登録日:2012/10/16(火) 13:32:27
更新日:2024/11/17 Sun 16:08:09
所要時間:約 5 分で読めます
レーベル:電撃文庫
著者:三枝零一
イラスト:純桂一
巻数:全20巻(総エピソード数10)
第7回電撃ゲーム大賞「銀賞」受賞作。2001年から2023年にかけて発表された。
知名度は低めで、かつ話が進むにつれ各巻ごとの発表間隔がどんどん年単位で伸びていったものの、根強いファンは多い。
応募時タイトルは「魔法士物語」。
ほぼ共通の特徴として、悪役らしい悪役が登場しない。強いて言うなら
誰もがどうしようもない事で加害者になりうる世界の現状と、物語における巡り合せの皮肉さだろうか。
各エピソード冒頭の四行詩
(Ⅸ巻にて破られる)
各巻頭は全て
回想シーンから始まる。あとがきでの
次回予告がある。
■あらすじ
1000万人が生活できるドーム型の積層都市「シティ」が世界各地に建造され、全ての国家が消滅した世界。
しかし、大気制御衛星の原因不明の暴走事故によって世界は闇に包まれた。地球環境は激変し、
気温は零下40度まで低下。太陽光発電に頼り切っていたが故の深刻なエネルギーの枯渇は、遂に第三次世界大戦を引き起こす。
シティ間の熾烈な生存競争の末、アフリカ大陸が世界地図から消滅。地形を変える程の激戦により、残されたのは、7つの「シティ」だけだった。
終戦から10年後、世界は未だ緩やかな人類滅亡を続けている。
時系列に沿ってはいるものの、3巻までは殆ど別の物語として描かれており、
上下巻構成のⅣ・Ⅴ巻を経て、群像劇かつ上中下巻構成となるエピソードⅥからが本編。
■主要登場人物(Ⅴ巻まで)
便利屋を営む天樹家の末っ子。
ヒロインのために頑張る、割と王道なⅠ巻の主人公。
だが実は、天樹姉弟の父が生前に作り死後研究施設に放置され、何も知らないまま護身のために侵入者を反射的に殺す事しか出来なかった所を双子に拾われた子供で、他者の魔法を科学者の名を冠する「デーモン」なるプログラム群で複数エミュレートする万能型魔法士「悪魔使い」。
また他の施設生まれの作られた魔法士にも言える事だが成長を人為的に促進されており、ガワこそティーンエイジャーで戦闘技能も一人前だが、実は肉体年齢はそれより幼く精神面でも良くも悪くも子供だったりする。
…そして作中では、「未熟で無鉄砲な子供であること」が時に物語を動かし、時に彼自身をも追い詰めていく。その果てに彼が見つけた答えと、選んだ道は…。
エピソードに登場する度、彼の特異性が徐々に浮き彫りとなっていく。
また、クライマックスでは極限状況で発明したある「デーモン」に、生みの親やエドの創造者とともに魔法士を最初に開発したサクラの父親の名前を付けている。
謎の人物からの依頼により、天樹家に保護された少女。
Ⅰ巻のヒロインにして錬の嫁。金髪ロングおでこちゃん。三歳。
名前はドイツ語で数字の4を指す。マザーコア特化型魔法士「天使」。
天樹家の長女。メカニックから潜入工作まで幅広くこなす。真昼とは双子の姉弟。
天樹家の長男。プログラミングから戦術構築までこなす腹黒参謀。
…が、サクラとの出会い時、彼女の育ての親との情報交換の中で、サクラの名前と能力プロトコルの由来が自分がかつてサクラの「父親」(父の研究仲間)と交流した時の会話から来ていると知り、紆余曲折を経てサクラ側につく事を選択。
世界を変えようと行動を起こすが…。
大戦の英雄の一人。シリーズにおける頼れる大人。最高の騎士。
恋人は初代最強騎士、七瀬雪(故人)。本編では1章終盤から、雪の形見の騎士剣「紅蓮」を装備するように。
名前の元ネタはⅡ巻でカミングアウトされた。
Ⅱ巻のヒロイン。実験施設「島」で過ごしている実験訓練生。対騎士用魔法士「龍使い」。
上・中巻のオチ担当率が高い。九割人外(物理的な意味で)
150メートル級高速機動艦「Hunter Pigeon」のマスター。全身どころか船も家計も真っ赤っかなお人好し。
指ぱっちん。
通称ディー。Ⅲ巻の主人公。
I-ブレインを二つ備えた、弱点の存在しない世界最強の「騎士」。シティ・マサチューセッツの「ファクトリー」のエージェント。
実際とんでもない強さであり、まともに渡り合えるのは同じ主人公達くらい(それも片手で数えられる程度)である。
登場初期には殺人への躊躇いや気弱さを抱えていたが、セラとの出会いやその果てに起こったクレアとの決別、イルとの出会い等よって覚悟を決めていくことに。
通称セラ。Ⅲ巻のヒロイン。金髪ポニテのファンネル少女。
10歳だけど、実は自然出生者のためほとんどのメインキャラより年上。
現在確認されている、世界唯一の自然発生した魔法士。親から受け継いだ重力操作魔法「光使い」の能力を持ち、専用武器はラミ○ル。
通称クレア。50メートル級高々度索敵艦「FA-307」のマスター。通常視力が無い代わりに、あらゆるものを見通す「千里眼」の持ち主。
ファクトリーのエージェントで、ディーの「姉」(同じ施設で作られた魔法士の先輩)にあたる巨乳眼帯お姉ちゃん。でも実年齢は四歳。
Ⅲ巻ではセラを巡る中弟とすれ違い、最終的に自分の妨害をも超えられて2人(と彼らを助けた黒沢祐一)に逃亡されてしまったのだが、
そんな「国から逃げられず、弟も自立して出ていかれた自分」に諦観と自暴自棄を抱いていた頃、エピソードⅥである任務を受けた際ヘイズと遭遇。紆余曲折を経てヘイズの側にいる事を選んだ事で彼女もまた成長していく。
200メートル級特務工作艦「
ウィリアム・シェイクスピア」のマスター。シティ・ロンドン所属。
最強の人形使い。…だが、生みの親な女性科学者からほぼ便利な手伝いの様に扱われており、それでも唯一無二の人だった創造者の死後ロンドンに拾われた後も長らく人間らしい事に興味を示さなかったが、
複数の遭遇により「人間らしい事」をするためにある行動に出、錬達との触れ合いによって少しずつ「人間らしい」感情に目覚めていく。
ショタ。六歳。
Ⅴ巻の主人公。エピソードが進む毎に精神的成長を遂げていく。
もう一人の「悪魔使い」。ある悲痛な過去から「賢人会議」と称して各地で人の道具として使い捨てられる魔法士を救うためのテロやアジテートを繰り返している。
キャラクターコンセプトは「フィアを救えなかった錬」。
悪魔使いとしては複数能力を並行させ手数で攻める錬と違い、能力同士を合成させ、単発の火力や特殊効果を増幅させる事に長けている。
またなぜか昔真昼がサクラ用を想定して作った「悪魔使い」のプロトコルが、数年後に拾った錬のI-ブレインにも応用可能だったが、それほどに二人が似ているのは偶然ではなく…。
なお終盤では自分を作った科学者を「父様」、その父が自分を生み出す時遺伝子の由来とした「ある女性」(実は錬の遺伝子モデルでもある)を「母様」と呼んでいる。
胸が無い。
通称イル。Ⅴ巻におけるもう一人の主人公。クレアの弟、ディーの兄に当たる人物。
シティ・モスクワ所属。特技は格闘技と壁抜け。
■用語
脳内に据え付けられた生体コンピューター
「I-ブレイン」により、
物理定数のパラメータを書き換え、
「魔法」を使用する事が出来る人間の事。要するに
文字通りのチート行為
である。
I-ブレインを所持する事以外は、基本的には通常人と変わらない。
「龍使い」以外は。
I-ブレインの演算能力は脳との相性で決まり、性能が劣化する事はあっても向上する事は一切無い。
遺伝子操作による先天性魔法士と外科手術による後天性魔法士に大別出来、
特に前者は軍付き備品としてマトモな人権は与えられていない。
また主に後天性魔法士を中心に能力を長年酷使する事で「フリーズアウト」と呼ばれる脳障害を負う者が多数おり、これにより戦後魔法士になる手術は衰退、先天性の製造が普及する事になる。
扱う魔法の種類も基本的には変更することは出来ない。これは、情報制御に必要な膨大なプログラムを脳内に収める為の取捨選択から。
大戦中や戦後クローニングで「先天的にI-ブレインを持つ様に」製造された魔法士は、以下の三種類に分けられる。
対魔法士用魔法士として、身体制御と情報解体により戦う近接戦闘型の
「騎士」
無生物に干渉する
ゴーストハックにより高い対一般兵器戦能力がある
「人形使い」。
同じく対一般兵器に特化した、エントロピー制御による分子運動制御で熱を操る
「炎使い」。
主人公達は、上記に当てはまらない特殊なタイプの魔法士である。
大気制御衛星から世界中に吐き出された遮光性気体。これにより、世界は永久凍土に包まれた。
また、発電をほとんど太陽光発電に頼っていたので、世界は深刻なエネルギー不足に陥った。
内部では、I-ブレインを含めた全ての電子機器が使えない。
これを突破して青空を見渡せる極めて高性能な乗り物は、雲上航行艦――一部の主人公達が所有している三隻のみである。
なお雲の発生理由はエピソードⅦとエピソードⅨで判明したが、エピソードⅦラストで真昼がそれや魔法士の始原と共にとんでもない方法でのみ発動する「雲除去システム」を発見してしまい、それが「ある悲劇」を切っ掛けに世界に露わになってしまった事で、世界は賢人会議VSシティ勢力の大戦へと突入してしまう…。
1000万人の人間を支える積層型閉鎖都市。
嘗てのエネルギー源だった太陽光発電もできず、化石燃料も尽きたこの世界で一般人が安全に生活するにはシティに入居するほかないとされる。
この世界における「国」にあたり、物語開始時点で世界に7基のみ残されている。
太陽光発電に代わり、十年以上シティを支えている第二種
永久機関。これの中枢は「マザーコア」と呼ばれている。
存在と
その動力の秘密、そして
それを維持するために行われる非人道的な所業そのものが、シリーズ通してのテーマを担っていると言っても過言ではない。
…だがエピソードⅥで。真昼がマザーシステム
だけを維持しても、今の世界では
それが支えるシティ設備を直す余力が殆どなく結局僅かな先延ばしに過ぎないという指摘を全世界に発した事で、世界の揺らぎは激しさを増していく事になる。
項目は『追記・修正』でできている。
- ようやく俺達の2011年が終わるのか…… -- 名無しさん (2014-02-03 08:36:45)
- なんでこの作品面白いのにあまりにも名前が知れてないんだ?萌えもハーレムもないからか? -- 名無しさん (2014-02-03 08:49:25)
- 昨今のラノベに比べたら濃いから取っ付きにくいとか。一巻の戦いとかかなり燃えるんだがな -- 名無しさん (2014-02-03 08:55:44)
- 最近の本はラノベに限らず薄いからなあ… -- 名無しさん (2014-02-05 21:46:10)
- 内容が暗め(初期はみんな目が死んでるし)だし、設定がちょっと複雑だし…そして何より刊行が遅いからなぁ。面白いけど -- 名無しさん (2015-01-11 23:44:57)
- 作者が、一年以内に新刊出せたよ!(意訳)とか言っちゃうやつだからなあ… -- 名無しさん (2015-01-11 23:56:24)
- これに匹敵するほど面白い作品は、ラノベに限らずほとんどないと思うよ。いやマジで -- 名無しさん (2016-10-16 22:50:45)
- 刊行ペースがあんまりにも遅すぎる。ゲームやってないで原稿書いてよ… -- 名無しさん (2020-05-20 23:47:51)
- 某小説みたいに、いっそプロットを全公開してくれたら、代わりに書いてくれるコアなファンいっぱいいそう -- 名無しさん (2020-05-25 22:29:14)
- これが発売されたばっかの頃のラノベは良くも悪くも重くて読みごたえは凄いもんがあったなあ -- 名無しさん (2020-05-29 10:40:27)
- まだラノベが本格SFやファンタジーと地続きだった時代の名作といった趣を感じるな。時代が変わって、色々な意味で、ラノベも変わっていった。 -- 名無しさん (2020-05-29 10:47:00)
- 作者が専業なのか兼業なのか、専業だとしたらどうやって食いつないでるのか気になる」 -- 名無しさん (2020-10-10 22:42:51)
- 作品は大好きだし作者も好きだけど、せめて大っぴらにボードゲームをやらずに執筆してくれ、とどうしても思ってしまうw -- 名無しさん (2021-04-03 20:10:08)
- 作者がたまにツイッターで政治ネタとかでバズってるの見ると「いいから早く書いてくれや」と黒い感情がチラついてしまう。まああれだけ重厚な物語なら時間かかるだろうし、出れば絶対面白いからいくらでも期待して待てるんだが -- 名無しさん (2021-08-18 20:43:08)
- 作者Twitterによるととりあえず中巻原稿を編集部に送ってはみたが、どうなるかはまだ分からんし下巻はこれかららしい…まだ中巻かいって気もするが。 -- 名無しさん (2021-09-30 21:16:38)
- 完結巻の原稿も終わったみたいで本当に完結するんだなあ。続刊の特典多くて集めるの大変だわ -- 名無しさん (2023-02-28 00:24:23)
- Ⅸの中下の出来凄すぎた… -- 名無しさん (2023-05-13 19:14:37)
- 完結おめ -- 名無しさん (2024-02-26 21:11:06)
- 温泉への浪漫が世界を救う最後の切り札を手に入れたというギャグのような「人間的文化があればこそ人間」「機械の替わりにバカやるのが人間」って一巻の頃から語られていた話にちゃんと通じるっていうね……。地熱プラントさえ用意できれば、出生率制限する必要あるけど細々雲が自然分解するまで生き残るプランが現実的になった終わりだったな -- 名無しさん (2024-02-27 00:14:21)
最終更新:2024年11月17日 16:08