クロスズメバチの仲間の女王バチが、複数の雄と交尾を繰り返す「多回交尾」をするのはなぜか。この謎に挑んだ岐阜県立多治見高校の佐賀達矢教諭(岐阜大特別協力研究員)たちが、巣の中の個体が病気で全滅するのを防ぐために進化した結果だと推定する研究論文をまとめ、行動生態学の国際専門誌に発表した。

拡大する写真・図版シダクロスズメバチの交尾。上が女王で下が雄=佐賀達矢さん提供

 女王がいるハチやアリでは、女王が1匹の雄と1回だけ交尾するのが一般的。交尾を繰り返すと、性感染症にかかったり外敵に捕食されたりするリスクが高まる。それでも多回交尾する理由はよくわかっておらず、群れとして様々な病気に耐えるための遺伝的多様性を得るため、という仮説が一部のハチやアリで実証されたぐらいだった。

 佐賀さんは、飼育中のシダクロスズメバチが糸状菌(カビ)で死んだ経験から、この仮説に着目。クロスズメバチの仲間の巣から採った幼虫を「蜂の子」として食べる文化が残る岐阜県や周辺の愛好家の協力を得て、死んだハチから病気を起こす菌を入手。自分が育てる三つの巣から羽化したハチ計約600匹に異なる系統の菌を感染させ、どれだけ生きたかを調べた。

拡大する写真・図版シダクロスズメバチの巣(外側の被覆を外した状態)。幼虫とさなぎ、成虫が「3密」で生活する=佐賀達矢さん提供

父親の違いに全滅防ぐ効果が……

 その結果、父親の違いによって、菌の系統ごとに生存率に差がでることを見つけた。ある系統に強い個体、その系統には弱いが別の系統には強い個体など、多様な個体がいることで、3密状態の巣が特定の菌の感染で全滅するのを防ぐ効果があると考えられた。

拡大する写真・図版シダクロスズメバチの成虫(働きバチ)=佐賀達矢さん提供

 佐賀さんは「巣の中の個体は遺伝的に多様な耐病性を持っていた。シダクロスズメバチでは、この多様性を獲得するために多回交尾が進化したと推定できる」と話す。スズメバチ科には交尾が1回だけの種が多いが、クロスズメバチの仲間は地面の下に巣をつくるため、「病原菌に侵される恐れの高い環境が、多回交尾の進化に影響したのかもしれない」とみて、さらに調べるつもりだ。

 論文はこのサイト(https://doi.org/10.1093/beheco/araa062別ウインドウで開きます)から読める。(米山正寛)