トランプの勝利がビッグテックにとって意味すること

ビッグテックに対するドナルド・トランプのアプローチは、ある者に対しては規制の強化を求め、別の相手には放任の姿勢を保つなど、常に揺れ動いてきた。2期目のトランプ政権が大手テック企業に対し、どのような政策をとる可能性があるのか探った。
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2017年6月19日、元米大統領のドナルド・トランプが、ワシントンDCにて、米国テクノロジー評議会のメンバーを迎えた。出席者は(左から)アップルCEOのティム・クック、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス。Photograph: Chip Somodevilla/Getty Images

11月6日、大手テック企業の経営者たちは次期大統領となることを決めたドナルド・トランプを祝福した。アルファベットのスンダー・ピチャイ、メタのマーク・ザッカーバーグアップルティム・クックアマゾンのアンディ・ジャシー、マイクロソフトのサティア・ナデラらは、いずれもトランプと論戦を交わした過去をもつ。だが、各社はこの影響力のある気まぐれな政治家とまた4年間付き合うことになるため、経営トップらは取り急ぎ恭順の意を示した。

トランプは長い間、大手テック企業を見下げてきた。そして大手テックの経費負担を増やす政策を進め、テック企業が嫌がる規制を課すと明言してきた。選挙前、産業界のリーダーとベンチャー・キャピタリストたちは、何をするかわからない政権はビジネスの安定を阻害すると懸念を口にしていた。

ただ、トランプは特定のテック企業の成長を邪魔するような政策からは手を引くとも表明してきた。テック企業のM&Aに関しては、次期大統領が干渉しないアプローチをとるかもしれないと見るアナリストもいる。

そして、イーロン・マスクがトランプの最大の後援者になったいまは、「ビッグテック企業の中での選り好みが始まる瞬間かもしれません」と、アスペン研究所のアスペン政策アカデミーのディレクター、ベッツィ・クーパーは語る。

トランプのテック政策に対する考えは多岐にわたり、しかもコロコロ変わってきたが、1期目の政策と選挙戦の間の発言から、第2次トランプ政権からビッグテックは何を予期すべきか推しはかることができる。

関税と貿易

テック業界が最も関心を寄せるトランプの政策提言のひとつが、輸入関税だ。テック企業にも消費者支出にも、計り知れない影響が及ぶ可能性がある。去年、トランプはすべての輸入品に10%の関税をかけるという考えを仄めかし、その後、中国からの輸入品に追加の60%、メキシコからの輸入品に最大100%の関税を課すと提案した。

これはアップルの経営見通しに暗い影を投げた。アップルのハードウエアの95%以上が中国で製造され、組み立てられているからだ。さらに、アップルが頼りにする小売店とネット販売会社も中国製品と部品に大きく依存している。投票日前日、全米小売業協会はもし提案通りに関税が引き上げられ、米企業がその分を小売価格に転嫁すれば、米国の人々の購買力は年額780億ドル相当目減りする可能性があるという予測を発表した。

ただ、エクイティリサーチ会社バーンスタインは選挙の翌日、高い関税の衝撃を吸収する力があるアップルは当初予想されたほど脆弱ではないかもしれないと、強気の見積もりを発表した。加えて、アップルはベトナムなど中国以外の地域で生産を行うなど、サプライチェーンの多様化を図ってきた。

アスペン政策アカデミーのクーパーは、新型コロナの拡大によってサプライチェーンが乱れたとき、製造業各社は生産プロセスをいかに補強するかを考えた経験ある、と指摘。関税引き上げの局面でも、この経験が生きるはずだと語る。

政治リスクを測る会社ユーラシア・グループの創設者であるイアン・ブレマーは、トランプの噛みつきは吠え声ほど怖くないと言う。トランプは関税の引き上げ率をまず高く提案して、交渉の過程で下げるだろうとブレマーは予想する。なぜなら、中国からの輸入品に突如高い関税をかければ、ハードウエア製造企業は単にサプライチェーンを別の国に移すだけだからだ。それがまさに第1次トランプ政権初期に起きたことだったとブレマーは指摘する。

そして、アナリストやエコノミストたちは一様に、報復的関税は相手以上に米国のビジネスに大きな打撃を与えると指摘する。

この路線に沿ってトランプは、バイデン時代に民主・共和両党が賛同して成立させたある法律を激しく批判してきた。アジアの半導体に対する米国の依存を減らし、半導体の国内生産を促すために500億ドルの財政支出を決めた法律だ。

10月末、3時間近くにおよんだポッドキャスト「The Joe Rogan Experience 」に出演したトランプは、半導体産業強化支援策として2022年に成立した「the CHIPS and Science Act」(通称・CHIPS法)はそれでなくても資金豊富な企業にさらに資金を流す「悪い」法律だと語った。そうではなく、海外からの輸入品に米国が高い関税をかけておけば、外国企業が米国国内に投資して半導体工場をつくるのを促していただろうとトランプは語っていた。

とりわけ強く批判したのが、米国の半導体メーカーNVIDIAの重要なパートナーであるTSMCのある台湾だ。「彼らは米国のビジネスを盗んだ」とトランプは非難した。(『The New York Times』が指摘する通り、米国は信じられないほど、あらゆる種類の半導体を台湾に頼っている。世界の半導体のうち、米国で製造されるのはわずか10%ほどだ)。

「トランプが米国の製造業を強化しようとするのと、CHIPS法に反対するのは、矛盾する行為です。どっちに進むのか、未だはっきりしません」。クーパーは言った。

AI

人工知能(AI)に関して第2次トランプ政権が優先するのは、より強く、能力の高いAIアルゴリズムの開発競争で米国が先頭に立つのを確実にすることだ。とりわけ、主たる地政学的ライバルである中国に遅れをとってはならないと考えている。

前のトランプ政権は、商用テックの革新を阻害すると思われる規制を取り除こうとした。大規模言語モデル(LLM)とハイパースケールなAIの訓練が主流となっている現在、トランプは米国がリードを保てるよう、大規模AIプロジェクトへの連邦政府のリソース提供を検討するかもしれない。その戦略には、ライバルの足を引っ張る作戦もおそらく含まれる。

第1次トランプ政権は中国のAI企業が米企業とビジネスして、最先端AIをつくるのに必要な半導体を手に入れるのを制限することを目的とした制約を課した。バイデンはこの制約を強化した。第2次トランプ政権は、中国AIの成長を阻む努力をするかもしれない。とりわけ、より広範な貿易戦争が始まれば。

AIの未来に関してトランプが発した明確な声明のひとつは、バイデン大統領がそのテクノロジーに関して発した大統領令を廃止することだ。

人工知能に関するバイデンの大統領令は昨年、危険なほどの速度で加速するように見えるテクノロジーにガードレールをつける目的で出されたものだ。大統領令は、危険を孕むAIの使い方を制限し、アルゴリズムの偏見を排除し、最も強力なモデルに対する連邦政府の精査を強化する手立てを講じた。

だが、トランプはこれを廃止すると宣言し、昨年12月に開かれたアイオワ州での集会で、「(大統領に就任した)その日に」この大統領令を破棄し、「米国市民の表現を検閲するようなAIの使い方を禁止する」と発言した。

実際には、バイデンの大統領令の義務事項はすでに実行されており、いまさら廃止したところで、ほとんど意味はない。だが、トランプ政権が大統領令によって形になったものの一部を破壊することは可能で、そうなればAIが幅広く使われるなかで、危うい結果がもたらされる恐れがあると専門家たちは警告する。

全国的な大統領令が一部機能しなくなったとき、その空白を埋めるのは各州政府かもしれない。AIの安全性を専門とする研究グループであるCenter for AI Policy(資金源は明らかにされていない)は選挙翌日、「新年、連邦政府による監督が減少するとしたら、AI規制のために州レベル、あるいは世界的な行動が加速する」ことを予測する文書を出した。さらに、「皮肉なことに、連邦政府の規制が長期間不在になるとしたら、遵法はなおさら世界的AI企業の責務になっていくかもしれません」とも。

イーロン・マスクのAIライバルたちも悩ましいだろう。トランプの後援者となった億万長者のマスクは、自ら共同設立した後に離脱したOpenAIをしばしば批判してきた。グーグルとOpenAIは過剰に「Woke(意識高い系)」で「政治的に正しい」アルゴリズムを開発していると指摘してきたのだ。マスクはもちろん自身のAI企業であるxAIでAI競争に勝ちたいという願望がある。そこに、トランプがもちうる多大な影響力を考え合わせると、OpenAIとグーグルは格好の標的になる可能性がある。政府関係の有利な契約を取れなくなる恐れも十分にある。

SNSと子どもの安全

現在、プロバイダ免責を定めた通信品位法230条によって、ユーザーが投稿したり共有したコンテンツに関してプラットフォームの責任は問われないことになっている。この法律により、クリエイターや視聴者、ユーザーの保護者がビッグテックの設計やコンテンツ選択のまずさによって害を受けたと司法に訴えても、YouTubeFacebookSnapchatなどのサービスは場合によっては何十億ドルにもなるかもしれない賠償をせずに済んできた。

1期目の終わりにトランプ大統領は、テック企業を賠償請求から守っているこの法律を議会が廃止しなければ、国防費の大幅増額を盛り込んだ国防権限法に対して拒否権を発動すると脅した。当時のツイートにトランプは、230条が「国家の安全保障と選挙の高潔さに対する脅威である」と書き、「これを放置すれば、わたしたちの国は決して安心・安全ではいられない」と追記した。

これは単なる脅しではなかった。トランプは国防権限法を拒否した下院へのメッセージにこう書いた。「この法案は230条に意味ある変更をもたらそうとさえしていない」。しかし、上下両院は超党派の多数決でトランプの拒否権を覆し、国防権限法を成立させた。もし第2次トランプ政権で共和党が下院を支配するなら、民主党の反対を抑えてトランプの望み通り230条を廃棄するのを助けるかもしれない。そうなれば、水門が開くように訴訟が起こされることになるだろう。

テック・プラットフォームにおける子どもの安全も政治課題になる可能性があると語るのは、Center for Humane Technologyの上級政策マネージャー、カミール・カールトンだ。メタを始めとするテック企業(デートアプリ大手のMatch Groupも含む)は、年齢確認やオンラインの安全策に責任をもつべきは、世界最大のアプリストアを運営するアップルとグーグルだとロビー活動を行ってきた。

「民主党が強い州は概してプラットフォームが責任をもつべきだと考え、プラットフォームが機能する方法を変えることを主張してきました」。カールトンは言う。「しかし、共和党が強い地域では、親の管理に力点が置かれてきました。ですから、オンラインの安全性に関しては、これまでとは違ったアプローチを目にすることになるでしょう」

一方でカールトンはこうも言う。子どもの安全は党派を超えた関心事で、「最初から、子どもが守られるかたちでプラットフォームが設計されることが望まれています。これには、幅広いコンセンサスがあります」

TikTok

TikTokにとってトランプは、米国で禁止されないかもしれないという微かな希望の象徴だ。下院はすでにTikTokを禁止する決意を固めており、裁判所もそれを止めるつもりはなさそうだ。ところが、トランプはTikTokを禁止しないと明言する珍しい政治家だ。選挙の翌朝、保守系のメガ・インフルエンサーのチャーリー・カークは自身のライブ配信でフォロワーに向かって、トランプ選出はTikTokが禁止されないことを意味するという趣旨の発言をした。

実際には、ことはそれほど明白ではない。TikTokは米国国内で禁止か米企業に議決権株式を売却しなければならないとする法案は超党派で可決され、大統領の署名も得て成立した。これを廃止するとなると、正反対の決定をするようトランプは下院の共和党議員数百人を説得しなければならず、非常に難しい。だが、共和党議員がトランプにすり寄る現状を考えると、まったく想像できないわけでもない。

思い起こして欲しいのは、この法律にはTikTokにとって禁止以外の選択肢が用意されていることだ。米国での経営権を米企業に売却して、米国の外で生きるのを受け入れること。共和党にとってこれはウィン・ウィンのシナリオとなる。トランプは公約を守り、下院は法律を守ることができる。その場合、唯一の敗者となって激しく反発するのは、TikTokの中国の親会社バイトダンスだ。

暗号資産

今年の選挙戦中、ドナルド・トランプは「クリプト大統領」を自称し、暗号資産信者にアピールすべくたくさんの約束をした。

かつてトランプはビットコインが「詐欺」だとして一蹴した。だが今年7月、テネシー州ナッシュビルでの会合で、トランプは暗号資産を賛美した。さまざまな公約をするなかで、ふたたび大統領に選ばれたら屈指のビットコイン採掘の中心地として米国の地位を固めると誓い、ビットコインの連邦準備を作り、ビットコイン諮問委員会を設立すると約束した。

この夜、最も大きな歓声が上がったのは、トランプが米国証券取引委員会(SEC)のゲイリー・ゲンスラー委員長を解任すると公約した時だった。バイデン政権下のSECは、暗号資産ビジネスを相手取った訴えを連発した。

これとは別に、トランプは闇サイト「シルクロード」を創設したロス・ウルブリヒトに対する量刑を変更するとも約束した。ウルブリヒトは現在、終身刑に服している。ドラッグなどの密売品を売り買いできたシルクロードは、支払いにビットコインを使えるようにしたオンラインサービスの先駆けだった。ビットコインを信奉する人々は、ウルブリヒトの量刑は重すぎると感じており、長らく釈放を求めてきた。

独占禁止法

トランプ政権がビッグテックとどのような関係を築くつもりかの早期指標のひとつとなるのが、連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長の処遇だろう。

32歳という史上最年少でFTC委員長に就任し、現在35歳のカーンの存在は選挙戦の争点のひとつだった。民主党支持者にとって、彼女の独占禁止法(反トラスト法)の執行と企業へのアプローチは悩ましいものだった。グーグル、メタ、アマゾン、マイクロソフトはいずれも、彼女の指揮下でFTCから法的追及を受けている。うまく対処できた会社もあれば、そうでない会社もある。

「リナ・カーンは……米国を助けない人物です」。LinkedInの共同設立者であり民主党に資金援助を行うリード・ホフマンは7月、CNNに語っていた。トランプの後援者であるイーロン・マスクも10月末、Xへの投稿で嫌悪を示した。「彼女はまもなく解任されるだろう」

金融サービス会社Wedbushのアナリスト、ダン・アイブスは、カーンを評して「テック業界にとっての悪夢」だと言う。そして、アナリストたちの間には、カーンが去ればビッグテックの取引は活性化するとの確信があると付け加えた。「マスクがトランプに影響を及ぼすことを考えると、カーンの退場はさらに早まるかもしれません」

ただ、トランプはグーグルを「もっと公平」にするために「何か」しなければならないと曖昧に言ったことがある。次期副大統領のJ.D.ヴァンスは、もっとはっきりとカーンが「いい仕事をしている」と褒めた。

ヴァンスは、「ビッグテックによる保守の検閲」と彼が呼ぶ問題を解決するには、解体が答えだと考えているようだ。「フェイスブックやグーグルのような会社が米国市民を検閲していると、人々がそれぞれの政治的プロセスの中で語ることが難しくなる。それが大きな問題なのです」。次期副大統領は9月、2006年のグーグルによるYouTube買収を例に取りながら、こう語っていた。「独占禁止法的解決策があって然るべきだと考えます」

トランプ新政権が、ビッグテックに対する独占禁止法の適用を止めるとは考えにくいと文書で表明したのは、アダム・コバチェビッチだ。左派のテック業界団体であるChamber of ProgressのCEOを務める彼は、ビッグテックへの追及のいくつかが、前のトランプ政権で始まったとも指摘する。「ただ、トランプはこうした法的措置をビッグテックとの取引材料として使うでしょう。言論やコンテンツの問題で好意的扱いを引き出すために」

カーンが次期政権で職務を続けるかどうかはわからない。選挙の翌日、カーンのチームは取材に応じなかった。ただ、元FTC委員長のウィリアム・コバチッチは、新政権発足から数週間を超えてカーンが続投する可能性は「ゼロに近い」と語った。

※ジョエル・ハリリ、モーガン・メイカー、ゼイ・ヤンがこの記事の取材に協力した。

(Originally published on wired.com, translated by Akiko Kusaoi, edited by Mamiko Nakano)

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