たった840平方マイルに1,350万人以上がつめ込まれた東京は、人で溢れている。しかしウィリアム・グリーンは、そんなカオスのなかの思いも寄らない場所で、孤独の瞬間を発見してしまった──眠っているタクシー運転手でいっぱいになった道路で。
ロンドン出身のフォトグラファーである彼は、昨春結婚式のために東京を訪れ、1カ月間の休暇中にいくつかのプロジェクトに取り組む決心をした。しかし、どんなアイデアも一向によい結果につながらなかった。午後5時頃になって、セレンディピティーが彼をダウンタウンの脇道に連れて行くまでは。
その通りには30台以上のタクシーが並んでいて、居眠りしている運転手でいっぱいだった。以前、中国に旅行したとき、グリーンは人前で眠っている人を目撃したことはあったが、居眠りしているタクシー運転手でいっぱいになった道路になんとなく惹きつけられ、興味をもった。
「無防備なので、(イギリスでは)こういうことはしないと思います」と、彼は言う。「プロフェッショナルな仕事中に人前で眠ているということが、わたしにとっては魅力的だったのです」
グリーンは通りを彷徨うように行ったり来たりしながら、Nikon D800Eでポートレイトを撮影していった。さまざまな角度からタクシー運転手を撮影し、クルマの窓の反射で自分の姿が映ってしまわないように気をつけた。
やがて彼は、ほかの運転手と同じような服を着た紳士が1人、それほど遠くない場所に立っていることに気がつき、自分が何をしようとしているのかを説明した。この男性が便宜を図ってくれたおかげで、最終的にグリーンは、2日間で40台のタクシーを写真に収めることができた。
1、2人は目を覚ましたものの、ほとんどの運転手は彼の存在を気にしなかった。
「眠りながらそこに居る」という意味をもつ“居眠り”は、日本では普通のことだが、仕事中に居眠りすることは、西洋ではまだ奇抜なアイデアだ。
昼寝(パワーナップ)が生産性を向上させることは証明されているし、会社指定の睡眠ポッドや昼寝部屋は、シリコンヴァレーの多くの企業で定番化している。それでも、アメリカやイギリスのプロフェッショナルたちは、居眠りなしの環境で働いている。グリーンにとって、居眠りの最も興味深い部分は、公の場で起こるプライヴェートな瞬間なのだ。
「タクシーは、さまざまな人が常に出入りする、非常に公共的な場所です」と、彼は言う。「しかし、運転手が居眠りしていて、タクシーがプライヴェートな空間になっていることもある。わたしは、その並置に興味をひかれたのです」
PHOTOGRAPHS BY WILLIAM GREEN
TEXT BY JENNA GARRETT