記事のポイント
- マサバの漁獲量の急減で、水産庁は「漁獲枠」の大幅削減を検討している
- しかしその漁獲枠は漁業の実態を反映しておらず、資源状況は悪化の一途だ
- 科学とデータに基づき、予防原則にも配慮した実効ある漁獲規制が必要だ
マサバの漁獲量の急減で、水産庁は「漁獲枠」の大幅削減を検討している。しかしその漁獲枠は漁業の実態を反映しておらず、資源状況は悪化の一途だ。科学とデータに基づき、予防原則にも配慮した実効ある漁獲規制が必要だ。(井田徹治・共同通信社編集委員兼論説委員/オルタナ論説委員)
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「庶民の味」とも呼ばれるマサバの漁獲量が近年急減している。水産庁によると、2018年には52.9万トンあった太平洋のマサバの漁獲量は2022年には23.6万トンにまで落ち込んだ。「関サバ」のブランドで知られる大分県の佐賀関で漁獲されるマサバの漁獲量も2020年度は57トンと、ピークの2003年度の241トンから大幅に減っている。
過剰な漁獲が続き資源状況は「乱獲状態」にあると判断されたことから水産庁が漁獲枠(TAC)を最大80%も減らすことを検討していることが報じられ「サバの値段が高くなる」などと報じられた。
日本沿岸のサバの漁獲量は1980年代から2000年ごろにかけて急減、この時も過剰な漁獲の問題が指摘された。筆者が、日本の不十分な漁獲規制によって多くの水産資源で乱獲が深刻化していることを指摘した「サバがトロより高くなる日」(講談社現代新書)を上梓したのは2005年のことだった。
ところが2013年以降、サバの資源量は増え、漁獲量も増加に転じた。それが2021年以降、再び急減傾向に転じたのだ。
水産庁は昨年、これまで資源は健全だとしてきた太平洋系群のサバの資源評価を「乱獲状態にある」と一転させ、今年の漁期からTACを大幅に減らすことを検討し始めた。「漁獲枠の削減によってサバの値段が上がる」といった、お決まりの報道が目立ったのだが、TACを大幅に減らしたところでサバの価格が上がる気遣いはほとんどないのが実情だ。
■なぜ漁獲規制を強化しても価格への影響がないのか
■サバの危機が映す日本の漁業と資源管理の課題