『ポエニ戦争』が翻訳のひどさから失望したせいかもあるかもしれないが、カルタゴ関係では出色の書だと思う。
著者の批評家的見識と作家としての表現力が好ましい。
この本を読んでいて強く感じたのだが、カルタゴが海洋貿易を主とする商業国家であったことが、その国家観や政治観に大きな影響を与えたのではないかということ。
何と言うか、国家や政治に淡泊なのだ。
第一次ポエニ戦争でも、ちょっとローマに勝利すると、次の戦の戦略的な準備をするというよりは、しばらく戦争をほっぽり出してしまうような感じなのである。
要するに、商業に取って国家や政治は商業活動の自由を保障してくれる限りで必要なものであったとしても、他方で過剰な干渉を行う忌避すべきものであった。
それが、カルタゴの国家観や政治観の土台にあったように思われる。
対するローマは農業国であるためだろう、国家観や政治観が根本的に異なる。
農業に取り、土地の確保や大規模な灌漑などは、国家的な事業と不可分一体である。
ローマのポエニ戦争における対応は、買っても負けても執拗に、勝つまで準備を続けるというものであった。
この粘り強さは農業国の基盤をなす農民の性向と一致する面もあるかもしれない。
こういった感想を話していたら、友人から商業国とはいえ中世のベネツィアの粘り強さはどうなのだ、と指摘された。
どうなのだろうと考えていたが、本書の最後の方にベネツィアに関する言及があり、ベネツィアはカルタゴよりははるかに上手く立ちまわったというようなことが書いてあった。
著者は、対応の戦術レベルの違いと考えているようだ。
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カルタゴ興亡史−ある国家の一生 (中公文庫BIBLIO) 文庫 – 2002/6/25
松谷 健二
(著)
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- 本の長さ253ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2002/6/25
- ISBN-104122040477
- ISBN-13978-4122040472
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2002/6/25)
- 発売日 : 2002/6/25
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 253ページ
- ISBN-10 : 4122040477
- ISBN-13 : 978-4122040472
- Amazon 売れ筋ランキング: - 283,502位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 38位中公文庫BIBLIO
- - 747位ヨーロッパ史一般の本
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- 2007年7月19日に日本でレビュー済みAmazonで購入豊富な資料を基に小気味良い口調でこのフェニキア人都市の興亡の実態が明らかにされていく。マグナグレーシャ時代の多くの地中海諸国は常駐する大規模な軍隊は持たず、戦時に必要なだけの兵士を調達した。そこには徹底した商人気質の合理主義がみられる。ただこれらの兵士は祖国への忠誠などとは縁の無い、金で雇われた雑多な民族の混成傭兵であり、戦況の旗色が悪くなると恥じも外聞も無く敵側に寝返ったり、より高い報奨金に釣られて他国へ鞍替えすることも間々あった。そればかりか南イタリア一帯に割拠していたギリシャ系都市国家も目先の利益を優先するご都合主義の風見鶏的な存在だったようだ。そうした混乱の中にあって、地の利と持ち前の商才と海運力を生かして大発展を遂げていたのがカルタゴであり、時を同じくして根っからの共和制国家ローマの台頭が重なった。アルプス越えを強行してイタリアで圧勝を続けたハンニバルが最終的に孤立してしまったのは、ローマの名将スキピオの頭脳戦だけではなく、本国カルタゴの近視眼的な政治政策に原因があったからだろう。松谷氏の文章の特徴は庶民的な気さくさにあるが、いわゆる流麗な文体ではない。
- 2006年10月16日に日本でレビュー済み塩野七生のハンニバル戦記のドラマチックさはありません。 しかし、地中海世界で興隆し、700年で歴史から消えた海洋国家の興亡を淡々と、そして、冷徹に描いています。 日本のありようを照らしながら読みました。 15年以上前に初版が出された本ですが、未だに真価を訴え続ける名著と思いました。
- 2004年7月2日に日本でレビュー済みアフリカ・フェニキア人国家設立、シチリアのギリシア系都市国家群との攻防、そうした中で制海権を得て大国へとのし上がっていくカルタゴ。やがて最大にして最後の敵、若き大国ローマに歴史から抹殺される国家の一生が、地中海・ヘレニズム諸国家それぞれのお国事情・支配者のエピソードなどを交え、シニカルで小気味の良い、著者らしい文章で語られていきます。情緒を抑えた語りによって余計な感情に惑わされることなく、かえってカルタゴという一つの歴史に引き込まれ、思いをはせることが出来ました。著者は歴史の専門家・研究者ではありませんが、そうした研究者が書いた本には無い読ませる力があります。もしご存命ならもっともっとこうした国家の一生を描いていってほしかったと思います。
同じ著者の『東ゴート興亡史』も文庫で出ているので、あわせておすすめしたいと思います。