すでに人類が解決したと思われる問題に対して、技術的ソリューションを探す──。これほどシリコンヴァレー的な発想が、ほかにあるだろうか。そしてついに、食べ物についてのソリューションが見つかったのだ。
「ソイレント(Soylent)」が米国で誕生してから5年。この代替食が英国への進出を果たし、競合ブランドの「ヒュール(Huel)」と並んで市場に出回ることとなった。
こうした製品のターゲットは、減量やフィットネス、筋肉増強を求める人だけではない。これらは、食事に「精度」と「効率」をもたらすことを目的につくられている。
とはいえ、本当に機能するのだろうか? ハンバーガーやチョコレートバー、ポテトチップスをやめて、チョコ風味の飲み物を飲み干すという選択が自然に感じられる日なんて、来るのだろうか?
その答えを知るべく、いつもの食事(の一部)をソイレントとヒュールに、まずは1カ月間ほど替えてみることにした。
人間は食の主目的を疎かにしすぎた
代替食や代替飲料といった製品は、どれも同じ理念を掲げている。ヒュールの創業者のひとりであるジュリアン・ハーンは、それをこんな風にまとめている。
「わたしたちはあまりに長い間、主目的よりも味を優先して食品を最適化してきた。しかし本来、食品は体に必要なあらゆる栄養を与えるものでなくてはならないのだ」と。
「世の中に出回っている食品があまりにおいしすぎるため、人々はそれを求め、はまり、食べすぎてしまうのです」とハーンは語る。この悪習からわれわれを助け出すために登場したのが、こうした代替食だった。
ヒュールは2014年に英国のエールズベリーで創業され、ハーンの仲間で創業者のひとりであるジェームズ・コリアーの手で大きく成長した。18年、同社は80を超える国で2,000万食以上を売り上げている。
そしてほぼ同時期に、ソフトウェアエンジニアのボブ・ラインハートは米国でソイレントを立ち上げた。すでに西海岸で人気になっていたソイレントは、18年9月に英国へと進出してきた。
第1の試練:味
ソイレントは、英国ではすぐに飲めるボトルタイプでのみ販売されている(粉末タイプはもうすぐ登場する)。ボトル1本で摂取できるのは400キロカロリー。軽い食事と同程度だ。タンパク質は20g含まれていて、かなりの満腹感がある。
風味は、味なし、モカ味(カフェイン入り)、カカオ味の3種類だ。後者ふたつは甘いが、普通のチョコレートミルクやラテ・ミルクシェイクのように適度な甘さだ。味なしタイプはどうも好きになれない。飲めないことはないが、味が平坦すぎるのだ。
ヒュールはソイレントとは違う。ボトルタイプもあるが、個人的にはまったく好きになれなかった。1度しか試したきり、残りの1カ月は自分で混ぜて飲料をつくれる粉末タイプを使うことに決めた。
スプーン1杯でおよそ150キロカロリー。推奨されている通りに水だけと混ぜると、ひどい味だ。頑張って飲もうとした(本当に頑張ったのだ)が、飲みきれなかった。そこでズルをして、粉末をアーモンドミルクと混ぜることにした(乳製品は飲まないからだ)。これで味は格段によくなった。
ヒュールのメインの味はベリー、ヴァニラ、コーヒーの3種類だが、これに加えて味を変えられるフレーヴァーパウダーが多数ある(パイナップル、ストロベリー、チョコレートなど)。ただ、どれもあまりおいしそうには思えなかったので、ブルーベリーなどのベリー系をひとつかみミキサーに入れてみた。これで、かなり味がよくなることがわかった。
第2の試練:飽き
元の味のハードルを乗り越えたところで、新たな問題にぶち当たった。味に飽きてきたのだ。
数週間ほど定期的に飲み続けたあとで、わたしの口はソイレントやヒュールを受け付けなくなっていた。しかし、そんな状態になったのはわたしだけではなかった。食事代替飲料をテーマにした掲示板には、同様の悩みを訴えている人があちこちに存在する。
これは特にヒュールに言えることだった。ソイレントと違ってミルクシェイク味には思えず、むしろ冷たい液状のポリッジ[編註:オートミールのおかゆ]を飲んでいるような味なのだ。
わたしは挑戦を諦めるかわりに、戦略を変えた。
まずはソイレントを朝食として飲み、11時頃にコーヒー。続いて昼食として高タンパク低カロリーの普通の食事か、スプーン2杯のヒュールをアーモンドミルクに混ぜたものを摂取する。午後4時ころには、体にいいスナック(あるいはソイレントをボトル半分)をとる。最後は、軽くて高タンパク質な夕食を食べて(ときにはもう2杯のヒュールで)一日を終えた。
味のヴァリエーションを豊富にしたこの戦略は、長期的アプローチとしては有効だった。また、1日のカロリー摂取量に細心の注意を払うことで(ボトルの本数とスプーン何杯かをきちんと数えるだけだが)、空腹にもならず体形も保つことができた。もちろん、週3回のジム通いで自分をケアしたことも功を奏している。
だがこうした生活は、少なくとも栄養学的には理に適っていたのだろうか?
「完全栄養食」は本当に完全か?
ソイレントの場合、ボトルタイプには植物ベースのタンパク質20gと26種類のヴィタミンやミネラルが含まれており、「必要な栄養素をすべて摂取できる」と最高経営責任者(CEO)のブライアン・クローリーは述べている。一方、ヒュールは26種類のヴィタミンやミネラルが含まれた「超便利な完全栄養食」だとハーンは言う。
どちらの製品にもオート麦由来の炭水化物が含まれている。オート麦は一般的に、血糖にプラスの影響を与えるとされている。
言い換えれば、どちらの製品も減量を目指す人向けではない。自分が食べているものを正確に把握したい人や、忙しすぎて座って食事をする時間もないような人をターゲットにしているということだ。
それでもソイレントの購入者の多くは、この製品を減量のために使用しているとクローリーは言う。「食事の心配をしなくていいので、摂取カロリーが低くなる」からだそうだ。
だが、こうした食事代替品メーカーと結びつきのない栄養士や栄養学者は、慎重な態度を示している。ロンドンを拠点に活動する栄養専門家フィオナ・ローソンは、自分の食物摂取を抑制したいなら、本物の食品から手づくりしたスムージーを飲むのがいちばんだと話す。
「必要な栄養素はすべて加工食品の飲料から摂取できると主張することは、まさに思い上がりでしかありません。そもそも自然食品にどんなヴィタミンやミネラル、植物栄養素が含まれているのか完全に解明されていないというのに、それを再現することなどできるでしょうか?」とローソンは語る。
ちなみに、ヒュールとソイレントを比較した場合、「ヒュールのほうが、含まれている加工原料がわずかに少ないようです」と彼女は言った。
「栄養を推奨摂取量をとれば十分」とは限らない
いくつかの研究から、低カロリーな食生活を目的としてつくられた特定の食事代替飲料は、短期間の減量には有効であることがわかっている。だが、英国栄養・生活医学協会(British Association for Nutrition and Lifestyle Medicine)のコミュニケーション・ディレクターを務めるダニエル・オショネシーは、この種のフォーミュラ食に頼ることは正しい方法ではないと警告する。やめられなくなるからだ。
グラスゴーを拠点に活動する専門栄養士のアラーナ・マクドナルドも同意見だ。ボトルから食事をとるよりも、食事のパターンをもう一度組み直し、適切な量の食物、さまざまな食品をとり入れたバランスのとれた食事、規則正しい食事を組み込むことのほうが重要だと彼女は主張する。そうしなければ、すぐさま体重は急増するだろう。
オショネシーはソイレントとヒュールの原料について、どちらの製品もヴィタミンとミネラルの1日あたりの推奨摂取量(RDA)を100パーセント含有しているものの、これらは不活性合成型になる可能性があるとしている。
さらに、RDAが必ずしも十分な摂取量だとは限らない。
「RDA値は、はるか昔に設定されたもので、状況は変わっています。現在は、多くのマルチヴィタミン剤には100パーセント以上のヴィタミンが含有されています。こうしたフォーミュラ食は『もうひと口だけ栄養分を補給する必要があるがその時間がない』という人のためのものです。例えば、ひっきりなしに会議に出席している会社員などですね」とオショネシーは言う。
完全栄養食は、長期間向けではない
彼は、ヒュールもソイレントも推奨せず、ほかの食事代替製品も非難した。「『スリムファースト(SlimFast)』はよくありません。砂糖とマルトデキストリンが含まれていて、血糖の急上昇を誘発する可能性があります。ヴィタミンとミネラルの値も無意味です。これで減量したいと思ったら、相当な空腹になるでしょう。『Yokebe』は少しスリムファーストに似ています。少しマシではありますが、おすすめしません。マルトデキストリンで増強された、ただの炭水化物です」
英国栄養財団(British Nutrition Foundation)の栄養科学者ステイシー・ロッキャーは、食事代替製品は長期間利用するものではないと指摘する。「医師の指導を受けながら、期間限定で利用すべきです」
だが、食事代替飲料が栄養学的に完璧であれば、脂肪や砂糖や塩分が大量に含まれているスナックよりはマシだろうと、ロッキャーは付け加えた。ただし、「ときどきであれば」という条件つきだ。
さて、今回の体験をまとめよう。ソイレントもヒュールもかなり気に入ったが、どちらも長期間向けではないことがわかった。
次のように語る栄養専門家のローソンに、わたしも同意見だ。「こうした製品のボトルを開けるのは簡単に思えますが、お皿を出して、調理済みのサケの切り身、冷えたサツマイモ、サラダ菜を何枚か並べるのも同じくらい手早くできます。そっちのほうが、はるかに体にいいのです」
TEXT BY KATIA MOSKVITCH
TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO