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最終回 オンライン化できない、おもしろさ
滑川
文体の変化によって、
「わからない人がいなくなる」という話は、
さきほどの「ライブ感」みたいなもの、
つまり、その現場に行かなければ
わからないものがあるというお話にも
つながってきそうですよね。
糸井
ええ。
滑川
でも、それが「オンライン」に
乗ってしまった瞬間、
グーグルやアマゾンの領域になってしまう。

そういう意味で、
オンラインに乗らないものって
どんなものがあるかと考えると‥‥。
山中
ひとつには、はじめから
「クローズド」に
なっているような領域ですよね。

われわれのところでも、
クローズドにしてしまったら、
お金を払って
見にきてくれるんじゃないかという意見が
出ては消え、出ては消え‥‥。
糸井
そうですか。
山中
たしかに、
1000人や2000人とかの規模でなら
やれないことはないんだろうけど、
かえって影響力もない、評価もされない、
儲かりそうもない‥‥という理由で
だいたい「ダメ」が出ちゃうんですよね。


糸井
むかしから、
「30人くらいしか、よろこばない」という
情報や商品があったはずなんです。
それを出してる側も
「30人ぶんしか、つくれない」
というようなものが。

実際、うまくいったらどこまでも儲かるぞ、
という資本主義の増殖装置に
入れることのできないものが
ほとんどだと思うんですよ。
滑川
うん、うん。
糸井
デビュー前の「ゆず」って
その典型だったわけじゃないですか。

彼らの音楽がうまくいくって思った人が
増殖装置に入れただけのことで。

これから僕は「ほぼ日」で
そういうことを
どんどんやろうと思ってるんですよ。

たとえば、
「すみません、200個しかつくれません」
というような商品をね。
山中
おもしろそうですね。
糸井
なんかね、経済の増殖装置に
ぜんぶを組み込んでしまうような時代ですから、
そういうものがあるというだけでも
おもしろいなと思って。

‥‥で、人間の豊かさの大部分って
そういうもののなかにこそ、あるんじゃないか。
滑川
オンライン化できない、おもしろさですね。
糸井
いま、地方都市に行くと、
どんどん、画一化されたチェーン店や
大量生産品が
進出してきているじゃないですか。

そのあたりを
もういちどシャッフルしたいなと思うんですよ。
東京にいると、
いまいち実感がわかないですけれど‥‥。
滑川
僕は銚子に住んでるんですけど、
スーパーマーケットが3軒くらいあるんです。

そこでたいていのものは
間にあうんですが、
逆に、そこで手に入らない材料は
もうこの周辺では絶対手に入らないんです。
どんな料理をつくるのでも
結局は、
そのスーパーにあるものの
範囲でしかできない。
糸井
だから、銚子に住んでいるんだったら
「水揚げしたばっかりの
 新鮮な魚を分けてもらう」なんていうことも
できるわけですよね。

そういう部分って、やっぱり
「オンライン化できないおもしろさ」なんです。


滑川
たしかに、銚子のスーパーには
ほかの地域では
あまり見かけないような魚も
売ってたりしますからね。
糸井
インターネット全盛の時代だからこそ、
そういう「独自性」みたいなものに
人は、よろこんでくれるんじゃないかなぁ。
滑川
僕も、最後はやっぱり、
「モノ」かなって、思いますね。

どうやったて
「モノ」ばっかりは
オンラインに乗っからないわけですから。
山中
そうですね。
滑川
「セカンドライフ」のなかに
いくら「魚」の情報があったとしても‥‥
はやい話が、
刺身にも塩焼きにも、ならないわけですし(笑)。
糸井
‥‥『ソーシャル・ウェブ入門』が
すっきりと読める理由って、
そのあたりにあると思うんですよ。

つまり‥‥滑川さんの、その「具体性」。
山中
あたらしい「道具」が
おもしろくてたまらない、というところが
すごく出ていますよね。
糸井
「2.0」まわりの話には、
これでだれが得するのか、という部分が
どうしても見えちゃうんですけど、
この『ソーシャル・ウェブ入門』には、
妙に、それが「ない」。

タイトルに「入門」とありますが、
「入門して、遊ぼう!」としか
読めないんですよね(笑)。


山中
こうすると儲かるぞ、
なんて書いてないわけですね。
滑川
やっぱり
「道具としてのおもしろさ」っていうのが、
いちばん根っこのところにあります。

自分でおもしろがったものを、
おもしろがったなりに
これはオススメですよっていうような
ノリかもしれないですね(笑)。
山中
すごくわかります、それ。
糸井
おもしろい道具のおかげで
こんな便利な世のなかになりました、
でも、やっぱり、
じっさいに人が動いてこそ、
人間の豊かさや、おもしろさがあるんだって。
山中
そんなこと、ほんとうはみんな、
実生活の場面で
わかってるんでしょうけどね。
糸井
「タグ」や「ソーシャル」という概念が
インターネットに大変革を起こそうとしている。

だけど、さっきの広告の話にしろ、
ライブの話にしろ、口語文体にしろ‥‥
やっぱり、ふだんの暮らしの「具体性」のなかに、
可能性があるんじゃないかという気がしますね。
滑川
やっぱり僕らは、
刺身や塩焼きが食べたいわけで(笑)。
山中
ええ、ええ(笑)。
糸井
今日は、どうもありがとうございました。
滑川
こちらこそ。
山中
ありがとうございました。
 
  <終わります>
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2007-09-05-WED