スラムで育ったラガーマン フィジーの「宝石」が靴裏に書いた文字

Why I Stand

河崎優子
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7人制ラグビー フィジー主将 ジェリー・ツワイ(32)

 フィジーの首都スバ郊外のスラム街で生まれ育った。ラグビーは国技で大人気だが、近くにグラウンドがなく、環状交差点の真ん中にある丸い空き地でラグビーをして育った。きょうだいは5人。お金がなかったため、ココナツがボール代わり。いつも裸足でプレーしていた。

 15歳で「ラグビー選手になりたい」と学校をやめた。国立公園にある天然の砂丘を駆け上がって足腰を鍛え、加速力と素早いサイドステップを磨いた。

 家は掘っ立て小屋で電気も通っていないが、両親はなけなしのお金をかき集めて靴を買ってくれた。「どこにこんなお金があったの」。泣いて喜んでいると、母が言った。「これはあなたの生活必需品。ナイフとフォークよ」。この時、靴の裏に「ナイフ」「フォーク」と書いた。

 18歳の頃に地元のラグビークラブに入ると、すぐに頭角を現す。両親は、試合がある度に近所の家から延長コードを引いてテレビを借りて応援した。試合で勝った賞金は、きょうだいの学費に充てた。そのプレーは代表監督の目を引き、代表に選ばれた。

 2016年リオデジャネイロ五輪では主力として活躍。全競技の中で歴史上初めてフィジーに金メダルをもたらした。国はお祭り騒ぎ。決勝の翌日は祝日となり、優勝直後のチーム写真が載った7ドル紙幣が記念に発行された。地元メディアは名前にかけて「彼はジュエル(宝石)だ」と称賛した。

 フィジー出身の選手は世界中で活躍している。日本代表にも3人おり、いずれもツワイのかつてのチームメートだ。ツワイにも海外から誘いはあったが、フィジーにとどまった。「試合の遠征費がなくて困っていた時、経済的に支えてくれたフィジーに、自分の才能を捧げたい」

 26日に都内であった男子7人制ラグビーの初戦。モヒカン頭に170センチと小柄な体を躍動させ、日本を破った。27日の準々決勝では豪州相手に2トライを決め、準決勝に駒を進めた。

 初戦の試合後、フェンスの隙間から筋肉でパンパンの足の先を出し、蛍光オレンジのスパイクを見せてくれた。土踏まずのあたりには、くせのある丸い字で「knife(ナイフ)&fork(フォーク)」とあった。「これが自分の出発点。初心を忘れたくないんだ」。優しくほほえみながら、言った。

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この記事を書いた人
河崎優子
東京社会部|宮内庁、国際社会
専門・関心分野
国際社会、中南米、教育、ジェンダー