旧Twitterに似たソーシャルメディアのアプリ「Bluesky」は、過去1年にわたって招待制を導入することで登録を慎重に制限してきた。そのBlueskyが誰でも参加できるように門戸を開放したのは、今年2月に入ってからのことである。
この決断はBlueskyにとって成功と失敗の分岐点になることだろう。音声SNSの「Clubhouse」を思い出してほしい。このソーシャルメディアのスタートアップは招待を得ることが困難だった時期には大いに注目されたが、誰でも参加できるようになるやいなや人気が急落してしまった。
Blueskyは「Pebble」や「Parler」のようなその他の新しいマイクロブログのプラットフォームよりも好調で、これまで安定して話題になり続けている。一般公開からわずか2日で120万人もの新規登録数を記録したほどだ。
しかし、Blueskyが分散型技術に基づく設計によって一部のヘビーユーザーを獲得できたとしても、今後の持続可能性は大衆への訴求力にかかっている。「Mastodon」のように同じく分散型のプラットフォームは、この課題をクリアできていない。
こうしたなか、Blueskyが全ユーザーに対して門戸を開放した翌日、同社の最高経営責任者(CEO)のジェイ・グレイバーにインタビューした。彼女は疲れていながらも興奮を抑えきれない様子であり、連合型ネットワークの構造をもつプラットフォームが、テクノロジー自体には関心がなく単に楽しみたいだけのユーザーを引きつけられることを証明することに注力しているようだった。
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──Blueskyは一般公開という瞬間に向けて、どのような準備をしてこられたのでしょうか。
特定のユーザーを排除するために招待制にしていたわけではありません。招待制の間はBlueskyの成長を管理しながら、この新種の分散型ネットワークの基盤や枠組みとして機能するものを構築していました。
例えば、Blueskyを支えるプロトコル「AT Protocol」を構築しなければなりませんでした。これはさまざまな開発者や企業、個人が体験をカスタマイズできるプロトコルで、その一部が近い時期に公開されます。
例えば、フィードを思い浮かべてください。Blueskyに参加すると、標準設定ではフォローしているアカウントのフィードと、アルゴリズムがすすめるフィードが表示されます。
一方で、25,000以上のカスタムフィードから、好きなフィードを選ぶこともできます。なかには“苔フィード”というフィードもあります。これは苔や緑のものの写真が表示され、とても気分が落ち着くうえに楽しいフィードです。
──Blueskyは文化的にほかのプラットフォームとどのように異なると思いますか。
Blueskyは遊び心に富んでおり、混沌としています。特にこの1年間は、見るだけの人に比べて投稿する人が非常に多かったです。ほとんどのソーシャルアプリでは、人々はコンテンツをただ見ているだけです。ここBlueskyでは、多数の人が積極的に投稿・交流しています。
──ですが、楽しい投稿ばかりというわけにはいきませんよね。モデレーションについてはどのようなビジョンをおもちですか。
コミュニティガイドラインを設け、ハラスメントやヘイトスピーチを防止しています。標準設定のBlueskyアプリ上で健全かつ居心地のいい社交空間を提供すべく、モデレーションしています。
また、オープンプロトコルなので、ユーザーが自前のインフラを構築し、コンテンツやアカウントへのラベリングや注釈を施すことも可能です。プロトコルを直接インストールすれば、独自のコミュニティ規約を構築することもできます。
──モデレーションは、非常に収益性の高いソーシャルネットワークを含むほぼすべてのソーシャルネットワークの弱点であることが実証されています。効率的なモデレーションができなくなる段階が来ると思いますか。
わたしたちの目標は、基本的なサービスを提供できるモデレーションを実行しながら、イノベーションを起こしたい人が自由に参入・構築できるオープンなエコシステムを並行してもつことです。これは特に情報の流れが速く、専門知識が必要な場合において有効だと考えています。
実際にファクトチェックのほか、政治家の認証済みアカウントが本物かどうか判断することを業務としている組織がすでに存在しています。そうした組織がネットワーク上で注釈や情報を付加することで、集合知を構築できると考えています。
──最近のXでは、テイラー・スウィフトのディープフェイクポルノが拡散していたにもかかわらず、プラットフォーム側の対応が遅れるという重大な事件がありました。ディープフェイクへの対処法を教えてください。
Blueskyでは当初から画像ラベリングサービスなどの人工知能(AI)検出サービスを利用しています。しかし、AIの技術革新は頻繁に起きているので、さまざまな選択肢を探っています。
サードパーティのラベリングシステムの活用にも大いに期待したいところです。ファンの協力を得られれば、ディープフェイクなどのコンテンツをより早期に特定できると考えています。
──ソーシャルネットワークが分散化され、ひとつの中央サーバーではなく独立したサーバーの集合体で構成される場合、一般ユーザーにとってのフェデレーション(連合構造)の利点は何でしょうか。
フェデレーションの目的は、開発者に構築の自由を、ユーザーに選択肢を与えることです。自分のデータを管理できるということは、ユーザーに常にほかの選択肢があり、わたしたちのプラットフォームに縛られる必要がないということです。例えば、まったく異なるアプリや体験を試したい場合に、類似するソーシャルネットワークへの移行も可能です。
──もし誰かがあなたのプロトコルを使って、テイラー・スウィフトのディープフェイクポルノのコミュニティを構築した場合、これを止めることはできますか。
オープンなウェブのモデルでは誰でもインターネット上に自分のサイトを公開できますが、インデックス化されるとは限りません。わたしたちもまた、コンテンツの露出とインデックスの作成に責任をもつ立場にあります。有害性が高いコンテンツについては検索結果から除外したり、リンクしなかったりすることで表示されないようにしています。
──Blueskyのビジネスモデルについて教えてください。
価値のあるところにお金は集まると考えています。ソーシャルプラットフォームが収益化できるかどうか疑問視する声はあります。そもそもビジネスモデルとして理解できていない人も多いでしょう。わたしたちはまず、このエコシステムの価値と有用性をユーザーや開発者に証明し、オープンイノベーションの時代を切り開きたいと考えています。
そこから、自分たちの価値観に従いながら収益化していくつもりです。初期のTwitterは非常にオープンで、誰でもそのプラットフォーム上にサービスを構築できました。しかし、ある時点で閉鎖的な方針に切り替わってしまったのです。Twitterはプラットフォームとしての性質が強くなり、プロトコルとしての性質は失われてしまいました。
わたしたちの基本方針は、プラットフォームではなくプロトコルに立ち返ることです。わたしたちのプロトコルには、開放性を恒久的に保証する仕組みを組み込んでいます。これを取り消すことはできません。このアプローチが成功すれば、エコシステムを通じて資金と価値が流通する余地が十分にあると信じています。収益モデルは今年中に検討していきます。
──もう少し具体的に教えてください。
現在、カスタムドメインの販売を開始したところです。これはオープンウェブのアプローチに基づくもので、標準のユーザー名に加えて、独自のウェブサイトを運営している場合はそれをユーザー名として使用できるようにしています。
例えば、「jaygraber.com」をわたしのユーザー名にすることが可能なわけです。これを自前で設定することはユーザーには難しいでしょうから、Blueskyを通じて購入できるようにドメイン登録事業者(レジストラ)のNamecheapと提携し、販売を開始しました。
──広告についてはまったく検討していないのですか。
無料という選択肢を常に提供する方針で、ネットワークを広告まみれにすることは避けたいと考えています。そこでフェデレーションのメリットが生かせます。誰もが自前のサーバーでホスティングしたりソフトウェアを構築したりすることが可能なので、ユーザーが流出するようなかたちでユーザーエクスペリエンスを低下させることはありません。
──ちなみに、(Blueskyを立ち上げたTwitter共同創業者の)ジャック・ドーシーは現在どの程度関与していますか。
ジャックは取締役会のメンバーとして運営に加わっています。彼はソーシャルの未来はオープンで分散型であるべきだと信じています。さまざまなプロジェクトがそれぞれのビジョンを追求できるよう、ポートフォリオを構築するというスタンスだと思います。Blueskyは、彼が注目する分散型ソーシャルメディアのひとつです。
──5年後のBlueskyの理想的な姿を教えてください。
ソーシャルウェブをプロトコルとプラットフォーム指向に導きたいと考えています。分散化といっても技術志向でなくていいので、よりよいエクスペリエンスを提供する基盤を構築したいのです。ソーシャルプラットフォームが再びイノベーションの実験場となり、このエコシステム上で構築されたサービスを楽しんでもらいたい。人々のためのソーシャルメディアを人々によってつくり上げたいと考えています。
ソーシャルメディアについて現時点では否定的な意見も多いですが、わたしは楽観しています。
(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)
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