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日耳鼻
125―525
パネルディスカッション⑴
クリニックで活きる言語聴覚士
司会のことば
土井 勝美
近畿大学 医学部 耳鼻咽喉科
福與 和正
フクヨ耳鼻咽喉科医院
耳鼻咽喉科診療、特に耳鼻咽喉科診療所の未来像を考えた際に、従来の耳鼻咽喉科診療に加えて、聴覚・平衡障害、
摂食・嚥下障害、音声・言語障害、そして発達・認知障害に対する機能検査やリハビリテーション等、より特化した耳
鼻咽喉科診療を提供できるよう、これらの付加医療の提供に従事する言語聴覚士、臨床検査技師、理学・作業療法士と
の協働が重要になる。一方で、耳鼻咽喉科診療所の先生方がこれらのメディカルスタッフを雇用することには現在も多
くの課題が残されている。
日本耳鼻咽喉科学会(以下、日耳鼻)では、耳鼻咽喉科診療に従事する医師を対象として、2015年度から「言語聴覚
士雇用の実態調査」をこれまで3回実施してきた。実態調査からは、言語聴覚士との協働により 1)診療所の収益は増
加するのか、2)職務内容の拡大に伴い診療所の医療の質は向上するのか、3)摂食・嚥下障害や発達・認知障害への参
画で診療所と地域医療との連携は深まるのか、診療所の地域医療への貢献は高まるのか、4)言語聴覚士の卒後教育、
生涯教育は可能なのか等が、耳鼻咽喉科医師と言語聴覚士との協働を今後円滑に進める際の課題であることが明らかに
なった。
また、2020年度に日耳鼻内に新設された耳鼻咽喉科リハビリテーションワーキンググループが2021年度に実施した
「耳鼻咽喉科頭頸部外科領域のリハビリテーション」に関する実態調査からは、1)大学病院、基幹病院においても耳鼻
咽喉科リハビリテーションの実施率は必ずしも高くないこと、2)さまざまな職種のメディカルスタッフの中でも、言
語聴覚士との協働が最も重要であること、3)リハビリテーションの標準化をさらに進める必要があること、4)適切な
リハビリテーション料の算定を求めていくこと等が、現行のリハビリテーション診療の課題であることがあらためて明
確になった。
本パネルデイスカッションでは、一般診療に加え、言語聴覚士を実際に雇用して聴覚・平衡障害、咀嚼・嚥下障害、
音声・言語障害、そして発達・認知障害に対するリハビリテーション等のより特化した耳鼻咽喉科診療を実践されてい
る4名の耳鼻咽喉科診療所の先生(杉内智子先生、福島邦博先生、斎藤 幹先生、加藤健吾先生)をパネリストとして
お招きし、各先生方の診療所の現状と将来構想についてご紹介いただいた上で、上記のさまざまな課題についても十分
に議論を深めていただく予定である。
地域医療との連携をさらに強化しながら、超高齢化社会における音声・言語障害、摂食・嚥下障害、発達・認知障
害、聴覚・平衡障害等に対するさまざまなリハビリテーション医学や予防医学にも積極的に参入を図り、医療の質を向
上させながら社会全体に大きな還元を行うことは、耳鼻咽喉科診療所の使命の一つであると考える。本パネルデイスカ
ッションの開催は、未来型耳鼻咽喉科診療所のモデル化事業、耳鼻咽喉科医師と言語聴覚士との協働、耳鼻咽喉科診療
所における言語聴覚士の雇用促進等について、会員の先生方にお考えいただく良い機会になるのではと期待している。
125―526
2022
クリニックで活きる言語聴覚士
聴覚障害
杉内 智子
杉内医院、昭和大学病院 耳鼻咽喉科
言語聴覚士法が1997年に制定され、第1回国家試験が1999年に実施されてから約25年が経過しようとしている。聴
覚・言語・音声・嚥下など表在化しにくい障害への理解も進み、これらを扱う専門職として言語聴覚士の社会的要請が
高まっている。卒後から私共がお世話になってきた大学では、耳鼻咽喉科の難聴・言語外来にはいつも音響・補聴や療
育・教育の専門家がご一緒であった。国家資格化以降、今では毎年約1,
500人の言語聴覚士が誕生し、現在累計で
36,
255人に達している1)。日本言語聴覚士協会の調査によると、聴覚障害領域に携わる会員は2,
033人と先述の4障害中
もっとも少ない。これは聴覚分野への志望が少ないのではなく、希望していても医療系はもとより、教育系にも就職先
がないため自ずと他分野に進路変更せざるをえない状況があるのではとも伺っている。
一方、日本耳鼻咽喉科渉外委員会の耳鼻咽喉科診療所医師を対象とする「ST 雇用の実態調査2019」の集計結果2)か
らは、雇用している言語聴覚士の職務は聴覚障害関連が多く、保険請求が生じる職務も同様であり、もし雇用するとし
たらどの領域の言語聴覚士を優先的に雇用したいかについても聴覚障害が多いことが示唆されている。ここではクリニ
ックにおける言語聴覚士の聴覚障害領域での活動について考えてみたい。
言語聴覚士が携わる聴覚領域の臨床業務は検査から療育・聴覚リハビリテーションにまで至り、その範囲は広く項目
は多岐にわたる。医療施設における主たる業務内容と保険点数を示す。
1. 聴覚検査関連
1) 自覚的聴力検査
標準純音聴力検査、自記オージオメーターによる聴力検査、標準語音聴力検査、ことばのききとり検査(350
点)、内耳機能検査、耳鳴検査(400点)
、など
2) 他覚的聴力検査または行動観察による聴力検査
、耳小骨筋反射検査(450点)、遊戯聴力検査(450点)、耳音響放射検査(イ SOAE:
チンパノメトリー(340点)
100点、ロそのほか:300点)、など
3) 脳誘発電位検査:聴性脳幹反応検査(850点)
、聴性定常反応(1,
010点)
、など
2. 補聴器適合
1) 補聴器適合検査[施設基準あり]
:1回目(1,
300点)
、2回目以降(700点)
2) 高度難聴指導管理料[施設基準あり]
:ロ(イの人工内耳埋込術以外)
(420点)
3. 人工内耳調整
、人工内耳機器調整加算(800点)
高度難聴指導管理料(イ:500点、ロ:420点)
4. 評価
発達および知能検査(新版 K 式発達検査、WPPSI、WISC―IV など)、言語検査(L―C スケール、PVT―R 絵画語
い発達検査など)
、認知機能検査そのほかの心理検査(M―CHAT、MMSE など)
5. 聴覚障害に関連した言語・コミュニケーション指導
脳血管疾患等リハビリテーション料(1単位につきⅠ―245点、Ⅱ―200点、Ⅲ―100点)など
聴覚検査は耳鼻咽喉科の日常診療で最も多く行われる検査の一つである。難聴・耳疾患はもちろん、言語発達や眩暈
などの診断にも欠かせない。そしてこの検査結果に基づいて治療がなされ、言語発達・コミュニケーションが評価され
て、補聴器適用あるいは人工内耳医療などが検討される。クリニックでは看護師、臨床検査技師、そして言語聴覚士が
行うことになるが、診断に直結するこれらの検査には真の値が検出されることが求められる。希望する業務が療育分野
であっても、この検査を経験することによって人の反応や音などへの感覚が磨かれ、聴覚障害への理解が深まると思わ
れる。
一方、補聴器や人工聴覚機器などのテクノロジーの目覚ましい進歩は聴覚障害をとりまく様相に大きな変化をもたら
日耳鼻
125―527
している。また新生児聴覚スクリーニング後の乳児期極早期からの支援、認知症も視野とした高齢者への補聴、手術病
院以外でのマッピング希望で拡散する人工内耳調整など、言語聴覚士の専門性が求められる業務が増加傾向にある。さ
らに難聴をもつ本人への指導やコンサルトだけではなく、両親指導など周囲とのコミュニケーションを支え、認定補聴
器技能者や補聴器・人工内耳メーカとの情報交換、療育や教育側との環境整備など、チーム医療の要としての役割も重
要である。
聴覚障害は認識し続け難いさまざまな側面を示す。日常診療における言語聴覚士の姿勢にはそれらを呼び覚ましてく
れる力がある。医療機関に対しては卒後生涯教育を支えるべく学会・講習会の参加を促したり、大学病院や周辺施設と
の交流の機会を設けるなど、広い視野からの活動支援が望まれている3)。その言語聴覚士の方の希望や適性・ライフス
テージに合わせた業務配分に努め、診療への理解を育て、聴覚障害をもつ人と共々に活きたいと思う。
参考文献・URL
1)日本言語聴覚士協会. 言語聴覚士とは. https ://www.japanslht.or.jp/what/
2)土井勝美, 三輪高喜, 中村晶彦, 日高浩史, 任 智美, 中川尚志, 宇高二良, 渡嘉敷亮二, 西澤典子, 立石雅子,
谷合信一, 清水充子, 鈴木恵子 : 耳鼻咽喉科診療所医師を対象とする「ST 雇用の実態調査2019」の集計結果. 日
耳鼻 2020; 123: 491―506.
3)日本聴覚医学会 聴覚・言語委員会 : 聴覚・言語委員会報告書「聴覚領域の業務に携わる言語聴覚士の実態調査」
調査結果. Audiology Japan 2021 ; 64 : 105―124.
略歴
1980年 昭和大学医学部卒業
昭和大学病院 耳鼻咽喉科
1990年 賛育会病院 耳鼻咽喉科
1999年 慈生会病院 耳鼻咽喉科
2002年 関東労災病院 耳鼻咽喉科 副部長
感覚器センター センター長
2006年 関東労災病院 耳鼻咽喉科 部長兼務
2014年 自由が丘 杉内医院 院長
昭和大学病院 耳鼻咽喉科客員教授
125―528
2022
言語発達障害
福島 邦博
医療法人 さくら会 早島クリニック耳鼻咽喉科皮膚科、
児童発達支援・放課後等デイサービス事業所 KIDS*FIRST
言語発達障害は、難聴・発達障害等をはじめとするさまざまな疾患に続発する非常に頻度の高い発達上の課題であ
り、社会的なニーズは極めて高い。しかし、その対応のためには専門的な知識と技量が必要とされ、言語聴覚士の中で
もサブスペシャリティとしての専門性が必要とされることが多い。医療法人さくら会では、平成26年にクリニックの外
に児童発達支援・放課後等デイサービス事業所 KIDS*FIRST(キッズファースト)を創設し、難聴や発達障害に伴う
言語発達障害に対して専門的な対応を行っている。
現在キッズファーストでは岡山県内外から、常時100名以上の障害児童との契約を行っているが、対象疾患としては、
聴覚障害のみならず自閉スペクトラム症、発達性ディスレクシア、特異的言語発達障害等多岐にわたる。本発表では、
当施設の概要と成り立ち、およびその臨床の実際について紹介する。
略歴
1990年
1990年
1994年
1994年
2002年
2018年
岡山大学 卒業
岡山大学耳鼻咽喉科学教室 入局
岡山大学大学院 卒業
アイオワ大学耳鼻咽喉科 研究員
岡山大学医学部 講師
医療法人さくら会 早島クリニック耳鼻咽喉科皮膚科 理事長・院長
日耳鼻
125―529
クリニックにおける音声障害への対応
齋藤
幹、涌井 絵美
さいとう耳鼻咽喉科クリニック
音声障害の治療には耳鼻咽喉科医師による外科的治療や薬物治療などの医学的治療に加え、言語聴覚士による音声治
療が不可欠である。音声治療の適応範囲は非常に広く、腫瘍性疾患や急性炎症を除くと、器質的病変の有無にかかわら
ず機能的な異常があれば適応と考えられる。
当院では2020年4月に音声外来を開設したが、当初は新型コロナウイルスの影響で音声治療を行えなかったため、実
際に音声外来が稼働し始めた2020年10月から2021年9月までの1年間に当院音声外来を初診した男性33名、女性39名、
計72名について検討を行った。
当院の所在地は兵庫県西宮市であるが、市内および隣接市である芦屋市からの受診者が51名、市外からの受診者は21
名で、遠くは姫路市や加東市から通院している患者もいた。音声障害の訴えが47名、構音障害や吃音、言語発達遅滞が
16名、嚥下障害が9名であった。音声障害の原因として主なものは機能性発声障害、声帯萎縮(加齢変化を含む)、声
帯結節などであった。
音声障害患者47名中、音声治療継続中が9名、終了が38名であった。終了した患者の内訳は改善16名、軽快3名、指
導のみで終了3名、他院紹介4名、変化なし2名、自己都合で終了10名であり、音声治療が終了した患者の平均通院回
2回で中央値は5回であった。
数は5.
音声外来を受診する患者は、他院では「異常なし」「治療の必要なし」と言われた患者が非常に多く、特に機能性発
声障害の患者は数件の耳鼻咽喉科を受診したあとに当院を受診するケースが多かった。機能性発声障害は視診では異常
がみられず、聴覚印象や発声行動の把握による診断が重要となるため、見逃されるケースが多い。患者は自分の症状の
原因が分からず、不安が強いため、症状の原因や病態について説明すると安心する。多くの症例で発声様式の行動変容
が必要であり、言語聴覚士による音声治療が非常に重要である。兵庫県下では音声治療を行えるクリニックは少なく、
当院でも診療枠はほぼ埋まりつつあるのが現状であり、音声障害の症状があっても適切な治療を受けることができない
患者が多くいることが問題と思われる。
略歴
1994年
2001年
2006年
2015年
2020年
神戸大学医学部卒業
神戸大学大学院医学系研究科助手
神戸大学大学院医学系研究科講師
さいとう耳鼻咽喉科クリニック開設
さいとう耳鼻咽喉科クリニック移転し音声外来開設
125―530
2022
嚥下障害診療で活きる耳鼻科診療所の言語聴覚士
加藤 健吾
かとう耳鼻咽喉・嚥下クリニック
新型コロナウイルス感染症の広がりに伴い多くの診療科で受診控えが生じたが、最も影響が大きかったのは小児科と
耳鼻咽喉科とされる。感染症対策を徹底した結果上気道炎が減少したという要因は大きいと思われるが、耳鼻咽喉科の
受診が「不要不急」と判断された可能性はなかっただろうか。一般的な耳鼻咽喉科診療所では、中耳炎や副鼻腔炎、咽
頭炎などの感染症と花粉症に代表されるアレルギー性疾患が多く、診療は投薬と処置が中心で管理料に代表される専門
家としての判断と指導に対する対価は少ない、等の特徴があり、コロナ禍で耳鼻咽喉科の外来需要の脆弱性が明らかに
なったのではないかと懸念している。
耳鼻咽喉科は聴覚、嗅覚、味覚、発声、嚥下など生活の質、QOL
(Quality of Life)に直結した機能を診る診療科であ
り、これらの機能にターゲットを当てた診療を行うことによって、より付加価値の高い診療を提供することができると
考える。言語聴覚士は聴覚障害、音声障害、発語障害、発達認知障害などのコミュニケーション障害と摂食嚥下障害の
評価と訓練、指導などの援助を行うことができる専門職であり、機能に着目した付加価値の高い耳鼻咽喉科診療を行う
上では欠くことができないパートナーと言える。
当院は一般的な耳鼻咽喉科診療に加えて、嚥下障害診療を提供する診療所として2020年に開設した。録音・録画が可
能な喉頭内視鏡システムと嚥下造影を行う透視装置に加えて専有の言語聴覚療法室を備え、常勤の言語聴覚士1名が在
籍しており、言語聴覚士と共に嚥下障害の評価と診断(嚥下内視鏡検査、嚥下造影検査)、指導、外来リハビリテーシ
ョンを行っている。
当院での言語聴覚士の業務は、嚥下内視鏡検査の介助、嚥下造影検査の補助、嚥下造影検査の検査食の作成、検査動
画の管理、嚥下指導、嚥下リハビリテーションなどの嚥下診療関連業務と、顔面神経麻痺のリハビリテーション、各種
聴覚検査、補聴器適合検査、認知機能検査など言語聴覚士としての業務に加えて、時には一般耳鼻科診察の介助や医療
機器の洗浄、受付業務の補助などを行うこともある。
2021年に当院で実施した嚥下内視鏡検査は延べ222件、嚥下造影検査は50件、外来リハビリテーションは16名(計60
回)であった。当初の想定と比較してリハビリテーションの実施は少数に留まったが、言語聴覚士が在籍せず、嚥下造
影の補助や患者指導ができなければ受け入れることが難しかった症例も多く、単純にリハビリテーションの実施数に留
まらないメリットがあったと考えている。高齢者の疾病や機能障害は加齢そのものが病因のため根治が難しく、投薬で
は治療の限界がある場合が少なくないが、言語聴覚士が在籍することによって、根治困難な病態であっても指導や機能
訓練などの支援が可能となり、診療の幅が広がった。また、各種聴覚検査や補聴器適合検査を言語聴覚士が担当するこ
とにより検査の質が向上しただけでなく、看護師の負担を軽減することも可能となった。言語聴覚士は機能を診る付加
価値の高い耳鼻科診療には欠かせない存在であると感じている。
その一方、介護保険要介護認定者に対するリハビリテーションは原則介護保険により実施されるという制度上の理由
や、リハビリのための頻回の通院が難しいなどの理由により外来リハビリテーションの実施が少数に留まり、言語聴覚
士を活かしきれなかったという反省点もあった。そのため、当院をみなし介護事業所として登録し、介護保険を利用し
た通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションを実施することも検討している。
高齢化が進む日本において、耳鼻咽喉科診療所は言語聴覚士を活かし機能に着目した診療を行うことによって、「聞
く」
「話す」
「食べる」の支援を通じて豊かな高齢化社会作りに寄与して社会から求められる存在であり続けることがで
きると考えている。
略歴
1999年 東北大学 医学部 卒業
同年
東北大学 耳鼻咽喉科学教室 入局
2005年 東北大学大学院 医学系研究科卒業(医学博士)
山形市立病院済生館、国立仙台医療センター、宮城県立がんセンター、
大崎市民病院(診療科長)などで勤務
2015年 東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部癌外科 院内講師
2019年 東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 講師
東北大学病院 嚥下治療センター ディレクター
2020年 かとう耳鼻咽喉・嚥下クリニック 院長