長期的かつ安定した収益を確保するために、企業の商品やサービスに愛着を持ち、継続的な利用者を増やすファンマーケティングは欠かせない。特に、顧客視点を取り入れたファンマーケティングは成功しやすいと言われているが、実際に各企業では、どのような取り組みを行っているのだろうか。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」から、注目セミナーをレポート。トリドールホールディングスの粟田 貴也氏は顧客の感動体験を重視した丸亀製麺の成功事例を、Tustyleの山坂 泰誠氏は好感度を高めるTikTokショートドラマの活用方法を紹介した。
チェーン店でも「職人が一から麺づくり」 非合理が強みとなり、ファン獲得を達成
外食事業を展開するトリドールホールディングスは、讃岐うどん専門店「丸亀製麺」を起点として急成長を遂げた。「手づくり・できたて」で人気の丸亀製麺だが、同社の社長・粟田 貴也氏は、今でも経営課題として「どうしたらお客さんに来てもらえるか」を考え続けているという。
丸亀製麺の開店前は、集客に苦労していたという粟田氏。1985年に焼鳥居酒屋「トリドール3番館」をオープンしたものの、店は閑古鳥が鳴いていた。そこで、深夜から早朝に開店したり、チューハイブームに乗って若年層をターゲットにしたりと、ニッチ戦略で次々と攻勢をかけたものの、いずれも競合との争いに敗れてしまう。
他社に真似できない強みが必要だと粟田氏が痛感していた頃、巷では瀬戸大橋開通や高速道路の整備により、観光客が四国へ押し寄せ、讃岐うどんブームが来ていた。製麺所の長蛇の行列を見た粟田氏は、「人々はうどんを食べに来ているのではなく、手づくり・できたての体験価値を求めている。これからは体験価値(感動体験)を売ろう」と決意した。
そして2000年11月、兵庫県加古川市に丸亀製麺の第1号店をオープン。当時は一般的でなかったセルフサービス方式を取り入れ、顧客がレジに向かうまでの間、製麺風景を見ながら各々好きな具材を選べるスタイルにしたところ、客からは大好評。店は連日、大勢の人でにぎわった。
手応えを感じた粟田氏は、大型ショッピングモールのフードコートにも進出。多くの店が効率性を求める中、丸亀製麺は非効率であっても店で製麺し、「手づくり・できたて」での提供にこだわったところ、多くの人の心を掴むことに成功。瞬く間に全国各地へと広がった。現在、丸亀製麺は国内外合わせて1000店を超え、順調に客足を伸ばしている。
丸亀製麺の特徴である「店舗ごとの製麺」は、手間と労力がかかるものの、粉さえあればどこでも作れるため、全国各地に出店がしやすい。加えて、その非合理さゆえに参入障壁が高く、競合他社がいないところも強みとなっている。
ただ、製麺は作る人の技量やその土地の水質によって、味や食感にばらつきが出てしまう。そのため、丸亀製麺は技術の研鑽により麺の品質を合わせようと、2016年から技術確立のために麺職人制度を創設。2024年3月には麺職人制度に合格した「麺職人」をすべての店舗に配置し、どの店でも質の高い麺が提供できるようにした。
現在注力していることは2つあり、1つ目はビジョンや経営課題を社員や幹部と共有する取り組みだ。全社員が本場・香川の讃岐うどん製麺所に行く研修や粟田氏自ら指導する「粟田未来塾」などを行っている。2つ目は従業員がやりがいをもって幸せに働ける職場環境の整備だ。丸亀製麺では性別や年齢、障害の有無に関わらず働けるダイバーシティ&インクルージョンを推進するとともに、永年勤続している従業員には表彰式を行い、粟田氏自ら感謝の意を伝えている。
少子高齢化で働き手が足りず、各企業がオートメーション化を進めている中で、粟田氏は「これからも変わらず、お客さまに感動体験を届けたい」と、決意を語った。
■講演者の粟田貴也氏が執筆した書籍はこちら。
「共感」「日常あるある」で認知向上につなげる TikTokショートドラマの強み
スマホの縦画面に合わせて作られる「縦型ショートドラマ」は、視聴者を飽きさせず、かつインパクトが残せるなどのメリットから、広告手法として近年も注目を集めている。
この縦型ショートドラマを活用し、企業向けのSNSマーケティング支援事業を行っているのがTustyleだ。クライアントの目的をもとに、TikTokショートドラマの企画、SNSの運用支援までを行っている。
代表取締役の山坂 泰誠氏は、かつて影響力が大きかったテレビCMが、現在は費用対効果が合わなくなっていることを指摘。ネットユーザーの広告疲れも相まって、一方通行の広告よりユーザー参加・共感の広告の方が好まれやすく、効果的なプロモーションにつながると説明した。
TikTokは汎用性が高く、YouTubeやInstagramなど、他のSNSにも2次利用することが可能。複数のSNS利用は拡散しやすく、さらなる経済効果が期待できる。また、ショートドラマの制作費はテレビCMに比べて割安で、コストパフォーマンスの良さも魅力的だ。
山坂氏はTustyleが手掛けた成功事例として、永谷園ホールディングスのショートドラマを紹介。袋に麵を入れ、レンジでチンするだけで本格的なパスタが完成する新たなパスタソース「パキット」の商品PRに関して、クライアントは3つの要望を出した。1つ目は「ターゲットの認知」、2つ目は「シーン毎の役立ちを演出」、3つ目は「作り方にこだわりがあるため、一定時間視聴されること」だ。
Tustyleはターゲットに合わせて、4つのショートドラマを制作。前半は「夜遅いOL」「推し活する人」など、観る人の共感ポイント(日常あるある)を盛り込み、自分ごと化するようにシナリオを設計した。「手軽に食べられる」「鍋いらず」などの商品の魅力はもちろん、レンジで温める時間に出演者が化粧を落とすシーンを入れ、タイパ重視のターゲットに待ち時間のメリットも訴求。テンポの良さが失われないよう、動画の後半に正確な調理法を入れ、観ている人が最後まで楽しめるように仕上げた。すると、総再生回数:約600万回再生。商品の認知度とユーザーの好感度を上げることに成功した。
最後に山坂氏は、効果的なTikTokショートドラマを制作するためのポイントとして、「ターゲット層の明確化と目標に合わせたKPIを定義し、ぶれないようにすることが肝心」と強調した。
お問い合わせ
株式会社Tustyle
担当:北澤
MAIL:kitazawa@tustyle.co.jp
TEL:03-6435-5234