責任を負わされる。
どう考えても馬鹿げている。これは水が下から上に流れるような倒錯した世界だ。
ミュージシャンはいい音楽をつくるのが仕事であって、どんな世界でも集客は店(またはプロモーション会社)の経営努力に決まっている。欧米じゃ当たり前のことだ。
欧米では出演者にギャラを店が払う。だから演奏することが「仕事」になり「プロ」になるのだ。
(以上)
いやいや、ホストになれるほどの容貌も愛想もありませんのでミュージシャンをしております。はい某即興演奏バンドで電気低音ギタアを弾いております。都内あっちこっちのいわゆるライブハウスで演奏しております。ご興味おありの方は是非マイスペご覧くださいって誌面私物化してる場合じゃなくて、ええとですね、つまりワタクシ自分も演奏者であるくせに、自分のことは完全にタナに上げてプロの皆様をエラソーに批評してけつかるのでございます。誠にメンボクない。
で最近よく演奏先のライブハウス経営者orブッキング担当者の方からよく聞くのが若いバンドに関する嘆き。「最近の若いバンドは出演当日まで下見にも来ん。けしからん」「『デモ音源を持って店においで』と誘っても『音源はmyspaceで聞いてください』『連絡はメールでお願いします』とぬかしよる。ふざけとる」てな話です。
まあおっちゃんがパンクバンドで暴れていた80年代、すでにライブハウスのおっさんどもは「オレの若いころはP、ハウエバー最近の若いモンはQ」とかボヤいておりましたので、原始時代からよくある老人の若者コキオロシ話なのかと思いきや、そうでもない。確かに若いバンドのギグを見ると何だか変だ。なんせ客がいない。いや、決して下手なバンドじゃないんですよ。なのにガラガラの客席に向かって大音量で黙々と演奏、対バンの演奏も聞かず、内輪だけで談笑、せっかく仲間をつくって知らない音楽を吸収する好機だってえのに、下戸の公務員みたいに直帰しちゃう。何じゃこりゃ。
でも、わたしゃ自分も出演する側なんで、彼らの気持ちも分かる。みなさん、日本のライブハウス独特の制度で「チケットノルマ」って知ってます?東京圏じゃ、平日夜、駆け出しバンド3つまとめてライブでも、入場料(『チャージ』っていいます)2000円前後が相場です。まずこれが高い。駅から遠い、まともなドリンクや食べ物も出ないハコがほとんどですぜ。フツー2000円ありゃ映画でも見ますわな。来てくれる方が奇特よ。
そして、バンドには「ノルマ」が課せられる。「チケット20枚売れ」=「客を呼ぶ努力はバンドが負担せよ」=「客の多寡にかかわらずバンドあたり4万円は店がいただく」。つまり身もフタもなく言ってしまえば「店がミュージシャンからカネを取る」って仕組みですね。
チャージバックつうてバンドとカネ分ける例もよくあるけど、アンプとかドラムの『機材使用料』(店に備え付けのアンプやドラムを使うと1000円くらい払わされる)取ったり、ひでえ店になると『JASRAC料』とかぼったくるんだな。
これを当たり前だと思っちゃいかん!わたしゃニューヨークでも「bar」(日本のライブハウスに相当)で何度か演奏しましたが、お店が出演者に「出演料」を払いこそすれ、出演者からカネを取るなんてありえない。まったく逆です。
これ、いろんな条件の違いでこうなる。米国のハコは百席はある。面積が日本の倍くらい広い。だから店を区切って「ライブハウス部分」と「レストラン・バー部分」に分けてしまえる。つまり客の飲食で店におカネが入るわけですな。レストラン・バーなら客が回転するので効率もいいが、日本のライブハウスは客が回転しません。
おまけに東京圏でライブハウスやりゃ、賃貸料だけで月50万〜100万はするし(六本木のはずれで30席くらいの小さなハコが賃料40万円代だった)、照明だ音響だモギリだとレストランにゃいらん人間を雇って人件費は発生するわで、店は出演者に金銭ノルマを課して商売にするわけです。あるライブハウス経営者が「ウチはミュージシャンが客で、客はまあ客だけど何だろうムニャムニャ」とか言ってました、そういえば。ははは。
つまり実もフタもなく言っちゃえば、日本の「ライブハウス」はミュージシャンからカネを取って経営しているってことさ〜。おっとっと。「ミュージシャンから搾取している」なんて左翼チックなことは言いませんぜ旦那。
ミュージシャンにすりゃ、演奏すればするほどおカネが出て行くので、どんどんビンボーになるっちゅう仕組みですな。そんな環境でミュージシャンが育つわけないじゃん。あほらし。演奏すればするほど金銭も入るから「プロ」になっていくってもんじゃねーの? 当然、欧米じゃそう。国際水準で見りゃ、日本の「ライブハウス」ってのは奇形なのだよ。
へ?じゃあミュージシャンが客呼ぶように努力すりゃあいいじゃねえかって?馬鹿かねあんた。ミュージシャンの仕事はいい音楽を作ることであって、客を動員するのは仕事じゃない。そんなことは店の仕事だろうが。サボってモウケようとしなさんな、ライブハウス経営者のおっちゃんどもよ。
考えてもみてよ。どこの世界に「客を呼ぶことはウチの仕事じゃない」なんてぬかすレストランや食堂がありますかね。
んで、元に戻って。もしやと思って若いミュージシャンに聞いてみると、やっぱりそうだ!彼らにとって「ライブハウス」は「レンタルホール」と同じなんですね!
「おカネはちゃんと払ったでしょ?後はお店なんて関係ないじゃん」。そういう発想なんですな。そりゃレンタルホールの経営者や共演者とオトモダチになろうなんて思わんわ。まして説教される義務なんてないな。あははは。そりゃ正しい。
はははは。「ライブハウス」の経営者諸兄、ついに正体を見破られましたね。
みなさんがもしミュージシャンに、不動産賃料を払うリスクを負わせて自分たちはそのリスクから逃げているなら、「おれたちはミュージシャンを育てている」「音楽シーンをつくっている」なんてエラソーなことぬかすのはただちにやめて「ウチはレンタルホールです」って言いなさい。胸を張って言えばいいじゃないですか。ええかっこしなさんな。ミュージシャンからカネ取ってい集客の責任負わせている限り、あなたたちの経営実態は「レンタルホール」よ。実際。
てなわけで、今夜もジャパン各地でガラガラのライブハウスに轟音が響き、でも誰も損せず、ますます才能は埋もれ、ライブは人々の生活から遠のいていくのでありました。
(追記)2010年5月12日になってこんなメールが来た。
「益々ご隆盛のこととお慶び申し上げます。
突然のメール申し訳ございません。
(会社名)productionの(差出人名)と申します。
この度、弊社では下記の日程で、イベントを開催する事になり、貴殿にはご出演をお願いいたしたくご通知いたしました。
過去に多数のSOLD OUTの実績や、現在メジャーシーンでご活躍のアーティストも多数ご参加頂いているイベントです。
詳しくは、下記日程及び出演規約をご覧の上、いずれか1つの日程のみでもご検討頂ければ幸いです。
つきましては、お気軽にお問い合わせいただきますようお願いいたします。
取り急ぎ、イベントご出演のお願いまで。
6/13渋谷HEAVY SICK(ノルマ10枚)
6/27高円寺Club ROOTS(ノルマ12枚)
7/25渋谷HEAVY SICK(ノルマ14枚)
7/30新宿SUN FACE(ノルマ13枚)
8/22渋谷HEAVY SICK(ノルマ23枚)
8/29高円寺Club ROOTS(ノルマ26枚)
全日程チケット前売:1500円前後」
とこういうイベント会社というかプロモーション会社もメールをばらまいて営業しているわけだ。一枚=1500円と仮定します。最安値の渋谷HEAVY SICKでもノルマ10枚=15,000円、最高値の高円寺Club ROOTSだとノルマ26枚=45,000円を要求している。
この意味するところは「カネを前払いせよ。そうすればライブやらせてやる」ということです。
おわかりと思いますが、このカネをバンドから取ってしまえば、ライブハウスもプロモーション会社もまったく懐が痛みません。損するリスクがまったくないのです。
ぼくがライブハウス経営者なら、家賃や人件費を合計して、一回あたりのノルマ額を計算してバンドに割り振ります。家でテレビでも見て、バイトのブッキングマネージャーに店を任せておけば、毎月定収入が入る。なんてラクな商売でしょう。
バンドは、ライブすればするほど、15,000〜45,000円という高額のライブ出演料を請求され、演奏すればするほどカネがいる。そして集客の責任を負わされる。
どう考えても馬鹿げている。これは水が下から上に流れるような倒錯した世界だ。
ミュージシャンはいい音楽をつくるのが仕事であって、どんな世界でも集客は店(またはプロモーション会社)の経営努力に決まっている。欧米じゃ当たり前のことだ。
欧米では出演者にギャラを店が払う。だから演奏することが「仕事」になり「プロ」になるのだ。
(以上)
オカリナアーティスト宮村将広マネジャーのhiroと申します。
大変興味深い記事でした。
私も、宮村も昨年カナダ・ニューヨークに滞在しており、ライブ事情・おっしゃていることごもっともだと思いました。
日本のバーやレストランが良い意味でミュージシャンと共存し繁栄できるようになればなぁ・・・と思います。
突然失礼いたしました。
宮村将広URL:http://www.frankone.jp/
by Hiro (2010-05-09 15:33)
同意!
twitterでリツイートします!
by ライブハウス「ジョニーエンジェル」 (2010-05-10 04:35)