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中小機構に聞く、中小企業は災害に負けず事業を続け地域経済を守るために事業継続力強化計画認定を

近年、地震や豪雨などの自然災害が激甚化し、中小企業も事業継続力の強化が求められている。国は大規模災害や感染症が発生した際に中小企業が従業員の命や企業の資産を守り、事業を停止させないための計画(名称:事業継続力強化計画=通称「ジギョケイ」)を認定する制度を創設した。独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)は企業に専門家を派遣して、計画策定の支援を無料で行っている。認定を受ければ、金利の低減や税制優遇、国や自治体の補助金を受けやすくなるなど企業側のメリットは非常に大きい。地域経済を災害から守るため、地方の事業者のジギョケイ申請を支援する中小機構の長谷川貴則 災害対策支援部長と喜安英伸 中小企業アドバイザー(経営支援)に話を伺った。

【話者紹介】
長谷川さん近影 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
災害対策支援部長
長谷川 貴則 氏
喜安さん近影 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
中小企業アドバイザー
喜安 英伸 氏

メリットだらけの認定制度

――ジギョケイとは何ですか?制度の成り立ちについて教えてください。

長谷川部長:ジギョケイは、各事業者が災害に備え、社員の命の安全を第一に考え、企業の資産や情報を守るための事前の取り組みなどをまとめた計画のことです。近年、日本を襲う自然災害が甚大になり、その頻度も増えています。地域やサプライチェーン(供給網)が被害を受けると、地域や国を超えて世界的に様々な経済がストップしてしまうかもしれません。こうした背景から、中小企業が作成したジギョケイを国が認定する制度が創設されました。中小機構はジギョケイの普及活動に従事しており、他地域の事業者同士が協業・連携して災害から会社を守ることや、サイバーセキュリティー対策などにも力を入れています。

――ジギョケイの認定を受けることで中小企業が享受できるメリットは何ですか?

長谷川部長:まず、ジギョケイを作成するメリットとして、自然災害やサイバー攻撃を受けた際の事前対策を適切に行うことにより、早期の事業復旧が可能になることがあります。また、ジギョケイの認定を受けるメリットは主に五つあります。一つ目はロゴマークの活用です。認定ロゴマークを名刺やホームページに掲載することで、顧客や取引先に防災対策を講じていることをアピールできます。
二つ目は低利融資制度の活用です。認定取得により、設備投資に必要な資金について、日本政策金融公庫の低利融資を活用することができるようになります。(融資のご利用にあたっては、別途日本政策金融公庫の審査が必要となります。)三つ目は税制優遇です。認定を取得すると、防災・減災の対象設備を取得して事業に使った場合、特別償却が適用できます。四つ目は補助金審査の際の加点です。ものづくり補助金やIT導入補助金、事業承継引継ぎ補助金などの審査で加点措置を受けることができるようになります。最後は損害保険会社の支援です。損害保険会社は認定取得事業者に一部商品において保険料の割引を行うなどの後押しをしています。

申し込みは「手ぶらで温泉」感覚で

―――ジギョケイの普及は進んでいますか?

長谷川部長:2019(令和元)年に始まったジギョケイは現在、累計約7万社が認定されています。ジギョケイには1社単独で策定する単独型と複数社で参画する連携型があり、単独型の認定計画数は6万7千件を超え、連携型は千社を超えようとしています。連携型の平均参加社数は5社程度です。

だいぶ増えてきたのですが、全国に中小企業は約368万社あり、普及率はまだまだです。能登地震が起きてから災害を自分事としてとらえる方も増えてきて、セミナーには多くの方に来ていただいていますが、BCP(事業継続計画)やジギョケイを作るまでには結びついていません。多忙だったり、専門的知識がないといけないのではないかと考えたりする方が多く、あと一歩が踏み出せていないのではないでしょうか。

能登地震で被災したある事業者は、原材料の在庫は無事であったものの生産設備が壊れてしまったケースがありました。その事業者は事前にジギョケイを策定していたため、県内の連携相手が代替して生産することができ、原材料を廃棄せずに済みました。BCPの簡易版とも言えるジギョケイは、中小機構のアドバイザーが2度オンラインミーティングを行い、無料で計画策定を支援します。最初の問い合わせから平均3か月半で認定に至り簡単に終わりますので、是非申し込んでいただきたいと思います。

―――申し込みの条件はありますか?

喜安アドバイザー:中小企業基本法で定められている中小企業であればどの会社でも申し込めます。連携型で申し込む場合、中小企業を幹事としてもらえれば社会福祉法人や大企業も参加可能で、一緒に被災して連携できなくなるのを防ぐために遠隔地の企業とのマッチングもやっています。ジギョケイ策定のハードルは高くありません。手ぶらで温泉に来てもらうような感覚で是非申し込んでください。

―――問い合わせや申し込みの方法は?

喜安アドバイザー:ジギョケイのホームページ( https://kyoujinnka.smrj.go.jp/ )にある問い合わせフォームから申し込みができます。経済産業省の地域別経済産業局や中小機構の全国10か所にある地域本部・事務所に連絡をいただいても構いません。無料のオンラインセミナーを定期的に開催していますので、ジギョケイの知識習得にお役立てください。

パネルディスカッションの様子
▲過去に開催したシンポジウムの様子

地域創生、信頼、安心安全、採用-大きな経営メリット

――都市部と比べて地域の企業がジギョケイ認定を受けるべき理由を教えてください。

長谷川部長:災害のダメージは地方の方が相対的に大きいと考えられます。都市部ではヒト・モノ・カネの調達がしやすいですが、地方は調達可能性が相対的に低く、生活再建すらままならない状況に陥ることがあります。地域創生のためにも、過疎化地域の企業こそジギョケイを活用していただきたい。セミナーでは各地域の災害リスクに合わせた形で説明しています。地方の中小企業は地域経済を支えていますので、ジギョケイ認定を是非受けていただきたいと思います。これまで、認定を受けた企業は既に約7万社に達しており、連携型の方が事業継続の効果が大きいと考えていますので、今後は連携型の普及により力を入れていきたいと思っています。

――最後にもう一度、中小企業がジギョケイ認定を受けるメリットを教えてください。

喜安アドバイザー:防災だけではなく、経営上のメリットが大きい制度です。社内のコミュニケーションが活性化しますし、顧客からの信用も拡大できます。従業員の安心安全を考えながら、経営価値をどうやって高めるかを考えてもらうことにつながります。

長谷川部長:被災時の復旧が早くなることや税制面などでのメリットに加え、自分の会社の価値を見直すことにもつながります。最近のアンケートでは、地方の若い人が勤務先を決める際に「災害対策をしている会社」を気にしているという声がありました。ジギョケイ認定を受けていることが応募のモチベーションになることも考えられ、採用面のメリットもあると言えます。被災すれば地域や国の経済に与える影響も非常に大きく、活動停止期間が短くなれば影響拡大を食い止められます。企業の活力を阻害しないようジギョケイ認定で経済をつないでいただきたいと願っています。

CASE STUDY
従業員の命と会社の信用を守るために

  • 鳥取県琴浦町/機械器具小売業

    日本海に面する鳥取県琴浦町では人口減少で民間バスが廃業となり、自動車なしには生活が成り立たない状況に陥っている一方、自動車整備工場の廃業も続いていた。零細業者単独では顧客のすべてのニーズに応えるのは難しく、人手不足や過剰労働が懸念された。そこで、地元の整備業者5社が提携し、定休日を分散するとともに、どの車種でもメンテナンスできる態勢を構築。中小機構のあっせんで、連携型のジギョケイ認定を受けることとなった。

    洪水と雪害のリスクをハザードマップで確認して、どういった基準で対応するか事前に策定し、お客様第一に災害時の連携を考えることができた。中心となった「赤碕ダイハツ」の上田啓悟代表取締役はこう振り返る。「『費用は一切発生しない』と聞き『だったらやるべきだ』という話になった。今まで考えることもなかった津波のリスクも知ることができた」。上田さんは「近くの企業と協力関係があれば、ぜひ連携型ジギョケイの策定を検討するべきだ」と呼び掛けている。

    写真4枚
    ▲鳥取県琴浦町の風景

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  • 熊本県天草市/食料品製造業

    熊本県天草市の食品製造業「食の天草 にじ」の本田晴美代表はジギョケイ策定で「初めて土砂災害のリスクに気づかされた。台風のことしか考えていなかった」と語る。農作物を原料としたOEM製造も引き受けており「迷惑がかかるので作業を止めるわけにはいかない。事業継続の取り組みを整備することで顧客からの信頼獲得につながる」。

    策定後は、従業員の命を守り、製品の損失を最小限に食い止めるため、避難訓練を定期的に行うようになった。天草市商工会の舟川慧吾・経営指導員は「これまで事業の備えをしている会社は一つもなかったが、ジギョケイを策定したことで経営者としてどう動いていくのかを念頭に置いてもらえるようになった」と取り組みを高く評価している。

    陳列写真
    ▲食の天草 にじで販売している加工品

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  • 愛知県刈谷市/建設業

    愛知県刈谷市の建設会社「アウテック松坂」は埼玉県草加市の「髙中板金工業」と連携型ジギョケイを策定した。

    地元で大震災が起きたら、事業継続が難しくなり、地域復興の足を引っ張ってしまうとの危機感がきっかけだった。遠隔地の同業者と連携することで、被災時に資材を融通し合うなどして、危機を乗り越えられると考え、交流のあった髙中板金工業に連携を呼びかけた。アウテック松坂の穂谷あかね・代表取締役は「連携後は関係がより密になった。できるだけ多くの方にジギョケイを知ってもらいたく、経営者仲間に紹介している。忙しい方が多いだろうから、策定は中小機構の力を借りてぜひ取り組んでほしい」と話す。

    建屋
    ▲アウテック松坂

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  • 香川県まんのう町/運送業

    香川県まんのう町の物流・倉庫業「エフエーエス」の内浪達也社長は「浸水時に預かった荷物に水が及ばない対策を取ることができ、災害に備えた倉庫の活用法をお客様に提案できるようになった。お客様から『そういった観点を持つ協力会社がいることが誇り』という言葉をいただき、社員にも防災意識の高まりがみられるようになった」と胸を張る。

    ジギョケイ認定により金利優遇を受けることができ、設備投資を拡大。災害対策をさらに進められるようになったという。

    倉庫内写真
    ▲災害時には自社倉庫を避難場所として 地域に開放

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