ネットフリックスの共同創業者で、同社で25年にわたって最高経営責任者(CEO)を務めてきたリード・ヘイスティングスが、CEOの座から退くことを1月19日(米国時間)に発表した。最初にビデオレンタルを淘汰し、徐々にケーブルテレビを衰退させたネットフリックスのひとつの時代が終わることになる。
この終わりは、おそらく長い時間をかけてやってきたものだ。かつてNetflixはストリーミング分野で独走していたが、23年初めにはDisney+やHBO Maxなどの配信サービスや、TikTokやYouTubeなどの動画プラットフォームがひしめく混沌とした状況に直面している。
「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や「ウェンズデー」などの傑出したオリジナルヒット作で称賛されるNetflixのオリジナルコンテンツは一見すると無限にも思えるが、近年は質より量を重視しているとの批判もある。競争の激化とコンテンツの低迷が重なり、22年は激動の年となり、同社の成長は鈍化した。
それでもヘイスティングスの退任は、Netflixが加入者と株価を急速に失っていた1年前と比べれば、まだましな状態であることを示しているのかもしれない。Netflixは22年11月、広告を表示すれば月額6.99ドル(日本では790円) で利用できるサービスをいち早く開発し、方針転換を図ったのだ。これにより、Netflixのベーシックプラン(月額9.99ドル、日本では990円)より安く視聴できることになる。
ヘイスティングスの退任後は、すでにヘイスティングスと共同CEOを務めていたテッド・サランドスに加えて、最高製品責任者で最高執行責任者(COO)のグレッグ・ピーターズが共同CEOに就任する。彼らはNetflixが“新たなバージョン”に移行するプロセスを監督することになるのだ。
DVDの郵送レンタルが「Netflix 1.0」、そしてストリーミング配信が「Netflix 2.0」だとしよう。広告を活用した新しいNetflixは、途切れることのないストリーミングという現象を破壊する「Netflix 3.0」になるかもしれない。
「これはNetflixにとって、非常に大きな変革です」と、Omdiaでテレビやビデオ、広告を担当するアナリストのトニー・グンナーソンは語る。「広告配信は一度始めたら、サイドビジネスにすることはできません。ほかのモデルを補完するような存在にとどまるはずがないのです。瞬く間に物事を支配する存在になります」
今後は会員増より収益重視に?
ヘイスティングスは以前も、Netflixに広告を配信するというアイデアを何度も却下している。米国のHuluは以前から広告つきのストリーミングサービスを提供しており、22年12月にはDisney+も広告つきオプションの提供を開始した(ディズニーはHuluの筆頭株主でもある)。19年の時点では、米国のHuluの視聴者の70%が広告つきプランを選んでいる。
それにTikTokやYouTubeのファンは、すでに大量のCMに慣れている。数年の空白期間を経て、広告主はパーソナライズされたエンターテインメント分野に再び参入し、そこにとどまっているようだ。
Netflixの広告つきサービスは、北米、欧州、アジア、南米にまたがる十数か国で提供されている。ネットフリックスは19日に公開した株主向けの書簡で、これまで広告なしの契約から広告つきの契約に切り替えた顧客はほとんどおらず、代わりに低価格で提供する新しいサービスが「会員の増加」につながったと説明している。22年は予想以上の成長で終えたが、有料のアカウント共有オプションの使用を促すことで、ほかの世帯のユーザーを有料で追加できるようにしてパスワードの共有を減らす計画だ。
「いまやNetflixは、より成熟したビジネスになっています」と、Omdiaでメディアとエンターテインメントを担当するアナリストのサラ・ヘンシェルは語る。「Netflixは加入者の増加よりも、収益の増加に重点を置き始めています。加入者を減らしても最終的に収益を上げるという、トレードオフにならざるを得ないかもしれません」
ヘイスティングスは公開書簡において、自身は会長にとどまると説明している。これは創業者が経営権を譲る場合によく見られる動きだ。ヘイスティングスは過去何年にもわたって後継者の計画が議論され、それが20年にCEOの役割を分担することにつながったとも説明している。
ネットフリックスは22年初頭におきた問題の数々の余波が収まり、より安定して新しい季節を迎えることになるだろう。そんな時期に、ヘイスティングスは退任することになる。
(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)
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