ハリケーン「ヘリーン」が、アメリカ南東部を9月26日から縦断した。激しい嵐によりノースカロライナ州西部の一部は壊滅的な被害を受け、いまだに400カ所以上の道路閉鎖が続いている。ある政府関係者は、「たどり着けない場所がまだあります」と地元紙に語った。被害地域から届いた写真には、道路が完全に流されてしまった様子や、水没したままの状況が写っている。
はるか内陸に位置するこの地域は、(天気の影響を受けにくいために)不動産業者たちが長年「気候ヘイブン」として宣伝してきた場所だ。ここでこれほどの洪水が今回発生したことは、いまやどこにいても気候変動による壊滅的な影響を受ける可能性があるということだ。ノースカロライナ州の一部では2週間前、3日間で75cmを超える量の雨が降った。この暴風雨と洪水により、全国で少なくとも200人が死亡し、ノースカロライナ州の山間部では100人以上が行方不明となっている。
ノースカロライナ州やそのほかの(被災)地域の復興で重要なのは、物資を必要とする場所に入れること。そして平常心を取り戻すことであり、そのために道路の再建が求められる。一般的に、州は独自の道路を建設・維持する責任を負っているが、ここ数年は気候変動対策に取り組む州が増えている。
「増加傾向にある(異常)気象現象に直面し、運輸関連のすべての部局で、より強靭なインフラ(の構築)を検討している」とケビン・マーシャは言う。マーシャは、元バーモント州の運輸当局者で、現在は全米組織である米国全州道路交通運輸行政官協会(American Association of State Highway and Transportation Officials)でエンジニアリング部長を務めている。
ノースカロライナ州の災害対応の初期には、連邦政府機関が「エアブリッジ」(緊急の航空輸送ルート)だけでなく、ラバまで使って住民に重要な食料や物資を届けた。陸軍工兵隊はこの地域に専門家を派遣し、瓦礫の撤去、水管理、道路や橋の点検などを支援した。洪水から資産を守ることにおいては間違いなく全米のリーダー的存在のフロリダ州は、インフラ損傷評価チームと仮設橋の資材を提供したという。
通常政府関係者は、損壊した道路を応急処置して、道路交通の復旧をめざす。緊急処置としては、どのような車両でも安全に通行できるように車線規制をするのだ。例えば技術者は、道路の下に設置された1.2メートルの排水管が流された場合、手もとにある既製品で交換することがある。これは短期的措置だ。ゆくゆくは深い場所に6メートルほどのものを設置し直す必要があることを承知の上で、行なうのだという。
過去データだけでは予測不能
気候変動に備えたインフラの長期的な対策は、データから始まる。インフラ設計の基準として長年使われてきたのが、過去に発生した洪水のデータだとワシントン大学の土木環境工学教授で、交通インフラを研究しているスティーブ・ミュンヒは言う。50年に一度の暴風雨は50年ごとの発生が予想され、百年に一度の嵐は毎世紀ごとにさらに激しさを増して発生することが予想される。
しかし現在、エンジニアたちは、さらに激しい気象パターンが見られるために、過去の記録に基づいてインフラ設計をするだけでは不十分であることに気づき始めている。あらゆるプロジェクトにおいて、交通技術者は「過去の記録を使った設計手順から、より優れた気候予測に基づいた設計手順に移行する方法」を見つけ出す必要がある、とミュンヒは指摘する。
こうした道路プロジェクトは、一般的にコストは高くなる。しかし、すべての公務員ではないが、より多くの公務員は、激化する天候に対して道路を硬化させることが、長期的には費用を節約することになることに気づいている。
とはいえ一般的に、解決策はそれほど難しいものではないとミュンヒは語る。背の高いインフラ設備を築けばいいのだ。しかし、すべての災害に耐えられるような道路や橋を建設することはできない。なぜなら実行しようとなると費用がかさみ、過剰な建設プロジェクトになってしまい、「完成までに何世代もかかってしまう」からだ。
「スポンジのような」道路
エンジニアたちは、道路をゼロから再建する際、今後大量の水が瞬時に襲いかかる可能性を考慮して、さまざまな材料を使うようになった。過去10年間で、道路建設業者はより透水性の高い「スポンジのような」道路を設置することが多くなった。
透水性コンクリートは通常のコンクリートとは異なり、典型的な「砂利、砂、セメント、水」の配合から砂を除いたものである。また、水セメント比が低いため、乾燥する前に濃いペースト状になる。「キャラメル・ポップコーンやライスクリスピー・バーのようなものです」と、ワシントン大学タコマ校の土木工学プログラムで助教授としてこの材料の研究をしているナラ・アルメイダは言う。
通常のコンクリート道路では、水が溜まり、停滞した水が最終的に道路の各層、特に車の重い荷重を支える重要な下層を損傷する。しかし、透水性コンクリートは多孔性が高いため、水が材料内を流れやすく、地面に到達して吸収される。湿気の多い道路にとっては理想的な特性だ。
透水性コンクリートにも欠点はある。通常のコンクリートよりも弱いのだ。そのため大型トラックの通行が多い、州と州を結ぶ高速道路よりも、歩道や駐車場、交通量の少ない道路に適している。(素材を強化するために、鋼鉄・天然繊維・ガラス繊維・合成繊維を加える研究が進行中だ)。
透水性コンクリートは多孔質であるために、寒冷気候には適しておらず、水が浸み込んで凍結し、内部の素材が劣化する可能性がある。また、コンクリートは定期的に高圧洗浄や掃除機をかける必要がある。道路によく落ちている埃や葉などの物体を「除去」しなければならないからだ。
州によっては、新素材を使用するために、業者や作業工程の変更を迫られる場合があるため、プロジェクトのコストが高くなる可能性もある。とはいえ一部の地域では、高速道路の路肩に新素材を敷いているところもある、とアルメイダは言う。その場合はタイヤの衝撃を頻繁に受ける可能性はかなり低いという。
しかし結局のところ、技術用語で「洗掘」と呼ばれる、大量の水が道路や橋の土台を急速に横切って流れ落ちる現象が起きると、対処できることはあまりない。「誰しも裏庭で水とホースで遊んだことがあると思いますが、(洗掘は)非常に大きな被害をもたらします」と工学部教授のミュンヒは言う。
気候変動への耐性を高めるための方法のひとつとしては、事前にきちんと計画を立てて、応急処置用の資材を近くに置いておくことだ。そうすれば、迅速にコミュニティーを再建できるだろう。
(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』による気候変動の関連記事はこちら。ハリケーンの関連記事はこちら。
雑誌『WIRED』日本版 VOL.54
「The Regenerative City」
今後、都市への人口集中はますます進み、2050年には、世界人口の約70%が都市で暮らしていると予想されている。「都市の未来」を考えることは、つまり「わたしたちの暮らしの未来」を考えることと同義なのだ。だからこそ、都市が直面する課題──気候変動に伴う災害の激甚化や文化の喪失、貧困や格差──に「いまこそ」向き合う必要がある。そして、課題に立ち向かうために重要なのが、自然本来の生成力を生かして都市を再生する「リジェネラティブ」 の視点だと『WIRED』日本版は考える。「100年に一度」とも称される大規模再開発が進む東京で、次代の「リジェネラティブ・シティ」の姿を描き出す、総力特集! 詳細はこちら。