登録日:2010/05/26 (水) 11:52:12
更新日:2023/06/20 Tue 11:46:45
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サーボの命令/Tsabo's Decree
(5)(
黒)
インスタント
クリーチャー・タイプを1つ選ぶ。プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、
自分の手札を公開し、選ばれたタイプのすべてのクリーチャー・カードを捨てる。その後そのプレイヤーがコントロールする選ばれたタイプのすべてのクリーチャーを破壊する。それらは再生できない。
選んだクリーチャータイプを戦場からはもちろん、手札からも根こそぎ駆逐する徹底的なアンチ部族カードである。遊戯王プレイヤーには『
種族指定の《死のデッキ破壊ウイルス》』といえばわかりやすいかもしれない。
当然だがこんなもんを通してしまえば、どんな部族デッキでも戦線がガタガタになる。
スタンダードで共存していたマスクス・ブロックでは、レベルという部族デッキがとても強力だった。それに対するアンチカードとしてデザインされた。
すでに似たようなアンチ部族カードに《絶滅》というカードがあった。これは5
マナと軽い代わりに手札には影響を及ぼさない。
また、MTGの部族デッキは基本的に「戦場にクリーチャーを並べて、それらにのみ影響するシナジーを最大限に利用して戦う」という戦略をとることが多い。昔の
遊戯王で言うと《連合軍》とか《ボタニカル・ライオ》のイメージだろうか。
なので普通の部族デッキを相手にするときは、単なるクリーチャーに対する全体除去、それこそ4マナの《神の怒り》のようなカードで十分効果的なのである。
一方《サーボの命令》は6マナと重く、しかも部族対策としてはかなり過剰な部類に入る。手札のカードまで咎めるのは、普通の部族が相手ではさすがにオーバーキルである。しかし
この手札破壊がなければ、レベル対策としては不足していたのだ。
レベルという部族は、リクルート能力という「
ライブラリーから直接レベルを戦場に出す」能力が軸になっている部族である。
つまり
戦場をリセットしても、手札にリクルーターがいればそこからまた戦線を築き直されてしまう。
特に2マナ以上のリクルーターは全員、レベルデッキの核である《
果敢な勇士リン・シヴィー》をリクルートでき、そのシヴィーはマナを
無駄にすることなく墓地のレベルをライブラリーに戻しながら戦線を整えてしまうのである。
そして1マナのリクルーターも、その2マナのリクルーターを呼び出す能力を持っている。全体除去を打ったのに数ターン後には同じような状況を作れてしまう。
つまり
いくら戦場をリセットされても、手札にリクルーターがいればたやすくリカバリーができる。言い方は悪いが
ゴキブリのようにしぶとくしつこくよみがえってくる。
そのため、レベルに対しては
手札のリクルーターも一緒に咎めないと対策としては不十分だったのだ。
さらにこのカードは、部族対策以外でも役に立った。
当時のトーナメントシーンで活躍したクリーチャーには単体除去を受け付けない《ブラストダーム》をはじめ、
色を参照する除去に対して耐性を持つ《カヴーのカメレオン》
黒い上に再生を持つため除去しづらい《魂売り》
インスタント・タイミングの特定の除去しか受け付けない《キマイラ像》
など普通の除去ではうまく対処できない厄介な相手が多かった。
これらのカードは6マナで除去するにはかなり重くて非効率的ではあったが、まったく効かないわけではない。「インスタントかつ対象を取らず、手札にも影響を及ぼす」このカードで除去する理由に足る相手は多かったのである。
しかもうまいこと同名カードが手札にあれば、それもついでに巻き添えにできて大きく減速させることができる。
中でも《冥界のスピリット》がこれにハマってしまうとスピリットの自己蘇生能力が働かなくなるため、ほぼノンクリーチャーであるネザー・ゴーにすら有効な局面もあった。
そして《
火炎舌のカヴー》と《カヴーの
カメレオン》、《魂売り》と《ブラストダーム》などのように、採用しているカードの部族が被ってくれていればしめたものだ。
つまりこのカード、この手の特定の戦略をメタるカードの
弱点である「空振り」がかなり少なかったのである。その上シングルシンボルなので多色デッキでも唱えやすい。
そのためサイドどころかメインデッキからすら採用する理由は十分にあり、そのことも相まってレベルを存分に苦しめた。
レベル側はこの不当なレベルのメタカードに対し、《サーボの命令》のみならず環境に存在するデッキ全般に耐性をつけた「カウンターレベル」というタイプに変化することで環境に適応していくことになる。
一方で普通の部族対策としてはやりすぎであり、カジュアルで人気があった「傭兵」や「カヴー」をはじめとした部族デッキを機能不全に陥らせてしまうことになるのだった。
強力な効果を持つが6マナと激烈に重いため、その後は部族対策という意味でもほとんど使われていない。
このカードの活躍はインベイジョン・ブロック自体が重量級のカードが飛び交う比較的ゆっくりとした環境だったという事情があり、
このカードの主戦場となるであろうレガシーでは軽い部族対策である《仕組まれた疫病》や、部族デッキが単色になりやすい傾向を受けた各種色対策カードなどのほうが優先される。
一応
ゴブリンやマーフォークなど刺さる相手はいたので、時間切れによる勝ち逃げも視野に入るレベルの鈍足デッキ「ランドスティル」や何でもかんでも満載にする「バベル」あたりでは使われることもあったようだが、
先も述べたように
ぶっちゃけ普通の部族対策なら普通のリセット呪文で十分であり、鈍足型のデッキが環境の変化で駆逐された現在はさっぱり見ることがなくなった。
《サーボの命令》を語るうえで外せないのは、レベルやダームの話よりもむしろ冒頭の詠唱である。今でも唱えるときにたびたび「滅びよ(宣言種族)、これはサーボの命令なり」なんて言うプレイヤーもいる(ルールやマナーにやたらうるさいMTGだが、今は使う環境がカジュアルだからこういう宣言をしてもあんまり問題にならない)。
これはMtG漫画「
デュエルファイター刃」に登場するターニャという
12歳のロリっ娘がデュエル時に当カードを使用した際のものである。
この呪文により、対戦相手の女性プレイヤーのマーフォーク軍団は壊滅する。尚もその女性プレイヤーは呪文を繰り出そうとするが、ターニャが放った「蝕み」によって打ち消され、
触手プレイの果てに消滅した。
作者は腐り姫の絵師で、そのシーンはなかなかエロいと評判になったのだが、有名になった理由はここだけではない。
スタンダード環境に存在していた
マーフォークが、インベイジョンの次のブロックであるオデッセイ・ブロックにほぼ収録されず、インベイジョンががスタンダード落ちするとともに本当に
絶滅したのである。
これは「
海の人魚が地上の連中とやりあうのはおかしい」「
世界観に水の要素が濃い文明(海中都市など)を作らなければならない」などの理由で、開発の方針からマーフォークがしばらく排斥されていたため。
そもそも最初のロード《アトランティスの王》からして「アトランティス」という現実世界の固有名詞を使ってしまっており、これが独自の世界観を構築していくMTGの方針と合わないという事情もあった。。
背景ストーリーではちょうどインベイジョン・ブロックをもってウェザーライト・サーガが終了し、新しい舞台でまったく新しいストーリーが始まることになった。
その新しさを演出するべく、これまでとは違った部族がフィーチャーされることになったのだ。ポケモンでいうとイッシュ地方にこれまでのポケモンが出てこなかったようなイメージ。
そのためマーフォークの姿はほとんどなくなってしまい、、代わりにセファリッドという水中部族が登場した。他にも赤はゴブリンからドワーフ、緑はエルフからケンタウルス、白はレベル騎士から鳥(エイヴン)など、マーフォークに限らず当時お払い箱になった部族は多かった。
さすがにこれはやりすぎたためか、続くオンスロートブロックではゴブリンやエルフや鳥などの部族は大幅な強化を受けて帰ってくることとなる。
しかしマーフォークは名指しで滅びよと言われたせいで上述の理由により帰ってくることができず、青の主要部族はウィザードとなる。
マーフォークはその後、懐古ブロック「時のらせん」が来るまで5年間ろくな新規カードをもらえず、基本セットにすら収録されることがなかった。
奇しくも「滅びよマーフォーク」と宣言された後にその通り滅んでしまったことから、日本のプレイヤーには印象深い一文として記憶されている。
その後はこれまでの世界観をある程度残さなければならない大陸ではなく、世界観そのものを完全に一新できる「次元」を移ることによって
ネタ切れを防ぐ目新しさをアピールすることになる。
そうなると赤のゴブリン、緑のエルフ、黒の
吸血鬼のような形で青にも非人間のメイン部族が欲しくなるところ。当初は「ヴィダルケン」というオリジナル種族が使われていたのだが、やはり新参層にもわかりやすい
ファンタジーの王道種族が欲しい。
そこで白羽の矢が立ったのがマーフォークだった。
ローウィン・ブロックで大幅な強化を受けて華々しい復活を果たしたマーフォークは、
一時期絶滅していた面影などまったくにおわせることなくスタンダードからレガシーに至るまで環境を席巻した。
そしてその後、ゼンディカーやテーロス、イクサランなどでも背景ストーリーを含めて活躍。海がないはずのラヴニカでも「実は地下に海があってそこで暮らしていた」という
後つけ設定でシミックの主要部族となった。
一時期滅ぼされたが、今となっては下手な部族よりも登場頻度が高いかもしれない。
現在では部族縛りを行うカジュアルルール(トライバル・ウォーズや部族EDHなど)では他の部族対策カードとともに禁止にされることが多い。
参加するプレイヤーのデッキがなんらかの部族デッキになる以上、このカードが与える影響が非常に大きくなる。特に手札にも干渉する《サーボの命令》は、重いという致命的な弱点こそあるが通ってしまえばほぼ勝利である。
実際これらの部族対策カードを縛らなかった部族大会は、こういった部族対策カードを使える黒のデッキが上位になってしまう。
試合のログを見てみるとコメントなどは非常に荒れる。そういったことを防ぐためにも、部族を宣言するタイプのカードは禁止指定しておくのが無難だろう。
なお当時プレイしたことがない人が必ず持つのが「サーボってなんだよ」という疑問。
これは背景ストーリーのヴィランであるサーボ・タヴォークという、ファイレクシア軍の女司令官である。
Tsabo Tavoc / サーボ・タヴォーク (5)(黒)(赤)
伝説のクリーチャー — ホラー(Horror)
先制攻撃、プロテクション(伝説のクリーチャー)
(黒)(黒),(T):伝説のクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
7/4
インベイジョン(侵略)というブロック名の通り、ドミナリアを侵略するファイレクシア軍の指揮を執る。各地で優位に戦いを進めていくも、主人公ジェラード・キャパシェンとの一騎打ちで重傷を負って敗走。しかも侵略の拠点に使っていたポータルを破壊されるという大失態をおかしたせいで、逃げた先で処刑されてしまう。
この時期の悪役らしく残虐性がかなり強く、フレーバー・テキストでは「敵が気の毒になったかもしれないところだな ――― あいつらが死ぬところを見るのがこんなに面白いってことさえなければね。」と実にMTGのヴィランらしい言葉を残している。
《サーボの命令》はそんな彼女らしい、残酷な指令のことなのかもしれない。実際レベルが根こそぎくたばったときの相手の顔見ると気の毒なんだけど気持ちいいし
彼女は事実上インベイジョンにしか出てこないのだが、その名前を冠する《サーボの命令》《サーボの網》といったカードがトーナメントシーンでたびたび見られる強力なものだったことや、
「
スキンヘッドにものすごい厚化粧の顔」「
蜘蛛みたいな足が生えている機械のような体」と外見がめちゃくちゃ濃く(特に顔)、
トーナメントシーンで使われたカードのイラストやフレーバー・テキストでも異様な存在感を放っていることなどから、当時のプレイヤーにはかなり強い印象を与えた悪役である。
一応《悪魔の意図》で処刑されるシーンがカード化されているものの「
蜘蛛みたいな足が泥の中から出ているだけ」で
フレーバー・テキストもないので、背景ストーリーをよほど追いかけていないとサーボと分かる人はまずいない。
さて、網や命令や《果たし合いの場》《調査》あたりはよく使われたサーボだが、このカード自体はさっぱり使われなかった。7マナのくせにタフネス4、《火炎舌のカヴー》の範囲内じゃしょうがない。
とはいえ「プロテクション(レジェンド)」という独特なプロテクションと、徹底的にレジェンドをいじめる謎性能から印象には残りやすい。同じくインベイジョンには当時としてはレジェンドを持つクリーチャーがかなり多く収録されており、それらに対する回答としてデザインされたのかもしれない。
統率者戦という遊び方が流行し始めた頃、統率者を徹底的に否定する印象を受けるこのカードが注目を集めた時期もあった。
追記せよマーフォーク……是は、サーボの命令なり
最終更新:2023年06月20日 11:46