1995年に出版された「イギリス 繁栄のあとさき」が、3月に文庫にされていた。英国史が専門の歴史家によるエッセイ集で、生産、商業、金融で圧倒的な力を持つヘゲモニー国家としての英国を歴史研究の紹介を通して論じつつ、日本の状況を簡単に論じている。問題を感じる議論も無いわけではないのだが、18世紀から19世紀の英国の社会事情が色々と紹介されており読み物として面白いし、19年経った今でも論じられている日本の社会問題が残っているところも興味深い。また、21のエッセイが収録されているが、それぞれの完結度が高いので読みやすい。
2014年3月30日日曜日
2014年3月27日木曜日
ちょっと賢い貧困対策を考えるための本
邦題は『善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学』となっている"MORE THAN GOOD INTENTIONS"は、開発途上国への各種援助を効率的にする方法を、色々な社会実験を元に議論している本。理論よりも実験や経験に拠っていると言う点で、行動経済学を標榜しているようだ。援助政策の実施に直結するような事例の紹介が豊富で、ビジネスマンでも面白く読める内容になっていると思う。パンフレットに美人の写真を載せておくと申込が増えるかなどは、開発援助の現場に限らず疑問に思っている人はいるはずだ。
2014年3月25日火曜日
2014年3月22日土曜日
STAP幹細胞騒動に飛び込む前に見ておくべき動画
理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子氏が開発したとされる刺激惹起性多能性獲得(STAP)幹細胞を巡って色々と議論されているのだが、電気泳動実験についての解説記事が不足しているような気がする。剽窃や流用などの行為そのものも問題なのだが、それら以外にも小保方論文の主張の根幹部分に影響する不正行為がどのようなものかは、この問題を議論していくには、やはり知っておくべきだと思うからだ。
2014年3月14日金曜日
あるマルクス経済学者のプロパガンダ(5)
マルクス経済学者の松尾匡氏の連載5回目『ゲーム理論による制度分析と「予想」』が公開されていた。要約すると、ゲーム理論を使った制度分析から経路依存性があることが議論されており、そこでは現在の状態は唯一の均衡点とは限らず多数派と同様の行動をとる事が有利になる戦略的補完から偶発的に決まったものである可能性があり、その場合は人々の予想を切り替えることで別の均衡に移ることができると言うものだ。ただし、構成上の問題点が幾つかある。
2014年3月12日水曜日
池田信夫と社会選択理論
経済評論家の池田信夫氏が二つのエントリー「独裁の合理性」と「神話の構造とマスキン単調性」で、例外的状況はあるものの理論的に独裁が合理的だと主張している。合理的な独裁者が意思決定を行えば、それは一貫性があるので合理的になると言う出落ちな話なのはともかく、参照されている定理への理解がおかしいことになっている。以前の氏のエントリーよりはアローの不可能性定理への理解が進んだようだ*1が細部に問題があるし、ギバードの一般可能性定理は教科書的な説明にも目を通していないようだ。
「円」とビットコインの違い
政策研究大学院の安田洋祐氏が『「円」とビットコインも同じ』と言うエッセイを朝日新聞に載せていた。教科書的なミクロ経済理論だと貨幣はニュメレール財*1でしかないのでこういう話になるのだと思うし、理論的に貨幣のある経済は、貨幣に価値のある定常状態と、貨幣が無価値の定常状態の二つの均衡のどちらかで安定する*2ことを上手く紹介していると思うのだが、銀行屋さんから違和感があると言う感想が出されていた。確かに現実に使われている通貨とビットコイン(Bitcoin)の間には、実務上、大きな違いがある。