ソニー「MDR-M1」は、何時間でも快適に使える新世代スタジオヘッドフォン:製品レビュー

ソニー「MDR-M1」(日本未発売)は、スタジオの定番「MDR-7506」から進化した密閉型モニターヘッドフォンだ。スタジオ品質の音響性能と快適な装着感、そして高い遮音性により、あらゆる環境での音楽制作を可能にしてくれる。
ソニー「MDRM1」レビュー:何時間でも快適に使える新世代スタジオヘッドフォン
Photograph: Terrence O'Brien

ソニーのオリジナルである「MDR-7506」は、有線スタジオヘッドフォンの中でトップレベルと言っても過言ではない。シンプルな黒いイヤーカップに青いステッカーが貼られたデザインのこのヘッドフォンは、比較的ニュートラルな音質をもち、耐久性にも優れ、しかも驚くべき価格の100ドル(日本では19,800円)で手に入る。そのため、世界中のスタジオで数十年にわたり定番として愛用され続けているのは納得できる。わたしも約8年間、同じMDR-7506を愛用してきた。数年前にイヤーパッドを交換した以外は、いまも何の問題もなく動作している。

とはいえMDR-7506は、プレミアムなスタジオモニターではなく、コストパフォーマンスを重視した選択肢である。ほとんどの状況では十分な性能を発揮するが、より高価なモデルにはしばしば劣る。しかし、新たに登場した「MDR-M1」は250ドル(日本未発売。導入予定なし)で、ソニーが高価格帯市場を狙ってつくった製品だ。

MDR-M1は完全なプロ仕様のスタジオヘッドフォンであるが、MDR-7506で長年愛されてきた要素を多く取り入れている。ミュージシャン、オーディオプロフェッショナル、そして音楽をいま以上に楽しみたい人々にとって、この新しいモデルは、手ごろな価格のモデルの良さをさらに向上させたものとなっている。

Photograph: Terrence O'Brien

本格的なスタジオヘッドフォン

周波数応答チャートを見ても、MDR-M1とMDR-7506の違いはすぐにはわからない。両モデルとも低音に若干のブーストが施され、4kHz付近の中音域にディップがみられる。オリジナルモデルの温かみのある明るい音質に慣れたリスナーには、M1はその音質をさらにクリアにした印象を与えるかもしれない。

しかし、最大の違いは、MDR-M1がMDR-7506より広範囲に音域をカバーしている点だ。特に低音と高音の再生において、MDR-M1はMDR-7506よりも一段と充実感を感じさせる。MDR-7506の周波数応答は10Hzから20kHzだが、MDR-M1は5Hzから80kHzまで対応し、人間の聴覚を超える音域までカバーしている。この拡張された音域の効果で、両端の音質が向上している。低音はポートによってコントロールされ、こもりやぼやけをうまく防いでいる。MDR-M1では、低音域の楽器のトランジェントもよりシャープに感じられ、高音域も明るすぎることなく、クリアで自然なサウンドを実現している。MDR-7506に対して「高音が明るすぎる」という意見もあるが、MDR-M1ではそのような不満も解消されている。

MDR-M1は、ノイズアイソレーション(遮音性)も非常に優れている。MDR-7506も十分に性能が高いと思ったが、MDR-M1はその次元がまるで違う。わたしの屋根裏スタジオは夏や初秋になるとかなり暑く、扇風機を窓に設置して汗をかかないようにしている。しかし、ミキシングに集中しているとき、MDR-7506では扇風機の音がわずかに聞こえてきて、よく扇風機をオフにしなければならなかった。だが、MDR-M1ではそのような問題は一切なかった。大きなイヤーカップと優れたシールによって、ほとんどの低レベルの環境音が完全に遮断され、集中力を妨げられることがなかった。

Photograph: Terrence O'Brien

未来を先取りする音

わたしがこれまで使ったヘッドフォンの中で、M1は最も快適なものだと思う。耳全体を覆う大きなイヤーカップは、特に大きなアップグレードだ。わたしは、夏の真っ最中に4時間連続で着けても、汗をかくことなく快適に使うことができた。

さらに、MDR-M1は非常に軽量で、長時間使っても疲れにくい。7506は230g(8.1オンス)で十分軽かったが、MDR-M1は216g(7.6オンス)で、数字上はわずかな違いだが、実際に頭に装着するとその軽さがはっきりと感じられる。M1は明らかに軽く、耳への圧迫も少なく、しっかりと耳を密封している。

MDR-M1のもうひとつの注目点はケーブルだ。取り外し可能なケーブルを採用しているため、修理の心配が減るだけでなく、リスニングのスタイルにも柔軟性が生まれる。付属のケーブルは2種類あり、デスクでのミキシングには1.2mの直線ケーブル、ライブ録音には2.5mのケーブルが使える。

MDR-M1は、オリジナルモデルをあらゆる面で改良した価値ある進化型だ。この価格帯でほかのスタジオモニターヘッドフォンと十分に渡り合えるクオリティをもっている。音質は素晴らしく、長時間使っても頭が重くならない。わたしはこのヘッドフォンを購入するつもりだが、これ以上におすすめする理由はあるだろうか。

もしすでにクラシックなスタジオモデルをもっているなら、壊れるまでアップグレードしない理由はないかもしれない。ただし、ホームスタジオを拡張したい人や、よりいいヘッドフォンを探している人には、間違いなく検討する価値がある一品だ。

Photograph: Terrence O'Brien

◎「WIRED」な点
ニュートラルな周波数応答。クリアで詳細な音質。何時間でも快適に装着できる。優れたパッシブノイズアイソレーション。2種類の取り外し可能なケーブル。

△「TIRED」な点
ほかの優れた製品に比べて高価。

(Originally published on wired.com, translated by Miranda Remington, edited by Mamiko Nakano)

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