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週刊アスキー

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ケーキは分ければ増える──シェアエコノミーが正しいひとつの事例 by遠藤諭

2015年02月25日 16時30分更新

 週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。

文具とパソコンの話

 数学パズルの世界でよくあるのが、“食べ物を何人かで分ける”といったタイプの問題。もともと数学の起源をたどっていくと、たぶん苦労して手に入れた食料を、共同体の中で分けるようなことから始まっているのだと思う。リンゴ、ケーキ、ピザなんかを2人、3人、10人……で分ける問題がいろいろと提示されてきたわけだ。

 我々が無意識のうちにやっているのが、ナイフで切り分けた本人は、みんなより先には選ばないというやり方。2人でケーキを分けるなら、Aさんが切って、Bさんが選ぶ。これが、3つとなると問題はちょっと難しくなる。なにしろ、“任意の角の3等分”なんかは有名なギリシャの3大難問の1つですからね。ニュートンが挑戦して解けなかったとか、これの研究家を“トライセクター”(Trisector)と呼ぶくらい人を惹き付けるテーマでもあります。

ケーキ

 ということで、ケーキ(デコレーションでないカステラみたいな奴がわかりやすい)を3人で分けるという問題。ネットでググってみると本当にいろんな答えが出てくる。数学っぽいのから、社会学っぽいのから、パフォーマンスっぽいのから、たったこれだけの問題が世の中の縮図みたいで楽しい。2人で分ける方法の拡張として、“Aくんが3分の1と思う位置で切って、Bくんが半分に切って、Cくんが選び、Bくんが選び、Aくんが選ぶ”というあたりが、現実的かもしれない。

ケーキ
ケーキ
ケーキ

 しかし、このやり方も含めてネットでたくさん提示されている方法は、どれも“切る”ことを優先的に考えているきらいがある。今の例だと誰から切るのかという順序性もきれいでないと思う。そこで、今どきのネット的な発想であらかじめみんなの意見を聞くとどうなるか? このパターンの象徴的な例は、海外送金の“TransferWiseというサービスだ(ここでも一度触れたことがある)。ポンドからユーロ、ユーロからポンドなど送金する人たちをあらかじめ束ねて、両替にかかる為替手数料を理想的にはゼロにしようという発想。まさに、デジタルにおける“スマート”というのはこういうことだと思うのだが、よくよく考えるとケーキの3等分でもちょっと面白いことができそうなのだ。

 最初に、A、B、Cの3人が、それぞれ3等分の案を出す。それを、以下の方法で分配する。なんとこうすることで、全員が希望していたよりもたくさんのケーキを手に入れることができるようになる(少なくとも希望どおりのケーキは手に入る)! これが、シェアリングエコノミーの本質というかミラクルなところかもしれません。増えたケーキは一体どこから出てきたのでしょうね?

ケーキ
ケーキ
ケーキ
ケーキ
ケーキ
ケーキ
ケーキ

 なぜこんな現象が起きるのかといえば、各人が3分の1と考えるカット位置が正確ではないからだ(本文にあるように説明上はシンプルなケーキが分かりやすいが“ナン”みたいに非対称なものだといよいよ個人差が出る)。しかし、ネットにおいても人間は自分の尺度でしかモノの価値をとらえていないのではないかと思う。そこがむしろポイントで、“場を共有”するだけでこんなことが起きてしまうわけなのだ。

 なお、3人のカット位置の順序性は以下の6つのパターンがあるが、いずれも誰も“損した”感じにならずに切り分けることができる(各図の下が切り分け例だが実際の切り方はそれぞれ数種類ある=完全に重なる場合は省略)。ただし、自分は希望したままの一片が得られればOK、他人が増えるのは気にしないというのがこの場合の条件となる。とはいえ、この要領でケーキは何人で分けても増えてしまうのでした。

ケーキ

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭

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