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カモ類の採食に適した収穫後の水田管理方法の検討−飼育下のアイガモの採食行動の観察事例から−

2015, Izunuma, Uchinuma kenkyu hokoku

伊豆沼・内沼研究報告 9 号, pp. 35-46(2015) カモ類の採食に適した収穫後の水田管理方法の検討 −飼育下のアイガモの採食行動の観察事例から− 田尻浩伸 公益財団法人日本野鳥の会 〒141-0031 東京都品川区西五反田 3-9-23 丸和ビル E-mail tajiri@wbsj.org キーワード:秋起こし 採食環境 収穫後の水田管理 水面採食性カモ類 冬期湛水 2015 年 1 月 16 日受付 2015 年 7 月 2 日受理 要旨 越冬期のカモ類は,夜間,水の溜まった水田で収穫後に残された落ち籾などを採食する.慣行 農法による稲作では,一般的に,収穫後の水田管理として稲株を埋没させ腐敗を促進させるために秋 起こしと呼ばれる田面の耕起が行なわれる.秋起こしによって稲株が消失するとカモ類の着水や水田 内での移動,捕食者の発見が容易になる一方,田面に残された落ち籾の大部分も稲株とともに地中に 埋没するためカモ類が利用できなくなることが知られている.そこで,秋起こし,とくに稲株の存在がカ モ類の採食行動に与える影響を調べ,カモ類の採食環境の創出に有効な水田管理の手法を検討す るためのアイガモの飼育実験と観察を行なった.平均採食効率は稲株がある場合の方が高かったが, 稲籾の平均消費量,平均採食時間,採食行動の回数,1 回の採食行動の継続時間の数値は稲株が ない場合の方が高かった.本実験の結果とこれまでの報告や野外観察の結果などから,食物量を減少 させないために収穫後の水田内に秋起こしを行なわない部分と,水田内での移動をしやすくし食物消 費量を増やすために秋起こしを行なう部分を混在させた上で湛水を行なうと効果があると考えられた. そこで,石川県加賀市周辺の稲作や水田の管理状況,冬期の気象状況を考慮し,雨水を溜める「雨水 たんぼ」と帯状に秋起こしを行なう「シマシマたんぼ」を考案した. はじめに マガモ Anas platyrhynchos などの水面採食性カモ類は,越冬期には日中は安全な湖沼や河川で休 息し,夜間に水田などの農耕地や河川敷で採食する(Tamisier 1976,Cox Jr. & Afton 1996, Guillemain et al. 2002,Legagneux et al. 2009).おもな採食方法は,上下のくちばしの内縁に発達 した板歯と舌にある突起状の構造を活用し,水中や水面の植物の種子など植物質の食物を中心に濾し 取る方法である(Olney 1965,Thomas 1982,Delnicki & Reinecke 1986,Kear 2005).これまでに 行なわれた野外調査から,水田などの農耕地で採食する場合,カモ類は水のある水田を採食地として選 35 好した(山本ほか 1999,Havens et al. 2009,Tajiri & Ohkawara 2013).さらに,一般にガンカモ類 は雪や強風で稲株が倒れたり,稲わらの焼却処理や圧偏などによって稲株が無くなったり倒れたりして開 水面ができた水田を好み(Miller & Wylie 1995,Stafford et al. 2005,Kross et al. 2008,Havens et al. 2009),稲株が長く密度が高い水田では,カモ類の採食効率が低下する(Day & Colwell 1998) ことが知られている.つまり,採食地選択には収穫後の水田の湛水の有無のほか,秋起こしや焼却など稲 株,稲わらの処理方法が影響する(Stafford et al. 2005,Kross et al. 2008,Greer et al. 2009, Tajiri & Ohkawara 2013). 筆者らが調査を行なっている石川県加賀市周辺の水田地帯は,1970 年代以降に実施された基盤整 備の際に暗渠排水設備が敷設されて乾田化されており,稲の収穫前に田面から水を抜き,収穫後に水を 抜いた状態で秋起こしを行なうのが一般的な管理手法である.冬期はそのまま放置されるため,降雨時 に一時的に水が溜まることがあるが,しばらくすれば再び田面が干出する.排水は地耐力を維持し耕作 機械による稲作を容易にするために行なわれ,秋起こしは稲株を土中に埋没させ腐敗を促進させるため に実施される(藤原ほか 1998).水田の乾田化は水面採食性カモ類の採食環境の変化を意味し,その 進行はカモ類の越冬個体数に負の影響を与えると考えられている(山本ほか 2002,Pernollet et al. 2015).秋起こしは稲株が倒されることでカモ類の着水が容易になる(Havens et al. 2009),視界が開け ることから捕食者を回避しやすくなる(Guillemain et al. 2001,Czech & Parsons 2002,Fritz et al. 2002)といった利点がある一方で,カモ類の食物となる落ち籾などの大部分を地中に埋没させ,利用でき ない状況とする(Baldassarre & Bolen 1994,Brouder & Hill 1995,Day & Colwell 1998).筆者ら が加賀市内の水田で行なった実験では,収穫後の田面に残された稲籾の密度は,秋起こしを行なって いない区では平均 52.5 g/m2 であったのに対し,秋起こしを行なった区では平均 10.5-18.9 g/m2 まで減 少していた(Tajiri & Ohkawara 2013). 1990 年代後半から,ガンカモ類の採食地,越冬地の保全を目的とした環境保全型農法として,収穫後 の水田に水を溜める冬期湛水水田(ふゆみずたんぼ)が全国的に広がっている(嶺田ほか 2004). 1996 年以降,石川県加賀市の片野鴨池周辺においても,水面や水中の食物を濾し取って食べる水面 採食性カモ類の保全を目的としてふゆみずたんぼが実施されている(山本ほか 1999,2003). しかし,加賀市は第二種兼業農家がほとんどであり,農法としてのふゆみずたんぼの実施は困難な場 合が多いことから,農法としてではなく,カモ類の採食環境を創出するための湛水も試みられている.既 往の知見から,野外の水田地帯においてカモ類の採食環境を創出する場合,冬期湛水を行なうことは有 効であることが明らかとなっている(山本ほか 1999,Elphick 2000,Stafford et al. 2005,Elphick 2008,Kross et al. 2008,Greer et al. 2009,Lourenço & Piersma 2009,Elphick et al. 2010, Hagy et al. 2014).秋起こしについては,前述のようにカモ類の採食環境を創出する際に利点と欠点を 併せ持つことから,秋起こしがカモ類の採食行動に与える影響を明らかにし,それを軽減するような水田 管理の手法を検討する必要がある. そこで,飼育下の家禽化されたマガモ A. p. var. domesticus(以下,アイガモ)をもちいて,秋起こしが カモ類の採食に与える影響を検討するための実験を行ない,採食行動を観察した.これまでの研究報告 から,本実験では,稲株がある場合には,ない場合と比較して稲籾の消費量や採食効率が低くなると予 想した. 36 方法 実験は 2012 年 2 月 20 日から 3 月 26 日にかけて,石川県加賀市片野鴨池に隣接する加賀市鴨池 観察館に設置した実験用ケージで行なった.実験用ケージは幅 56 cm,長さ 80 cm,高さ 58 cm で,内 部に設置した幅 35 cm,長さ 54 cm,高さ 9.5 cm のプラスチックケースを水田に見立てて実験を実施し た(図 1).実験には 2008 年 3 月から飼育しているオスのアイガモ 1 羽をもちいた.アイガモは実験開始 までのおよそ 3 年間,午前 9 時前から午後 4 時頃にかけては鴨池観察館横に設置された直径およそ 5 m の飼育池で放飼し,毎日午後 4 時以降に実験にもちいたケージと同一のケージに収容して,実験にもち いたプラスチックケースと同一の容器に,稲籾およそ 200 g と飼育用ペレットなどを水に浸した状態で与え て飼育した.実験期間中も,実験を行なわなかった日には実験開始以前と同一の方法で飼育した. 図 1.実験装置. Fig1. The experimental equipment and the domestic Mallard duck. 実験の際には,給餌用のプラスチックケースに,2011 年 5 月に鴨池観察館近くの水田から採取した水 田土壌を,泥の深さが約 5 cm になるように流し込んだのち,イネ Oryza satiba の苗を 2 から 3 株ずつ, 8 箇所に植栽した.イネの品種は,加賀市周辺で広く栽培されているコシヒカリとした.ケースは 10 個作成 し,日当たりのよい場所に置いて管理し,開花,出穂を経て収穫可能になる成熟期までイネを生育させた. 実験開始前に稲株の高さが田面から 10 cm および 0 cm となる位置で刈り取り,それぞれ秋起こしを行な 37 図 2.稲株のある実験用プラスチックケース(A)と稲株のないプラスチックケース(B). Fig2. The plastic cases for experimentation with rice stubble (A) and without rice stubbles (B). っていない水田(稲株あり)と行なった水田(稲株なし)の状態を模した(図 2A,B). 実験の際には,脱穀後に風乾した稲籾 100 g をケース内に均一に広がるようにして水に浸して与え, 30 分間自由に採食させた.実験時のケース内の水深は約 3 cm とした.実験を行なう前およそ 24 時間は アイガモに食物を与えなかった(Guillemain et al. 1999).実験開始時の食物密度は,実験時間中に 採食によって枯渇することがないと考えられる量であった(Fritz et al. 2001).実験終了後,残った稲籾 を回収して十分風乾し,0.1 g 単位で重量を測定して実験時間内に消費された稲籾量を推定した.実験 は,稲株の有無それぞれで 5 回ずつ,ランダムに条件を変えて行なった. 実験中のアイガモの行動はビデオカメラで撮影し,1 回の採食行動に割り当てられた時間(以下,1 回 あたりの採食行動の継続時間)を測定した.その数値から,30 分間の実験中に採食行動に割り当てられ たのべ時間(以下,採食時間)および 1 分間あたりの平均稲籾消費量(以下,採食効率)を推定した.な お,採食行動はくちばしが水面に接触した瞬間から濾し取り採食を行なって水からくちばしを離し,さらに 口腔内の食物の処理が終了するまでと定義した.口腔内の食物の処理の終了は,濾し取りの際のくちば しの小刻みな動きが終了した時点とした. 結果 稲籾の消費量は,稲株ありでは 9.5 ± 4.5 g(± SD,範囲 4.8-17.0,N = 5),稲株なしでは 12.5 ± 2.5 g(9.0-15.1,N = 5)であり,稲株がない方が多い傾向にあった(図 3).平均採食時間は,稲株がある場 合には 2.43 ± 1.27 分(範囲 0.33-3.49),稲株がない場合には 5.49 ± 3.38 分(範囲 2.58-11.32)で, 稲 株 が な い 方 が 長 い 傾 向 に あ っ た . 平 均 採 食 効 率 は , 稲 株 あ り で は 5.80 ± 4.91 g/ 分 ( 範 囲 2.32-14.36),稲株なしで 2.82 ± 1.30 g/分(範囲 1.07-4.42)であり,稲株がある方が採食効率は高い傾 向にあった(図 4). 稲株ありではのべ 134 回の採食行動が記録され,実験 1 回あたり平均 26.8 ± 12.6 回(範囲 5-36)の 採食行動が記録された.稲株なしではのべ 235 回,平均 47.0 ± 21.3 回(範囲 23-78)の採食行動が記 録された.稲株がない方が採食行動の回数が多い傾向にあった.1 回ごとの採食行動の継続時間は稲 38 Amount of consumed rice ( g ) 20 N=5 N=5 10 0 presence absence Rice stubbles 図 3.稲株がある場合とない場合における稲籾の平均消費量.稲株がない方が多く 消費される傾向にあった. Fig3. Mass of consumed rice during foraging on the condition that rice stubble was present or absent. Columns represented mean ± S.D. Ducks consumed more rice grains in conditions without rice stubble. Intake rate ( g / min. ) 15 N=5 N=5 10 5 0 presence absence Rice stubbles 図 4.稲株がある場合とない場合における平均採食効率.採食効率は稲株があ る方が高い傾向にあった. Fig4. Intake rate recorded in conditions where rice stubble was present or absent. Columns represented mean ± S.D. Intake rate was higher in conditions where rice stubble was present. 39 株あり,なしそれぞれ 5.41 ± 4.45 秒(範囲 0.78-29.36,N = 134),7.01 ± 6.70 秒(範囲 0.47-44.46, N = 235)であり,稲株がない方が長かった. 考察 本実験における観察結果をもとに,秋起こしが採食に与える影響を考察する.その後,野外観察事例 や先行研究の結果を踏まえながら,カモ類の採食環境を創出するための水田管理手法についての検討 を行なう. 稲株がアイガモの採食に与えた影響について これまでの研究報告にもとづいて,本実験では,稲株がある場合にはない場合と比較して稲籾の消費 量や採食効率が低くなると予想した.稲籾の平均消費量,平均採食時間,採食行動の回数,1 回の採食 行動の継続時間は稲株がない場合の方が多かったが,平均採食効率は予想に反して稲株がある場合の 方が高かった. カモ類は,頭部が水中にあるような視界が遮られた状況で採食する際,捕食者対策として 1 回の採食 行動の継続時間を短くし,頭を上げて周囲を警戒する頻度を高めることが知られている(Guillemain et al. 2001).マガモをもちいた実験では,警戒する時間を延ばすよりも警戒する頻度を高める方が,採食 効率に与える影響が少なかったとされている(Fritz et al. 2002).したがって,本実験において稲株があ る場合に 1 回の採食行動の継続時間が短かったのは,稲株が視界を遮るので,警戒する頻度を高める 必要があったためと考えられる.稲株がない場合の方が稲籾の平均消費量が多い傾向にあったことは, 稲株がない場合には頭を下げて採食していても視界を遮られることがなく,採食と同時に周囲を警戒でき るので,採食行動の回数を増やし,また 1 回の採食行動の継続時間を長くすることができた結果かもしれ ない.これを考慮すると,収穫後の水田管理手法として,秋起こしは有効と考えられるだろう. 本実験では,採食効率は稲株がある場合の方が高かったが,アイガモがケージ内で移動する際には, バランスを取りながら稲株を何度か踏みつけるようにして足場を確保していた.このことから,稲株の存在 は水田内での移動の障害になっている可能性が考えられたが,本実験は着水や大きな移動がないケー ジ内での実験であったため,結果的に採食効率には影響を与えなかったのかもしれない.野外において は,片野鴨池周辺でコシヒカリのほかに栽培されているゆめみずほ,ほほほの穂などの早稲品種の収穫 は 8 月末から 9 月初めに行なわれるため,カモ類が越冬のために飛来するまでに二番穂が高密度に生 育,結実し,茎の高さは 30 cm を超えて田面を覆う.二番穂はカモ類の重要な食物となる一方で,茎や葉 はカモ類の採食を阻害する可能性も指摘されている(田尻 2009).二番穂が密生するように生育した場 合,稲株のみ存在する場合よりもさらに移動の障害になる可能性は高い. 以上より,収穫後の水田に食物量の多い秋起こしをしていない稲株を残した部分と,採食を行ないや すいと考えられる秋起こしを行なった稲株のない部分を作ったうえで湛水を行なうことは,カモ類の採食 環境を創出する上で効果があると考えられる.この結論は飼育下のアイガモ 1 個体の観察結果にもとづく ものではあるが,カモ類の保全を目的とする試みとして野外で実験的に実施し,その効果を評価して順応 的に管理していくことは有効と考えられるので,収穫後の水田の管理手法についての検討を行なう. 40 図 5.石川県加賀市片野町のシマシマたんぼの状況.2011 年 12 月 31 日撮影. Fig5. "The rice fields with a complex of plowed and unplowed areas" or "Shimashima-tambo" in Katano Machi, Kaga City, Ishikawa Prefecture (December 31st, 2011). カモ類の採食環境を創出する手法の考案 加賀市周辺では,ほとんどの水田は共同で管理されている揚水ポンプをもちいて周辺の用水路からく み上げた水で灌漑されているが,カモ類が越冬する秋から冬にかけての時期には稼働させていないため, 湛水に利用することができない.また,多くの水田で全面に秋起こしが実施されている. そこで,筆者は冬の北陸地方の豊富な降水量を利用し,用水路からの揚水ではなく雨水を溜めること で受動的に行なう湛水と,稲株を除去するために秋起こしを行なう区と稲株をそのまま残す秋起こしを行 なわない区を水田内に交互に帯状に配置する処理を提案する.さらに,将来的には秋起こしを実施する 代わりに稲株を刈り払って開水面を確保することも検討したい. 従来の方法による湛水では,揚水にポンプを稼働させる必要があるほか,水利権の問題もあることから 実施に困難を伴うが,雨水を溜めるのであれば,地下に浸透した水を留めておくために暗渠排水設備の 栓を閉じ,田面水を溜めるために水戸口を閉めればよいので,ポンプをもちいる場合と比較して容易に実 施できるだろう.さらに,カモ類は水田全面が湛水されておらず,一部に水が溜まった状態でも採食に利 用する(Tajiri & Ohkawara 2013)ので,雨水を利用して採食環境を創出する際の水位調整などの管 理作業が比較的容易にできると期待される.さらに,カモ類は同じ水田または近隣に存在する水田を数 日から 2 週間もしくは 3 週間程度連続で利用した後はそこで採食しなくなるため(山本ほか 2002,Greer et al. 2009,日本野鳥の会 2012),農法として湛水する場合よりも湛水期間を大幅に短くすることができ 41 るだろう.この湛水期間の短縮によって,冬の水田を乾燥させておく慣行農法で稲を栽培している農家が カモ類保全の取り組みに参加しやすくなると期待される. 帯状に行なう秋起こしでは,水田の短辺(または長辺)と平行に耕耘機を走行させて秋起こしを行ない, 水田端で耕耘機を転回する際に一定の距離だけ水田の長辺(または短辺)と平行に走行させ,稲株をそ のままとする部分を残す.これを繰り返すことで,水田内に数本の帯状に秋起こしを行なった部分を作る ことができる(図 5).カモ類がある採食地を継続してもちいる期間は限られているので,一定期間経過後 に稲株が残った部分に対して秋起こしを行なえば,慣行農法に近い手法を採りながら,カモ類の採食地 を創出することができるだろう. さらに,落ち籾は水や土への接触や腐敗などによって減少すること(Loewer et al. 2003,Stafford et al. 2006,Foster et al. 2010)から,これらの処理はカモ類の採食行動範囲全体で同時期に実施するよ りも,一定期間ごとに実施範囲を変えて行なう方が効果的と考えられる. 筆者らは雨水を溜めて湛水した水田を「雨水たんぼ」,帯状に秋起こしを行なった水田を「シマシマた んぼ」と名付け,試験的な実施を開始した(片野鴨池周辺生態系管理協議会 2012).今後,これらの管 理を行なった水田のカモ類の利用状況を把握し,必要があれば手法の改善を行なった上で,普及を進 めていく必要がある.なお,これらの管理手法の実施には,通常の稲作と異なる作業を行なうこととなるた め,実施の際の費用負担や労力負担のあり方は今後検討しなければならない.農法の一環として行なう 場合には高付加価値商品として販売額に添加することも可能であるが,そうでない場合には,取り組みが 開始されるよう,また継続されるよう,農家に対して何らかの動機づけを行なうことが必要である.また,こ の処理の実施が翌年以降の営農に与える影響があるかどうかについても知見の蓄積を行なう必要があ る. 謝辞 加賀市片野町の杉本 喬氏には,シマシマたんぼの試行に際し大変な尽力をいただきました.片野町, 大聖寺下福田町の生産組合の皆さんには,広範囲での雨水たんぼ,シマシマたんぼの実施に協力いた だきました.アイガモレンジャーがこちゃんとして鴨池観察館に勤務していたアイガモには,実験に協力い ただきました.匿名の査読者には,本稿の修正に有益な助言を数多くいただきました.記して感謝いたし ます. 引用文献 Baldassarre, G. 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Strix. 17: 127-132. 45 Izunuma-Uchinuma Wetland Researches 9: 35-46, 2015 Consideration for the post-harvest management of rice fields to establish foraging habitat for dabbling ducks -based on the observation of the foraging behavior of a domestic Mallard duckHironobu Tajiri Wild Bird Society of Japan. 3-9-23 Nishi-Gotanda, Shinagawa, Tokyo 141-0031, Japan E-mail tajiri@wbsj.org Abstract Wintering dabbling ducks forage rice grains remaining on the post-harvest rice fields. Generally, farmers plow the soil of rice fields after harvest to stimulate decomposition of the rice stubbles. In the plowed rice fields, it is easier for ducks to land on and move around the rice field, and to detect predators, than in the unplowed rice fields. But the amount of rice grains remaining on the plowed rice fields is smaller than that in unplowed fields because rice grains are buried under the soil by plowing. I conducted an experiment to examine the effect of post-harvest plowed and unplowed fields with stubble on the foraging behavior of a domestic Mallard duck by comparing the amount of consumed rice grains, the duration for each foraging bout, cumulative time allocated for foraging, and the number of foraging bouts. Except for the intake rate, values recorded in plowed areas without rice stubble were higher than those of unplowed areas. According to the results of this study and previous reports, the combination of unplowed areas, with large amount of rice grains, and plowed areas, with easiness of movement and high efficiency of detecting predators, were thought to be effective at creating foraging sites for dabbling ducks. Considering the environment and the practice of rice cultivation in and around Kaga City, Ishikawa Prefecture, I devised the post-harvest treatment of rice fields named "Passive flooded rice fields with rainfall" or "Amamizu-tambo" and "Rice fields with a complex of plowed and unplowed areas" or "Shimashima-tambo" for the conservation of wintering ducks. Keywords: dabbling duck, foraging habitat, plowing after harvest, post-harvest management of rice fields, winter flooded rice field Received: January 16, 2015 / Accepted: July 2, 2015 46