人間なしの建築。マシンランドスケープが地球に拡がるとき

ようこそ、マシンランドスケープの時代へ! データセンター、無人港、物流倉庫……。これから地球に拡がるのは人間のための建築ではない。プロセッサーとハードディスクドライヴ、物流ロボットと移動式の棚、自律型クレーンとコンテナ船。これらの機械が〈わたしたちの領土〉を覆い尽くすとき、地球は人間中心の時代から「ポスト・アントロポセン(人新世)」に突入する。(雑誌『WIRED』日本版VOL.33より転載)
人間なしの建築。マシンランドスケープが地球に拡がるとき

アマゾンの倉庫は、世界規模で展開されるマシンランドスケー プの代表例のひとつ。2012年に物流センター向け自律運搬ロ ボットメーカー「Kiva Systems」を買収したアマゾンは、倉庫の 自動化を進めてきた。日本国内でも神奈川県川崎市に続き、大 阪府茨木市の物流拠点に「アマゾン ロボティクス」なる施設を オープン。ロボット商品棚は秒速1.7mで動き、最大約567kgの 商品を載せられるという。PHOTOGRAPH BY BEN ROBERTS

米国ネヴァダ州ラスヴェガスで人々にカクテルを振る舞うバーテンダーは、人間ではない。Makr Shakrと呼ばれる世界初のロボットバーテンダーだ。約60種類のカクテルを、およそ30秒に1杯のペースで提供可能だ。価格は1杯12ドルから16ドル。MIT Senseable City Labのディレクター、カルロ・ラッティが率いるCarlo Ratti Associatiがデザインを手がけた。PHOTOGRAPH BY SPENCER LOWELL

オートメーション化が急速に進むロボット工場は、人間なき建築のシンボルだ。ファナックが提供する産業用ロボット「FANUC Robot M-3iA/6S」は大型ゲンコツロボットとも呼ばれ、その巨大なアームによりコンベアに流れる複数の品物をまとめ、高速整列や搬送を可能にする。人間を凌駕するその手さばきに、惚れ惚れしてしまうこと間違いなし。PHOTOGRAPH BY SPENCER LOWELL

人間が立ち入れなくなってしまった土地も、マシンランドスケープになり得る。福島第一原発では、廃炉のための過酷な作業をロボットが肩代わりしている。東芝が開発したのは、サソリ型の調査ロボット。2017年2月に福島第一原発2号機に投入されたが、圧力容器の手前で走行不能に陥り、回収は断念された。それに続くのが、小型水中ロボット「ミニマンボウ」だ。同じく3号機の核燃料デブリの様子を映像で確認するために開発された。PHOTOGRAPH BY SPENCER LOWELL

オレゴン州プラインヴィルには、およそ24億人のための施設がある。フェイスブックのデータセンターだ。敷地内にはデータサーヴァーを格納する建物が5棟あり、2020年半ばまでにあと2棟を建設予定だという。そこにある典型的なサーヴァーキャビネットは年間24,000kW/hの電力を消費し、キャビネット1台で平均的な家庭の4倍の量にあたる。データセンターは膨大な電力エネルギーを消費するため、フェイスブックはプラインヴィル近郊での太陽光発電プロジェクトに出資している。PHOTOGRAPH BY LIAM YOUNG

LiDARやドローンで撮影した映画作品を通じて機械がわたしたちの文明の中心に躍り出る時代を描いてきたスペキュラティヴアーキテクト、リアム・ヤング。彼は新たに「マシンランドスケープ」なる概念を打ち立てようとしている。

リアム・ヤング :いま世界で最も重要な建築は、人間のためのものではありません。それは、機械のためのものです。わたしが提唱したマシンランドスケープとは、非人間である機械のためにデザインされた空間や領土、建築物、そして都市のことを指します。

わたしはスペキュラティヴアーキテクトと名乗り、ドキュメンタリーとフィクションの中間地点で映画を製作してきました。これからの建築家は、オブジェクトとして建物をつくるのではなく、空間の性質の変化についての物語を伝えるべきだと考えているからです。

マシンランドスケープが地球に拡がりつつあるのは、マシンの価格が下がり、とてもパワフルなものに進化してきたからで す。過去10年間にわたって、わたしたちはあらゆるデヴァイスに情報を集めるための“感覚”を埋め込んできました。

スマートフォンや都市のセキュリティカメラは、美しくエレガントなセンサーのひとつです。自律走行車であれば、道路上の車の位置を特定し、衛星ネットワークに接続し、LiDARで3次元空間を計算し、そのデータを処理し、運転している場所を特定するアルゴリズムが備わっています。

わたしは「ランドスケープ」という言葉を意図的に使います。マシンシティやマシンスペースではなくランドスケープなのは、この現象を新しい自然条件として伝えていきたいからです。

人間が地球に与える影響を地質学的に定義する「アントロポセン(人新世)」という言葉がありますが、そろそろ人間中心デザインの時代に終わりを告げるべきでしょう。

わたしたちはあらゆる物事を人間中心で考えてきました。人間中心を言い訳に、自然を破壊し、動物の生息地を奪い、世界を都市化してきました。それは顧客中心デザインとも言い換えられますし、わたしたちの欲望を取り巻く環境のデザインでした。

わたしが提案したいのは、ポスト・アントロポセンの時代区分です。ポストヒューマンやアントロポセンといった言葉は人間が中心の考え方ですが、もはやマシンランドスケープは人間のことをまったく気にかけませんし、認識もしません。むしろ、人間を置き去りにしていきます。わたしが扱いたいのは、人間中心の後の世界なので「ポスト・アントロポセン」という言葉を用いています。それは、「わたしたちは何者なのか?」の再想像を迫る概念です。

その未来において、人間は複雑なネットワークのなかに存在する一種に過ぎませんし、シロナガスクジラ、樹木、地衣類、菌類といったノンヒューマンと並列のポジションに位置づけられます。LiDAR、ハードドライヴ、自律走行車、森林、そして大気が中心となるデザインが存在してもいいと思っています。

リアム・ヤングが英国の建築学校AAスクールで主宰する「Unknown Fields」は、世界の果てまで足を運ぶ旅のプログラムだ。各ツアーにより料金は異なるが、参加者は1,000ポンド から2,000ポンドを支払うことでツアーに参加可能。その旅は、現代の都市が抱える欲望の裏側にある惑星規模の複雑化したネットワークと、そこに立ち現れるわたしたちの日常生活とのつながりを可視化する野心的な試みだ。2011年の 「Snowing in the Supercomputer」ではアラスカの北部へ向かい、気候科学者とデータを収集。それをスーパーコンピューターで解析し、新たな風景を生成する試みを行なった。2013年の「A World Adrift」は、東・南シナ海のサプライチェーンを巡る旅だった。Apple Storeをスタート地点とし、そこに電子機器を届けるための港や製造工場をまわり、最終的にはハー ドドライヴに使われるレアアースを採掘する内モンゴルの包頭市に行き着く。それは、地球全体に拡がるマシンランドスケープの関係性を解き明かす行為にほかならない。PHOTOGRAPHS BY LIAM YOUNG / UNKNOWN FIELDS

マシンランドスケープの象徴的な建物といえば「データセンター」です。わたしたちが足を運ぶことはほぼないですが、スマートフォンを開くとき、Facebookをチェックするとき、メールを送るたびに、わたしたちはデータセンターに接続しています。事実上、ほぼ毎分データセンターに住んでいるようなものです。

わたしたちの集合的な歴史が格納されているデータセンターは、もはや新しい文化的建造物とも言えるでしょう。それらはかつての大聖堂や図書館のようなもので、わたしたち世代の象徴になります。田舎のどこにあるか明かされない建物ですが(笑)。

昨年、日本でフィールドワークを行ない、福島第一原発や石 黒浩教授の研究室、初音ミクを開発するクリプトン・フュー チャー・メディア社を訪ねました。福島第一原発の周辺では、人々が避難し、いまや住めなくなってしまった土地で汚染物の除 去のためにロボットが活動しています。

初音ミクに感じたのは 人工物に知性がある状態を受け入れる文化が日本に存在することでした。神道やアニミズムでは、無機物にも魂が宿ると考えますよね。日本はマシンランドスケープの最前線にいる国だと感じました。

ただ、マシンランドスケープはある特定の国にのみ存在するわけではありません。あなたがAmazonでモノを購入したとき、マシンランドスケープはあなたのラップトップからどこまでも拡がっています。

自律走行の大型トラック、駐車場、航空交通管制、アルゴリズムによって自動化された空港の駐機場からアマゾンの物流倉庫へとつながっているわけです。惑星規模に相互接続されたネットワークが、その本質なんです。

TEXT BY by KOTARO OKADA